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デスマーチからはじまる異世界狂想曲( web版 )  作者: 愛七ひろ
第五章

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5-4.大羽蟻(1)

※4/21 一部修正しました。

※8/16 誤字修正しました。


 サトゥーです。ワーカーホリック気味の社会人だったサトゥーです。


 働き者の代名詞的に言われる蟻に親近感が湧かないでもありませんが、中型犬ほどもある蟻とは仲良くしたくありませんね。





 レーダーでも大羽蟻(フライング・アント)1匹が近づいてくるのが判る。速度差がかなりあるので追いつかれるのも時間の問題だ。


「ルル、御者台の方に避難しろ。アリサ、さっき言っていたスタン系の魔法を当てる自信はあるか?」

「射程は20メートルほどだけど、大丈夫よ」


 オレは御者台の陰から――実際はストレージから取り出した長杖をルルに渡し、アリサまで中継してもらう。


「へ~ 地味だけどなかなか良い杖ね」


 わざわざ口にしないが、アリサより高かったからな。


「スタンを外したら2射目はいいからすぐ下がってリザと交代だ。ポチとタマはリザのカバーに入ってくれ」

「おっけ~」

「わかりましたご主人様」


 ポチとタマの返答は少し遅れた。


「にゅ~?」

「石投げなくていいのです?」


 そうか投石を忘れてた。今回はスタン系の魔法を確認する意味もあるから温存してもらおう。


「今回は石は投げなくていい。馬車の中に蟻が飛び込んできたときの対処に専念してほしい」

「あいあいさ~」

「らじゃ~なのです」


 相対距離が100メートルを切った。

 他の蟻は鼠騎兵を追いかけて丘の方へ抜けていく。


 50メートル。不安なのか、ルルがオレの服の裾をギュッっと掴んでくる。


 30メートル。羽の音が迫ってくる。


 20メートル。


精神衝撃波(ショック・ウェーブ)!」

「落ちた~?」

「アリサ、すごいのです」


 アリサの攻撃で気絶した蟻は失速して地面に落下したみたいだ。マップで確認したがまだ生きている。さすが虫だ、墜落死するほど柔じゃないみたいだ。


「魔法は当たったけど、倒せてないみたい。タゲが切れるくらいまで、気絶してくれてたらいいんだけど……」


 たしかに目が覚めたら、巣に帰ってほしいのは同意する。


「蟻、いっぱいなのです!」

「ぐはっ、この距離でリンクとかないわ~」


 ポチの声に少し遅れて、レーダーでも集団から三分の一くらいの蟻がこちらに向かっているのが判った。

 8匹単位の編隊が4つ来る。


「ちょっと多いな」

「そうね、精神衝撃波(ショック・ウェーブ)で上手く巻き込んでも3匹ってトコかしら」

「連射はできるか?」

「無理よ、詠唱そのものは間に合うけど、魔力の放出時間までは省略(キャンセル)できないのよ」

「ポチ、タマ、敵の両端に投石して牽制してくれ。アリサの射程に入ったらアリサと交代だ」


 オレも射手に回れたらいいんだが、ルルに御者を任せるのは無理があるし、どうしたものか。


「タマのた~ん」

「負けないのです~」


 ちょっと振り返って後席の様子を見る。タマとポチが投石を開始したようだ。投石後に崩れた体勢はリザが支えている。


「当たった~?」

「ハズレたのです」

「よっし、偉いぞ、ちみっ子! 精神衝撃波(ショック・ウェーブ)!」


 第一陣の4匹を撃墜したらしく、レーダーに映る光点――追従してくる敵は4つに減っている。

 馬車に追いついた敵は、2匹が後席から飛び込もうとして、リザの槍で一匹が串刺しにされ、中に飛び込んだ1匹がポチとタマの小剣で手際よく始末されたみたいだ。

 この辺は後ろから聞こえてきた姦しい声からの推測とレーダーの光点の変化からの想像だ。


 オレはこの時、振り返る余裕は無かった。

 馬車の左右から挟みこむようにして追い越してきた蟻の片方を、魔法短銃の連射で沈め、反対側からオレに飛び掛ってきた不運なヤツを手加減抜きで蹴り飛ばす。

 蹴られた蟻は、バラバラの破片になりながら流れる景色と一緒に視界の外へ消えていった。





 蟻の第2陣も、ほとんど同じ流れで始末できた。

 だが蟻にもちゃんと知能はあるようで、第3陣、第4陣は飛行ルートを変え進行方向左手の雑木林の陰から襲う方針にしたようだ。


 蟻達は300メートルほど離れた雑木林の向こう側を並走しながら、機会を窺っているみたいだ。魔法短銃だと、ちょっと射程が足りない。

 オレは馬車の速度を緩めルルに手綱を任す。


 御者台の裏に立てかけておいたクロスボウを取り出し、短矢(ボルト)を番える。

 木々の隙間から蟻の体が見える。狙うのは最後尾の蟻だ。


 その未来位置を狙って――


 撃つ。


「いくらなんでも矢の無駄でしょ」


 レーダーから光点が一つ消える。


「牽制だからいいんだよ。アリサは後方を警戒しておいてくれ」

「ほいっ!」


 会話しつつも次の蟻に撃ち込む。我ながら嘘みたいだが、そのまま一矢も外す事無くすべて命中した。途中で雑木林を抜けてこようとしたが、時既に遅しだ。林を抜ける前に最後の一匹を撃墜した。





「ルル、もう速度を緩めても大丈夫だよ」

「は、はいっ」


 クロスボウを荷台に戻し、ルルから手綱を受け取ろうとする。力一杯握っていたのか手が離せないようだったので、優しく指を一本ずつ剥がしてやる。


「セクハラ?」

「違う」


 視線をルルのたおやかな手から、馬車内に移す。

 アリサが最後尾から振り返って言ってくる。やましい事なんてしてない、まったく失礼なヤツだ。

 皆に戦闘が一段落したのを伝えないとな。


「みんなお疲れ様、蟻の撃退に成功したみたいだ」

「雑木林の向こうのは?」

「諦めて帰ったみたいだよ」


 後ろを振り返って一人一人にねぎらいの言葉を掛ける。タマとポチが撃退数で揉めていたが、アリサの「わたしは7匹~♪」という自慢の声に封殺されてしまったようだ。


「あ、あのご主人様、……て、手を」


 ルルの小さな声が横から聞こえてきたので目を向ける。

 しまった、手を握っていたままだった。これじゃ本当にセクハラ野郎だな。ルルに詫びつつ手を離す。

 気のせいか恥ずかしがっていただけで嫌がっていなかった感じがするが、さすがに勘違いだな。中高生じゃあるまいし勘違いにもほどがある。


「このまま御者をしていても、いいでしょうか?」


 ルルが控えめな声でそう言うので、結局、交代せずに御者はルルに任せた。オレはルルの隣に腰掛けたまま、マップを開き、鼠騎兵の様子を確認する。


 やばい。


 鼠騎兵は3騎まで数を減らしているが、健在だ。

 やつらは大羽蟻(フライング・アント)を引き連れたまま、大きく弧を描く軌道で丘を迂回している。

 そしてその進路は、確実にこの馬車の前方を横切る事が予想される。

 オレはルルと場所を替わる。やつらが現れる方向にルルを座らせておきたくない。


「さっきの鼠騎兵が、蟻を引き連れてこっちに来るのが見えた。悪いけど、もう一度、戦闘準備してくれ」

「数はどのくらい?」

「52匹だ」


 鼠騎兵も5匹ほどは倒したみたいだ。

 その鼠騎兵が丘の上に姿を現す。先頭の赤い兜のヤツと目が合った気がした。そいつの乗る六足猪(ダッシュ・ボア)は他より大きい。2人乗りしているのもその騎だけだ。


 その鼠騎兵はオレ達の馬車に猪を寄せ、並走を始める。他の2匹が速度を緩め蟻の注意を引いている。

 馬車の側まで来た赤兜は兜の面防を上げ、鼠顔の癖にやけにニヒルで二枚目な表情で何かを言ってくる。


「◆◆◆◆! ▼▼▼▼! ●●●●!」


>「灰鼠族語スキルを得た」

>「緑鱗族語スキルを得た」

>「エルフ語スキルを得た」


 どうも色々な言葉で呼びかけてきているみたいだ。

 後々の事も考えて「エルフ語」スキルを取る事にした。レベルを3まで上げて有効化(アクティベート)する。


「ニンゲン、コトバ、ワカラナイカ?!」

「悪いけど、とっとと離れてくれないか? 巻き添えはごめんだ」


 せっかく言葉を覚えたのに、シガ王国語で言ってきやがった。シガ王国語で返すのも癪なので、赤兜にエルフ語で文句を言ってみる。

 オレはともかく、うちの娘達を危険にさらしたのは許せない。


「おお! エルフ語がわかるのか、では頼みがある!」


 おいおい、これだけ巻き込んでおいて頼みだと?


「姫を頼む。できれば故郷まで送ってやってほしいが、無理ならばせめて同族に渡してやってくれ」


 赤兜はそう言うなり横抱きにしていた厚い外套につつまれた者を、こちらに放り投げた。

 慌てて受け止める。気を失っているようだ。


 振り返ると赤兜は、そのまま蟻と戦う2匹の加勢に行ってしまった。

 オレはその子を馬車内に寝かせ、最後尾のアリサ達の所に行く。戦況は見るまでも無い、レーダーに彼らを映す光点は既に無い。


 何を思って赤兜が玉砕を選んだかは予想できる。さっきの子がそれだけ大切だったんだろう。

 だが、現実はいつもそんな想いを踏みにじる。


 蟻達は一匹、また一匹とこの馬車を目掛けて飛び上がっていく。


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