16-7.聖骸動甲冑(2)
※2017/8/9 誤字修正しました。
※2017/8/10 一部修正しました。
サトゥーです。たまにマニアックな話をしたときに、よく知っているはずの友人から、予想外の知識が出てきて驚くことがあります。当たり前ですが、自分の知らないところでもその人の人生が流れているんですよね。
◇
「――さよなら、将軍」
ヒカルが巨大な墓標の前で別れを惜しむ。
オレはヒカルを連れて、聖骸動甲冑に遺骸を提供した巨人達の故郷を訪れていた。
今朝、ニセモノと交換した聖骸動甲冑を埋葬する為だ。
一応、オレの魔法で結界を作ってあるが、それだけだといずれ誰かが墓を暴くかもしれないので、その道のエキスパートにご足労戴いている。
「そろそろ良いかのう?」
初代小鬼姫のユイカ3号がヒカルに呼びかける。
3号というのは多重人格な彼女の、初代小鬼姫を指す分類名だ。
「ごめんね、フォイルニス」
「気にするな、ヤマト。数少ない『テニ×勇』仲間の願いを叶えるくらい大した手間ではない」
フォイルニスというのはユイカ3号の中二病ネームだ。
どうやら、この二人は同じ少女漫画のファンだったらしい。
そんなやりとりの後、聖骸動甲冑を埋葬した墓所がユイカ3号の結界に閉ざされる。
「今回は墓所から故郷の風景が見られるように、可視光線の通過は自由にしてある」
ユイカ3号がそう言って、目の前にある墓石に触れない様子を実演してくれた。
「墓参りは自由にしていいんじゃが、あやつの心臓に使われている竜焔玉の欠片は、七神すら欲する危ない代物じゃ。あまり他の者には伝えん事じゃな」
たしか、竜焔玉は迷宮都市の西にある大砂漠を作ったアーティファクトだったっけ。
ユイカがユニークスキルで作った結界を破れる者がいるとも思えないが、神々や結界破りのユニークスキル持ちが興味を示すかもしれないから、誰も知らない方が安全だろう。
「うん、みんなには内緒にするよ」
「それがいい」
ヒカルの答えに、ユイカ3号が頷いた。
「サトゥー、この周りを花畑にしてくれないかな?」
「いいとも」
オレはヒカルの願いに応え、荒れ地のような墓石の周りを、色とりどりの花が咲き乱れる花畑へと変えた。
しばらく、ヒカルと一緒にその風景を眺めた後、オレ達はこの場を引き上げた。
ヒカルを孤島宮殿に、ユイカ3号をセリビーラの迷宮下層にある彼女の庵へと送る。
今回の面倒の詫びに、いつもの地上の食料各種に加えて、魔力を100ボルト交流電源に変換する魔法装置や平行世界の地球でゲットした家電、さらにカップラーメンや袋菓子などを提供した。
懐かしい品にユイカ3号がひとしきりはしゃいだ後、真面目な口調になってオレに話しかけてくる。
「サトゥー、さっきのは『将軍』じゃろ?」
「ええ、ヤマトはそう言っていましたね」
ユイカ3号の問いに首肯する。
「『覇王』は無かったのか?」
「今回の探索で見つかったのは『将軍』だけらしいですよ」
探索者を遺跡調査に向かわせたケルテン侯爵の話だと、あの一機だけだったらしいし。
「『覇王』がどうかしたんですか?」
「うむ、あれは少しやばいのじゃ。大昔、ララキエ王朝の『浮き城』に搭載されておった天罰砲をフルー帝国の馬鹿が発掘しおってな、単発じゃが一撃でアダマンタイト合金の分厚い装甲を切り裂くほどなんじゃ」
ほほう、それは凄い。
オレの単射レーザーよりも強いんじゃないだろうか?
「魔砲なんぞとは比べものにならんから、もし敵対者が使っておったら、躊躇なく殲滅しろ。お前は甘いところがあるから心配なのじゃ」
「ありがとう、ユイカ」
収束レーザー級くらいなら余裕で防御できるから大丈夫だけど、一応、オレを心配して助言をくれたユイカ3号にはお礼を言っておいた。
「ふん、お前が大怪我をしたら、今のユイカが悲しむからな」
ほおを染めたユイカ3号がそっぽを向きながら、そう言った。
オレは「用が済んだら帰れ」というユイカ3号の照れ隠しに、笑顔を返して彼女の庵を去り、久々に迷宮下層の知り合いのところを訪問する事にした。
◇
「がははは! 走れ走れ! 止まったらひき殺すぞ!」
キュラキュラと音を立てて走る戦車の上で哄笑するのは、ヨロイこと「鋼の幽鬼」のタケルだ。
彼は元転生者で、現アンデッドだったりする。
「がんばれー、ヨロイの戦車の次は、多脚キノコのマッシュさんが待ってるぞー」
大広場の中央で応援しているのは、青い肌の上級吸血鬼――吸血姫のセメリーだ。
「く、くそっ、いつか絶対泣かしてやる!」
彼女の視線の先、ヨロイの戦車に追いかけられながら毒づいているのは、元人造魔王で現勇者のシン少年だ。
彼はイタチ帝国の技術者に扇動されたルモォーク王国の異世界召喚実験で、地球からこの世界に一般人として召喚された。
そして、偶然この世界に転生していた彼の父親から、魔王珠と呼ばれるアーティファクトでユニークスキルを譲られ、人造魔王となってシガ王国の王都を滅亡の危機に陥れもしたが、それも全て過去の話だ。
今では更正を済ませ、ヨロイや吸血姫のセメリーに、鍛えられてメキメキとレベルをあげている。
勇者という称号もあるだろうが、教師二人が容赦ないのもあるだろう。
死んでも吸血鬼にして復活させればいいとでも思っているせいか、見ててハラハラするシーンが結構あるんだよね。
「クロ!」
そんな事を考えながら近づいていくと、オレに気がついたセメリーがブンブンと手を振って歓迎してくれた。
「どうした、クロ。何かあったか?」
「いや、ユイカに頼み事をしたついでに、シン君の様子見さ」
シン少年は荒い息でぶっ倒れていて会話はできそうにない。
オレはヨロイの屋敷に、ユイカの家に置いてきたのと同じ家電や食料品類を出していく。
「まさか、異世界転移に成功したのか?」
「ああ、勇者召喚並みに馬鹿げた量の魔力を使うから、軽々には使えないけどね」
ヨロイの言葉に事実を伝える。
「シン、元の世界に帰りたいか?」
「いや、興味ない」
インスタントヤキソバのピヤングを頬張るシン少年が首を横に振った。
そういえばエチゴヤ商会のアオイやユイも帰還を希望していなかったし、若者達は平和な地球に魅力を感じないのだろうか?
「そうだ、ヨロイ。聖骸動甲冑って知ってるかな?」
「あん? そんなご大層な名前の甲冑なんぞ知らん――もしかして、ワシが作ったパワーアシスト・ゴーレム甲冑の亜種か?」
フルー帝国の技師だったヨロイなら覇王について知っているかと思って尋ねたが、彼がいた時代以降に作られたモノらしく、芳しい答えはなかった。
「これはどう使うんだ?」
「うわっ、止めろセメリー! 電子レンジの扉を壊すな!」
子供のように興味津々のセメリーが家電をいじり始めたのを見て、ヨロイが焦って阻止している。
なかなか楽しそうだ。
オレはマイペースな彼らと談笑した後、元日本人の転生者で「骸の王」のテツオ――通称ムクロの居城へと足を向けた。
◇
「神々に会って話すか……」
ムクロが過去を思い起こすかのように呟いた。
「ええ、イタチ帝国のような悲劇を繰り返さないためにも、一度、神々の求めるところを把握してこようと思いまして」
彼は核兵器を用いて神を脅した事があるので、話を聞きに寄ったのだ。
「巫女を使い潰すなら、『神霊光臨』で降ろすのが早いが――」
「そのつもりはありません」
そんな事の為に、セーラやリリーの命を危険に晒すつもりはない。
神聖魔法のスキルレベルを10にしたら自分で使えそうだしね。
「――自分で使うのも止めろよ?」
オレの考えを読んだかのように、ムクロが忠告した。
「降臨した神にそのまま身体を乗っ取られる危険は言わずもがなだが、それ以上に、魂の器が壊れる可能性が高い」
元々、魂の器いっぱいにユニークスキル――神の欠片を宿している転生者や勇者は、普通の巫女よりも危険度が高いそうだ。
――危ない危ない。
自分を過信して、考えなしに使っていたらヤバかったよ。
「だが、意思疎通は難しいぜ?」
「そうなんですか?」
「ああ、巫女を介するうえに、神界とこっちに次元の歪みがあるのか、神と人の思考が異なるのか、断片的なイメージと言葉が混ざったような分かりにくいヤツなんだ」
そういえば、天罰の告知の時もそんな感じだったっけ。
「できれば神界を訪れて、直接対話しようかと思うのですが――」
「神界へ、か? 無茶な事を考えやがるな」
ムクロがインスタントラーメンをすすりながら、呆れたように呟く。
ミイラの身体のどこに入るのか不思議だ。
「その辺りはハイエルフの方が詳しいんじゃねぇか?」
「残念ながら、ハイエルフの中でこちらの神界を訪れた者はいないそうです」
亜神アーゼさんや、他のハイエルフ達にも尋ねてみたのだが、現存するハイエルフの中で神界を訪れた者は一人もいなかった。
神々や世界樹と共に訪れる前にいた創造神のいた神界の記憶がかすかにあるだけらしい。
たぶん、ハイエルフという存在が、神の伴侶――それも同格の神の伴侶を得られなかった時の代用品だという事が理由だろう。
ハイエルフを招くという事は、神の矜持を傷つける行為なんじゃないかと思う。
まったく、失礼な話だけどさ――。
「私の知る限り、パリオン神と勇者の物語を描いた絵本くらいしか情報がないので、ムクロなら何か知っているんじゃないかと思って」
「悪いが知らん――」
ムクロが言葉の途中で口ごもった。
「――いや、初代勇者がパリオンの課した試練を突破して、神の宮殿に招かれたって話を聞いた事がある」
オレの手持ちにあるムーノ侯爵が書いた初代勇者の資料にも書いてある。
ムーノ侯爵はサガ帝国の旧都の郊外にある「勇者の丘」にある神殿を指すのではないかと推測していた。
「まあ、人からの又聞きだから、話半分に聞いておけ」
事実かどうか分からないというムクロに、貴重な情報を感謝しておく。
その後、ララキエ王朝の話をしている内に、吸血鬼の真祖であるバンや迷宮下層の知り合いが集まってきて宴会となった。
ユイカが栽培に成功したトマトで作ったトマトベースのスープで炊いたロールキャベツはなかなか美味だったので、帰ったら孤島宮殿の仲間達にも再現して振る舞うとしよう。
さて、そろそろ公都のテニオン神殿に行って、神々と交信する手段を確認しないとね。
※次回更新は下記の予定です。
8/10(木)12:00 新刊発売日、記念更新「16-8.リーングランデの里帰り」
8/13(日)18:00 定期更新分「16-9.セーラの覚悟」
(上記タイトルは予定です。執筆が間に合わなかったら……ごめんなさい)
※シン少年については「13-31.魔王シン」「14-46.戦乱の王国(4)尋問」等を参照してください。
※2017/8/10 ヨロイのセリフを一部修正。
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