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デスマーチからはじまる異世界狂想曲( web版 )  作者: 愛七ひろ
第十六章

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16-4.視察

※2017/7/23 誤字修正しました。

※2017/7/24 一部修正しました。


 サトゥーです。プログラマー時代は度重なる仕様変更の波にもまれ、上役やクライアントの気まぐれによるちゃぶ台返しに耐えながら残業地獄を突破してきました。

 でも、自分がやってきたからと言って、自分が上に立ったときに、当然の事として部下に強要するのは何か違う気がするのです。




「じゃじゃ~ん?」

「じゃじゃじゃ~ん、なのです」


 ランドセルを背負ったタマとポチがシュタッのポーズでオレを見る。


「二人とも可愛いよ」

「にへへへ~?」

「照れちゃうのです」


 黄色い帽子を被る二人の頭を撫でると、気持ちよさそうに目を細めた。

 ポチの尻尾が千切れそうなくらい左右に動いている。


 手を離そうとするとタマが背伸びして頭を押し付けてきたので、軽くポンポンと叩いて終了を宣言しておく。


 そこに翼人のシロとクロウに手を引かれたナナがやってきた。


「マしター、おはよ」

「おはようございます、マしター」

「マスター、お揃いだと告げます」


 ナナがヒヨコ刺繍の黄色いポシェットを掲げる。


 これはランドセルを装備したがるナナを説得する為に急造した。

 妖精鞄と同様に、空間収納と個人識別機能が付いているけど、畳半畳分くらいの容量しか入らない廉価版だ。


「おはようざます、ご主人様」

「ざます?」


 女教師コスプレのアリサとミーアだ。


 今日の彼女達には胸の谷間がある。

 アリサとミーアに懇願されて作った偽乳キャミソールによるものだ。


「今日は魔法学舎で特別講義をするんだっけ?」

「そう」


 オレの質問にミーアがこくりと頷いた。


「アリサとミーア様の講義なら、私も聴講させていただけないかしら?」


 システィーナ王女がアリサとミーアに尋ねる。


「ティナ様といつも一緒に話しているような内容よ?」

「ん、要約」

「それはそうでしょうけど……聴きたいモノは聴きたいのですわ」


 今更聴く意味はないと告げる二人に、システィーナ王女がちょっと口を尖らせる。


「いいじゃないか、二人とも」


 珍しい表情も見られたし、少し助け船を出そう。


「ですが、システィーナ様が出席されると萎縮する者もいるでしょう。ですから――」


 オレは変装セットを取り出して、二人の助手として行くのなら問題ないと告げた。


「さすがはサトゥーです。それならいいですわよね、アリサ? ミーア様?」

「しゃーないわね。一緒に行きましょう、ティナ様」

「ん、承諾」


 変装セットを手にして喜ぶシスティーナ王女を見て、二人は苦笑しつつも同行を承諾していた。


「旦那様、ケルテン侯爵家のお嬢様がお着きです」

「チナだ」

「チナ様が来たよ、マしター」


 メイドがチナ・ケルテン侯爵令嬢の馬車が到着したと教えに来てくれた。

 彼女はいつも通学途中に、この屋敷に寄ってシロとクロウを乗せていってくれるのだ。


「おはよう! シロ、クロウ!」

「おはよ、チナ様」

「チナ様、おはようございます」


 シロとクロウが馬車に駆け寄って、幼女――チナ・ケルテンに挨拶をする。


 馬車の扉を開けて姿を見せたチナを一つの黒い影が捕らえた。

 言うまでもないが、ナナだ。


 護衛の騎士達が剣に手を掛けて緊張したが、チナに頬ずりするナナを見て戸惑う。


「な、ななななな、何? だ、誰?」

「――ごめんね。驚かせて」


 動揺するチナの傍に縮地で近づいて、ナナの頭をポカリと叩く。


「マスター、幼生体は保護すべきと告げます」

「チナ殿が驚いているだろ? 抱き上げるのは本人の許可を取ってからにする事」

「イエス・マスター」


 ナナが渋々といった様子でチナを下ろす。


 チナ嬢は小動物のような動きで、シロとクロウの後ろへ隠れる。

 シロとクロウの二人が、「ナナ様」「怖くないよ」とフォローしていた。


「ナナ? ナナって『魔王殺し』のペンドラゴン伯爵様に同行した、あのナナ・ナガサキ様?」

「肯定と告げます」


 チナ嬢がシロとクロウに問い、ナナがチナと目線を合わせながら肯定した。


「そ、それじゃ、あの黒髪の人はっ!」

「マしター」


 興奮するチナ嬢に平常運転のシロが答える。

 答えになっていない。


「ました?」

「うん、ナナ様の旦那様でマしター。『魔王殺し』のサトゥー・ペンドラゴン伯爵だよ」

「は、ははははく、はくはくはく、伯爵様?」


 首を傾げながら問うチナ嬢に、クロウがちゃんと告げると、チナ嬢が壊れたレコードのように噛みまくった。


「チ、チナ・ケルテンです。ケルテン侯爵の孫娘です――」


 ぐるぐる目でチナ嬢が淑女の礼を取る。

 こんな状態でも、ちゃんとお淑やかな礼ができるのは、普段からちゃんと教育を受けているからだろう。

 オレは名乗りを上げて、大人の貴族向けの礼を返しておく。


「チナ様、今日はナナ様も一緒でいい?」

「ええ、勿論よ」


 シロとクロウが続いて、ナナも乗り込んでいく。


「幼生体は私の膝の上に座ると良いと進言します」

「ナナ様、危ないからダメだよ」


 欲望のままに行動しようとしたナナが、クロウに叱られてしゅんとしている。


「じゃ、わたし達も行くわ」

「出発」


 システィーナ王女やアリサ達が乗った馬車が、ケルテン家の馬車に続いて発進した。

 オレは馬車を見送り、屋敷の中に戻る。


「サトゥー、軍の視察には同行してもいいかしら?」

「ええ、いいですよ」


 カリナ嬢が許可を求めてきたので快諾する。

 ソルトリック第一王子の誘いで、昼からリザと一緒に近衛騎士団を始めとした軍事施設の視察に行く事になっているのだ。


「ゼナさんも一緒に来ていただけますか?」

「は、はい! お邪魔でなければ!」


 ゼナさんにはカリナ嬢のお目付役を頼もう。


「ミトとセーラさんはどうしますか?」

「わたしは軍事施設はあんまり好きじゃないかな」

「私もご遠慮いたします」


 なら、視察はオレ、リザ、カリナ嬢、ゼナさんの四人だけだね。


「サトゥー、新型飛空艇の竣工式にはでるわよね?」

「ああ、もちろん」


 エチゴヤ商会で売った空力機関を、王国の工房が作った飛空艇フレームに搭載した軍艦だ。

 陸戦部隊の輸送と対地砲撃支援を持つ魔物掃討用の艦らしい。


 国王直轄領の遺跡から出土した「魔砲」と呼ばれる古代兵器を搭載しているそうだ。

 古代兵器というパワーワードが気になっていて、竣工式を楽しみにしている。





「クロ様、おはようございます」

「おはよう、ティファリーザ。昼まで少し時間ができたから、工場や各部署を視察してくる。見ておいた方がいい部署はあるか?」

「はい、一覧を作成してありますので、少々お待ち下さい」


 エチゴヤ商会の執務室にくると、書類に埋もれたティファリーザが迎えてくれた。


 オレがティファリーザの渡してくれた一覧を確認していると、バタバタと騒がしい足音と共に支配人を示す光点が部屋の前までやってきた。

 音がピタリとやんで、少し間が空いてからノックの音が響く。


「エルテリーナです」

「入れ」


 お澄まし顔の支配人が部屋に入ってきた。

 先ほどの足音から想像もできないお淑やかな所作だ。


 いつも思うが、先ほどの足音がこちらに聞こえていないと本気で思っているのだろうか?


 まあ、追及する気はないが。


「これから視察に向かう。同行せよ」

「はい! 承知いたしました」


 支配人がはきはきした声で即答した。

 バインダーを持ったティファリーザが当然といった顔で、支配人の横に並ぶ。誘う手間が省けた。


 まずは近場から、アオイとジャハド博士の仕事場から行こう。


「――博士! ボクのプリンをまた食べましたね!」

「やかましい! 発明には糖分が必要なんじゃ!」


 扉を開けた途端、食い意地の張った声が聞こえてくる。


 出会った時は美少女にしか見えなかったアオイ少年だが、ここ一年で背も伸びて少し声変わりが始まっており、少しずつ女性には見えなくなってきた。


「あ! クロ様にエルテリーナ様、こんにちは!」

「なんじゃ、まだ発明品は完成しておらんぞ?」


 オレ達に気付いたアオイ少年が礼儀正しく挨拶をしたのと対照的に、ジャハド博士は不機嫌そうに鼻を鳴らしただけだ。変人で有名なだけはあるね。


 ジャハド博士が研究しているのは、「魔力と電力を相互に産み出す魔法装置」だ。

 魔力から電気を作る装置はすぐにできたのだが、その逆が難航しているらしい。


「博士がモーターで遊んでばかりいるからでしょ?」

「バカモン! これは『もーた』の特性と原理を知り、類似効果をもたらす魔法の品との関連性を調べておるのじゃ」


 アオイ少年の言葉にもっともらしい答えを返したジャハド博士だったが、頬を伝わる汗や逸らした視線が、言葉の信憑性を奪っていた。


 回転マニアの彼にとって、電動モーターは非常に魅力的に映るのだろう。


「構わん。空力機関の浮力の一部を推力に変える機構だけで今期は十分だ。今の発明は来期に回せ」


 大型の飛空艇には使えないけど、この機構を搭載すると小型飛空艇のコストが大幅に下がるのだ。

 今のところ、エチゴヤ商会製の空力機関にしか使用されていないけど、機構の原理を王立研究所に開示してあるので、その内、他の工廠でも作られるはずだ。


 続いて、アオイ少年の方に視線を向ける。


「報告書では試作品が上がったという事だが?」

「はい! お待ち下さい。試着してきます」


 ――試着?


 その言葉に嫌な予感を覚えて呼び止めようとしたのだが、ジャハド博士が遊びで作った方の発明品の説明を始めたので、そのタイミングを逃した。


「クロ様! ごらんください!」


 半ズボンに着替えたアオイ少年が、「じゃじゃ~ん」と効果音が付きそうな顔で発明品を披露する。


「どうですか?」


 反応を示さないオレに、アオイ少年が心配そうに尋ねてきた。


 ……製品はちゃんとできている。


 だが――。


「せめて試着は女性にさせろ」


 オレは少年のストッキング姿にときめくほど上級者ではない。


「厚さや色はそれだけか?」

「厚さは20デニールから、10刻みで50まで、一応、最強の25デニールも用意していますが、色は白と黒だけです。肌色は自然な発色がまだで現在研究中です」


 いやいやデニール単位で言われても分からないから。

 カリナ嬢やリーングランデ嬢のバニーガール姿は見てみたい気もするが、実際にやろうとしたら鉄壁ペアの「ぎるてぃ」が来るに違いない。


「貴族女性に売れると思うか?」

「はい、売れると思います」


 支配人が即答した。


 足が細く見えるので、貴族女性だけでなく庶民でも欲しがる者が多いだろうとの事だ。


「販売計画は支配人に任せる。五年程度で貴族以外にも手が出せるようになるのが理想だ」

「承知いたしました」


 支配人が首肯する。

 淑女達から搾り取る気満々の顔だ。


 ぼったくり価格なら、五年もあれば生産工場や開発コストは回収できるだろう。

 貴族は高価でも「特別」が好きな人が多いからね。


「アオイ、期待以上の成果だ。休暇と特別賞与を与える。エチゴヤ商会の保養施設で羽を休めてくるがいい」

「ありがとうございます! でも次の研究を始めているので、休暇はその後でも」


 アオイ少年はワーカーホリックの魔の手に捕まっているようだ。


「根を詰めすぎぬようにせよ」


 オレは釘を刺しながら、テーブルにブドウ塩飴が入った袋を置く。

 カロリーと塩分の補給用だ。


「おう! 飴じゃな!」

「ちょっと博士! 独り占めしないでくださいよ。半分はボクのですからね」


 飴の取り合いを始めた二人に背を向け、研究室を出た。

 オレは続いて、他の研究室を順番に視察して回る。


 アオイ少年発案のインスタント食品研究は他の研究者に割り振られ、今も研究が進んでいるそうだ。生産自体は可能なのだが、魔法使いの確保や高価な魔法装置が必要になるので、生産コストが下がらないのが現在の課題との事だ。


 魔法道具を研究する部署は、民生品を開発する部署が多く、なかでも貴族向けのゴーレム馬車の開発は一番人気があるらしい。

 交通事故が怖いので、ゴーレム馬車は普通の馬車程度の速度しか出ないように制限を掛けてある。


 自分の研究を売り込んでくる者達には、定期コンペに出すように告げておく。

 そんな研究者が多かったせいか、工場を視察する時間が、かなり少なくなってしまった。


 オレは時間節約に、工場まで転移で移動する。


「ク、クロ様?!」

「許せ。予定が押しているのだ」


 驚くポリナに詫び、工場の視察に入る。


「前に視察したときよりは、疲労困憊した者が減っているようだな」

「はい、クロ様からの指示通り、3連続以上の勤務を禁止して、月に4日以上休暇を取る者に賞与を出したところ、一人当たりの勤務時間がかなり減りました」


 前に勤怠表を見た時に、28時間連続勤務や37時間連続勤務のような無茶な働き方をする者が多かったので、工場の稼働を落として連続労働を規制するように指示しておいたのだ。


「休暇を取らなかった者にではなく、休暇を取った者に賞与を与えろ、とおっしゃられた時は自分の耳を疑いましたが、工員達の元気が戻っていくのを目にして、クロ様の慧眼に改めて感服いたしました」


 微妙に褒められていない気がする。

 まあ、いいか。自分の工場で、工員の過労死や自殺なんて案件が阻止できたのだから、それで満足しよう。


「クロ様、工場の稼働を落とした分の生産は、労働力の余っていた別の工場に外注してありますので、エチゴヤ商会の収益は低下しておりません」


 支配人の言葉に頷く。

 すでに異常なほど収益があるんだし、無理に維持しなくても大丈夫なのに。


「よくやった支配人。ポリナも工員達だけでなく自分達の健康にも留意するように」


 目の下に隈ができているポリナに、睡眠導入剤入りの栄養剤を与えておく。

 上司が疲れていると、部下に目が届きにくいんだよね。





「どうだ? 近衛騎士団は?」

「精悍ですね」


 エチゴヤ商会の視察を終え、オレは昼食を取る間もなくサトゥーの姿に戻って、軍の施設を視察する王子達に合流した。

 今は近衛騎士団の演舞みたいな組み手を見物しているところだ。


 同行しているゼナさんは第一王子達が一緒なので緊張してカチカチだが、リザとカリナ嬢は近衛騎士団の中に自分達と戦えるような強者がいないか探している。

 実にマイペースで二人らしい。


「――精悍? 本気か、ペンドラゴン卿?」

「誰だ!」


 オレ達の背後から聞こえてきた声に、第一王子が誰何(すいか)する。

 潮が引くように人垣の間にできた道を通り、シガ八剣第二位のヘイム卿が姿を現した。

 上等の騎士服を着ているのに、どこか最前線の兵士のような荒っぽい雰囲気がある。


「ヘイムか」

「おや、殿下もおいででしたか」


 なんとなく、言葉にトゲがある。


 ヘイム氏と第一王子は仲が悪いのかな?

 次期国王と次期シガ八剣筆頭がそんな事でいいのか、少し心配になる。


「ヘイム殿、我が近衛騎士団の練度にご不満か?」


 第一王子の隣で解説してくれていた近衛騎士団の騎士団長が、一歩前に出てヘイム氏をにらみつける。


「無論だ。陛下の盾を自任するなら、今すぐあのお遊戯を止めさせて、血反吐を吐くような訓練をさせろ」

「おのれっ、我が騎士団を子供のお遊びだと言うのか」


 ヘイム氏の言葉に団長が激高する。


「それは貴公が一番よくわかっている事だろう?」

「――やめよ」


 更なるヘイム氏の挑発を、第一王子が制止する。

 第一王子にまでかみつく気はないのか、ヘイム氏は軽く一礼して口を閉じた。


「これだから成り上がり者は……」


 団長が負け惜しみを口にする。


「家柄や血筋に逃げるな。陛下のお傍でお守りするのが、貴公ではなくジュレバーグ殿やレイラス殿だという事に――」

「――ヘイム。私は止めよ、と申したぞ?」


 ヘイム氏は獰猛な笑みを浮かべた後、オレに視線を向けた。


「なるほど、それ故のペンドラゴン卿でしたか」


 何がなるほどか分からない。

 もしかして、第一王子がオレにジュレバーグ氏の代わりをさせようとしていると思ってるのかな?


「ふん、下世話な勘ぐりは無用。伯爵は私の友人だ」


 ――その割に、一度も「サトゥー」と名前で呼ばれていませんが。


「まあ、いい。貴公が誇る訓練風景を見せてもらおう」


 第一王子のそんな一言で、オレ達は聖騎士団の訓練所へと向かった。





「ふはははははははは、そんなんじゃ死んじまうよー!」

「第一分隊、気合いを入れろ!」

「第二分隊、光魔法による支援だ」

「第三分隊、閃光でリュオナ殿を幻惑せよ!」


「よそ見はいかんぞ」

「ぐぉおおおおおおおお」

「光盾を張り直せ!」

「バウエン殿の風刃が来るぞ!」


 聖騎士団の訓練場では、シガ八剣を相手に実戦さながらの訓練を行なっていた。


「……■ 治癒:光(ライト・ヒール)


 訓練場の隅では怪我した者達を、別の聖騎士が光魔法で治癒している姿がある。


 聖と付くわりに、聖騎士団には一人の神官もいない。

 その代わり、ほとんどの構成員が光魔法を使えるようだ。


 回復要員がいるから、無茶な訓練ができるのだろう。


「大言を口にするだけはあるようだ」


 第一王子の褒め言葉を聞いた近衛騎士団の団長が、苦虫を噛み潰したような顔をしている。


「お褒めいただき恐縮なれど、ここまでの訓練はここ半月ほどの事」


 そう言ったのはヘイム氏ではなく、シガ八剣の聖盾使いレイラス氏だった。

 半月でここまでの練度にはならないだろうから、無茶を始めたのがここ半月という事だろう。


「それもこれも、ペンドラゴン卿のおかげ。常人でも鍛えれば勇者の域に届くと教えてくれた。聖騎士達は皆、君を目標に励んでいるのだ」

「はあ、恐縮です」


 レイラス氏がオレに礼を言う。


「ご主人様を?」

「サトゥーを目標に?」


 オレの後ろでリザとカリナ嬢が何か言いたげな顔で首をかしげている。

 ゼナさんは何も言わなかったが、冷や汗をかきそうな顔で苦笑していた。


 うん、何が言いたいか後で聞いてあげよう。


「ペンドラゴン卿、せっかくだ腕試しをしていかんか?」


 ヘイム氏が魔剣を掲げながらオレに言う。


 あれはエチゴヤ商会経由でオレが作った魔剣ヘイムだ。

 加速や刃の欠損復活機能がある。


「リザ――」

「いや、キシュレシガルザ子爵ではなく、伯爵閣下と手合わせ願いたい」


 リザではなくオレと?


「キシュレシガルザ姉妹が言っていた。貴公が一番強い、と」


 ヘイム氏が剣を抜く。


「ここには上級の魔法薬もある。死ななければ、手足の一本や二本がなくなっても治せるから安心されよ」


 いやいや、安心できないから。

 訓練で人の手足を斬るなんてごめんだよ。


 そういうバイオレンスなのは、同好の士とだけやっててください。


「サトゥーさん、頑張ってください!」


 両手を握りしめたゼナさんがオレを応援する。


「サトゥーなら余裕ですわ!」


 魔乳を(そび)えさせたカリナ嬢が、自分の事のように誇る。

 リザは何も言わなかったが、彼女の尻尾が期待にぴたぴたと地面を叩いていた。


「ペンドラゴン卿、期待しているぞ」


 第一王子や側近達も止める気はなさそうだ。

 リザがシガ八剣筆頭のジュレバーグ氏に勝っているし、魔王殺しの称号が広がっているから、彼と善戦しても問題ないだろう。


 適当に手合わせして、引き分けを狙うとしよう。


「お手柔らかにお願いします」


 ゼナさんから妖精剣を受け取ったオレを見て、ヘイム氏が口角を上げる。


「お茶を濁す気か?」


 ――なぜバレた。


「どういう事でしょう?」

「キシュレシガルザ子爵が言っていた。主の槍・・・は自分よりも上だと」


 リザがそんな事を言っていたのか。

 でも、オレの内心を読んでお茶を濁す気だったのを気づかれた訳ではなさそうだ。


「ペンドラゴン卿が槍を?」

「そういえば、ペンドラゴン卿が槍で戦うのを見たことがありませんぞ」

「ならば、槍こそがペンドラゴン卿の主武器だったのか!」


 ヘイム氏の勘違いが王子や周囲の人たちに広がっていく。

 カリナ嬢までが「知りませんでしたわ」と呟いていた。


「貴公が本気の武器を使いたくなるようなモノを見せよう」


 ヘイム氏が魔剣を抜いて訓練場の中央に立つ。

 相手をするのは6メートル級のゴーレムらしい。


「魔刃よ、我が剣に宿れ。我が名を刻みし魔剣ヘイムよ。我に風よりも速い踏み込みをもたらせ――」


 ヘイム氏が中二病くさい台詞を唱えるのが聞こえてきた。

 それを耳にした周りの聖騎士達やカリナ嬢が、すごく興奮している。


「――加速射出陣アクセラレーション・カタパルト!」


 ヘイム氏がポチやリザの瞬動並の速さでゴーレムに迫り、速度を生かした斬撃で一刀両断にしてみせた。


「すごい」

「さすがですわね」

「荒削りですが、なかなかの威力ですね」


 ゼナさん、カリナ嬢、リザがそんな言葉を交わしていた。


 もっとも、普通の人たちの感想は違うようで――。


「これがシガ八剣の本気か――」

「さすがはヘイム殿!」

「すさまじいモノですな……」

「いやはや味方で良かった」

「ぐぬぬ」


 ――といった感じの反応だった。


「どうだ、ペンドラゴン卿? これでもまだ、貴公が槍を使うのに足りぬか?」


 ヘイム氏が満面の笑顔で尋ねてきた。

 ここで断ったときの彼の顔を見たい気もするが、周りからブーイングが上がりそうなので、空気を読む事にした。


「いいえ。お望み通り、槍を使いましょう」


 そう答えたものの、オレ用の槍ってあんまりないんだよね。

 聖槍や竜槍はまずいだろうし、鋼鉄製の槍だと侮っていると思われそうだし――ストレージを検索して、試作フォルダの中に手頃なのを見つけたので、それを使う事にした。


 格納鞄経由でストレージから槍を取り出す。


「紅色の槍だとっ!」

「なんと、禍々しい槍だ」

「なにか曰くのある魔槍に違いない」


 ギャラリーがうるさい……。


 これはヒヒイロカネで作った魔槍ゲイボグル(・・)だ。


 前にアリサから「ゲイ・ボルグ風」というリクエストで造ったモノなので、魔力が通り易い以外の特徴はない。

 当たり前だが、原典にあるような必中効果やジェノサイド能力はないのだ。


「どうやら、本気を出してくれる気になったようだな」


 魔力回復薬を飲み干したヘイム氏が腕で口元を拭う。

 こういうワイルドな仕草がよく似合う。


「お手柔らかにお願いします」

「ふん、悪いが手加減はなしだ。死力を尽くして『魔王殺し』殿に挑ませてもらおう」


 ヘイム氏が獰猛な笑みを浮かべる。


 いや、ほんとに。

 もっと気楽に試合しようよ。



※次回更新は、7/30(日) の予定です。


※2017/7/24 冒頭が次話用のものになっていたので、差し替えました。

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