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デスマーチからはじまる異世界狂想曲( web版 )  作者: 愛七ひろ
第五章

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5-2.旅路(2)

※一部改稿しました。

※2018/6/11 誤字修正しました。

 サトゥーです。ハイキングっていいですよね。自然に囲まれ草木の匂いを肺いっぱいに吸い込むと仕事の失敗や嫌なできごとを忘れさせてくれます。





 馬の世話を終えたオレは馬車の陰で、消臭剤を調合し始めた。山羊の皮や羊毛の猛烈な臭いをなんとかしたかったのだ。


 調合中にリザが(たきぎ)が足りないのでスープは無くてもいいか確認しに来た。肌寒いしスープも無しに黒パンは硬すぎるだろう。

 横を見ると調合過程で水を温めるのに使っていた弱暖板ライト・ホット・プレートが目に入る。

 これを調理の補助に使うことにした。これで暖めてから、(たきぎ)を燃やして再加熱してスープを煮る。弱暖板の魔力供給係はアリサに任せた。


 それにしても燃料集めが大変だとは思わなかったな。セーリュー市で(まき)を買っておけば良かった。

 切羽詰まったらストレージの廃材を出そう。宝物庫(アイテムボックス)に入らないようなサイズのしか無いのがネックだ。





 オレが馬車の陰で、消臭剤を調合しているとスープのいい香りがしてくる。調合し終わった消臭剤は、白い粉状の薬で小袋に入れて臭いの元に一緒に置いておくものらしい。


 オレはストレージから取り出した山羊の皮や毛の束を消臭剤の小袋と一緒に袋に詰めて宝物庫(アイテムボックス)に入れる。数が多くて入らなかったので宝物庫(アイテムボックス)をスキルレベル4まで上昇させた。


 こちらの様子を窺っていたわけでもないだろうが、タイミング良くリザが食事の用意ができたと呼びに来た。


 さて食事の準備もできたようだし、ポチとタマを呼び戻さないと。

 大声でポチとタマを呼ぶ。


 うん、街についたら笛でも買おう。

 ストレージの中に魔法道具の笛もあるんだが、ヘタに吹いて変な怪獣とか天使とかが出てきてもイヤなので使わない。


「獲物なのです~」


 ポチが誇らしそうにウサギを片手に掲げながら戻ってきた。ウサギにしては耳が短い。AR表示では、そのまま耳短兎という名前だった。ポチは頭から足まで草と土ぼこりで汚れているが、いい笑顔だ。


 受け取った兎をそのままリザにリレーする。

 ポチの頭を撫でながら褒める。このまま食事させるわけにもいかないので、桶に水を汲んで顔と手を洗わせる。この辺は迷宮にいた時の食事前に徹底していたので、水の入った桶をさし出すだけでバチャバチャと洗い出す。最後にタオルを使わずに、顔をふるって水気をとるのだけはなかなか直らない。


「にく~? とってきた~」


 今度は後ろから帰ってきたタマが、声を掛けてきた。

 タマは何を獲ってきたんだろう? 鳥かな~?


「肉! ……なのです?」と途中からポチが首を傾げるのもしかたない。


 振り返った先にいたタマが掲げていたのは、80センチほどのネズミ……じゃないな。AR表示では鼠人族(ラット・マン)となっている。

 その鼠人はぐったりと気絶しているが、一応生きているようだ。


「タマ、それは逃がしてあげなさい」


 タマはちょっと悲しそうに「えもの~ ダメ?」と首を傾げて聞いてくる。

 思わず許可しそうになるが、人食いは止めようよ。その辺は追々教えていかないといけないな。


「お腹壊すからダメ」

「あい~」


 タマは鼠人を抱えたままその場でクルクル~っと回って勢いをつける。そして、そのままポイッと草原の向こうに鼠人を投げてしまった。


 おいおい、幾らなんでもワイルドすぎるだろ。


 鼠人の体力ゲージは少し減ったみたいだが、生きているようだ。

 さすがにこの扱いは酷すぎるので、外傷が無いか確認する事にした。その前にちゃんとタマを叱っておく。


 鼠人に怪我は無いようだ。AR表示ではスキルなし、2歳となっている。さすが鼠系、成長が早い。手に泥団子の様な物を握りこんでいたが興味が無いので放置した。この子のお弁当とかだろう。

 どうも気を失っているだけのようなので、オレ達のキャンプから少し離れた草原に寝かせておく。迷惑料代わりに枕元に果物を数個置いておく事にした。


 一方、ポチの獲ってきたウサギはリザが素早く解体して串焼きになっている。モツは洗ってから、リザが適当に千切ってきた香草と一緒に炒めている。

 ちなみに燃料だが、巨石の向こう側に倒木があるのをタマが見つけていたのでそれを砕いて使った。


「お腹へったのです~」

「まねっこダメなのです~」

「にく~なのです~」


 アリサがポチのマネをしながら昼食の催促をしてくる。それをポチが抗議し、タマが尻馬に乗っかっている。

 ……ちょっと愉快なのです。


 鼠人はまだ起きそうにないので、食事を始める事にした。


 リザが一番大きな肉を差し出してくる。

 今回のMVPはポチなので、その肉はポチに回してやる。2番目に大きな肉はタマにあげた。獲物はダメだったが薪の確保で活躍したからな。


 ウサギの肉は柔らかくて美味かった。リザの腕がいいのか材料が新鮮だったからなのかは判らないが、美味いものは美味いでいいと思う。

 モツの香草炒めも薦められたが、肉はもう充分なので遠慮した。


 カサカサッ。


 物音がした方を見るまでも無く、レーダーで目が覚めた鼠人が逃げていくのがわかった。あとで確認したら、枕元に置いておいた果物はちゃんと持っていったようだ。





 リザやルルと食後のお茶を楽しむ。

 お茶はルルが淹れてくれた。田舎の小国でも宮中で教えられただけあって、ルルの淹れてくれるお茶はオレが淹れるのとはレベルが違う。実に美味しい。

 そう褒めると満更でもないのか、謙遜しながらもルルの口元が綻んでいた。


 アリサはポチとタマを連れて、巨石の見物に行っている。もちろん本人は「調査よ」と言っていたが、あのテンションは物見遊山にしか見えなかった。


 お茶の香りを楽しみながら、マップ検索をする。


 鼠人族(ラット・マン)で検索してみたが、この周辺にいる鼠人はさっきの子だけだ。迷子なんだろうか?


 マップを確認すると、ここから十数キロ先の南東の山のあたりから非表示になっていたので、たぶん伯爵領の外側にある鼠人族(ラット・マン)の集落から迷い出てきたんだろう。幸い鼠人の子が走っていった方向が集落予想地点だったし、危険な生き物もキツネくらいなので、放置しておいても大丈夫だろう。


 さっきまでは魔物とか特殊攻撃とかレベルで検索していたので、鼠人を見逃していた。盗賊もいるかもしれないし、検索パターンの絞込み調整をする。


 むむむ、山賊がいるな。もっとも距離がかなりあるうえに街道から離れた南西方向の山中なので、遭遇する事はないだろう。


 うおっ!

 絞込みを弄っていて、急速に画面に赤い点が増えて焦った。見回すが何も居ない。

 デフォルトではOFFになっていた普通の虫や動物を対象に加えた途端にそうなった。


 近くの赤い点に向かうと何かが逃げていく。


 残飯狙いの小動物か? ゲームとかだったら、敵になりそうに無い生き物は始めから除外されるのに、厄介な。

 レベル1で毒の無いヤツは除外しちゃうかな。噛まれても痛くないだろうし。


 よし、毒と特殊能力あり以外は除外にしよう。


 う~ん、まだ赤い点が減らない。

 いや、よく見ると虫か? 蚊みたいな虫が飛んでいる。しかも「種族特性:吸血」になっている。そうか蚊も血を吸うよね。


 この設定は山とか藪に入る時の為に取っておいて、普段は毒のあるヤツ以外は除外にしておこう。初見の生き物はAR表示で何とかなるだろう。1レベルなら排除も容易いからね。





 大体の調整が終わりかけた頃に、巨石の上からアリサがオレを呼ぶ声が聞こえた。

 どうやって登った?


「何かあったのか?」

「ちょっと、この岩の上に来て」


 タマを肩車したポチが裏側から戻ってきた。どうもアリサはこの2人を踏み台にして上に上がったようだ。


「アリサずるい~」

「ポチも上に行くのです」


 アリサが手を伸ばせば届くとは思うが、片手で引き上げるのは無理だろう。

 二人も上に登りたそうだったので、順番に上げてやる。


 オレ自身は足場にできそうな場所がなかったので、リザやルルから死角になる位置からジャンプで飛び上がった。


「こっちから見てよ」


 そう言ってアリサが指差すほうを見てみる。

 そこには倒れ重なっている巨石が見える。アリサは何を見せたいんだろう?


「何を見ろって?」

「もう、ちゃんと見てよ」


 なるほど。ようやくアリサが見せたいものが判った。


「これは石の鳥居か?」

「倒れてるから予想でしかないけど、3つの鳥居が並んでいたのが倒れたみたいね。神社でもあったのかしら」


 石鳥居の残骸を見つめてみる。AR表示された情報をアリサに教えてやる。

 ただの巨石文明の名残かと思っていたんだが……。


「壊れた転移門(トラベル・ゲート)だってさ」


 ゲームなんかだとよくある旅をショートカットするためのギミックだ。ここにあるのは遥か昔に壊れているようで、どうすれば修理できるのかもわからない。


 それを聞いて「直せるの?!」とアリサが凄い勢いで聞いてくるが「無理だ」と手短に答えておいた。


 ゲームみたいに旅をショートカットできるなら魅力的だが、行き先不明な場所に飛び込むのは遠慮したい。

 当事者になるまで気にしたこともなかったが、ゲームの主人公達はどうしてあんなに無邪気にゲートに飛び込めるのか不思議でならない。


 巨石は僅かに魔力触媒のような性質をもっているようで、魔力を流すと一瞬反応する。とはいえ誤動作させて「いしのなかにいる」となってしまったらシャレにならないので、それ以上は自重した。





 出発後、幼女達3人は夢の世界へ旅立った。お腹が一杯のせいもあるだろうが、馬車が走り出してすぐに、寝てしまったらしい。アリサも肉体の制限に負けてしまうようだ。


「ご主人さま、私にも馬車の操作を教えてもらえないでしょうか?」

「いいよ、横に座って」


 リザの申し出を受けて御者台にスペースを作る。

 オレ以外にも御者ができる人間がいると助かるので、後で他のメンバーにも順番に教える事にしよう。


「ルルもやってみるかい?」

「はい、やりたいです」


 すぐ後ろで見ていたルルにも話を振ってみると、思わぬ好反応だった。

 オレは一旦馬車を止めて、ルルと場所を交代して荷台から手綱を操作する。ルルを御者台に座らせたのはリザと2人一緒に教習をさせるためだ。


「まず手綱の操作からだ」


 手綱をまずリザに持たせる。


「手綱はすこし緩める感じで持って。でも緩めすぎないように注意して」


 ヨサーグさんに教えてもらった通りに2人に教える。

 2人とも緊張はしているものの大した失敗もなく操作を覚えていく。


 リザの操車は、若干荒いものの十分及第点だ。覚えも早く数時間ほどで、オレの代わりに手綱を預けてもいいくらいのレベルになった。


>「教育スキルを得た」


 ルルの操作は、リザに比べると危なっかしいものの平地なら御者ができるようになった。実地で少しずつ慣れていけばいいだろう。

 オレとリザに見守られて、ルルが操作する馬車はガラガラ、ゴトゴトと賑やかな音を立てて丘陵地帯の間の街道を進んでいく。



 次回から冒険な感じに。


※改稿は「検索パターンの絞込み」の山賊から◇の間に一部追加しました。

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