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デスマーチからはじまる異世界狂想曲( web版 )  作者: 愛七ひろ
第十五章

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15-幕間4.平和な一日[アリサ]

※2017/4/23 誤字修正しました。

「ポ、ポチが負けるなんて……信じられないのです」

「ふふん、これがアリサちゃんのジツリキよ!」


 項垂れるポチの前で、わたしは大人げなく勝ち誇る。


「つぎはタマ~?」

「忍法極意、全てをもって掛かってらっしゃい!」


 超人気格ゲーの「さむ☆たま」のセリフをもじって、タマを挑発する。


「タマ、負けない~?」

「行くわよ!」


 わたしが高速で突き出す手を、タマの鋭敏な動体視力が捉える。

 普通なら、こちらの動きを見てから行動できるタマには絶対に勝てない。


 でも――。


「ありゃりゃ~?」

「タ、タマが負けちゃったのです!」


 ――その優秀すぎる動体視力故にタマは負けたのよ。


「どう? 変幻自在の『万華鏡(カレイドスコープ)』のアリサちゃんの技は!」

「凄く凄い~?」

「ぐれいと、なのです!」


 私は犬勇者ポチと猫忍者タマを下し、決勝のステージへと向かう。


 そこでは魔槍のリザと精霊使いミーアを下した城砦のナナが待っていた。


「やはり、対決はあなたね。『無垢なる巨乳(イノセント・オッパイ)』ナナ!」

「……アリサ、その呼称は変更を要求します」


 もう、ナナったら、二つ名に文句を付けるなんて無粋ね。


「じゃあ、『無垢なる美貌(イノセント・フェイス)』で」

「承知したと告げます」


 ナナがコクリと頷いた。


「さて、ちょっと勢いが削がれたけど、続けましょ」


 わたしとナナが互いに構える。

 定番の構えを取る私に対して、ナナは自然体だ。


「いくわよ!」


 ナナが小さく首肯する。


「ジャンケン、ポンッ!」


 わたしはパー、ナナもパー。

 初手は勝利ならず。


 初手にチョキを出す人は少ない。

 ならば、グーとパーのいずれか。


「あーいこーで、しょ!」


 またしても引き分け、お互いにパーのまま。


「しょ!!」


 今度は互いにチョキ。


「しょ!!!」


 そして、四手目でついに勝敗が決した。


「うっしゃあぁああああああああ!!」

「アリサの勝ち~?」

「ゆーしょーなのです!」

「ん、強い」


 わたしは鳳凰のポーズで称賛の声を受ける。

 ふっふっふ、これで勝者の権利を行使できるってモンよ!


「では、ご主人様に夕飯の報せを告げる役目はアリサですね」


 リザが淡々と告げる。

 でも、尻尾が力なく地面に落ちているところを見ると、わりとがっかりしているっぽい。


「明日は私だと告げます」

「ん、勝者順」


 ナナの宣言に、ミーアがコクリと頷いた。


「三位決定戦~?」

「負けませんよ、タマ」

「かもん~?」

「がんばれ~、なのです!」


 私はタマとリザさんがジャンケン勝負を始めたのを背中で聞きながら、ご主人様の研究所へ続く転移門を潜った。





「ここにいないって事は、アーゼたんのトコか中庭の木陰かな?」


 オフィスを思わせる書斎に、ご主人様の姿はなかった。

 ユニークスキルの「ユニット配置」を覚えてから、ご主人様はあっちこっちに節操なく移動するから、なかなか発見できない。


「――居た」


 木陰にクッションを幾つか並べて目を閉じて座るご主人様がいた。

 出会った頃から変わらないショタさが実に良い。


 とくにこうして無防備に目を閉じている姿は、ひっじょーに好みだ。


 ……ぐへっ。ぐへへへ。


 ちょ、ちょっとだけだから。


 わたしは抜き足差し足忍び足で、ご主人様の傍らに移動する。


 間違っても空間魔法を使ってはいけない。

 前にそれで移動して、すぐに見付かってしまったのだ。


 ゆるむ口元から零れた涎を袖で拭き取り、するりとご主人様の膝の上に滑り込む。


 ――至福。


 えへへ~、ご主人様の胸元に頭を預けたりなんかしちゃったりして――。


 こりゃ、たまりまへんな~。


 思わず、エセ関西弁が出るくらいに素晴らしい。

 この多幸感だけで、ご飯三杯はいける。


 それにしても、ご主人様は無反応ね?


 頭グリグリしてみた。


 ――むっはーっ。


 ショタのカホリが「これでもか!」とばかりにわたしの鼻腔を刺激する。

 あー、このまま死んでも良い。


 タマのように「にへへ~」と笑いながら顔を上げると、ご主人様の黒い瞳と出会った。


「――おは、よう?」

「ああ、おはよう、アリサ」


 いつ聞いても好みのショタ声だ。

 こうなったら、女らしく腹を括ろう。


 私はご主人様の方を振り返り、ガバッと首に抱きつき――。


「何をする」

「せくはら?」


 衝動的にキスをしようとしたけど、ご主人様に額を押さえられて阻止されてしまった。

 まったく、もうチートなんだから。


「せくはら? ――じゃないだろ。そういうイタズラは禁止だ」

「はーい、ごめんなさい」


 わたしは素直に謝って、ご主人様からの懲罰を待つ。


「もうしないようにね」


 ポコンという感じに拳が髪に触れる。


「ぐっはー!」


 痛い、痛い。ちょー、痛い。

 本人は手加減をしているつもりみたいだけど、思わず悲鳴が出るくらい痛い。


 しばらく地面を芋虫のように転がる。


 どうも、ご主人様は私のリアクションを大げさな演技と思っているようだけど、マジで痛いの。

 体力ゲージが微動だにしていないのが不思議なくらいよ。


 もしかしたら、ご主人様は幻の「手加減」スキルを持っているのかも知れないわ。





「それで何しに来たんだ?」


 私が涙目を堪えて立ち上がると、ご主人様が暢気な顔でそう尋ねてきた。

 上級魔族や魔王を片手間で倒してしまう英傑にはとても見えない。


「ルルからご飯の準備ができたから呼んできてって頼まれたのよ」

「もう、そんな時間か」


 ご主人様が立ち上がって伸びをする。


 乙女ゲーなら、ここでショタキャラのお臍がチラリと覗くところだけど、ご主人様のシャツの裾が長くてそんな素敵シーンは拝めなかった。

 今度から、ご主人様のシャツをデザインするときは、その辺も考えるようにしよう。


「ところで、ご主人様はなんの研究をしていたの?」


 一緒にゲートの方に散歩しながら尋ねてみた。

 さっきのご主人様のポーズは、ユニークスキルを用いた脳内PCで何かを研究しているときのスタイルだ。

 たまに、本当に昼寝をしていたりボーっとしていたりする時もあるけど、さっきはわたしが膝の上に乗っても無反応だったから間違いないはず。


「ああ、対神用の装備を設計していたんだ」

「タイシン?」


 タイシン?


 大信?


 対震?


 違う――対神!!


「ま、まさか、今度は神様と戦うの?!」


 さすがに違うと思うけど、ご主人様なら本当にできそうだ。


「違うよ」


 私の質問にご主人様が優しい笑顔で否定する。


「そうよね――」


 ――って、思い出した。


 できそう、じゃなくて、既に最強の竜神を倒してる。

 ご主人様がそんな冗談を言うはずがないから、事実だろう。


「どうした?」

「なんでもない。でも、神様と戦わないのに、対神装備なんて作ってたの?」


 私が尋ねると、ご主人様が思案のポーズを取った。

 なんとなく、説明する言葉を探しているような感じだ。


「そうだね――戦わない事と戦う為の力を持つ事は必ずしも矛盾しないって感じかな?」


 つまり、ご主人様はこっちにその気がなくても、神々側(むこう)から絡んでくる可能性があるって考えているのね。


 わたしがそう確認すると、ご主人様が寂しそうに頷いた。


「うん、戦うのが好きな神様もいるみたいだし、いざ挑まれた時(・・・・・)に対抗手段があるのと無いのじゃ、苦労の仕方(・・・・・)が違うしね」


 ――「挑まれた時」に「苦労の仕方」ね。


 わたしはご主人様の言葉に篭められた、本人すら明確に意識していないであろう事に気がついた。


 ご主人様は勝敗の行方なんて考えていない。

 楽に勝てるか、あるいは苦労して勝つか、そのいずれかだ。


「前に苦労した事があるの?」

「ああ、猪王の時は中級魔法が一つしかなかったし、対魔王用の兵器も残弾が少なくて大変だったんだよ」


 うんざりした顔で言うご主人様の顔はレアだけど、この話はミトには聞かせられないわね。


「話は変わるけど、その対神装備は設計できたの?」

「それがさ、自分専用なら簡単なんだけど、アリサやリザ達に使えるようにしようとするとどうしてもサイズが大きくなりすぎるんだよね」

「へー、どれくらい?」

「観光省の小型飛空艇よりは大きくなりそうだね」


 ご主人様が光魔法の「幻術(イリュージョン)」で双胴型の宇宙船みたいなのを空中に投影してくれた。


 何コレ?


 何コレ! 格好いいんですけど!


「杖艦って感じ?」

「ああ、これはアリサ用だね。リザ達のはこんな感じだよ」

「ロボっていうか、ラノベや萌えバトルアニメに出てきそうな強化外装みたいね」


 強化外装自体は人間サイズに収めたいそうだけど、魔力炉や魔法装置本体が大きすぎてフレーム内に収まらないらしい。

 そこで、それらのパーツを隣接亜空間(イセリアル・プレーン)に配置する事を検討しているそうだ。


 こっちは実装が難しそうね。





「ご主人様、こちらにいらしたんですね」

「ああ、ルル。そういえばご飯だったっけ」


 ご主人様と話し込んでいると、ルルが呼びにきた。

 ルルを見るご主人様の視線は、嫉妬しちゃうくらいに、いつも優しい。


「もう、アリサったら。ちゃんと呼んできてくれないとご飯が冷めちゃうでしょ」

「ごめんなさい、ルルお姉様」


 わたしは素直にルルに謝って、ご主人様と一緒に孤島宮殿の食堂へと向かった。

 なお、今日の夕飯はガニーカ侯爵領で獲れた初鰹らしい。


「目には青葉――」


 山ホトトギスならぬ、幼緑竜と神鳥ヒスイの鳴き声を聞きながら、ルルの作った鰹尽くしの絶品料理に舌鼓を打つ。


 この孤島宮殿はご主人様の気分次第で気候が変えられるらしいから、今日は初夏の気候にしてもらおうかな?


 うーん、今日も風流でメシウマ!



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