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デスマーチからはじまる異世界狂想曲( web版 )  作者: 愛七ひろ
第十五章

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15-44.新天地(2)

※2017/2/13 誤字修正しました。

※2017/2/13 一部修正しました。

 サトゥーです。タダで貰ったモノや望む前に貰ったモノは、なんとなく雑に扱う傾向があるようです。きっと、苦労して手に入れたモノには、心理的に「苦労代」が価値に上乗せされるのでしょう。





「それじゃ行ってくるよ」

「うん、気を付けてね」


 オレは仲間達にそう告げ、ユニット配置で目的地に転移した。


「……狭い」


 かつてマウスを送り込んだ小型ポッドのハッチを開けて外に出る。

 転移前に「宇宙服アストロスーツ」の魔法を使ってあるので、どんな環境でも平気だ。


 ――荒涼とした死の世界。


 それがオレの最初の感想だった。

 倒壊した高層ビルの残骸が空虚に横たわっている。


「おっ、ちゃんとスキルは使えるのか」


 メニューのスキル欄がグレー表示だったものの、指先に魔刃を出す事ができた。


 でも、いつもと比べて、魔刃の使用に違和感があった。

 スキル表示がグレーアウトしていたし、スキルの補助がないのかもしれない。


「……魔力が回復しない?」


 減った分の魔力が一向に回復しない。

 オレの常識離れした回復速度という話ではなく、一般人的な速度での話だ。


 どうやら、この大地には魔力を媒介する魔素が殆ど存在していないらしい。

 先遣したミニガーゴイル部隊の魔力が枯渇状態だったのも、これが原因だったんだろう。


 メニューの魔法欄はいつも通りの白表示だ。


「さて、全マップ探査は――」


 ごっそりと魔力が持っていかれたが、ちゃんと発動してくれた。

 竜脈がない世界でも、その世界の地脈経由で情報を取得してきてくれるらしい。

 また、「鑑定」スキルは発動が遅かったものの、時間さえかければ元の世界同様に使えるようだ。


「マップの名前は『第M世界線、惑星地球、日本帝国跡地』か」


 跡地という言葉が示すように、この地域には誰もいない。


 ――いや。「何もいない」が正しい。


 マップの全検索では、国土内に人類どころか小動物以上の生き物さえいないようだ。


 帰りの手段は何通りか確保してあるが、オレのメニューは正常に機能してくれているのは重畳だ。

 一応、ユニット配置で「孤島宮殿」に戻れることを試してから、再度訪れる。


「ふむ、世界が違うせいか――」


 オレは顎に手を当てて小さく呟く。


 ユニット配置で世界間を移動するときに、微かな負荷があるみたいだ。

 あまり世界間で多用するのは止めておいた方がいいかもしれない。





 オレは目視のユニット配置で地球を周回し、地上には誰もいないのを確認する。

 この世界は核分裂炉ではなく核融合炉が主流だったようだが、地上にガラス状のクレーターがたくさんあったし、地形もオレの知る地球とはかなり異なっていた。


 たぶん、第三次世界大戦的な核戦争が起きたのだろう。


「どれだけの狂気が世界を覆ったのやら……」


 地下に幾つかあった大規模シェルターも、特殊な地殻貫通型の爆弾で潰されており、生存者は見付からなかった。

 東京辺りの緯度なのに、氷河期のように分厚い雪が降り積もっている。


「宇宙にも生存者はなし、か」


 衛星軌道には大量のデブリが浮かび、月面の基地も全滅していた。


「未知のエイリアンや謎の魔界生物が襲撃した痕跡もなし、と」


 人類同士の殺し合いなら、想定の範囲内だ。


 オレは滅んだこの世界の地球人に黙祷を捧げる。


 先遣したミニガーゴイル部隊の調査で、この地球が滅んでいた事は電波状況なんかで把握できていたんだが、入植前に先住民が本当に残っていないか確認しておきたかったのだ。


 オレはストレージから、大型の聖樹石炉を多数搭載した巨艦を呼び出す。

 その炉から魔力供給を受け、オレは魔法欄から一つの魔法を使用した。


 ――惑星環境改変(テラ・フォーミング)


 オレの精霊光に似た虹色の光が天に伸び、オーロラのように惑星を覆っていく。

 これで後一月も放置すれば、氷河期のような気温も致死量の有害物質や放射線もなんとかなるだろう。


「あとは入植予定地の準備――」


 場所は日本の関西にした。

 豊かな漁場である瀬戸内海に近いのもあるが、関東や東海地方が巨大なクレーターになって消滅していて選択の余地があまりなかったのだ。


 魔力を補充しながら建築魔法を行使して10キロ間隔で高層都市を作っていき、放射線や汚染された風塵から守る結界で括っていった。

 外部からの魔力補充がないので、結界は三ヶ月ほどしか保たないが、その頃には「惑星環境改変(テラ・フォーミング)」の魔法が綺麗に浄化してくれているはずだ。


「ついでに、水と保存食の世話くらいはしておこう」


 京都付近から琵琶湖沿岸までの地形を更地にし、琵琶湖、奈良湖、大阪湖の凍った三つの湖を浄化して飲料可能にする。

 さらに、都市の人口を10年くらい支えられそうな保存食をチャージしておいた。

 ちょっと多すぎる気もするが、クロレラ工場で消費の事も考えずに量産した在庫処分なので問題無い。


「こんなモノかな? あとは入植が終わったら、不足品がないか聞けばいいか――」


 入植用の箱船にも、大型の聖樹石炉を搭載する予定だから、こっちの世界でも1年くらいは魔法行使が可能なはずだ。節約すれば10年くらいは保つかな?


 あとは太陽光パネル製造用の材料を置いておけば、彼らが自分で作るだろう。


 ――あ、もしかして。


 箱船をつくらなくても、このままここで異界を解放すればいいんじゃないか?


 そう思って試してみたが無理だった。

 どうやら、異界を作った亜空間自体は元の世界に属しているようで、こちらに直接繋ぐことはできないようだ。


 こっちの世界はそこまでイージーモードではないらしい。


『ご主人様、聞こえる?』


 アリサから通信が入った。


『ああ、聞こえるよ――』


 ――あれ?


 おかしい。

 空間魔法がここまで届くはずがない。


『どうやったんだ、アリサ?』

『以心伝心ってヤツ?』


 アリサの口調が少し得意げだ。


『そんなわけ――』


 否定しかけた途中で、確かに以心伝心というヤツに近いことが理解できた。


『えへへ~、気付いた? まさに「けんぞくぅ~」パワーよね!』


 アリサの不思議な発音の「眷属」にツッコミを入れるのを控え、オレは黙考する。


 今のオレとアリサはお互いに意志を届けようと考えるだけで、「遠話」と同じ効果が発揮できるらしい。

 どうやら、アリサの称号に「サトゥーの眷属」があるのが理由のようだ。


『それにしても、異世界にまで言葉を届けることができるのはすごいね』

『まーね、わたし達の愛の力よ』


 まあ、愛はともかく、空間魔法すら届かない世界間で意思疎通できるのは便利だ。

 しかも、オレのユニット配置同様に、魔力の消費も必要ないらしい。


 これは神の世界へ訪問する時に、いろいろと役に立ってくれそうだ。


『――あ、っとそうだ、忘れてた』


 アリサがそう言って、本来の用件を話してくれた。

 なんでも、イタチ皇帝達がオレを呼んでいるとの事だ。


『分かった、なるべく早く戻ると伝えてくれ』

『ほーい。お土産はカップ麺で、よろ!』

『分かった、任せておけ』


 オレはアリサのリクエストに応えるべく、ちょっとだけ寄り道してから元の世界へと戻った。





「説得はできたかい?」

「それは問題無い」


 オレが砂漠空間に作ったイタチ皇帝の城を訪れると、元イタチ大魔王――現イタチ皇帝の所に「ぶれいんず」の所長他数名が集まって喧々囂々の会議をしていた。

 ローブ姿の者もいるから、イタチ帝国の宮廷魔術師達も来ているようだ。


 オレを視界に入れた所長達が、矢継ぎ早に質問を始めた。


「臣民達の移民先が異世界ときいて」

「核戦争後に滅んだ地球って本当ですか?」

「やっぱ、第三次世界大戦があったの?」

「むしろ火星がいい!」


 ――おちつけ。


 口々に話し出す「ぶれいんず」の面々に気圧されながら、彼らの質問に答えていく。


 彼らの新天地としてオレが提案したのは、先ほど行ってきた現地人が死に絶え誰もいなくなったパラレルワールドの地球だ。

 ランダムに元の世界が見付からないかと、無人ポッドを送り込んで探している時に偶然見つけた。


「新しい世界のアダムとイブになるのね!」


 オレの話を聞き終わるなり、ぶれいんずの所長に付き従っていた女性がアリサみたいな事を口走る。

 イタチ帝国の臣民達も全員行くから、そんなロマンチックな感じにはならないと思う。


「だが、臣民全てを転移する事が可能なのか? イタチ帝国で地球から転移者を呼ぶのも相当な魔力を消費した。触媒を用いてもゲートを維持するのも最大で3分保たせるのがやっとだったほどだ」


 オレは魔術師風の衣装を着たイタチ帝国の宮廷魔術師の服装をした男性に首肯する。


「大丈夫。少し時間がかかるけど、移民船で次元間を航行してその世界へ行ってもらう」


 実のところ、オレがユニット配置で箱船を運搬するのが安全で早いのだが、なんの苦難もなく新天地を与えられたら、ありがたみが何もなくなりそうなので、少し危険で面倒な手段を伝えた。


 もちろん、安全マージンは充分に取ってあるけどさ。


「世界を渡る移民船か……100年、いや30年で作ってみせよう」


 所長が気の長いことを言い出した。


「そんなに待たせたら、避難民がかわいそうだよ。外殻と主機関、それと生命維持装置はこっちで用意するから、内装はそっちで頼む」


 航行期間が3ヶ月くらいだし、最長3年くらいで考えたら、それほど冗長なシステムもいらないだろうしね。

 魔法道具じゃなくて、科学的なシステムならもっと手間が掛かるだろうけど、聖樹石機関を積むんだし、魔法道具でも問題ないはずだ。


「――まさか、最初から移民のことまで考えていたのか」

「臣民全てを避難させるとなると、どれほど前から計画していたのやら」


 ……皇帝や所長達が、何か勘違いしだした。


 ここまで喜ばれると、昨日思いついたばかりだという事実は口にしにくい。


 こうして、イタチ帝国の異世界移民計画「ワールド・エクソダス」は本格的に始動した。





「本当に一ヶ月で運行可能になるとは……」

「内装は航行中の暇つぶしに仕上げてくれ」


 虚空を写し取った異界に浮かぶ何十隻もの移民船を見渡し、イタチ皇帝が感嘆の吐息を漏らした。


 魔王シズカによって「神の欠片」を除去された彼は、オレの原始魔法によって元のイタチ皇帝の姿へと戻っている。

 彼の尊い献身によって、かなり原始魔法が使いこなせるようになってきた。


 相当な痛みを伴うようなので、生身の人間相手には気軽に使わない方が良さそうだ。


「陛下! 出港準備が完了いたしました」


 小型虚空艇でやってきたのは、宇宙服姿のリートディルト嬢だ。

 彼女はイタチ帝国の宮殿騎士テンプル・ナイトである長耳(ブーチ)族の娘で、七神天罰によって瀕死のところを救出し、培養槽で元の状態に近い(・・)身体へと戻った。


 リートディルト嬢が小型虚空艇から、オレ達のいる桟橋へと飛び移る。


「おっと」

「大丈夫か」


 新しい身体に慣れないのか、バランスを崩してよろめいた彼女を受け止めてやる。

 慣性に従ってオレの腕に当たったポヨポヨとした感触に意識を向けないように注意しながら、彼女の姿勢を戻すのを手伝ってやる。


『このスケベ』

『他意はない』


 アリサのように心話で(・・・)文句を言ってきたリートディルト嬢にしれっと答える。


「陛下、式典の準備も完了しております」

「うむ、行こう」


 オレは彼らに続いて、式典会場へと向かう。


「リートディルトよ、本当にこちらに残る気はないのか?」

「はい、陛下。たとえこの身がコイツに変えられようと、私の忠誠は陛下のもとに」

「そうか――」


 ここ数週間、何度も耳にした主従の会話を聞き流す。


 治療したときに、ドボドボ(・・・・)とブラッドエリクサーを流し込んだのが悪かったのか、リートディルト嬢の肉体の大部分を失っていたのがまずかったのか、治療が終わった後でアリサと同様に称号が「サトゥーの眷属」になっていた。


 眷属だと異世界間の通話が可能なので、イタチ移民船団でトラブルがあったときに緊急報告ができて便利なのでそのままにしてある。


 オマケに――。


『この脂肪がジャマ』

『魅力的だよ』

『フンッ』


 ――ナナ用の設定だったためか、超スレンダーだった彼女の胸元がEカップまで増量されてしまった。

 迷惑そうな発言をしていたが、それなりに気に入っているようなので再調整はしていない。


「我が臣民達よ! この世界の神々に厭われた我らにはもうこの世界に安住の地はない。だが――」


 イタチ皇帝の演説を聞き流しつつ、オレは整列する人達を見回す。

 そこには紫色の髪を持つ者は一人もいない。


 全ての転生者達から、異世界転移の対価に彼らのユニークスキル――というか「神の欠片」を貰い受けたのだ。


 それらは全て、魔王シズカによって小型の魔物に移され、即席の魔王として顕現させた後に、仲間達に倒された。

 残念ながら、アリサがポチ同様に「真の勇者」の称号を得た以外は、特に「勇者」の称号が増えた者はいない。

 セリビーラの迷宮下層で精進している元魔王勇者のシン君にも倒させたかったが、残念ながら彼の実力では弱らせた魔王に止めを刺すことすらできなかったので、「真の勇者」には至っていない。


「――勇者ナナシに、感謝の拍手を! 彼の存在なくして、この移民船団は実現しておらぬ!」


 耳が痛くなるような音の波に耐えながら、群衆に向けて皇室風の雅な動きで手を振る。


「では、出港だ!」


 イタチ皇帝がそう宣言すると、整列していた人達も移民船団のコクピットへと移動を開始した。


「サトゥーよ。この世界に残る弟やイタチ人達を頼む」


 あのイタチ王弟がオレの手助けを欲する事なんてそうそうないと思うけど、彼の言葉に「分かった」と短く答えて首肯する。


『陛下、お別れでゴザル』

『うむ、これからはサトゥーに仕え、盾となれ』

『承知でゴザル』


 こちらに残ることになった元剣魔王が、イタチ皇帝と別れを惜しむ。


 他にも移民を拒否した200人ほどの元イタチ帝国民がいるが、彼らは既に少人数に分けて世界各地のイタチ人族の居住区へと送り込んである。

 この入植者達の科学知識は、レテ市で記憶消去を担当していた猫耳族の転生者ルイズによって消去されているので、新たな天罰の対象になる事はないだろう。


「待って~?」

「皇帝のヒト、待ってなのです!」


 タマとポチが首飾りのようなモノを持って空を駆けてきた。


「犬勇者ポチと猫忍者タマか。今日も元気で重畳だ」


 イタチ皇帝が好々爺の表情を浮かべ、目を細める。


「安全祈願~」

「旅のお守りに『石華(せっか)の実』の首飾りを作ってきたのです」


 昔、オレ達がセーリュー市を出発するときに、ポチ達が幼女ユニから貰ったのと同じ首飾りだ。

 二人にとって、この「石華の実」の首飾りこそが旅の安全を祈願する象徴なのだろう。


「うむ、大切にしよう」

「あい!」

「はいなのです」


 ぶんぶんと手を振るタマとポチを連れて、小型虚空船で移民船団旗艦を離れる。


「げ~と?」

「オープンなのです!」


 サガ帝国の勇者召喚やイタチ帝国の日本人召喚の魔法陣を魔改造した異世界ゲートだ。

 多重円の魔法陣の向こうに、鈍色の亜空間が見える。


 その亜空間に一隻、また一隻と突入していく。


「行っちゃった~」

「きっと皇帝のヒトなら大丈夫なのです」

「そうだね。彼ならやり遂げるよ」


 お膳立ては十分すぎるくらいしてあるしね。


 オレはゲートが閉まるのを確認して、孤島宮殿へと帰還した。

 神の国へ遊びに行く前に、しばらく仲間達とゆっくりしたいものだ。


「にくにくにく~はんば~ぐ~?」

「鳥さん、山羊さん、牛さん、いっぱいいるけど、どれも好き~、なのです」


 タマとポチのお昼ご飯の歌を聴きながら、オレは花々が咲き乱れる孤島宮殿の小路を歩む。

 やっぱり、平和な日常が一番いいね。



※次回の更新は 2/19(日) の予定です。


※2017/2/13 残留イタチ人の移民先をレッセウ伯爵領から変更しました。


※活動報告に書籍版デスマ9巻「なろう特典SS」を2本アップしてあるので、良かったらご覧下さい。

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