15-39.天罰(8)、犬勇者ポチ
※2017/1/15 誤字修正しました。
※今回もサトゥー視点ではありません。
「ちょいやー、なのです!」
青と紫の火花が戦場を染める。
反射の空間歪曲を貫いて、無数の聖剣が魔王の剣腕とせめぎ合っていた。
黄金騎士イエローことポチと分身達が濁流のように剣魔王に一撃を入れて、後方へと抜けていく。
『ナゼDWEEDゴザル』
剣魔王の張った空間魔法による反射の罠を、手品のようにスルーしてみせたポチ達の眼前に、再び罠が設置された。
幾分数を減らしていたが、未だに分身達は47体が残っている。
「このくらい普通なのです!」
ポチ達は正確に空間歪曲位置を見抜いて聖剣で蒸発させる。
『ドウヤTEDWEEDゴザル』
「72個のプリンさん達の尊いギセーの下に父買われたのですよ」
恐らく、ポチの言う「父買われた」は「培われた」の言い間違いだろう。
これがweb小説なら誤字報告の雨が降り注ぐに違いない。
ポチの脳裏に、紫髪の幼女ことアリサとの「鬼ごっこ」という名の死闘が思い浮かぶ。
戦いに負ける度に、無慈悲にオヤツのプリンが奪われたのだ。
「マッコー勝負DWEEDゴザル」
剣魔王の腕が六本に増え、それぞれの腕の先が違う種類の武器へと変わった。
「はいなのです」
47体の分身達と一緒に、剣魔王との接近戦へと移行する。
一般人には見えないような高速戦闘だ。
次々に分身が消えていくが、分身であるはずの個体まで剣魔王にダメージを与えていた。
「うわっ、上手く動けないっ」
勇者メイコも、この二人の激戦に参入しようとしていたが、三倍のステータスに馴染めず何度も地を転がる。
「うげげ、周りを見て戦いなさい」
降り注ぐ魔刃砲や剣魔王の炎弾をユニークスキル「無敵の機動」で避けながら、勇者メイコが空しい叫びを上げた。
◇
「うわわっ、なのです」
「主上DWEEDゴザル」
激戦を繰り返す二人の間に、下半身がなくなったイタチ大魔王が吹き飛ばされてきた。
「おっきな肉さんが来たのです」
高速戦闘でカロリーを大量消費したポチが兜の下で舌舐めずりする。
巻き上がる塩が消え、その下からイタチ大魔王の理知的な瞳がポチを見下ろした。
「黄金の鎧……」
「肉さんが喋ったのです!」
ポチが驚きの声を上げる。
「勇者ナナシの従者か?」
「はいなのです! ポチはご主人様の剣、黄金騎士イエローなのです!」
「そうか」
ポチの返事を聞いたイタチ大魔王が目を細める。
「うぉおおおおおおおお!」
青い光を曳いた勇者メイコが、イタチ大魔王に斬りかかる。
澄んだ音が戦場に響き、青と紫の光がイタチ大魔王の身体を照らす。
彼女の聖剣は剣魔王にインターセプトされていた。
「ちっ、そこの金ぴか! ちゃんと剣魔王を押さえなさいよ」
「そんな事を言われても困っちゃうのです。ちょっとだけ待っていてほしいのですよ」
勇者メイコの無茶な要求に、困ったポチが兜の中で耳をペタンとする。
「もー、使えないわね!」
「排除DWEEDゴザル」
剣魔王の猛攻に晒された勇者メイコが、ポチ達の場所から離される。
「イタチさんは魔王の人なのです?」
「うむ、イタチ大魔王だ」
「悪い魔王さんなのです? ご主人様が良い魔王とは戦っちゃダメって言っていたのです」
「さっきも言ったでしょ! 悪い魔王の仲間は全部悪者なのよ!」
ポチの問いに、近くまで戻ってきた勇者メイコが混ぜっ返す。
「あの娘の言うように神や勇者からすれば、魔王は悪だ」
イタチ大魔王が静かな声でポチに語りかける。
「だが、善悪は見方次第。人々の発展や幸せを抑制する神に抗う人達からすれば我らこそ希望の光」
「はんっ! どんなに詭弁を弄しても、この世界のルールを破るアンタは悪なのよ!」
剣魔王と戦いながら、勇者メイコが叫ぶ。
まるでアニメやマンガのようだが、三倍のステータス強化で彼女の耳も良くなっているのだろう。
「殺DWEEDゴザル」
「こんのぉおおおお!」
追いついてきた剣魔王に、再び二人の下から引き離されていく。
「あんまり難しい事を言われても、ポチにはよく分からないのです」
「そうか――」
下半身を再生させながら、イタチ大魔王が目を閉じて思案する。
「ならば、こう言おう。私は勇者ナナシと敵対していない。友人とは言わぬが、知人のようなものだ」
「ご主人様の知り合いなのです? なら、ポチは戦わないのです」
「そうか、それは重畳――そろそろか」
イタチ大魔王が首を巡らせる。
その視線の先では取り縋る最後の魔王を地平の彼方に投げ飛ばし、黄色い巨人が宮殿中央に到着するところだった。
宮殿跡地に辿り着いた黄色い巨人が、地面を両手でガンガンと殴り出す。
「まるで癇癪を起こす子供のようだ」
下半身の再生を終えたイタチ大魔王が身を起こす。
「黄色いヒトは何をしているのです?」
「あの下にヤツが求めるモノがあるのだ」
「おっきな肉なのです?」
ポチの食欲に満ちた言葉に、イタチ大魔王が愉快そうに笑う。
「ヤツが求めるのはただ一つ。トロールの魔王が持つ『竜脈接続』を奪う事だ」
「りゅーみゃく、なのです?」
どこかで聞いた単語だと、ポチが首を傾げる。
……残念ながら、思い出せないようだ。
「かつて竜神がただ一柱、魔神にのみ与えた権能だ」
「それはすごいのです」
イタチ大魔王が神妙な雰囲気を作って話すが、ポチはテンションの下がった声で適当な相づちを打つ。
とっておきの秘密を語ったにも拘わらず、どうでもよさげな態度を取られて、イタチ大魔王が肩すかしな気分を味わう。
きっと、彼の部下が見たら、イタチ大魔王の少しなさけない顔を見て、レアだと思ったかもしれない。
キラリとフラッシュのような小さな光が、黄色い巨人を囲むように光る。
「来るぞ――防御強化手段があるなら使え。無いのなら、我が身体の陰に隠れよ」
「どうしてなのです?」
イタチ大魔王が自分の身体の陰にポチを移動させる。
どうやら、彼は無垢なポチを気に入ったようだ。
「天地を揺るがす爆発が起こるのだ」
「それは大変なのです!」
まるで、ポチの驚く声が起爆スイッチだったように、黄色い巨人――ザイクーオン神を中心に幾つもの閃光が走り、轟音が周囲の音を消す。
その殆どの威力と爆風は、黄色い巨人のいる真上に向かって吹き上がったが、その余波も周囲の塩の建物を全て吹き飛ばす程度には強かった。
「――ぐぅおおお」
紫色の光に守られたイタチ大魔王の守りを白い礫が突き破り、彼に庇われたポチの傍らにも飛んでくる。
「イタチのヒトが危ないのです! 『ふぁらんくすぅ~』」
イタチ大魔王の巨体に登ったポチが、短い手を伸ばして使い捨て型の防御盾ファランクスを開く。
これは短時間だけだが、黄金騎士ホワイトことナナの後期型キャッスルと同じ防御力を発揮する。
「あうち、なのです」
だが、その鉄壁の防御盾を白い礫が貫いた。
さきほど、イタチ大魔王をも貫いた白い欠片だ。
コロンと、イタチ大魔王を滑り落ちたポチが、イタチ大魔王を貫通して襲ってくる白い欠片を聖剣デュランダルで弾く。
「あわわ、聖剣が欠けちゃったのです」
「大人しく我が身体の陰に隠れておれ、数こそ少ないがそれは竜牙の欠片――神をも穿つ究極の矛だ」
そう告げつつ、イタチ大魔王が紫色のオーラを濃くする。
断続的な爆発音は今もなお続き、イタチ大魔王の陰から見える白い帝都は見るも無惨な塩と土の煙で隠されてしまった。
「そうなのです!」
イタチ大魔王の言葉に閃いたポチが、聖剣を手放して黄金鎧の収納ポケットに手を突っ込む。
イタチ大魔王の身体を貫いて迫る白い破片を、ポチが取り出した白い剣が弾き飛ばす。
「今度はポチが守ってあげるのです!」
イタチ大魔王の前に回り込んだポチの前で、効果時間の消えたファランクスが消え去る。
音速を超えた速度で飛んでくる白い散弾を、ポチが目にもとまらない速さで迎撃していく。
「まさか、竜牙の剣なのか――」
イタチ大魔王が呟く。
彼の予想通り、ポチが使うのは竜牙剣――古竜の原始魔法で創られた下級竜の牙を用いた剣だ。
それはイタチ帝国の宮殿騎士達が使っていた剣の完成形ともいえる存在。
「うおりゃー、なのです」
ポチが気の抜けるかけ声を上げつつ、全ての散弾を迎撃しきった。
◇
「あれの直撃を受けても死なぬか……」
イタチ大魔王の視線の先には、帝都宮殿跡の大地に伏す黄色い巨人の姿があった。
黄色い光が消えそうに弱まっているものの、その生命を主張するようにゆっくりと脈動を続けている。
「あれがもう数発あれば勝てそうだが、無い物ねだりはできん」
血を流しながらイタチ大魔王が立ち上がる。
「動いたらダメなのです! いっぱい、いっぱい怪我しているのですよ!」
どくどくと流れる血に、ポチが大慌てで黄金鎧のポケットを漁る。
ようやく見つけた体力回復薬を惜しげもなく、イタチ大魔王の傷口へと掛けていく。
やがて、魔法薬が効き、その血が止まった。
「感謝する。小さき勇者よ」
「はいなのです。でも、ポチは勇者じゃなくて、黄金騎士イエローなのですよ?」
「そうか、無垢なる者よ。我が魂にその名を刻もう黄金騎士イエロー、ポチよ」
それを聞いたポチが慌てる。
「ポチの名前はヒミツなのです! 知られちゃダメなのですよ」
イタチ大魔王が愉快そうに笑う。
「ならば、その名はヒミツにしておこう。誰にも言わぬと誓う」
「ありがとなのです」
『DAAAAZEゴザル』
血みどろの剣魔王がイタチ大魔王の横に着地する。
六本あった剣腕が、一本だけになってしまっていた。
「血だらけなのです……でも、もう魔法薬が残っていないのです」
ポチが黄金鎧のポケットに手を突っ込んで慌てる。
その姿はパニック時の某猫型ロボットのようだ。
「気にするな、出血は既に止まっている」
イタチ大魔王が半泣きのポチの頭にポンと大きな肉球を乗せる。
「それに、後はヤツに止めを刺すだけだ」
優しい目をしていたイタチ大魔王の視線が、黄色い巨人とあった途端、別人のように鋭く変わる。
「待テ! マオ、ウ……」
塩の地面をかき分けて、幽鬼のように勇者メイコが立ち上がった。
どうやら、ユニークスキル「無敵の機動」を連続使用する事で、先ほどの攻撃からも生き延びたようだ。
もっとも、その対価は大きく――。
「ゆーしゃの子がボロボロなのです!」
――ポチの薬を飲む前と同じように、勇者メイコの身体には青い線が浮かび上がり、目や口の奥からは青い光が漏れている。
「マ、オウ……マオォオオオオオオオオオオ」
勇者メイコが絶叫すると身体の線や穴から、青い烈光が放たれる。
「墜ちた勇者か――哀れな」
イタチ大魔王が静かに呟く。
「あわわ、ゆーしゃの子が大変なのです」
ポチはどうしていいか分からず、また、彼女の主であるサトゥーや仲間達にも救援を求めることができずに右往左往する。
戦いの術は知っていても、まだ経験不足の幼子なのだから無理もない。
「パリオンの勇者は魂の器が壊れても、魔王化する事はない」
イタチ大魔王が剣魔王に合図して、勇者メイコを戦場の向こうへと導く。
「墜ちた勇者は器が完全に壊れ、消滅するその時まで魔王を狩る機械と化す。もはやいかなる治癒魔法も薬も効かぬ」
イタチ大魔王の視線の先では、勇者メイコが自ら傷付くことを畏れずに剣魔王を破壊していく。
ポチには暴走する勇者メイコが、泣き叫びながら戦っているように見えていた。
「ポチは、ポチには、どうする事もできないのです」
薬も使い果たし、彼女の主人や仲間とも通信ができない。
ポチは途方に暮れていた。
それも仕方の無い事だろう。
常に理不尽な暴力で命を落としても不思議ではない世界で、彼女の主は生き延びる手段を優先して学ばせたのだから。
それ以外の全てを犠牲にしていたとはいえ、たった二年弱で神と魔王の暴れる戦場で命を落としていないという事実が、その目的の達成を証明していた。
ゲーマー的な発言をするならば、育成ポイントの全てを戦闘技能に極振りした結果だろうか?
「何もできないのなら、その悔しさを忘れるな」
ポチを見下ろしたイタチ大魔王が、一つの助言を与えた。
「そして学べ」
目尻に涙を浮かべたポチがイタチ大魔王を見上げる。
「いつか、理想の自分に追いつく為に……」
「はいなのです」
拳を握るポチの心の中に、一つの思いが芽吹いた。
それが萎れるか、大樹まで育つかは本人の意思と周囲の助力しだいだろう。
ポチが決意に満ちた目でイタチ大魔王を見上げる。
そして――。
まるでそれを待っていたかのように、ポチの傍らの空間がガラスのように割れた。
そこから現れたのは――。
※次回更新は 1/15(日) の予定です。
※活動報告で「書籍9巻のなろう特典SS」のエピソード募集をしております。
興味があれば覗いてみてくださいな~。







