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デスマーチからはじまる異世界狂想曲( web版 )  作者: 愛七ひろ
第十五章

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15-38.天罰(7)、勇者vs魔王

新年あけましておめでとうございます!

本年も「デスマーチからはじまる異世界狂想曲」を宜しくお願い致します!!!


※2017/1/1 誤字修正しました。


※今回もサトゥー視点ではありません。

「来タわね、魔王」


 勇者メイコが眼下を見下ろす。


『キルLでゴザル』


 腕が剣になった狐の魔王が、蟷螂のような両手を広げた威嚇のポーズをとる。


 ――KILLKILLKILL!


 魔王の咆哮と共に狐の胸が割れ、真っ赤な光弾が勇者メイコに撃ち出された。


「私に当てタかったら、その100倍は出しナさい!」


 軽々と避ける勇者メイコだったが、彼女の空中機動に合わせて光弾が急反転し追尾する。

 反転し損ねた光弾が地面に命中し、轟音とともに巨大な白いクレーターを作り出した。


「ふん、大しタ威力ね。だけド――」


 勇者の剣が魔王の剣腕を斬り裂く。


「――当たらなケれば意味はなイわ」


 有名な古典アニメに出てくるセリフが言えて満足なのか、勇者メイコの口角が上がる。


 ――KILRKILLKIRL!


 剣腕で襲いかかってくる魔王を、勇者メイコが一方的に傷つけていく。


「魔王なんて見かケ倒しじゃん。ぜんぜん弱イわ」


 ――KIRLKILRKIRR!


 魔王の身体を紫色の光が包んだ。


「今更ユニークスキル? ゲームじゃなイんだから、最初から出してきナさいよね」


 勇者の呆れ声に反応することなく、魔王が突撃してきた。

 それこそゲームのようなブラー効果――残像分身を曳きながらだ。


「げっ、キモッ」


 語彙の少ない勇者メイコが気味悪そうに身を引き、カウンターを狙って聖剣を上段に構えた。


 まるで、聖剣エクスカリバーの構えはこうだと言わんばかりだ。

 きっと孤島宮殿で留守番をする紫髪の幼女なら同意してくれる事だろう。


 ――(まばゆ)い聖光が再び勇者を包む。


 彼女が今までユニークスキルを使った時よりも、遥かに強い輝きだ。

 よく見ると、彼女の皮膚の上に宝石のような青い光の紋様が浮き上がり始めている。


「何度やっテも同じよ!」


 今までのように軽々と攻撃を避けて、カウンターを叩き込もうと聖剣を振り下ろす。


 なのに――。


「ぐはっ」


 乙女らしからぬ悲鳴を上げて、勇者メイコが地面を転がっていく。


「痛っ、女の子にナんて事すルのよ」


 ふらふらと立ち上がる勇者メイコの背中には、大きな傷痕から真っ赤な血が流れて落ちていた。


「今度は、こっチから――」


 再び背後から斬られて、勇者メイコが白塩の煙を巻き上げながら地面を転がっていく。

 文字通り、傷口に塩を塗り込むような痛みに勇者メイコが悶える。


 彼女を包む聖光が、壊れかけの電灯のように瞬く。


『認識外NO攻撃は避KEられNUようDEEゴザルNA』


 認識外の攻撃は避けられないようだ、と剣腕の魔王が勝ち誇ったように哄笑する。


「ネタバレ乙! 同じ手は喰わなイわよ」


 勇者メイコが加速の魔法薬を飲みながら立ち上がる。


 瞬動で魔王に急接近した勇者メイコが斬撃を放つ。

 だが、何を思ったのか途中で剣を引き、横っ飛びに地面を転がった。


『先読DEゴザルかA? それTOOOMオ勘がいいだけDEゴザルかA』


 勇者メイコは剣腕の魔王が使おうとした反射の空間魔法を先読みで見抜いたらしい。

 かつて勇者ナナシと戦った赤肌魔族が得意とした空間魔法と同じ技だ。


『反撃WWOU恐れZOOに攻撃せねばJILI貧DAAEゴザル』


 魔王の剣腕を避けた勇者が、死角から繰り出された紫色の光を帯びた狐脚に蹴り飛ばされた。

 勇者メイコは塩の混ざった唾を吐き捨て、フラフラとしながら立ち上がる。


「距離を取ラなきゃ――近くがだめなら、遠くからの飽和攻撃で倒してヤる」


 瞬動で後退した勇者が、「無限武器庫はてなきつるぎ」から無数の魔砲を取り出す。

 勝利を確信しニヤリと笑みを浮かべた勇者の視界がぶれ、眼前に魔王が出現する。


「なっ――」


 突然の変化に、対応しきれない勇者メイコに、魔王が告げる。


『引KEY寄せ、DAAEゴザル』

「あははは、ウソ、でシょ?」


 とっさに魔砲を撃とうと動かした手が空を切る。

 それもそのはず、取り出したはずの魔砲は遥か後方に置き去りだ。


「げはっ」


 背後頭上からの一撃を受け、勇者メイコの上半身が白塩化した地面に埋まった。

 地上に残った足はピクリとも動かない。


 勇者メイコを包んでいた聖光が、ついに光を失って消えてしまう。


『終WAOり、DAAAAZEゴザル』


 魔王が剣腕を振り上げる。


「……■■■■■■ 爆裂(エクスプロージョン)!」


 凜とした声が戦場に響き、爆炎が魔王を包み込む。

 それは先代勇者ハヤトの従者リーングランデの得意呪文だ。


「そんなのでもサガ帝国の勇者なのよ。簡単にはやらせないわ」


 その鎧は砕け、美しい銀髪の半分が赤く汚れている。

 どうやって戦術核の爆風から無事だったのかは分からないが、けっして軽傷とは言えないようだ。


「DAAAAZEゴザル」


 爆炎を切り裂いて、暗紫色の光を帯びた剣魔王が姿を現した。


 既に剣魔王の口からは意味のある言葉が出ていない。


 突っ込んでくる剣魔王に対し、リーングランデは詠唱の速い「破裂(クイック・バースト)」を連打するが、剣魔王には通じない。


 ――DAAEGWOOOZAAAALW。


 反撃どころか、剣魔王の一撃から勇者メイコを庇うのが限界だ。

 途中から「破裂(クイック・バースト)」を空間魔法で返され、勇者メイコを抱きかかえたまま自らの爆風で白塩化した帝都を転がっていく。





「ありゃりゃ? ここはドコなのです?」


 イタチ帝国の帝都上空に忽然と扉が現れた。

 誰も気付く者のいないゲートから、一人と一体の主従がやってきた。


 黄金騎士イエローとその騎獣である下級竜のリュリュだ。


「なんだか、セーリュー市じゃないみたいなのですよ?」


 黄金騎士イエローが首を傾げる。

 幼女に導かれた先が別の場所だとは思っていなかったようだ。


 ――LYURYURYUUU。


「なんだか敵がいっぱいいるのです」


 白竜が敵のいる方に翼を傾けた。


「リュリュ、あそこにおっきな肉がいるのです! ステーキにスキヤキにハンバーグ、あんなに一杯だとポチも迷っちゃうのです」


 巨大なイタチ大魔王を見ても、黄金騎士イエローの口から出た感想は恐怖でも畏怖でもなく、食欲だった。

 大物なのか、ただの食いしん坊なのか、判断に困るところだろう。


『――コネクション・ロスト。GPSシグナル・ロスト』

「鎧の人が何か難しい事を言っているのです」


 黄金鎧に組み込まれたラカクローンが、孤島宮殿との通信途絶を報告する。


「ありゃりゃ? ご主人様に繋がらないのですよ?」


 事情が分からないなりに、連絡を取ろうとした黄金騎士イエローだったが、無情にも通話不能と表示されて途方にくれた。

 慌てて後ろを振り返るも、もうそこにはやってきた扉は残っていなかった。


「困ったのです。でも、ご主人様かタマならすぐに気付いて迎えに来てくれるはずなのですよ」


 黄金騎士イエローが自分に言い聞かせるように、そう呟く。


 ――LYURYURYUUU。


 白竜が地上の爆発を見つけて、主人に報告した。

 その視線の先には気を失った勇者メイコを背後に庇い、折れた剣を魔王に向けるリーングランデの姿があった。


「女の子が紫色の魔物にいじめられているのです!」


 ――LYURYURYUUU。


「鎧の人! お願い、なのです!」

『イエス・マイガール。ディメンジョンカタパルト・アクティベート』


 一人と一匹の前方に銀色の揺らめく板が現れた。


「リュリュ!」


 ――LYURYURYUUU。


 一人と一匹が銀色の面に触れた瞬間、音速を超える速度まで加速される。

 またたき一つの間に剣腕の魔王の前に辿り着いた一人と一匹が、その眼前から勇者メイコとリーングランデを掬い取った。


 普通なら人類に耐えられる加速ではないのだが、彼女の主人の工夫と魔術知識、そして何より装備無しで下級竜と戯れられる黄金騎士イエローの鋼の肉体がそれを可能にしたのだ。


「り、竜?」

「リーングラデン(・・・・)の人なのです」


 黄金騎士イエローが名前を間違って呼んだが、意識が朦朧としたリーングランデがその事に気がつく事はなかった。


『引KEY寄せ、DAAEゴザル』


 上空を飛んでいた竜騎士の姿が、剣魔王の前に瞬間移動した。


「びっくり、なのです」


 振り下ろされた剣魔王の攻撃を、黄金騎士イエローが聖剣で受け止める。

 青と紫の光が交叉し、閃光と火花が周囲を灼く。


 キィイイインという耳の痛くなる高音が響き、黄金騎士イエローが兜の中で耳をペタンと閉じた。


 その背後頭上に剣魔王のもう一本の剣腕が、唸りを上げて迫る。



「ポチにそんな攻撃は効かないのです」


 死角から襲ってきた剣腕の斬撃を、黄金騎士イエローが背中に回した二本目の聖剣で受け止めた。


 受け止めるのに使ったのは聖剣ポチ――肉球を模した鍔が特徴のとてもかわいい外見とは裏腹に、「神授の聖剣」にも匹敵する最新型のオリジナル聖剣である。


 彼女の最強の牙は、まだ隠されているようだ。


『認識外NO攻撃をナZEEDゴザルNA』


 最初の攻撃で耳目を奪ったはずの黄金騎士イエローが、自分の攻撃を防いだ事に剣魔王が驚きの声を上げた。


「そのくらい空間魔法使い戦の基本中の基本なのです」


 黄金騎士イエローが兜の奥でどや顔で剣魔王を見る。

 もちろん、空間魔法を操る剣魔王といえど、兜越しに表情をみられるほど万能ではない。


 黄金騎士イエローを警戒した剣魔王が、短距離転移で後方に跳び、彼女から距離を取る。


「それができないとアリサにデザートのプリンを全部取られちゃうのです。世の中は全て焼き肉定食が美味しいのです」


 途中で支離滅裂な発言になっていたが、黄金騎士イエロー自身は至極マジメに言っていた。


 ――LYURYURYUUU。


 白竜が気遣わしそうに、自分が掴んだままの二人に視線をやる。


「分かったのです。リュリュは二人を安全なところに連れていってほしいのです」

「ま、待ちなサい。相手は魔王よ。一人じゃ、絶対に勝てないわ」


 白竜への指示を、勇者メイコが遮る。


「魔王なのです? それはマズイのです。ポチは魔物だと思っていたのですよ」

「よく生き残れタわね。流石は竜騎士ってトコかシら?」


 黄金騎士イエローは勇者メイコの話を聞いていなかった。


「魔王さんは悪い魔王さんなのです? 良い魔王とは戦っちゃダメって言われているのです」

「あ、あんたバカぁ? 魔王なんだから悪いに決まってるデしょ?」

「バカって言った方がバカなのですよ?」


 剣魔王はそんな暢気な掛け合いを興味深そうに見つめている。


 イタチ皇帝と黄金騎士イエローの主人との間で交わされた口約束の相互不可侵の契約を、ここにいる誰もが知らなかったようだ。


 なにせ、その話をしているときに黄金騎士イエローは居眠りをしており、彼女の主人も起床後の彼女にそのことを告げなかったのだから。

 だが、転移移動手段を持たない彼女が、自分の知らぬ内に遥か大陸の彼方にあるイタチ帝国に行くなど、神ならぬ彼女の主にも想像できなかったに違いない。


 あえて言えば、イタチ皇帝が彼女の主人に自国民の救助を依頼した時点で、相互不可侵の契約は事実上破棄されている。


「今攻撃されていたデしょうが! 攻撃してくるヤツは悪い魔王なのよ!」

「そうなのです?」


 黄金騎士イエローに、剣魔王が頷く。


「仕方ないのです。剣の道は血塗られているのです」


 ピカピカの黄金鎧の小手を見つめ、黄金騎士イエローが深刻そうに呟く。


「私も手伝ってヤるわ。これでもサガ帝国の勇者よ。神の権能(・・)も与えられていない地元原産の勇者なんかに後れは取らないわ」

「なら、回復薬をあげるのです」


 黄金騎士イエローから受け取った回復薬を、勇者メイコは疑いもせずに飲み干す。

 異世界にスレていない現代日本人らしい不用心さだ。


「な、何これ?」


 キラキラとしたエフェクトが勇者メイコを包み、彼女の傷を全て癒やしきった。

 それどころか呂律の回っていなかった口調も元に戻っている。


「ブラッド・エリクサー改なのです。死んでなければどんなケガだって治っちゃうのですよ」

「何よ、その微妙なネーミングは」

「そんな事よりも勝負なのです」


 黄金騎士イエローの言葉に、ハッとした顔で勇者メイコが振り返る。

 剣魔王は依然として、そのままそこで待っていた。


『竜HWAイイDEGOZARU』


 どうやら、剣魔王は白竜がお気に入りだったようだ。


「リュリュはリーングラデン(・・・・)の人を安全なところに運んでいくのです」


 ――LYURYURYUUU。


 リーングランデを手に持った白竜が、空に飛び上がる。

 竜好きの剣魔王は、白竜の飛行を邪魔する気はないようだ。


「それじゃ、行くのですよ!」

『来るDWEEDゴザル』


 黄金騎士イエローの全身が青い光に包まれる。


「え? 現地勇者がユニークスキル?」


 勇者メイコは勘違いしていたが、さきほどの光はユニークスキルを用いたものではない。


「鎧の人、お願いなのです」

『イエス・マイガール。ディメンジョンカタパルト・アクティベート』


 黄金騎士イエローの前方に銀色の揺らめく板が現れた。

 先ほどと同じ加速板だ。


「分身の術なのです!」

『フィジカル・ミラー・イメージ』


 黄金騎士イエローが三軸に64体に分身する。

 恐るべき事に、その過半数が質量と魔力を帯びていた。


 空間魔法使いでもある剣魔王が、罠に呼び込もうと黄金騎士イエローの突撃を待ち構える。


「今必殺の魔刃螺旋突撃ヴォーパル・ストライクエクセリオン、スタンバイなのです!」

『イエス・マイガール。エクストラモード・アクティベート』


 様々な強化魔法が黄金騎士イエローを包む。


 本来の名称は「エクストラモード」なのだが、黄金騎士イエローは紫髪の幼女の陰謀で「エクセリオン」だと思い込んでいる。

 黄金鎧に搭載されたラカクローンは持ち前のファジー機能で、「エクストラモード」のリクエストだと解釈していた。


「な、なによ、この強化魔法は? 馬鹿げてるわ……どうしてステータスが軒並み三倍になってるの? こ、こんなのレベル幾つ分の底上げになるのよ」


 ラカクローンに仲間だと判定されたのか、勇者メイコまでエクストラモードの影響下にあったようだ。


 驚く勇者メイコの言葉にも、黄金騎士イエローは首をコテリと傾げるだけで終わらせてしまった。

 今一つ、彼女が何に対して驚いているのかよく分からなかったのだろう。


「行くのですよ!」


 瞬動で銀板に飛び込んだ64人の黄金騎士イエロー達が、一瞬のうちに剣魔王の眼前に現れる。


「あ、バカ!」


 先ほど勇者メイコが直前で回避した歪曲空間による罠に、黄金騎士イエローが飛び込んだのだ。

 勇者メイコの脳裏に、自分の聖剣に刺し貫かれる黄金騎士イエローの姿が過ぎった。


 魔王の放つ暗紫色の光と黄金騎士イエローの放つ青い光が戦場を眩く染め上げる。


※次回「15-39.天罰(8)、犬勇者ポチ」は、1/8(日)の更新予定なのです。



※そろそろサトゥーのターンが欲しい。


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[一言] 歪んだ地元勇者シンが、素直に覚醒できていたら、ポチの様に成れていたのかなぁ? 異世界産ではないが、勇者ってことで、ポチもムーノ伯爵の研究対象になるのだろうか? 文筆家なポチも、後に自伝でも…
[一言] 紫髪の幼女は、誤字報告の中の人にとって魔族だな? ポチの黄金鎧の中のお助けさんと地の文の語り部さんが、ブラック企業かエチゴヤの支配人さん並の大活躍である。 でなけりゃ、誤字報告の中の人から作…
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