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デスマーチからはじまる異世界狂想曲( web版 )  作者: 愛七ひろ
第十三章

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13-23.お茶会の行方

※2015/4/26 誤字修正しました。

 サトゥーです。失敗は誰にでもあります。それをいかに上手くリカバリーするかで真価が問われると思うのです。





 オレはシスティーナ王女に神酒ネクターが再入手不可能な品である事を告げ、醜い争奪戦が起こらないように秘密にしていたと伝えた。


 また、翡翠が元の小鳥に戻ったのは魔物化したばかりで不安定だった為だろうと作り話を述べておいた。

 前に冗談で作ったオリハルコン製の豪華なメリケンサックを見せて、魔力を散らす魔法の武具だと言って作り話の信憑性を高める。


 それだけでは不十分な気がしたので、有名な文献の名前を利用して魔物化解除の根拠をでっち上げる。


「――と古文書に書かれてあったのです」

「サトゥー様は博識なのですね」


 システィーナ王女は目の前で自分の目標としてた光景をオレが実現させてしまったためか、メネア王女のように目がハートマークになっていてオレの言葉ならなんでも頷くような有様だった。


 システィーナ王女の筆頭侍女は眼前の光景がいかに異常かを把握していたみたいだが、主人の意向を尊重するつもりらしく、オレに疑問を問いかけてくる事はなかった。


 側近の多くは魔物が暴れている間、目を閉じて部屋の隅でうずくまっていたようなので、部屋の状況を見ていたのは先の二人と、幼いドリス王女と彼女の乳母の合計四人だけだった。


「翡翠ぃ。良かったよぉ」

「ドリスもサトゥー様にお礼を言いなさい」

「はい、お姉様。ありがとう、サトゥー」

「どういたしまして」


 ドリス王女は今のところ、翡翠が助かった事にしか目がいっていないので問題ないが、今後一番震源地になりそうなのは彼女だ。

 システィーナ王女が彼女の手綱を上手く操ってくれると期待したい。


「おひい様、翡翠はまたいつ魔物に変わるか判りません。私がお預かりします」

「やー!」


 ドリス王女の乳母は一度魔物になった翡翠を、ドリス王女から遠ざけたいようだったが、ドリス王女はそれを頑なに拒否する。

 ドリス王女に抱きしめられて、小鳥が苦しそうにぴるぴると助けを求める。


>ユニット名「翡翠」が所属を求めています。許可しますか(YES/NO)


 翡翠に重なるようにポップアップ・ウィンドウが出た。


 ――なんだ、これ?


 とりあえずヤバそうなので、NOを選んだ。


 オレに拒否された翡翠が悲しそうな表情で涙を浮かべるが、ここは心を鬼にしよう。

 だって、トラブルの予感がビンビンするんだよ。


「ちょっと、ロリ姫。そんなに抱きしめたらせっかく助けた小鳥が死ぬわよ?」

「ん、危険」


 アリサとミーアに注意されて、翡翠の状態に気が付いた王女が抱きしめる手を緩める。

 その隙をついて、翡翠が王女の腕から抜け出し窓の外へと飛び去ってしまった。


「あああぁ、翡翠が逃げちゃったぁ」


 自らの失敗に王女が号泣する。

 後で回収できるように、翡翠にマーカーを付けておく。


 夜中になったら飛べないだろうから、それから回収すれば良いだろう。

 ドリス王女の乳母が心配していたが、翡翠が再び魔物になる可能性は低いはずだ。あれだけ魔素を抜いたんだし、人為的に操作されない限り大丈夫だろう。


「ザドゥー、翡翠捕まえてぇ」


 号泣しながらも、しっかりとオレの服の裾を掴むドリス王女。


「おひい様、いくら子爵様でも空を飛ぶ鳥を捕まえるなんて無理ですよ」

「やー! 翡翠びずいぃ」


 そこに新たな来客が現れた。


「どうした、ドリス。翡翠が逃げたのか?」

「ソルトリック兄様ぁ、翡翠を捕まえてぇ」


 現れたのは当年32歳になるシガ王国の第一王子。

 システィーナ王女の同腹の兄でもある。


「いいとも。お前たち、網を持って小鳥を捕まえに行け。腕の良い風魔法使いを連れていくんだ」


 王子が引き連れていた側近の一人に命じて、翡翠を捕獲する手配をしてくれた。


 色男系だったシャロリック第三王子とは異なり、第一王子は実直な軍人のような印象を受ける。彼の力強い眉のせいだろうか?


 彼は訝しげに魔物化した翡翠によって荒らされた部屋を見回す。


「ティナ。この部屋の有様はいったいどうした事だ?」

「兄様、実はこの部屋に魔物が現れたのです」


 王子の問いに、システィーナ王女があっさりと答えてしまった。

 このままではせっかく助けた翡翠が殺処分されてしまう。


 システィーナ王女もその事に気がついたのだろう。

 慌てて話の方向を軌道修正した。


「で、ですが! こちらのペンドラゴン子爵の活躍によって、魔物は討伐され霞の様に消え去ってしまったのです」


 ――無理がある! 無理があるよ、システィーナ王女!


「倒した魔物が霞の様に消えただと?」


 王子が胡乱そうな瞳をこちらに向けた。


 わかる。その気持ちはとてもよく分かる。

 仕方ない、もう一度、詐術スキル先生に活躍してもらおう。


「ご説明いたしましょう。恐らく『幻影ミラージュ』と呼ばれる霧状の実体を持つ魔物だと思われます。『幻影』は人の心を読み、姿を変えます。私達が一番手を出しにくい相手としてドリス王女の可愛がっていた小鳥の姿を写し取ったのでしょう」

「ふん、笑止」


 おっと、王子は手強い。


「よしんば貴様の話が真実だとして、王祖様の結界に守られた王城に魔物などありえん」

「殿下、魔物には赤い縄状の模様が浮かび上がっていました」


 王子の否定の言葉に追加情報を投下する。


「なんだと! 上級魔族の尖兵の事か!」

「神出鬼没な赤縄共なら、この場に現れてもふしぎではありませんぞ!」

「馬鹿な……。上級魔族討伐と共に赤縄どもも消えたのではなかったのか」

「では、またあのような事態が起こるというのか」


 反応したのは王子ではなく、彼の側近たちだった。


「静まれ、愚か者。妹達が不安がっておるわ」


 さすが、次期国王だけあって肝が据わっている。

 王子は顎をしゃくってオレに話の続きを促した。


「国家転覆を図る何者かが王城内に持ち込んだのでしょう」

「狙いはなんだと思う?」

「王女殿下に危害を加える事で、先日の事件が終わっていないと警告――いいえ、王城内に不安の種を蒔く事が目的ではないかと」


 オレの答えに満足がいったのか、王子が黙考する。

 彼を納得させる為に先のように述べたが、実際のところ、今回の件は前の上級魔族襲撃事件の際に仕掛けた罠の一つが今頃起動しただけと思っている。


 状況証拠で判断するなら、ドリス王女に翡翠を贈ったケルテン侯爵を犯人と考えるのが普通だ。

 恐らく、愛国者と呼ばれる彼を軍部から遠ざけようとした者達の策謀だったのだろう。


 緑魔族が暗躍している「殿下」の関係者がやった可能性もあるが、その可能性は低いと思う。

 彼らは一貫して「殿下」の「孵化」とやらの為に宝珠を捜している。

 それらの行動とあまりにも掛け離れているので、今回の件をそう考えた訳だ。


「不安の種か――」


 王子はそう呟いた後、部屋の中にいる人々の顔を見回し、一つ頷いた。


「――確かに効果的なようだ。王太子ソルトリック・シガの名において命ずる。ここで起こった事件の一切を口外する事を禁ずる。破った者は厳罰に処するので肝に銘じておけ」


 威厳のある王子の言葉に、部屋にいた人達が跪いて臣下の礼を取った。

 さすがだ。お陰でオレのやらかしが他に漏れずに済みそうだ。


「子爵。貴公がおらねば妹達の命は無かった。貴公が望むなら、どちらかを嫁にやってもよい。どうだ?」


 目が笑ってないよ、王子!

 あと、システィーナ王女、嬉しそうな顔を見せない!


「大変光栄なお話ですが、私は成り上がり者の一介の新興貴族です。そのような栄誉を賜るのは分不相応でございましょう」

「なら、爵位を上げるか?」


 王子にそんな権限ないだろ?


「いえ、今の子爵という身分すら過分にございますれば――」

「では官職はどうだ? ケルテンの後釜が今ひとつ無能でな。貴公なら上手くやれるのではないか?」


 おいおい、ケルテン侯爵の後釜って軍関係の重鎮だろう?

 そんな重職を新興貴族に振るなんて、オレの人となりを引き出す為にしてもわざとらし過ぎる。


「殿下、お戯れが過ぎます。上級貴族の末席に座するのがやっとの若輩者に務まるほど軽い役職ではございますまい」

「そうだな……。では望みを言ってみろ。王太子の座にかけて叶えてやろう」


 特に無いけど、「ない」って答えるのはダメなんだよね。


 王子にしか叶えられなくて、ほどほどに価値のある物。

 ついでに、王国の負担にならない物が良いだろう。


 ……うん、丁度良いのを思いついた。


「では、お言葉に甘えまして――エチゴヤ商会への紹介状をいただけないでしょうか?」

「エチゴヤ商会だと?」


 真実を知るアリサやミーアには茶番にしか聞こえないだろうが、彼女たちは賢明にも沈黙を守ってくれている。

 二人がジト目や口が半開きになっている事はスルーしようと思う。


「はい、かの商会の魔剣は大変優れた物だと聞き及んでおりますが、紹介状が無いために注文ができずに困っておりました。殿下からの紹介状ならばエチゴヤ商会も無下にはしないでしょう」

「私なら魔剣そのものを下賜する事も可能だが?」

「いえ、王国の魔剣は国軍の騎士様方が使うべきもの。私には紹介状で十分でございます」


 現物なんて30分もあったら、同時並行で10本くらい作れるからね。


「よかろう。宰相やオーユゴック公爵も言っていたが本当に無欲なやつだ」

「恐縮です」


 呆れたような王子にオレは慇懃に答える。


「褒めておらん。貴公も貴族ならば自分の利益にもっと貪欲になれ。過剰に引けば愚か者どもに付け込まれる隙となるぞ」

「肝に銘じます」


 親切に忠告してくれる王子に、最上級の臣下の礼で応えた。

 アリサがポソリと「ツンデレ王子」と呟いたのは「聞き耳」スキルのあるオレにしか聞こえていないはずだ。





 オレは夜会での再会を約束して王女の部屋を後にした。

 翡翠は桜の大樹の所にいる。王太子の部下が頑張っているようなので、小鳥を捕まえる為に夜中に出かける必要はなさそうだ。


 馬車に乗り込んだ後で、アリサが問いかけてきた。


「ねぇねぇ、さっきの魔物を元に戻したのって魔法?」

「違うよ。たぶん、スキルでもないんじゃないかな?」


 オレがそう応えるとアリサとミーアがハテナ顔で質問を重ねる。


「じゃ、なんなの?」

「不思議」

「オレにも判らないよ。何となくできそうだから試してみたら、できたんだ」

「できたんだ、って」

「むぅ?」


 納得できないと詰め寄る二人を押し戻す。


「魔法や結界とかを掴んだり破壊したりする事ができるのと同じだと思うんだけど、できる理由は知らないんだよ」


 沢山あるスキルのどれかが影響しているのかもしれないが、検証するには数が多すぎる。


「じゃ、あの妙な神酒ネクターっていうのは?」

「ただの上級魔法薬だよ」


 オレはストレージにある上級魔法薬の樽から小瓶に小分けしたものを取り出す。


 ――あれ?


「どうかした?」

「いや、なんでもない。これがその薬さ」

「へー、ちょっと赤みがかっているわね」


 アリサが小瓶の蓋を開けて中の液体を少し掌に流す。

 その途端、ミーアが目を見開いて驚きの声を漏らした。


「精霊が集まってくるの。集まってきたわ、本当よ? いっぱいなの」


 久々に聞くミーアの長文の驚きに、オレも精霊視を有効にしてみた。

 驚いた事に、アリサの掌が見えないほど精霊が集まっている。


「へー、この薬の効果かしら? 何せ神酒ネクターだもんね」


 アリサがそう言って笑う。


 だが、オレは上手く一緒に笑えたか自信が無い。


 だって、オレの血が混じっただけの上級魔法薬がいつの間にか「神酒ネクター」とAR表示されていたのだから……。





 オレ達を乗せた馬車は貴族街を抜け、ゼナ隊の護衛付きで屋敷に戻る。


 今日は夕方までお茶会の梯子だ。

 アリサとミーアの二人はお茶会に連れていかないので、ユニット配置で迷宮地下のリザ達に合流させた。

 取れたての味覚をルルが調理していたが、お茶会で色々と食べないといけないのでルルの絶品料理は味見だけに留めておいた。


 午後のお茶会は上級貴族の招待ばかりなので、贈り物の準備が面倒だった。

 なにより、相手の権勢によって贈り物の多寡を変えないといけないのでバランスが難しい。


 ゼナ隊の護衛でお茶会を回り、色々な噂話を仕入れる事ができた。


 宰相が大臣を兼任する「観光省」という新部署の副大臣の人選で揉めているそうだ。

 有能な門閥貴族たちが立候補しているが、宰相が首を縦に振らないらしい。


 宰相との昼食会で聞いた「合格」という不吉な言葉が脳裏を過ぎる。


 ……大丈夫。


 この調子で沢山の候補者がいれば、一人くらい宰相のお眼鏡にかなう者が出るに違いない。


 他に聞いた噂では、宝珠を初めとした盗難騒ぎが縮小傾向にあるとの事だった。


 被害に遭った貴族たちの下に、エチゴヤ商会経由で盗まれた家宝が戻ってきているという話も聞いた。

 支配人がコネクション作りに使うと言っていたやつだろう。

 相変わらず行動が早くて頼もしい。


 お茶会終了後、迷宮に子供達を迎えに行き、無数の魔核と各種食材や素材を受け取った。


「氷石とは珍しい品を手に入れたな」

「うん? ああ、それはPOPしてた宝箱の中にあったのよ。そっちの『鈴』と一緒に入ってたわよ」


 アリサの指差す場所にあるハンドベルを確認する。

 この鈴は「魔封じの鈴」という名前の魔法道具で、憑依した幽霊を依り代から追い出す力があるらしい。

 どの程度の効果があるか判らないがなかなか面白い品だ。


「にくわき、ち~おどる~?」

「今日は一杯活躍したのです!」

「頑張った」


 オレは皆から迷宮でのできごとを教えてもらい。

 皆の活躍を褒める。


「今日は蟹鍋をしたんです」

「凄かったわよ。巨大蟹の甲羅を鍋にして、蟹肉の食い放題だったの!」

「美味だったとマスターに報告します」


 ルル、アリサ、ナナの順でお昼の海鮮料理の話を語る。

 最初の方に少し味見をしただけなので、今度は是非オレも参加したい。


「金剛魚の姿焼きは新鮮な歯ごたえで、透き通るような味わいでした」

「あれを食べるのはリザさんくらいよ」

「歯が立たない~?」

「コンゴーは硬かったのです」


 そこまで硬い魚がいた記憶が無い。

 もしかしたらレアポップの魔物でも見つけたのかも。


 後で迷宮に行って探してみよう。


 でも、その前に頑張って護衛をしてくれたゼナ隊の皆と一緒に夕食を楽しもう。

 今日の夕飯は執事が手配してくれた元宮廷料理人が、出張してきて腕を振るってくれるとの事なので今から期待している。


「楽しみですね、ご主人様」

「ああ、いっぱい美味しい物を食べて、味を盗もう」

「はい、ご主人様!」


 ルルと二人でそんな会話をしながら、食堂への扉を潜った。



※次回更新は 5/3(日) の予定です。


※活動報告に書籍版の「なろう特典SS」がアップしてあります。


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●登場人物


【システィーナ】

 シガ王国第六王女。18歳。王城の禁書庫への出入りが許可されている。母親がビスタール公爵の娘。アリサやミーアの友人。



【ドリス】

 シガ王国第十二王女。10歳。システィーナの同腹の王女。

 彼女のペットについては「12-18.お茶会の闖入者」にちらりと出ています。



【ソルトリック】

 シガ王国の第一王子。32歳。システィーナ王女やドリス王女の同腹の兄。

 今回初登場。力強い眉で実直な軍人のような印象の男性。

 親子ほど歳の差(22歳差)がある実妹のドリスを溺愛している。



【翡翠・改】

 ドリス王女のペット。魔物化をサトゥーに解除されて神酒を飲んで回復した。



神酒ネクター

 神気に冒されていた時のサトゥーの血が混じった上級魔法薬。

 サトゥーが誤魔化すために「神酒」と言ったはずなのに名前が変わっていた。



【赤縄の魔物】

 王都を襲った魔物たちの通称。赤い縄状の模様がある魔物全般の事。

 魔法の武器や魔法を付与エンチャントした武器でしか傷つけられない。



【エチゴヤ商会】

 クロが迷賊から助け出した人達を雇用して作った商会。



【オーユゴック公爵】

 セーラの祖父。サトゥーに好意的。


【宰相】

 ドゥクス前公爵。王の片腕。分厚い筋肉に守られた偉丈夫。食通。

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― 新着の感想 ―
[一言] 神酒。蘇生1歩手前くらいなら回復できそうな名前してるな。
[一言] サトゥー、君の予感は何時も当たらない・・・
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