13-22.王女のお茶会(2)
※本日二話更新。詳しくは活動報告で!
※2015/4/21 誤字修正しました。
※2015/4/21 一部改稿しました。
サトゥーです。物語の中やテレビの向こうで竪琴を見た事がありますが、実物を直接目にした事はありません。トーガを着た女性が優雅に弾くイメージがありますが、結構重そうですよね。
◇
オレを救ったのはシスティーナ王女の妹姫来訪の先触れだった。
防聴装置を停止し、オレ達は呪文の資料を片付けて普通のお茶会の状態に席を整える。
なんとなく間男の気分を味わいながら、部屋の入り口から現れた小さな王女に視線を送る。
「システィーナ姉様!」
小さな王女がシスティーナ王女に抱きつく。
彼女は名前をドリスといいシスティーナ王女の同腹の第十二王女で、10歳になったばかりだ。アリサより二つ年下だが、アリサと変わらない体格をしている。
ドリス王女は姉王女にひとしきり甘えた後、今度はミーアの方を振り返ってテンション高く言葉を紡ぐ。
「ミーア様! 今日はミーア様の為に珍しい竪琴と翡翠を持ってきたの!」
ドリス王女の言う翡翠は宝石の翡翠ではなく、翡翠のような羽をした綺麗な小鳥の事だった。
豪華な鳥籠の中から美しい声を響かせている。
――なんだろう? この鳥の事を知っているような既視感を覚える。
「ね、ミーア様、弾いてみて!」
ミーアが竪琴を受け取って弦を指で弾いて音階を確かめている。
竪琴は大国の王女が持つのに相応しい神秘的な品だ。
水晶のような宝石質の本体に、黄金で作ったような弦が張られている。
また、本体の柱部分には長い髪の女性が浮き彫りにされていた。
この女性像は単なる飾りではなく反響管のような役割を果たしているらしく、ミーアが真剣な顔で楽器の特徴を掴もうと試行錯誤している。
ミーアに相手をしてもらえなくて暇になったのか、ドリス王女がトテトテとオレの方へ歩み寄ってきた。
「名乗るのを許します」
ドリス王女が座ったままのオレを見下ろすようにそう命じた。
精一杯威厳のある態度を取ろうという姿が微笑ましい。
「はじめまして王女殿下。私はムーノ伯爵の家臣、サトゥー・ペンドラゴン子爵と申します」
そう告げて、貴公子らしいちょっと洒落た礼をした。
普通なら成人した淑女に向けるような礼だが、背伸びしたい年頃の子にはこういった大人向けの挨拶の方が喜ばれるはずだ。
「まあ! 素敵なご挨拶ですわ、ペンドラぎょン――子爵様。わたしはシガ王国の第十二王女ドリス・シガですの。システィーナ姉様と母上が同じなの――同腹なのですわ」
ドリス王女が噛んだり言葉遣いを間違えながらも挨拶を返してくれた。
彼女はキョロキョロとオレの左右を見たあと、アリサの方に顔を向ける。
「アリサ、そこを空けなさい」
「やーよ」
一国の王女相手なのにアリサはぞんざいに命令を却下した。
断られるとは思わなかったのか、キョロキョロと視線を彷徨わせる。
アリサの反対側にはミーアが座っている。
ミーアにどけとは言えないのか、しばらく困った顔を見せたあと、何かに気付いたような笑顔になり、オレの方に両手を差し出した。
――どうしろと?
「わたしを膝の上に乗せなさい、ペンドラ――サトゥー」
なるほど、膝の上に乗りたかったのか。
「ドリス、失礼ですよ」
「お姫様、システィーナ殿下の横にお座りなさいませ」
システィーナ王女とドリス王女の側近が彼女を窘めるが、諦められないようでこちらに縋るような視線を向けてきた。
「――ダメ?」
「畏まりました、ドリス殿下」
オレは彼女の腰を掴んで膝の上に乗せてやる。
ミーアとアリサが不満そうだが、小さな子供の可愛い甘えくらい許してやろうよ。
◇
弦の調整が終わったミーアが竪琴を奏で始める。
ミーアの曲が気に入ったのか、翡翠色の小鳥も曲に合わせて囀っている。
――うん? 魔力の波動を感じる。
AR表示の詳細情報によると、竪琴の素材になっている水晶樹由来の能力で、聞く者の情動を過敏にする効果があるらしい。
簡単にいえば感動しやすくなる追加効果がある品のようだ。
現にここにいる人達はレジストしたオレ以外、皆ミーアの曲に聞き惚れてうっとりとしている。
けっして、オレの感受性が腐っているという訳ではないはずだ。
ま、特に害があるわけでもないし、ミーアの曲を静聴しますか――。
その時、ピギュルと鳥の悲鳴が聞こえ、金属がはじけ飛ぶ異音が部屋に響き渡った。
続けて使用人達の甲高い悲鳴が部屋を混乱へと導く。
オレの視線の先では砕けた鳥篭の上で羽を広げる一匹の魔物の姿があった。
エメラルドグリーンの鳥型の魔物が真っ赤な双眸を開く。
その宝石のような羽の上には赤い縄状の魔法陣が浮かび上がっていた。
――赤縄の魔物だと?
「翡翠の籠が!」
「ま、魔物よ!」
「で、殿下を安全な場所に!」
オレは幼女三人を部屋の隅に放り投げ、システィーナ殿下を抱えて部屋の隅へ移動する。
「殿下ぁあああああああ!」
卒倒しそうな侍女には悪いが、オレの手は二本しかないのだ。
オレは幼女三人の落下地点でシスティーナ殿下を下ろし、落ちてくる幼女達を順番に受け止めていく。
この状況でオレの唇を狙ってくるアリサは大物だと思う。
アリサを受け止める途中で魔物が行動を開始しようとする気配を感じたので、重たいソファーの一つを魔物に向けて蹴り飛ばしておいた。
「むぅ」
「どうして、こんな所に赤縄の魔物が!」
「とりあえず倒してしまおう」
ミーアやアリサの疑問ももっともだが、ここは非戦闘員が多すぎる。
早めに魔物を排除するのが得策だろう。
「ダメ! 翡翠を殺さないで!」
魔物の排除に向かおうとしたオレの前を、ドリス王女が全身で制止した。
やっぱり、アレはドリス王女の小鳥の成れの果てか。
「ごめんね、殿下」
オレは小さなドリス王女に詫びて魔物の所に駆け寄る。
残念ながら、準備不足だ。
――KYURYEEEEEEE。
小鳥が放つ超音波のブレスを、無詠唱の「風壁」で防ぎ、魔物の胴体に掌打を打ち込む。
「翡翠ぃいいいいい!」
ドリス王女の必死の悲鳴がオレの背中を打つ。
――反省。
無理でも、簡単に諦めてちゃダメだよね。
オレはダメ元で魔物に打ち込んだ掌から、「魔力強奪」で魔力を奪いつくす。
魔物の体を守っていた赤縄状の魔法陣が消える。
ここまでは予定通り、ここからは運任せだ。
マップ検索で魔物の体の中にある魔核を探す。
さすがに無理か……。
――待てよ、もしかしたら!
オレは最近覚えたばかりの「魔素分布感知」を意識して使う。
――よしっ!
魔物の体の中にある魔素の分布を感じる。
血脈や体表に沿って魔素が濃いようだ。
中でも一番濃い場所が魔核だろう。
オレは抜き手で魔物の体を貫き、体内から魔核を抜き取る。
だが、これだけではただ魔物を殺すだけだと、オレの勘が言っている。
後は何をすればいい?
体中を流れる魔素を取り除けばいいのか?
オレはその思い付きを実行する。
魔法の結界を手で引き裂けるなら、魔素だって掴めるはずだ。
魔核を取り出した傷口から血と共に流れる魔素を掴むと、土の中から草の根を引き抜くときのように慎重に引き抜いていく。
体感時間で何時間も経ったような気がするが、実際は数秒だろう。
魔物の体から七割ほどの魔素を引き抜けた。
魔物の体が縮小し、小さな鳥の姿へと戻っていく。
「翡翠!」
「お姫様、ダメです」
「やー! 離して!」
――だが、小鳥が耐えるにはダメージが大きすぎたのだろう。
小鳥の命の火が消えていく。
ストレージの中で魔法薬のストックを確認する。
下級薬は論外だ。中級薬ならいける気がするが、成功するという確信は持てない。
ここは慎重に一番いいやつにしよう。
オレはストレージの中から上級魔法薬の小瓶を取り出す。
オレの血が混ざっているので人様には使えないが、小鳥なら文句を言う人もいないだろう。
魔法薬を小鳥の傷に振りかけ、残りを小さな嘴に流し込む。
――ぴ、ぴ、る、ぴる、ぴる、ぴぴるるるぅ。
断末魔のようだった小鳥の声が、どんどん元気になっていく。
「翡翠! よかった!」
さすが上級魔法薬。
オレの血が混ざっていても効果は抜群だ!
「ま、魔物が……も、元の生き物に戻った?」
熱に浮かされたようなシスティーナ王女の声に少しやらかした気分になったが、ドリス王女に変なトラウマを刻まずに済んだなら重畳と言えるだろう。
さて、どんな言い訳をしよう。
「王女殿下、先ほど使った薬は神酒と申しまして、とある迷宮の最下層で見つかった品で――」
頑張れ「詐術」スキル。
平和な明日は君に掛かっている!
※次回更新は、2015/4/26(日)の予定です。
※このお話が月曜日更新予定分だったので、明日の投稿はありません。
※2015/4/21 一部改稿しました。
魔素をつかみ出すシーンから魔法薬を選ぶシーンの説明が不足していたようなので修正しました。初稿で血をつかんでいたのは魔素の間違いです。
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書籍版の感想や誤字報告は活動報告の方にお願いします。
●登場人物
【システィーナ】
シガ王国第六王女。18歳。王城の禁書庫への出入りが許可されている。母親がビスタール公爵の娘。アリサやミーアの友人。
【ドリス】
シガ王国第十二王女。10歳。システィーナの同腹の王女。
彼女のペットについては「12-18.お茶会の闖入者」にちらりと出ています。
【赤縄の魔物】
王都を襲った魔物たちの通称。赤い縄状の模様がある魔物全般の事。
魔法の武器や魔法を付与した武器でしか傷つけられない。







