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デスマーチからはじまる異世界狂想曲( web版 )  作者: 愛七ひろ
第十三章

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13-12.セーリュー伯爵との昼食会

※2015/8/1 誤字修正しました。

 サトゥーです。初めてハーレムという言葉を知ったのは小学生の時に読んだアラビアンナイトのとある話でした。若い女性教諭に「ハーレムって何?」と聞いて「お嫁さんがいっぱいいる事よ」と教えてもらった覚えがあります。

 今やったら確実にセクハラで訴えられそうですよね。





 三時間ほどの仮眠が良かったのか、オレはすっきりした頭でセーリュー伯との昼食会に挑むことができた。


 そのお陰で思い出したのだが、アリサやリザに本名や竜神殺しの事を話すのをすっかり忘れていた事に気づいた。

 やはり疲れが溜まっていると碌な事がない。

 オークション最終日の仕込みも十分過ぎるくらいしてあるし、当日まではのんびりいこう。


 そんな事を考えながら、セーリュー伯爵家の侍従さんに案内されて王城の一角にある来賓用の会食室へと向う。

 客として招かれたオレが最後だったらしく、室内にはセーリュー伯爵夫妻、その家臣のベルトン子爵夫妻、面識のないキゴーリという名前の騎士夫婦、それからなぜかパリオン神殿の神託の巫女オーナさん、そして緊張した顔のゼナさんが待っていた。


 キゴーリ夫妻は恐らく伯爵の護衛を兼ねているのだろう。

 レベル40の騎士の旦那とレベル37の土魔法を使う魔法騎士の奥方という領内最強クラスの武人達だ。


 メニューの詳細情報を確認して分かったが、巫女オーナさんは伯爵の娘らしい。

 どこかで見た顔だと思ったら、ゼナさんと出会った時に彼女の怪我を魔法で癒やしてくれた巫女さんだった。ついでにオレに神聖魔法のスキルを覚えさせてくれた。


 オレは伯爵に昼食会への招待を感謝する旨の社交辞令を行い、他の面々と貴族らしい面倒な自己紹介や挨拶を交わす。


 オレが案内された席は伯爵の正面にあたる上座だ。

 この配置からして、さほど悪い話ではないのだろう。


 オレの横に着席するゼナさんに小声で言葉を掛ける。


「今日のお召し物はいつもより華やかですね。よくお似合いですよ」

「あ、ありがとうございます。奥様の侍女からお借りした物なんです」


 なるほど、いつも清楚なゼナさんの服にしては大胆だと思った。


「そんなに緊張しなくても大丈夫ですよ。私に任せて大船に乗ったつもりで美味しい昼食を楽しんでください」

「は、はい」


 ゼナさんの緊張を解すには不十分だが、セーリュー伯爵の値踏みするような視線を感じたので、その辺で会話を切り上げて着席する。


 昼食会は宰相閣下主催のモノとは異なり、ごく普通の宮廷料理が中心で、コースのメインにセーリュー伯爵領名物という触れ込みのコロッケ料理が加わった点以外は当たり障りのないメニューだったので安心して食べられた。


 食事の合間の会話も、ゼナさんたちと出会った経緯を語ったり、迷宮都市でのセーリュー伯爵領の選抜部隊への助力への感謝の言葉を受けたりなど、ごく和やかな感じに終始した。


 そのまま終わるかに見えた昼食会だが、デザートに砂糖とハチミツの掛かった甘いイチゴが配られ、伯爵の指示で給仕達が退出したところで本題が始まった――。





「――単刀直入に行こう。オーナを卿の嫁にやる。我が伯爵家の一員となって迷宮運営で差配を揮う気はないか?」


 おお、ずいぶんストレートに来たな。

 それにしても、成り上がり貴族の16歳の小僧にはあまりに過分な話だと思う。


 莫大な利権がありそうな迷宮運営を他領の貴族にやらせようとするなんて、伯爵の思惑がどこにあるのか分からないが領内の貴族からの反発が凄そうだ。


 ここはさっさと断ろう。


「とても名誉なお話ではありますが、私のような若輩者に務まるとは思えません。僭越ですが、それほどの大役なら、もっと経験豊富で思慮深い方がよろしいかと存じます」

「――ふん、悩むそぶりさえ見せずに断るか。無欲と噂に聞いていたがこれほどとは」


 オレが断るのを予想していたのか、伯爵の微かな呟きを聞き耳スキルと読唇スキルが拾ってきた。

 伯爵が目配せするとベルトン子爵が甘いイチゴの攻略を中断して口を開く。

 意外に甘い物好きだったらしい。


「ペンドラゴン卿。誤解があるかもしれぬが、伯爵家の一員とは単に伯爵家の者を娶るというだけではない。伯爵家の継承権も与えるという事だ」


 ――うわっ、それこそ遠慮したい。


「それこそ畏れ多い事です。伯爵様が私のような者をそこまで買ってくださる理由が分かりかねますが、連綿と続く高貴な血筋を私のような成り上がり者の血で汚すわけにはまいりますまい」


 とりあえず、成り上がり者という素敵キーワードで貴族の自尊心を擽る方向で話を断ろう。


 迷宮運営にもたいして興味無いし、伯爵の継承権にはもっと興味が無い。

 元の世界にいた頃なら、清楚系美少女なオーナ嬢に心が動かされたかもしれないが、普段からルルやアーゼさんをはじめとした美人を見慣れているので惑わされる事もない。


「血筋か――。門閥貴族どもなら何よりも血筋を重んじるだろうが、我が伯爵家では武こそ重視される。それに韜晦しても無駄だ。卿の力はすべて把握している」


 ……力?


 もしかして、流星雨を使うところを目撃した人でもいたとか?

 とりあえず、「無表情ポーカーフェイス」スキルで動揺が顔にでないように注意して尋ねてみる。


「なんの事でございましょう?」

「――心当たりがないというなら語ろうではないか」


 伯爵が口角を上げて、張りのある良い声で語り始める。


 曰く、装備も無しに迷宮の底から無傷で脱出してみせた力量。


 曰く、魔族に支配されそうになっていたムーノ領を救った。


 曰く、公都の不和を調停し、魔王信奉者の暗躍を阻止した手腕。


 曰く、迷宮都市で探索者として頭角をあらわしたのみならず、教育機関を設置し次代の育成を始める先見性。


 曰く、エルフと交流を持ち、人族に隔意を持つ妖精族と友好的な関係を結んだ事。


 ――よく調べたものだ。


 それにしても、大した事はしていないはずなのに、こうして伯爵に列挙されると偉業をなしたような錯覚をしそうになる。


「この辺りまでは諸侯や宰相も把握しているだろう。だが、俺が瞠目したのは卿が連れている獣人の娘達の事だ」


 うちの獣娘達が、何か?


 ――まさか。


「顔色一つ変えんか……ただの無欲なお人よしではないようだ」


 オレの内心の動揺を知らずに、伯爵の呟きを聞き耳スキルが拾ってきた。


「シガ王国最強のジュレバーグ卿を破った蜥蜴人族の娘が、わずか一年前にはレベル一桁だと知ったら諸侯はどう考えるだろうな」


 なるほど、獣娘達の急成長を把握したのか。

 そういえばセーリュー市の迷宮を脱出したときに、オリジナルのヤマト石で獣娘達のレベルやスキルを調べていたっけ。


 一年でシガ八剣級の戦士が量産できるなら、確かに良からぬ事を考える者も出てきそうだ。

 ここは韜晦して、伯爵の真意をさぐるとしよう。


「高貴な方々の心の内を斟酌するなど私にはとてもとても……」

「韜晦は無駄だと先にも言ったぞ。恐らく莫大な資金を投じて揃えた魔法薬を惜しみなく使って、迷宮で連戦させたのであろう。だが、それも教導する者あっての事」


 伯爵が一旦言葉を切って、オレの反応を確かめるように見つめる。

 莫大な投資どころか、むしろプラス収支だったりする。


「俺は卿の手腕を高く買っておるのだ。卿の協力があれば5年で迷宮運営を軌道に乗せる事ができよう。卿抜きでも10年ほどで軌道に乗せられるが、それでは国や門閥貴族からのいらぬ干渉を招くことにもなりかねん」


 交渉スキルとかが影響しているのか、伯爵が言う必要のない事まで漏らしてしまっている。その辺は承諾前の相手に言っちゃダメだよね。


「我が一族に迎え、迷宮の運営で俺の次の地位を与え、さらに今後10年間、迷宮から産出する魔核の内、陛下に納める分を除いた内の一割を与えよう」

「それはずいぶん破格の報酬ですね」


 魅力は感じないが、もの凄い大盤振る舞いな気がする。

 そんな気持ちが伝わってしまったのか、伯爵が少し気分を害したように片方の眉を動かした。


「不足か?」

「いいえ、先ほども申しましたが、私には過ぎた報酬と地位です」


 そのまま断りを入れようとしたところに、伯爵が言葉をかぶせてきた。


「そういえば、卿はマリエンテール家のゼナと懇意にしておるのだったな」


 ――やっぱり、そっちに来たか。


 ゼナさんが昼食会に出席していた時点で少し予想していたが、彼女を政治のややこしい事に巻き込む気らしい。


 それはなんとしてでも阻止せねば。


「卿の妾にしたいと言うなら許可してやろう。妻にしたいのならば、ベルトンの養子にしてから娶れば良い。オーナより席次が後なら別に構わん。ムーノ伯爵に義理立てするなら、ソルナ殿かカリナ殿が第一夫人、オーユゴック公爵のセーラ殿が第二夫人、オーナが第三夫人、ゼナは第四夫人と言ったところか?」


 何、そのハーレム。


 意中の人がいなければ美少女だらけのハーレムルートに魅力を感じたかも知れないが、ここはさっくり断ろう。

 大体、その中にセーラの名前が挙がっているのが意味不明だ。


 神託の巫女を還俗させてまで嫁にやる意味が――あれ?


「ムーノ伯爵の息女が第一夫人というのは動かせぬとして、第二夫人にはセーラ殿ではなくオーナを就かせたい――」


 ちょっと疑問に思うことができたので、熱弁をふるう伯爵の息継ぎのタイミングに言葉を割り込ませる。


「伯爵様、私は複数の妻を娶る気はございません。それに私の記憶が確かならオーナ様は神託の巫女のはず。還俗しないかぎり結婚はできないと思うのですが?」


 おまけに、セーリュー市にいた神託スキルを持つ巫女は彼女だけだったはずだ。


「ふん、還俗させれば良いだけの話だ。神託の巫女については王都のパリオン神殿とガルレオン神殿から派遣してもらう事が決まっている。心配無用だ」


 伯爵はオレの一夫一妻的な発言を華麗にスルーして、オーナ嬢の婚姻が問題ない理由を教えてくれた。


「報酬が足りぬというなら、もう一つ札を切ろうではないか」


 さっきから過剰だと主張しているのに、なぜか彼には届かないらしい。

 いや、むしろオレが断ろうとしているから、それに気がつかないフリをしているのか?


「領内の亜人差別を禁止する布告を出してやろう。卿が欲するなら領内の亜人奴隷2000名余を報酬に追加しても良い」


 布告しただけで差別がなくなりはしないだろうけど、法的な亜人差別撤廃は魅力的だ。

 貰った奴隷達を解放して、ムーノ伯爵領の放棄された都市や街の復興に従事させるという手もある。


 だが、それと引き換えに碌に知りもしない相手との結婚を強要されるのはごめんこうむりたい。


 オレの僅かな沈黙をどう受け取ったのか、伯爵が重々しく頷いて口を開く。


「すぐには決められぬか。ならば半年ほど時間をやろう」


 半年経ったら、外堀を埋められそうな鬼気迫る雰囲気を伯爵から感じる。

 そこまでオレに拘泥しなくても良いだろうに……。


「半年の間、卿に迷宮都市選抜隊の指揮権を委任する。マリエンテール家のゼナ――」

「は、はいっ」

「貴様はペンドラゴン子爵の従者として指揮を補佐せよ」

「はい、ご命令謹んでお受けいたします」


 伯爵の言葉にドレス姿のゼナさんが軍人のような敬礼をした。


 こうして、ゼナさんは期間限定でオレの従者のようなポジションになってしまった。

 セーリュー伯爵のゴリ押しに乗るのは業腹だが、ゼナさんを迷宮に同行させる権限を得られたのは悪くない。


 それに半年も時間があるなら、オレよりも迷宮運営向きな人材を育成するくらいできそうだ。

 たしかオレの口利きで、探索者ギルドの職員研修に押し込んだセーリュー伯爵領の文官達がいた。

 女性文官の方が切れ者っぽかったが、むしろ懐深くて折衝が得意そうな男性の方を育成してセーリュー伯爵に押しつけるのが良いだろう。


 こっちはなんとかなりそうだ。

 むしろ、なし崩しにハーレムルートに乗せられそうなのが怖い……。



 読者の皆様の応援のお陰で二周年を迎える事ができました。

 今後とも「デスマーチからはじまる異世界狂想曲」を宜しくお願いいたします。

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※次回更新は 3/8(日) の予定です。

 誤字報告&感想ありがとうございます!

 ほとんど返信できていませんが、すべて目を通させて戴いています。


※2015/8/1 神殿名を間違えていたので修正しました。


●登場人物

【セーリュー伯爵】

 セーリュー伯爵家の当主。30代前半。ゼナの仕える相手。


【ゼナ】

 セーリュー伯爵領の魔法兵。地味系美少女。デスマ一巻の表紙。


【ベルトン子爵

 セーリュー市の迷宮で魔物の餌になりそうな所をサトゥーに助けられた。

 火魔法や炎魔法が得意なセーリュー伯爵の家臣。書籍版では大活躍。


【キゴーリ】

「幕間:ある主従の会話」に名前だけ登場していた。


【オーナ】

 パリオン神殿の神託の巫女。14歳。セーリュー伯爵の娘。ゼナの母親が乳母をしていた。

(3/9発売のエイジプレミアム44号掲載分にイラストあり)


【ソルナ】

 ムーノ伯爵の長女。25歳。ハウトという平民の婚約者がいる。


【カリナ】

 ムーノ伯爵の次女。20歳。知性ある魔法道具インテリジェンス・アイテムのラカを所有。


【セーラ】

 テニオン神殿の神託の巫女。16歳。オーユゴック公爵の孫。サトゥーの友人。


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― 新着の感想 ―
[一言] 薄々感じてはいたが、上位貴族領地持ちの間ででも、サトゥー争奪戦が激しくなってきたことについて。 最早、食いしん坊貴族が専属料理人にすることは不可能ですね?
[良い点] 387話の理詰めでまくしたてるセーリュー伯かっこいい。
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