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デスマーチからはじまる異世界狂想曲( web版 )  作者: 愛七ひろ
第十三章

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13-11.現地産の勇者

※2018/11/5 誤字修正しました。

 サトゥーです。社会人になってからは24時間戦うことを強いられる事が多くなった気がします。睡眠不足になると短気になって失敗しやすいので、チートな体になる前には一日三時間の睡眠は死守したものです。





「すまん、聞きたい事がある――」


 ムーノ市の廃砦に移動したオレは山頂のヒカルに遠話で問いかける。


『勇者? それってパリオン神の秘術で召喚された召喚勇者じゃなくて、現地産の勇者じゃないかな?』


 現地産って……野菜じゃないんだから。


『わたしの現役時代は少数だけどいたよ。蜥蜴人や犬人の勇者とか』


 よく考えたら、オレ自身も現地産の勇者の枠に入る気がする。

 我が輩君を倒した後くらいに「勇者」の称号を手に入れたんだし――そうだ、思い出した。


 ――勇者の称号は死線の先にこそあるのだよ


 以前、「不死の王ノーライフ・キング」ゼンがそんな事を言っていた。

 あいつはオレを死地に追いやる事で、勇者の称号を得させようとしていたはずだ。


 シン少年も髪が白くなるほどの経験を経て勇者になったのかもしれない。

 案外、記憶喪失の原因もそれかも。


 続けてシン少年から聞いた話をヒカルに語る。


『贄か……もしかしたら魔族は魔王を「真の魔王」にする為にそのシン少年を使おうと思っていたのかもね』

「なんだそれは?」

『うんとね。勇者が魔王を倒すと称号が「真の勇者」になるじゃない。魔王が勇者を倒すと称号は変わらないんだけど、急激に強くなるのよ。前に話したオークの魔王がそんな感じだったんだ~。勇者を倒す度に力がアップして魔王化の侵食度が上がる感じ』


 ふむ、同レベル帯の相手を一人倒したくらいでレベルがアップする訳もないから、お互いに特殊な成長要素がある相手なのだろう。

 案外、神がそういう風に「設定」したのかもしれないね。


『わかった。イチロー兄は忙しそうだし、わたしが王都に戻ったら、それとなく護衛してあげるよ』

「すまん、助かる」


 ヒカルの申し出はありがたかった。

 魔王が「真の魔王」になって多少強化されても特に問題ないのだが、魔族の生け贄にされそうな者を見捨てるのも気分が悪いからね。

 ただ、ヒカルが王都に戻るのは少し先になるとの事だったので、それまではオレの方でシン少年周辺の動向を見守る人員を派遣しておこう。


 オレはヒカルに礼を告げ、続けて緑魔族の話を伝える。


『げっ、あの緑野郎ってば、まだ滅んでなかったの? あっちゃ~、面倒なヤツが生き残ってるなぁ』

「ヤツの擬体って任意の場所に生み出せるのか?」

『本体のいる場所にしか生み出せなかったはずだよ。わたしの勇者パーティーにいた知略担当の子が言ってた』


 なら、定期的に魔族とレベルで検索しておけば接近前に察知する事が可能だろう。


「やつの拠点ってどこか判るか?」

『前はビローホ王国に隠れてたけど、天ちゃんのブレスで都市核ごと消滅しちゃったから今は別の場所じゃないかな?』

「現在位置は?」

『えっと、今の地図がないからわかんない。迷宮都市の西北西あたり』


 エルエット侯爵領の西あたり――砂漠の端っこか。


 その後、いくつかの確認を行なって、オレはヒカルとの通話を切った。


 ボルエナンの里に戻る前に、さっきヒカルに聞いた緑魔族の過去拠点の確認に向かう事にした。

 広大な砂漠の中に用意した転移用の拠点にユニット配置で移動し、魔族やレベルで検索する。

 わざわざ足を運んだが、緑魔族が検索に引っかかる事はなかった。


 せっかくなので迷宮の別荘に寄って、朝食用のトマトを少し仕入れてボルエナンの里へと帰還した。





 朝食後にアリサやリザに本名や竜の谷での顛末を話そうと思ったのだが、朝飯前の捕り物が思ったよりも時間を食ったので、夕方に延期する事にした。

 慌ただしく話さないといけないような事柄でもないしね。


 ボルエナンの里からユニット配置で王都へ戻り、子供たちを学校に送り出す。

 オレも着替えを済ませ出かけようと馬車の準備をさせたところに、ゼナさん達が訪れた。


 今日はいつもより遅い。

 いつもなら、子供たちが学校に行く前、朝食が終わった頃を見計らってやってくるのに。


「いらっしゃい、ゼナさん。昨日はセーリュー伯に呼び出されたそうですが――」

「ごめんなさいっ、子爵様!」


 オレの言葉の途中で、ゼナさんの後ろにいたリリオが謝罪を口にする。

 何かあったようなので、応接間に案内して話を聞いた。


「――なるほど。つまり、伯爵は私とゼナさんの関係を誤解しているわけですね?」

「うん、ちょっと話を盛りすぎちゃって――」


 ふむ、誤解されるような関係なんて無いんだが……。

 魔法兵は貴重だったはずだから、伯爵からしたら自分の家臣を誑かして引き抜こうとする他領の者って事になるのかな?


「子爵様、これを」


 平身低頭であやまるリリオの横から、イオナ嬢が手紙を差し出してきた。

 封蝋の印章から見てセーリュー伯からのようだ。


「――昼食会のお誘いのようです」


 オレは目を通した手紙をゼナ隊の面々に見せ、承諾の返事を書き上げて恐縮するゼナさんに手渡す。

 手紙に書かれていた日付は明日。

 急にもほどがある。


 オレはメニューのスケジュール帳に昼食会をメモして、遅刻ギリギリで王国会議四日目に参加した。

 この会議も明日で終了。明後日から三日間は待望のオークションだ。


 ――キリキリ消化しよう!





 その日の午前の小休憩時にムーノ伯爵とニナ女史と会って、明日のセーリュー伯爵との昼食会の話を伝えておいた。


 ニナ女史の見立てによると、セーリュー市にできた新しい迷宮の話の可能性が高いとの事だった。


「個人的な家臣としてミスリル級の探索者を複数抱え、その下部組織として迷宮都市に優秀な探索者集団を抱えるアンタの協力が欲しいんだろう」


 下部組織というのが何を指すのか一瞬分からなかったが、恐らく探索者育成校の生徒や卒業生のぺんどら達の事を指すのだろう。

 オレにはぺんどら達への命令権なんてものは無いのだが、周囲はそういう風に見ているようだ。


「たぶん、その魔法兵をあんたの妾にでも与えて歓心を買おうってところだろうね」


 妻じゃなくて妾なのは爵位の問題らしい。


 ついでにセーリュー伯に変な言質を取られないように注意しろと釘を刺されたが、ニナ女史達は基本的にオレの意思に任せてくれるようだ。


 短い休みはすぐに終わってしまったので、ニナ女史達に礼を言って会議へと戻った。


 迷宮運営の協力をするのは吝かではないが、ゼナさんが政治的なコマにされるのは阻止しておきたいね。





 昼食の時にエチゴヤ商会の支配人に、シン少年に複数の監視者を付けるように命じておいた。

 監視者と言っても間者のようなハイレベルな隠密ではなく、エチゴヤ商会で調査用に雇っている探偵みたいな非戦闘員達だ。


 彼らにはシン少年の監視だけを依頼するように伝えてある。

 積極的な調査ではなく、怪しげな人物の接触がないか、怪しい監視者がいないかなどを見守ってもらうだけにしておいた。


 生け贄目的ならたとえ拉致されても、速やかに報告さえしてもらえれば救出は可能だろう。

 むしろ、拉致に黒幕が手を出してくれれば一網打尽にできて事件解決だ。


 ……少々薄情かもしれないが、今のところ友人というわけでもないしね。





 夕方、会議を終えて帰宅すると、執事から庭の罠に複数の盗賊が掛かっていたので捕縛しておいたと報告を受けた。

 ローポと無関係の盗賊のようだったが、食後にクロでアジトを急襲して一網打尽にしておこう。


 唯一の癒やしタイムの夕食の席で、子供達から学院での話を聞かせてもらう。


「ご主人様、聞いて! なのです」


 分厚いステーキ肉のお代わりを待つポチがハイテンションで訴える。


「なんだい? 言ってごらん」

「今日はせんせーの先生、大先生と訓練したのです!」

「つよかった~?」


 殻ごとエビを食べていたタマも、しみじみと頷く。


 この二人が強かったと言う相手か……。


「大先生の名前はなんて言うんだい?」

「へ~む」

「ヘイム大先生なのです」


 ――やっぱり。


 シガ八剣の「雑草」のヘイム殿の事だろう。

 たしか、この前席次が上がって、シガ八剣第二位に就いたはずだ。


「ポチがズシャッと行くと、きゅいってして、ポンと防いじゃうのです」

「うしろとったら、背中に回した剣でふせがれた~?」


 パワーレベリングなしで二人と同レベルの人だから、色々と経験を積んでいるんだろう。


「何か言われたかい?」

「遊びに来いって~?」

「良い練習になるから、暇なときは聖騎士団の訓練所に来いって言ってたのです」


 やっぱり、勧誘されたか。

 リザと違って二人は未成年の爵位持ち貴族だから、シガ王国の法だと後見人のオレの許可無く軍人にはできない。

 それでも一応心配なので――。


「訓練所に行ってもいいけど、かならずリザに一緒についていってもらう事。いいね?」

「あいあいさ~」

「はいなのです」


 ――そう言いつけておいた。

 リザには事後承諾になるが、実力が近いシガ八剣相手なら良い訓練になるだろう。


「ミーアとアリサは今日はどんな事をしたんだい?」

「う~ん、ミーアの授業の助手の他は――」

「魔法布」


 腕を組んでうなるアリサの言葉を遮ってミーアが呟く。


「あ、そうそう。銀糸で布に魔法回路の下書き刺繍をして、魔法布を作る実習をしたわ」

「へ~、エルフやブラウニー達の作るユリハ繊維の布みたいな感じかい?」


 オレの普段着に使っているユリハ繊維を挙げてみたが、アリサがフルフルと首を横に振って否定した。


「それの劣化版って感じね。刺繍の終わった布を錬金術師が作った溶液に漬けて、魔液リキッドを定着させるんだって言ってたわ」


 メッキみたいな物かな?


 オレの持つ資料を検索したら、ちゃんと該当するレシピがあった。

 最初の頃に大規模な設備が必要でスルーしたやつだ。ボルエナンの里に着いてからは、高価な素材がふんだんに使えたので忘れていた。刺繍が面倒だが、そのうち何かに使ってみよう。


「アリサ、特訓」

「え~、刺繍ってチマチマしてて苦手なのよ~」

「うふふ、私も教えてあげるから頑張りましょう」


 アリサのやつは裁縫が得意なくせに刺繍が苦手らしい。

 ミーアとルルに教えてもらって、刺繍の腕と女子力を鍛えてもらうと良い。


 なお、シロとクロウの二人は大過なく幼年学舎で過ごしているそうだ。

 なんでも、鳥好きの上級貴族令嬢が亜人嫌いの勢力から庇護してくれているらしい。


「チナ様は王女様のお茶会にも参加した事があると言っていました」

「うん、言ってた。クロウ、骨取って」

「シロ、やってあげるけど、自分でできるようにならないとダメだよ?」


 魚好きのシロが小骨を取る作業をクロウに押しつけている。

 クロウの言っていたチナという名前をマップで検索したら複数人がヒットしたが、上級貴族に分類されるのはケルテン侯の曾孫くらいだった。

 ついでに王女様の方も名前を聞いて検索したところ、禁書庫の王女の同母妹の事だと分かった。なかなか世間は狭いらしい。


 続いてルルやナナから王宮の厨房の話を聞かせてもらった。


「今日はあま~いお菓子をいっぱい作ったんです」


 王国会議が終了した明日の晩からオークション終了日まで毎夜王宮で舞踏会が開かれるそうなので、そこで披露する新作お菓子作りのアイデアを出したり、宮廷で供されるお菓子のレシピを教えてもらったりしたそうだ。


 甘いお菓子という言葉に子供達が反応する。


「マジで!」

「お土産もいっぱい貰ってあるから、ボルエナンの里に持っていって皆で食べましょう」

「おかし~」

「わ~い、なのです!」


 オレも「楽しみだ」と笑顔のルルに返しておく。


 ゼナさん達は明日も昼食会関係で来られないそうなので、リザは今日と同じくボルエナンの里でエルフ師匠達と修業をするそうだ。

「あと少しで新しい技が思いつきそうなのです」とはリザの談。


 ポチとタマも新技に興味を持ったので、少し早めにボルエナンの里に皆を送り届けた。

 さて、名残惜しいが本日の残務処理に取りかかるとするか。


 昨日放置してしまったエチゴヤ商会の出張者達や王都復興資材の回収、仮支社の設営と常駐員の派遣を一気に執り行い、たまっていたタスクを片付けていく。


 盗賊のアジトをクロで急襲した後、エチゴヤ商会のパワーレベリングも行なった。


 こちらは思ったよりも順調で、養殖した魔物達だけでレベル30まで上げられそうだ。

 いっそ、クロで接触してゼナさんやカリナ嬢あたりも30レベルまで引き上げられないか検討するのもアリかもしれない。


 ……ま、その辺はオークションが終わって、手が空いてからでいいか。


 オレは徹夜で魔族察知用のカカシを増産し、オレが寝ている間の監視の不備を補う準備を進めた。

 国王直轄領内へのカカシ設置はユニット配置で楽々だったが、さすがに精神的な疲れが溜まってきた気がする。


 明日で王国会議も終わるし、ヒカルが王都に着いたら少しは休養を取らないとね。





 王国会議最終日の午前は迷宮都市で産出される魔核コアの領地別割り当て量が下達されていた。

 事前の折衝で大方の根回しが行われていたのか、大過なく――。


「我が領地への供給量が3年間停止とは、あまりに無体ではありませぬか! これでは領地復興もままなりませぬ!」


 ――とはいかなかったらしい。


 年若いレッセウ伯が必死の形相で王や執政官に抗議をしている。


 復興に魔核をどう使うのかは知らないが、彼の領地に供給されるはずだった魔核をビスタール公爵領へ派遣する騎士団や王都の復興に回される事に不服を唱えていた。

 恐らく、根回しの時点で蚊帳の外に置かれていたのだろう。


 あまり興味が無かったので、ナナシの授爵じゅしゃくの時に使っていたサトゥー人形と入れ替わって、しばしの仮眠を取る事にした。


 おやすみなさい……。


※次回更新は 3/3(火) の予定です。


●登場人物

【イチロー】

 サトゥーの事。割と知られていないがサトゥーの本名は鈴木一郎。


【ヒカル】

 本名、高杯光子こうはいみつこ。ヒカルは徒名。王祖ヤマト(Lv89)、ミト、後輩氏にしてサトゥーの幼馴染。天竜の友人。


【ゼン】

 転生者。不死の王。ミーアを誘拐していた。故人。


【シン】

 アリサが王立学院で出会った白髪の美少年。勇者の称号を持っていた。


【緑魔族】

 黄金の猪王に仕えていた古参の上級魔族。語尾がザマス口調。擬体アバターという分身を作り出せる。


【エチゴヤ商会】

 クロが迷賊から助け出した人達を雇用して作った商会。


【支配人】

 エチゴヤ商会の女支配人。迷賊に捕まっていた貴族の娘。元探索者。


【セーリュー伯爵】

 セーリュー伯爵家の当主。30代前半。ゼナの仕える相手。


【ゼナ】

 セーリュー伯爵領の魔法兵。地味系美少女。デスマ一巻の表紙。


【リリオ】

 ゼナ隊の一員。ゼナの親友。自称美少女。漫画版デスマ第一話に登場。


【イオナ】

 ゼナ隊の大剣使い。男爵の傍系。漫画版デスマ第一話に登場。


【ムーノ伯爵】

 サトゥーの上司。勇者研究家でモフモフ好きのケモナー。


【ニナ】

 ムーノ伯爵領の執政官。「鉄血」という二つ名を持つ。


【ビスタール公爵】

 現国王の従兄弟。息子が公爵領で反乱を起こした。サトゥーを嫌っている。

 反乱鎮圧の為に国軍が派遣されている。

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