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デスマーチからはじまる異世界狂想曲( web版 )  作者: 愛七ひろ
第十三章

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13-10.捕り物

※2015/2/23 誤字修正しました。

※2015/2/26 一部文章を修正しました。

 サトゥーです。探偵と泥棒が楽しく追いかけっこするのはフィクションの中だけ。現実では複数の警官がチームを組んで犯人を追い詰めるものだと思うのです。





 夜通しでヒカルと語り、朝日と共に天竜の神殿を後にした。


 ヒカルは天竜を宥めた後で王都に来るとの事だ。


 神殿は自エリア扱いになっていないので、自身を起点とした短距離転移はともかく遠距離から神殿まで直接ユニット配置で移動するのは不可能だった。

 ヒカルの屋敷の一角に帰還転移用の刻印板を置かせてもらったので、いつでも会える。


 神殿を出る前に竜達と和解しようとしたのだが、思ったよりも怯えていて神殿に近寄ろうとしなかったので、こちらのメンタルケアもヒカルに頼んでおいた。


 いずれ日を改めて土産片手に会いに行こうと思う。


 まずボルエナンに顔を出そうか迷ったが、まだルルくらいしか起きていない時間だったので、先に王都で盗賊退治を行う事にした。


 ペンドラゴン邸にユニット配置で移動し、さっそく対魔素迷彩検知スキルを発動しようとメニューを開いたところでハタと気づいた。


 ――燃費の悪いスキルなら常時発動はしていないはずだ。


 そう思ってマップを確認したところ、貧民街の一角に普通にローポが存在していた。

 どうやら予想が当たっていたようだ。


 マップでローポのいる盗賊のアジトを調べ、ユニット配置でヤツのいる部屋へと移動する。

 直前にナナシの格好から、昨日と同じクロの姿に変える。


 ローポはベッドの上で裸の女性を両脇に置いて眠っているようだ。

 まだ、こちらに気づいていない。オレが魔素迷彩スキルや隠蔽スキルを使っているからだろう。


 女性二人も盗賊の一味らしいので、遠慮なく捕り物に移れる。


 眠ったままのローポを「理力の手」で少し持ち上げて「棘蔦足(ソーン・フット)」の蔦で作ったロープで縛り上げる。

 さすがに目が覚めたのか、野太い悲鳴を上げるローポ。

 その悲鳴に、女たちが短剣を手にベッドの上で構えを取った。


 面倒なので女達を「誘導気絶弾(リモート・スタン)」で無力化しておく。

 無力化した拍子に女達がベッドから転げ落ち、手に持っていたナイフがローポの頬を浅く切り裂く。

 昨日と違って流れた血は煙を噴き出す事なく、ベッドに赤いシミを作るだけだった。


何者なにもんだテメェ」


 ――昨日会ったばかりなのに、もう忘れたのか?


 オレはヤツの言葉には答えずに女達と同様に「誘導気絶弾(リモート・スタン)」を腹に叩き込む。

 レジストされるかと思ったが思った以上にあっけなく、ローポの状態が昏倒になった。


 ……おかしい。簡単すぎる。


 対魔素迷彩検知スキルを使ってみたところ、ローポの手首に違和感を覚えた。

 AR表示によると、「盗神の装具」という名前の認識阻害系のアーティファクトらしい。


 上手く外せなかったので、直接触ってストレージに収納した。


 ――誰だ、こいつは?


 オレがローポだと思っていた人物が姿を変える。

 レベル30ほどの髭面の中年男になった。


 どうやら、アーティファクトで偽装した替え玉だったらしい。

 偽ローポだけを残して、他の盗賊達は捕縛した上で王都の衛士達に突き出した。





 盗賊のアジトに引き返し、偽ローポを気絶から回復させて尋問する。


「さて、ローポとお前の関係を教えてもらおうか?」

「ふん、貴様なんかに話すことなんか――」


 ポチ先生とタマ先生を呼ぶのもいいが、ここは普通に脅すとしよう。

 オレは右手に持っていた魔剣で部屋にあった鋼鉄製の甲冑を真っ二つに切断する。


「四肢を失った後も同じことが言えるかな?」


 上級魔法薬があれば復元可能だが、本当に実行する気はない。


「――その血も涙もなさそうな顔は本気だな」


 どうやら無表情ポーカーフェイススキルが良い仕事をしたようだ。


「お頭を売るくらいなら、ここで殺された方がマシだ」


 偽ローポが声を震わせながら強がる。


「ローポとは長いのか?」

「ああ……オレがパリオン神国でこそ泥をやっていた頃からだから、もう10年以上か――」


 交渉スキルや尋問スキルの効果なのか、殺された方がマシと言いつつ普通に情報を漏らしている。

 どうも本人はその事実に気がついていないようだ。


「――ポルポーロの兄貴がシガ王国で大きなヤマをやるってんで、オレ達はその下準備に来たのさ――」

「ほう、蜃気楼と呼ばれる有名人じゃないか」

「へへっ、兄貴はすげぇのさ」


 偽ローポは酔っ払ったように滑らかに周辺事情を語ってくれる。

 いつの間にか「自白誘導」スキルが手に入っていた。便利そうなのでポイントを割り振っておく。


 こいつが使っていたアイテムは蜃気楼ポルポーロから預かっていた物だそうだ。


 ……待て、さっきのヤツの話が少しおかしかった。


 ローポとこいつは蜃気楼の下請けのような立場のはず。

 ローポが蜃気楼の事を兄貴と言うなら分かるが、こいつの立場なら叔父貴と言うのではないだろうか?

 習慣が違うだけかもしれないが、確認してみる。


「蜃気楼ポルポーロは叔父貴じゃなくて兄貴なのか?」

「当たり前だろ? 俺をスラムの底から連れ出してくれたのは兄貴なんだから」

「ローポじゃないのか?」

「そりゃそうだ――お頭は恩人で」

「なんの恩人だ?」

「何って……なんだろう?」


 偽ローポが怪訝そうな顔で黙り込む。

 魔族の精神魔法で記憶を操作されていた時のムーノ男爵達に似ている。


 ――危機感知が反応した。


 銀光が偽ローポとオレを狙って飛んでくる。

 オレは「理力の手」でそれを受け止めてストレージへと収納し、姿なき襲撃者を予備動作なしの蹴りで迎撃した。


「どうやって、場所を特定したザマスか?」


 オレの蹴りに吹き飛んだローポが瓦礫から顔を上げる。


 ――ザマス、だと?!


 後ろで起こった偽ローポの悲鳴を無視して、起き上がるローポに追撃の蹴りを放つ。

 両手をクロスさせた防御ごと蹴り砕き、やつを再び瓦礫の中に逆戻りさせる。


 魔素迷彩されているのか、やつの情報がAR表示されない。

 ならば、ここはハッタリだ。


「――緑の上級魔族がこんな場所で何をしている?」


 オレの言葉に能面のような顔になるローポ。

 その左腕に、偽ローポが付けていたのと同じ腕輪を見つけた。


「たかが50レベルの白髪小僧に見抜かれるとは情けないザマス」


 カエルの様な哄笑を上げるローポ改め、緑魔族にストレージから取り出した聖剣デュランダルで斬りかかる。


 もちろん、狙いは左腕の腕輪だ。


 ヤツの周りに生まれた無数の氷の刃を無詠唱の「魔法破壊(ブレイク・マジック)」で散らし、手に持った聖剣でヤツの左腕を切り裂く。

 落下する腕ごと腕輪をストレージに収納しようとするが弾かれた。


 ――ならば。


 オレは「火炎炉(フォージ)」の魔法でヤツの左腕ごと焼却する。


 余熱が生んだ爆風が盗賊の地下アジトを粉々に引き裂く。

 人殺しをする気はないので、不本意ながら偽ローポは「自在盾」と「防御壁シェルター」の魔法で守ってやった。


 驚いたことに腕輪は火炎に翻弄されながらも存在していた。

 火炎の中の腕輪を「理力の手」で捕まえて、今度こそストレージに回収する。


 そこに煙を引き裂いて緑魔族の擬体が襲撃してきた。

 その手には名前に合わせたのか緑色の魔剣が握られている。


 襲いかかる魔剣を体を反らすだけで軽々と避け、不自然な姿勢のまま聖剣を振り下ろしてヤツの体を真っ二つに切り裂く。

 人間にしか見えない相手を斬るのは抵抗があったが、中身が魔族ならヘタな手加減は無用な隙を生むので心を鬼にした。


 昨日と同じように地に落ちたヤツの血液が白煙をあげる。

 白煙の隙間から真っ二つに分かれた擬体が立っているのが見えた。見た目が人間なだけにシュールだ。


 崩れゆく擬体に視線をやると、ヤツの情報がいつものようにAR表示される。


 名前が「ローポ(偽名)」、種族が「人族(魔族)」になった。

 どうやら、腕輪無しでも偽装はできるようだが、素の状態ではオレのメニューを欺く事はできないらしい。


 やつが黒い塵となって消える前に、AR表示される情報を記録する。

 変装や隠蔽、偽装などのスキルや「精神魔法」「氷魔法」が使えるようだ。


「――前座は消えるとしよう。殿下の即位と共に我らは戻ってくる。束の間の平和を享受するがいいザマス!」


 そんな捨て台詞を残して擬体は完全に消え去った。


 ……どうやら、感情が高ぶると語尾がごまかせないらしい。


 マップから擬体のマーカーが消滅している。

 擬体を消されると死亡と同じ扱いになって、マーカー一覧から消えてしまうようだ。


 確認したところ、緑魔族や偽ローポから回収した「盗神の装具」という腕輪は、三つ一組の装備品らしい。

 認識阻害や自情報操作に隠蔽といった機能に加え、装備した者の位置を交換するという限定的な転移の能力まであるようだ。


 ダメ元で最後の一つを検索したところ、王都外縁部の孤児院に所有者がいる事が判った。

 さて、朝飯前にこっちも片付けますか――。





「少年。そのバンダナは君の物か?」


 オレは孤児院の井戸で水を汲む白髪の少年に問いかけた。

 その少年はシンという日本人のような名前をしていたが、顔立ちは白人種系だった。


「――そうだ」


 少し口ごもって、バンダナに手を当てるシン少年。

 このバンダナが「盗神の装具」の最後の一つだ。額に当たる部分に閉じた目の意匠を施されている。


「どこで手に入れた?」

「この前の魔物騒動で瓦礫の下敷きになって死んだ乞食の爺から貰った」


 ……ふむ、その爺さんが元の持ち主か。

 いや、シン少年自身が偽装している可能性もある。


「少し借りるぞ」

「あっ――」


 シン少年のバンダナを「理力の手」で奪い取る。

 腕を組んだままのオレに取られるとは思わなかったらしく、シン少年が驚きの声を上げた。


 バンダナを奪っても彼の名前や種族は変化無し。レベルも3のままだ。

 変わったのはスキル欄と詳細欄の二箇所。スキルにあった「片手剣」が消えて「苦痛耐性」スキルが現れ、詳細情報が空欄になっていた。


 おっと称号も増えているようだ――これはっ?!


 オレは無表情スキルで驚きを封じ、抗議する少年に質問する。


「この孤児院に来る前は何をしていた?」

「知らない」

「知らない事はないだろう?」

「本当だ。ここの院長に拾われる前の記憶がないんだ」


 シン少年がキレ気味に叫ぶ。


 見たところ、嘘を言っている様子はない。

 詳細情報が空欄な事から考えて、記憶喪失というのは事実なのだろう。


「勇者、魔王、殿下――今言った単語に聞き覚えは?」

「勇者や魔王は孤児院に来るおばさんから聞かせてもらった事がある。デンカってのは学院の王女とか小太りの男がそんな風に呼ばれていた」


 シン少年に詳しく聞き直したところ、メネア王女と庶子のソウヤ君の事らしい。

 そういえば、アリサから聞いた話にシン少年の名前も出ていた。


「最後の質問だ。死んだ乞食との関係は?」

「よく俺を見つけるたびに訳の判らない話をする爺だった」

「どんな話だ?」


 シン少年の方は爺さんを嫌っていたのか、うんざりした顔をしている。


「ジユウがどうとか、ソクイがどうとか、ニエがどうとか、さっぱりだ」


 自由に即位に贄か。

 その爺さんは自由の光の構成員だったのかもしれない。


「……な、なあ、そのバンダナが欲しいんだったら、ど、銅貨いや、銀貨一枚で売ってやるよ」


 シン少年がそう切り出してくれたのは渡りに船だ。

 形見の品を取り上げるのは気が引けていたのだが、金で解決できるなら話が早い。


 何せ、このアイテムは放置するには危険すぎる。


「良かろう、買い取ろう」


 オレは銀貨と一緒にストレージの中にあった黒いバンダナを手渡す。


「……これは?」

「代わりに巻いておけ。安物だが無いと寂しいだろう?」

「あ、ああ……貰っておいてやるよ」


 シン少年は無愛想に振る舞おうとしているが、その口元が綻んでいる。

 どうやら、お手製の認識阻害・・・・の黒いバンダナは気に入ってくれたようだ。


「さらばだ。少年」


 オレはシン少年――勇者・・シンに背を向けて、その場から立ち去った。


 そう、彼には「勇者」の称号が隠されていたのだ。

 認識阻害のバンダナは彼の称号を隠す為に渡しておいた。


 次に会った時にでも、訓練用の木聖剣を与えてみるのもいいかもしれない。

 彼の事は本物の勇者であるヒカルに相談してみるとしよう。


※次回更新は 3/1(日) の予定です。

※2015/2/26 ユニット配置の移動範囲についてわかりにくいようだったので、少し冒頭の文章を変更しました。


●登場人物

【ヒカル】

 本名、高杯光子こうはいみつこ。ヒカルは徒名。王祖ヤマト(Lv89)、ミト、後輩氏にしてサトゥーの幼馴染。天竜の友人。


【ポルポーロ】

 蜃気楼という二つ名を持つ。自由の光の構成員。神聖魔法を使う高レベル斥候。


【シン】

 アリサが王立学院で出会った白髪の美少年。勇者の称号を持っていた。


【メネア】

 大陸東方部の小国ルモォークの第三王女。桃色の髪の美少女。17歳。


【ソウヤ】

 アリサが王立学院で出会った黒髪のぽっちゃり少年。前シガ国王の庶子。


【殿下】

 幾度も登場しているが正体不明。


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― 新着の感想 ―
[一言] 敵対勢力にパリオン由来が多いのが気になる。 パリオンは、勇者の異世界転移に関わり、勇者の守護神のはず? 一方で、アリサ達異世界転生にも関わっている神が居て、転生者から稀に魔王へ堕天する者がい…
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