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デスマーチからはじまる異世界狂想曲( web版 )  作者: 愛七ひろ
第十二章

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12-21.王都の長い夜(2)

※2014/10/06 誤字修正しました。

 サトゥーです。堰き止められた川が限界を迎えて鉄砲水を生むように、限界を超える瞬間まで静かな事は多々あります。でも、後になって考えると、様々な予兆が存在していたと気付くのです。





 オレはジュレバーグ氏を追い抜き、第十二騎士団の部隊長として訪れた元迷賊王のルダマンの前に進み出る。


「やあ、ルダマン。犯罪奴隷部隊から転職かい?」

「――ちっ、『怪我無し』のペンドラゴンか。あんたもシガ八剣候補だったとはな……。道理でこの大惨事で怪我人が見当たらない訳だぜ」


 オレが気さくに話しかけたのにルダマンは舌打ちして顔を歪めた。

 ちなみに、怪我人が見えないのは、使用人の中に治癒魔法が使える人間がいたからと魔法薬を配ったからだ。


 ルダマンが頭を掻いていた手を何気なく上げて、前に倒す。


 それと同時に、第十二騎士団の面々が戦闘行動に入った。

 大盾を持った男たちが壁を作り、その間から突き出された長柄の火槍から「火球ファイア・ボール」が撃ち出される。

 彼らの背後からは呪文の詠唱まで聞こえてきた。


 背を低くしたルダマンが、オレの横を駆け抜けようとするのを足を引っ掛けて転ばせる。

 だが、前転の要領で器用に身体を起こしたルダマンが、無手のジュレバーグ氏に斧を振り上げる。

 ジュレバーグ氏が斧を避けようと回避行動を取るが、魔剣による弱体化が残っている為、普段の動きとは程遠い鈍さだ。


 だが、その狂刃が届く事は無い。


 赤い魔刃槍を構えたリザが割って入る。

 オレはそれをレーダーの光点の動きだけで捉え、飛来する「火球ファイア・ボール」に足元の瓦礫を、ひょいひょいと投げて爆発させていく。


 火球の軌道から考えて、狙いはジゾンの口封じだったようだ。

 あわよくば治療のため鎧を脱いでいる聖騎士達やジゾンの魔剣の影響で本調子じゃないシガ八剣のお侍さんも一緒に始末といった感じだろう。


「…… ■■■ 『光身の加護(ライト・ブースト)』」


 光魔法の身体強化を唱え終わった探索者のジェリルが、魔剣を片手に賊を始末しに駆け込んでいく。

 彼も迷宮都市でルダマンの事を見知っていたらしく、リザがルダマンの事を報告してきた時点で詠唱を始めていた。


 ジェリルが前方の盾兵を飛び越えて、火杖を構えた杖兵を蹂躙する。

 それと時を同じくして賊の後ろの呪文詠唱が止まった。どうやら、逃走した従魔の操者を追っていたシガ八剣の二人が後ろから襲撃したようだ。


 三人の高レベル剣士達の活躍で、第十二騎士団を騙った賊は瞬く間に始末されていった。


 もちろん、ルダマンはリザの魔刃槍に手足を貫かれて捕らえられている。

 やはり、魔刃槍では手加減が難しいのか、ルダマンの片腕が千切れそうだ。


「バカな、前は互角だったのに……」

「ご主人様の薫陶と修業の成果です」


 ルダマンの悔しそうな声を、リザが誇るでもなく淡々と受け流す。


 そんな折に、怪しげな光点の動きがレーダーに映った。

 庭の奥、隣の屋敷との境付近だ。


 どうやら犯罪ギルドの人間が五人ほど待機していたようだ。恐らく混乱に乗じて暗殺でもさせる為に伏せてあったのだろう。

 あっけなくこちらの戦いが終結してしまったので、出るタイミングを逃してしまったようだ。

 こいつらの始末は他の人に任せよう。

 周囲を見回すと、シガ八剣の「草刈り」のリュオナ女史が手持ち無沙汰にしていたので、彼女に振る事にした。


「リュオナ様お耳に入れたい事が――」


 オレが隣家との境から不審な気配がすると告げると、獰猛な笑みを浮かべて二つ返事で調査を請け負ってくれた。


 捕らえた賊の尋問は、シガ八剣のジュレバーグ氏とヘイム氏の二人が率先して行なっているようだ。

 そちらは彼らに任せて、オレはオレにしかできない事をしよう。


 彼らが所属を騙っていた第十二騎士団と「自由の光」の人間だけ残してマップを確認する。


「自由の光」の内、レベルの高い者達は上位三名と一緒に貴族の屋敷に潜伏したままだが、10レベル以下の者が第十二騎士団と一緒に行動している。


 ――いや、一緒じゃない。


 マップを拡大すると「自由の光」の構成員は地下道にいた。第十二騎士団の面々は地下道の入り口で待機のようだ。

 オレは小用だと告げて庭の木陰に入り、「遠見(クレアボヤンス)」の魔法で順番に構成員の様子を見る。


 構成員達は足早に地下道を出口に向かって移動中のようだ。

 彼らが移動してきた方向を確認したが、特になんらかの魔法装置が設置されている様子も無い。

 下水の上をスライムがぷかぷか浮いているが、その様子にも変化はない。


 さらに地下道の視線を進ませると、一つの真新しい死体があった。

 死体で検索すると地下道に複数の遺体が見つかった。どの遺体も刃物でめった突きにされ苦悶の表情で事切れている。

 血の匂いに引かれたスライムや虫や鼠にたかられて目を背けたくなるような凄惨さだ。


 どの遺体も全て貧民街の者か奴隷のようなみすぼらしい服装をしている。

 年齢や性別はバラバラで特筆すべき点はない。事前に暴行を受けていたのか、青黒いアザを持つ者が多かった。


 そこにアリサからの「遠話(テレフォン)」の着信が届く。


「どうした、そっちでも何かあったのか?」

『そ、そっちでもって、何かあったの? 怪我は無い?』


 迂闊な一言で心配させてしまったアリサに、言葉を足して先を促す。


「こっちは二人共大丈夫だ、それより何があった」

『お城のセーラから手紙が届いたの。持ってきた侍従が『大至急』って言ってるけど、どうする?』


 ――セーラさんから?


「アリサ、すぐに開封して読んでくれ」

『へ? いいの? ちと・・待って。よし、読むわよ――「王都に悪夢が訪れ、天より黒き災いが舞い降りる」よ』


 これだから預言は……。

 もう少し分かり易い文章で頼む。


 王都には魔王顕現の預言は無かったはずだから、上級魔族あたりの出現ってところか。

 だが、地下からじゃなく。天からなのか。


 ――「今度の敵は神だ」とか展開に困ったインフレバトル漫画みたいなのは止めてくれよ?


 神託を聞いていなかったら後手に回るところだ。この件が終わったらセーラに何かお礼をしないとね。


 今日の事とは書いていないが、ヤバそうな気配がひしひしとしている。のんびりしていて手遅れになって後悔したくない。

 何が起こっても対処できるように準備だけは進めておくか。


「アリサ、皆に武装をするように言ってくれ。今日は何が出るか判らないから一番良い装備にしてくれ」

『良い装備って、秘匿装備も許可って事?』

「ああ、頼む。正体を隠すマスクとか仮面もちゃんと装備しろよ」

『おっけー!』


 よし、これで複数の魔王が襲ってこない限り大丈夫だろう。





 オレはジュレバーグ氏に装備を取りに自分の屋敷に戻ると伝え、暇乞いを済ませた。

 助け出したメイド達からキラキラした目で礼を言われたが、鼻の下を伸ばしている場合でもないので簡単な挨拶を交わして立ち去った。


 館に戻ったオレはクロに着替えてエチゴヤへ用事を済ませに向かう。

 リザは装備を整える為に皆のいる部屋に行かせた。


「ティファリーザ、最上階の指揮室を使えるようにしておけ。支配人はいるか?」

「畏まりました。支配人は御自分の執務室にいらっしゃると思います」


 オレは支配人を連れて地下金庫に向かう。


「この広さなら大丈夫だな」


 オレは地下金庫にある戦闘用以外の物資をアイテムボックス経由でストレージに回収する。

 戦闘用の物資も部屋の隅に纏めておいた。


「あ、あのクロ様、いったい何が?」

「万が一の場合は、近隣の住民をこの地下金庫に匿う。お前にはこの部屋のゴーレムの指揮権を預ける」


 オレは支配人にそう告げて、オリハルコン・ゴーレムに命令を出せる「指揮棒コマンド・ロッド」を預ける。


 ここなら上級魔術の直撃を受けても一撃くらいは耐えてくれそうだ。





 もう連絡が届いている気がするが、報告の為に、ナナシに着替えて王城へ帰還転移する。

 今回飛んだ先は地下禁書庫ではなく、王の執務室に程近い王族専用の庭園の一角にある東屋の一つだ。

 ここは陛下から転移専用の場所として提供してもらっている。


 国王の執務室に行くと、陛下と宰相が何かの打ち合わせをしていた。


「陛下、先触れアポ無しで悪いけどいいかな?」

「これはナナシ様」


 もう知ってるのか。話が早いのはいいけど。

 陛下の傍らに立っていた宰相が、室内の文官達を下がらせる。


「もしや、ジュレバーグ邸の一件ですかな?」

「やあ、宰相。その件もあるけど、追加情報があるんだ――」


 オレは第12騎士団が魔王信奉者の「自由の光」と行動を共にしている事、ジュレバーグ邸を空から襲ったのが「自由の光」の構成員である事を伝えた。

 逃走した従魔の操者達は尋問を受ける前に自害していたらしいので、これらの情報を聞いた宰相が驚いていた。


 さらに、「自由の光」の構成員が王都の地下道で貧民を殺害して、なんらかの儀式の贄にしている可能性を伝えた。


「さすがはナナシ様。こちらからもお伝えしたい事がございます――」


 宰相が伝えてきたのはセーラが教えてくれた神託とほぼ同じ物だった。

 セーラからだけでなく、王都の複数の神殿から似た内容の報告が届いたらしい。


 ただ、パリオン神の老巫女からだけは「災いは桜のもとにあり」と少し違う預言が届いたそうだ。

 ふむ、桜のもとというと王城かな?


「じゃ、王都に上級魔族とか国軍の手に負えない大型の魔物が出現したら、速やかに避難するか守りに徹するように通達しておいて。なるべく被害が出ないようにサックリと倒すから。ヘタに手を出して死者を増やさないようにしておいて」

「御意のままに。宰相、『都市核シティー・コア』の魔力残量はいかほどか」

「低下していた源泉からの魔素マナ供給量がここ数日で改善しておりますので、広域の儀式魔法はともかく、王城の守護ならば問題ありません」


 オレの言葉に陛下と宰相が情報を確認しあう。


 ……というか「都市核シティー・コア」ってなんだ?

迷宮核ダンジョン・コア」とかみたいな物なのだろうか?


 ま、そんな話は後で聞けばいいか。


「じゃ、なるべく犠牲の少ない方向でよろしく」


 オレはそう告げて王城を後にした。





 ジュレバーグ邸が襲われてから30分も経たないのに、王都の3箇所に例の赤縄模様の魔物が出現していた。

 いつもと違うのは、どの魔物もレベル10~20程度の弱い個体だった事だろうか。

 そのお陰で、巡回の騎士達が手際よく退治している。


 オレは自分の屋敷に戻ったあと、口調だけクロに変えて「遠話(テレフォン)」の魔法で工場長のポリナに地下壕に避難するように通達する。


「はい、了解いたしました。工場の設備類はいかが致しましょう?」

「設備類はそのままでいい。工員だけでなくその家族も避難させろ。地下壕に余裕があればポリナの判断で周辺住民を受け入れても構わない」


 ネルに連絡を忘れたが、ポリナが伝えてくれるだろう。

 アオイ少年は回転博士と一緒にエチゴヤの研究室だから、支配人あたりが避難誘導するだろう。


 続いて王都地下のオーク達にも「遠話(テレフォン)」の魔法で連絡する。

 今度はナナシの口調に変える。緊急時だと切り替えが面倒くさい。


「リ・フウ、王都に魔族が出現するかもしれない。安全な避難場所があるなら今のうちに避難してくれ。転移門が使えるならそっちの方が良い」

『無理を言うな。転移門は起動に3日はかかる』


 転移門にそんな制限があったのか。


『それに今いる場所以上に安全な場所はないぞ。でなければ子供らを育てる事もできん』

「なら、集落の入り口にバリケードでも作って篭っていてくれないか? 最長で三日ほどだ」

『分かった。ナナシの言葉を無下にはできん。我らに手伝える事はないか?』


 オレはマップを確認して、例の贄らしき遺体のあった場所を確認する。

 二箇所ほどリ・フウの集落から近い場所がある。彼らに頼んで焼いてもらうか。


「――頼めるか?」

『任せておけ。ヘラルオンの神官もいるから浄化の儀式もしておこう』


 オレはリ・フウの頼もしい言葉に感謝の意を伝え通話を切った。

 事件が片付いたら、酒と料理でも差し入れに行こう。





 通話を切った、その時――。


 足元から湧き上がるような違和感を覚えた。


「にゅ!」


 同じく異変を感じたタマが尻尾の毛を逆立てて、オレの身体を駆け上がってくる。

 鎧の突起がチクチクと痛いからヤメテ。


「何か気持ち悪いのです」

「サトゥー」


 ポチとミーアも異変を感じたようだ。

 オレは急いでマップを開く。


 次々と王都に赤い光点が生まれていく。

 ステータスを見る限りでは、どれも赤縄模様の魔物達だろう。


「見て! 窓の外!」

「マスター、上空に魔法陣らしきモノが出現していると報告します」


 アリサとナナの報告に窓の外を見渡す。

 王都全体を覆うような巨大な魔法陣が出現していた。


 どうやら、異変が本格化したみたいだ。


 ――ナナシになって、さっさと潰しに行きますか。


※次回更新は 10/12(日)の予定です。

 サトゥー無双編の前に王都の人々の視点を挟む予定です。


※都市核については、6章の最後にある「幕間:領主の秘密」をご覧下さい。







↓↓↓ちょっとネタバレ






※今回初出の「都市核」について

 特に伏線というわけでもないので、少し補足。王都編後半でも説明する予定です。

「都市核」は神代の昔に作られたアーティファクトです。

 基本的に各都市の地下に埋設され、源泉と接続されています。

 各地の領主が「特別」なのは、ダンジョンマスターの都市版のような地位にあるからなのです(セーリュー市で上級魔族の魔法攻撃を防いでいたのもこの都市核の機能です)。

 本来はムーノ編の最後で出す予定だったのですが、書き忘れてそれっきりになっていました。

 年末に時間が作れたらムーノ編の最後にエピソードを追加したいですね~



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