12-17.事件の背後で蠢く者
※2014/9/7 誤字修正しました。
サトゥーです。人が二人いると争いが起きると何かの本で読んだ事があります。争いを避けられないのなら、せめて人死にがでないような方法を選んでほしいものです。
◇
「こんばんは、陛下。王都が騒がしいけど何かあったの?」
オレは夜も更けた頃に、ナナシの格好で王城に訪れていた。
「これはナナシ様、もうお気付きでしたか。お恥ずかしい話ですが、ビスタール公爵領で叛乱が発生いたしまして――」
ああ、そっちの件を忘れてた。
そういえば飛空艇を狙った相手って公爵の身内だったっけ。
陛下の話によると、飛空艇襲撃事件の発生直後に緊急用の通信魔法道具でビスタール公爵領に連絡を取ったそうなのだが、まったく応答がなかったらしい。
そこで、近隣の貴族達に調査を依頼したところ、ビスタール公爵の嫡男がビスタール公国の樹立を宣言して、調査に向かった貴族達を領外へ追い返したそうだ。
まだ何日も経っていないのに、素早い事だ。
たぶん、調査に鳥人族とか飛行型従魔でも使ったのだろう。
そして、それを伝えられたビスタール公爵が陛下に国軍の出動を嘆願し、常備軍のうち演習に出かける予定だった三個騎士団が派遣される事になったそうだ。
神速の行軍で有名な第三騎士団が明日出発し、第二、第六の二つの騎士団が5日後に王都を出発する事に決まったらしい。
鳥人族や飛竜騎士の先遣隊が既に出発した後との事だ。
「ふーん、大変だね」
オレは気のない返事を返しておく。
悪いけど、人間同士の戦いに参加するつもりはない。
「『魔王の季節』に人族同士が争うなど、私の不徳の致すところでございます」
そういえば、この時期に人間同士の争いはほとんど無いんだっけ。
大陸西部でも戦争が起こりそうだっていうし、異世界でも人間は戦争好きみたいだ。
陛下が深く頭を下げて不始末を詫びている。
オレに詫びる必要はないんだが、オレを王祖と勘違いしている以上仕方ないか。
レーダーに宰相の青いマーカーが見えたので、陛下に頭を上げてもらった。
◇
宰相から例のスライムから採取した部位の解析報告書を受け取る。
まだ半日しか経っていないのに、もう結果が出たのか。
――王立研究所の人って有能だな。
書類に軽く目を通す。
要約によると、スライムが魔人薬の濃縮とキャリアーの二つの役割を果たしていたらしい。
だが、所長が言っていたように、このスライムを食べた普通の生物が濃縮された魔人薬の影響で死ぬ事はあっても、魔物に変化する可能性は低いと結論付けられていた。
一応、実証実験の為に、スライムや地下道の鼠などを捕獲して、研究所の郊外実験棟で蠱毒のように捕食し合わせているそうだ。
実験中は聖騎士団から数名ほど常駐させているらしいので、安全の方は大丈夫だろう。
解析報告書と一緒に、所長や秘書の調書まで入っていたので、興味本位で目を通してみる。
……これは?
秘書が書類を間違えたと言っていた時にあまりのお粗末さに呆れたが、どうやら裏があったらしい。
宰相さんが書類に書かれていない事も補足してくれた。
「魔王信奉者が事件の背後にいるようでございます」
秘書の恋人だった騎士が、例の「自由の翼」の類似組織と関係を持っており、金欲しさに魔人薬を組織へ横流しする為に書類を誤魔化させたらしい。
かなりの量の魔人薬が処分前に研究所から持ち出され、組織の手に渡ってしまったそうだ。
貿易都市で見つかった魔人薬とかの出所が、研究所から持ち出された物だった可能性が高い。
前に迷宮都市で聞いた話では王都に潜伏する「自由の風」は公都の「自由の翼」と異なり、魔王崇拝者というよりは「お気楽オカルト同好会」のような存在だったはず。
ならば、公都から流れてきた「自由の翼」の残党か大陸西部に勢力を持つ「自由の光」の工作員かのいずれかが怪しいだろう。
マップ検索で両者の所在を調べて、宰相に伝えておく。
「……所在、でございますか?」
「ああ、部下が調べてくれていたんだよ」
今調べたと言っても信じられないだろうから、そういう事にした。
宰相と陛下が何やら「さすがは――」とか称賛していたが、追加の情報を調べるのに集中して聞き流す。
残党のレベルは大した事がないが、「自由の光」にはレベル40台の斥候系のスキルを持つ魔法使いがいるので注意が必要だ。
「自由の光」には他にもレベル30前後の「召喚魔法」を使う魔法使いや調教系スキルを持つ従魔士がいる。
スキル構成的に、彼らが事件の真相を知っている可能性が高そうだ。
「――注意するのは、今言った三人だよ。特に斥候相手には通常の衛兵だけでなく、シガ八剣あたりの戦闘力の高い人間も混ぜた方がいいかな」
「御意」
宰相がオレの忠告に深々と感謝の意を表す。
クロで捕縛に向かってもいいが、潜伏場所からして貴族の屋敷に客人として滞在していそうなので色々と面倒そうだ。後は宰相に任せよう。
斥候系のヤツだけは逃げられそうなので、マーキングしておいた。
魔王信奉者の話で少し横道にそれたが、横流しをした騎士の出自に少し気になる点があった。
例の「迷宮都市の魔人薬密造騒ぎ」の黒幕とされたケルテン侯爵の遠縁にあたる家の出身らしい。
宰相によると、ケルテン侯爵は魔人薬密造騒ぎの時に「反逆」の疑いで捕縛された為、審議官による尋問が行われて魔人薬と無関係だと証明されているそうなので、注目するほどの情報でもないか。
その時の審議官が、今回のビスタール公爵領の叛乱に関わる家の出身なのが少し気になるが、陰謀論でもあるまいし、全ての事件が関係している訳でもないはずだ。
◇
エチゴヤの屋敷に帰還転移後に、イタチの帝国にいる勇者ハヤトに定期連絡を取ったが、出たのは留守番役のノノという女性だった。
「――じゃ、ハヤト達は迷宮の奥に魔王を追いかけていったのかい?」
「そう。今度こそ、ハヤトは魔王を倒す」
逃げる魔王っていうのも珍しい。
今までは死に掛けても復活するような、戦闘狂の魔王ばかりだったもんね。
「そっか、優勢ならいいよ。通信機を拠点に設置しておくから、ハヤトに何かあったらいつでも連絡を送って」
「感謝する、勇者ナナシ」
「うん、じゃーねー」
ハヤトと相性の良い魔王みたいだし、ハヤトやその仲間達なら油断なんてしないだろうから、きっと退治してくれるだろう。
もし、王国会議の後のオークションが終わっても、魔王を捕捉できないようなら新魔法の実験名目で魔王探索だけを手伝いに行くとしよう。
オレは「理力の手」でアンテナに相当する通信魔法道具の受信性能拡張器をエチゴヤの屋根に備え付け、通信魔法道具の本体をティファリーザの執務室の本棚に設置した。
常時待ち受けにするには動力源が足りないので、賢者の石を使用した超小型の魔力炉を本体の裏に置いておく。
書類から顔を上げたティファリーザが、感情の読めない透明な視線でこちらを窺っている。
「クロ様、それはなんの道具でしょう?」
「ああ、今から説明する。この道具は――」
ティファリーザに勇者ハヤトとの連絡用の魔法道具である事を説明し、その事はティファリーザと支配人以外には秘密にするように言い含めた。
送信機能はロックして、受信時のみ通話を可能にしておく。
「向こうから何か連絡が届いたら、緊急報知用に渡してある魔法道具の三番を押して連絡しろ」
「畏まりました」
緊急報知用の魔法道具「信号棒」は、シグナルの魔法を利用した近距離用の信号発信用の道具だ。
迷宮の別荘に設置した大型の物と違って信号の到達距離が短い。
オレが王都にいないと届かない上に、地下道や禁書庫あたりだと恐らく信号が届かない。
エチゴヤの屋敷には迷宮都市との通信用の大型の通信魔法道具もあるが、こちらは一度使うと次のリチャージが面倒なので、普段は携帯サイズの「信号棒」を使わせている。
◇
翌朝、オレはオーユゴック公爵との朝食会にやってきたのだが、なぜか場所が公爵の屋敷ではなく王城の一角にある会食場だった。
嫌な予感がしたので、公爵の現在位置をマップで調べる。
――やっぱりか。
しばらくして、王城の使用人が公爵の到着を報せてくれたので、彼を出迎えるべく入り口の扉近くで待機する。
「待たせたな、ペンドラゴン卿」
「いえ、私も先ほど来たところにございます」
恋人同士の会話か! と突っ込みたいところだが、オレの意識は公爵の後ろから来る人物に向けられている。
「貴殿がペンドラゴン卿か、若いな」
オレは膝を突き臣下の礼で国王陛下を出迎える。
昨晩もナナシで会ったところだから、普通に王様している陛下に会うと何か変な感じだ。
そういえば、公爵とも初めて会った時に「若い」って言われたっけ。
国王の後から入ってきた侍従さん達が、白い箱をテーブルの上に置いて退出していった。
部屋の中に残ったのはオレと国王と公爵の三人だけだ。
「その箱を開けよ」
陛下の指示で箱を開けて中に入っていた「聖剣クラウソラスの偽物」を取り出す。
オレは「無表情」スキルを無効にして、普通に驚きの表情を出した。
「こ、これは、もしかして――」
オレがナナシと同一人物だとは思われていないだろうが、これを持ってきたって事は……。
「ペンドラゴン卿、この聖剣を使いたくはないか?」
予想通りの陛下の言葉に、一呼吸溜めてから返事をする。
「こ、この剣を私に……。いいえ、私には過ぎた剣です」
オレは悔しそうな表情を作って首を振る。
確かにオレが使えば偽物だと見抜く人間はいなくなるだろうけど、自動的にシガ八剣入りが確定してしまいそうだからね。
「僭越ですが、シガ八剣のヘイム様やバウエン様の方が聖剣の力を十全に揮われるに違いありません」
オレの返答に、陛下の視線が公爵の方を向く。
「つまらん、貴公の言っていた通りの回答か」
「今時の若者にしては少々野心が足りませんが、今回の件では適任でしょう」
「うむ、ニナやレオンも勧めておったからな」
レオンって、確かムーノ男爵のファーストネームだっけ。
まったく、何か企んでいたなら先に教えておいてほしいものだ。
朝食が始まってからようやく「今回の件」に触れる会話になった。
「シガ八剣には魅力が無いか?」
「いいえ、そんな事は――」
その質問にハイとは答えられないでしょ。
「ニナが言うには貴殿は世界を見て回るのが目的だそうだな?」
「はい、世界は広うございますから」
地球と違って未知の場所が山ほどあるし、この世界には旅した気分になれる「CooqleMap」やロードビューとかが無い。
何より、311レベルのお陰で安全に旅ができそうだしね。
陛下と公爵は何やらオレを眩しそうに見つめた後、重々しく頷いた。
「貴殿がシガ八剣を望まないのは分かった。候補から外すように言っておこう」
よく分からないが、厄介ごとから逃れられたようで良かった。
最後にさらに変な質問をされた。
「迷宮都市からの空の旅は楽しかったか?」
「はい、少々波乱万丈でしたが、地上からは見えない様々な景色が堪能できました」
オレの答えに満足したのか、陛下が深く頷いて退出を許可してくれた。
結局、「今回の件」が何だったのかは「王国会議を楽しみにしておれ」という不安になる回答だけで明かされなかった。
話の流れからして、悪い話ではないだろうから王国会議を待つか……。
意に沿わない事なら、サトゥーの人脈かナナシから働きかければ良いだろう。
ちなみに朝食会のメニューは、ふわふわのロールパンに半熟の目玉焼きと新鮮なサラダ、それから厚切りベーコンを焼いた物だった。スープ類はなく、柑橘系のフレッシュジュースが付いていた。
どこかのホテルみたいに何の変哲もないのに、どの料理も絶品だった。さすがは王様の料理人だけはある。
帰ったら再現して皆にも食べさせてやろう。
◇
朝食後、件の横流し騎士が獄中で毒殺されたとエチゴヤ商会経由で聞かされた。
それにしても、一連の事件を起こしている連中の目的が見えなくてモヤモヤする。
国家転覆を目指しているにしてはお粗末だし、テロにしては狙う場所が意味不明だ。
牢屋に、噴水に、下町に、貴族街。
オレが見落としている何かがあるのだろうか……。
※次回更新は 9/14(日) です。
ようやく10章や11章で出していた伏線を回収できました。
いよいよ明日は王国会議前夜祭。明日は何時来るのだろう……。







