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デスマーチからはじまる異世界狂想曲( web版 )  作者: 愛七ひろ
第十二章

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12-15.王立研究所の不始末

※2014/08/26 誤字修正しました

※2014/09/12 一部改稿しました。

 サトゥーです。日本でも不法投棄は問題になっていましたが、異世界でもやっぱり問題の様です。中にはシャレにならない不法投棄もあるようで……。





「で、では、魔人薬の処分を出入りの業者にやらせたと申すのかっ!」


 宰相の部下が王立研究所の所長に雷を落とす。

 オレもその横で開いた口が塞がらない気分だ。


 翌日の朝から、王立研究所の査察に来た宰相の部下に混ざって、オレはクロの格好で事の経緯を見物していた。


「い、いえ。私どもが処分を任されたのは期限切れの戦意高揚薬のはずでございます。まさか、魔人薬などのような危険薬を外部の者に任せたりなど……」


 流れる汗を拭う所長は本当に魔人薬だとは知らなかった雰囲気だ。

 一方で、彼の背後に立つ秘書らしき女性の顔色が青い。オレは宰相の部下の注意を秘書に誘導する。


「そこの女、何か知っていそうだな。素直に話すなら、反逆罪まではいかぬように宰相殿に口を利いてやっても良いぞ」

「……は、反逆?! そ、そのような、めっそうもない」


 蒼白な顔色で床に膝をつく秘書。

 宰相の部下の連れてきていた審議官による尋問で、所長と秘書から事情を聞きだす事に成功した。


 あきれた事に、秘書のミスで「戦意高揚薬」と「魔人薬」の処分手続き書類が入れ違いになっていたらしい。

 本来なら酸に混ぜて成分を破壊した後に下水道に流されるはずだったらしいが、「戦意高揚薬」に間違われた為に水に溶かしただけで下水道に捨てられたそうだ。


「――で、ですが、下水に流されたとしても、魔物に変じるほどの摂取量になる事はありえません。『魔人薬』を経口摂取しても、魔物化の症状が出始めるまでには数十度の摂取が必要となります。今回の魔物騒動は別の原因があるのではないかと愚考するのですが……」

「戯言を。――連れていけ」


 所長がそう強弁するが、宰相の部下はにべもなく切り捨て、宰相府の衛兵達に命じて二人を連行させてしまった。向こうで尋問の専門家に任せるらしい。


 宰相の部下が連れてきていた下級官吏に実際の処分所を視察するように命じていたので、オレもそれに便乗してついていく事にした。





「ゴミの処分方法だか? お偉い文官様やお貴族様が気にするようなこっちゃねぇですよ」

「聞かれた事に答えろ」


 下級官吏がボロを着た下男を問い詰める。

 この男は所員ではなく、実験動物の処分や汚物の処理をする為に下町の貧民街から連れてこられた男達だ。


 オレ達は下男に案内されて、投棄場所へと案内された。


 そこはのっぺりとしたコンクリートの様な質感の円筒形の部屋だった。

 部屋の中央には、床面に直径5メートルほどの円形の穴があり、そのまま垂直に10メートルほど下の水面まで続いている。


「あんまり近寄ると危ねぇです。前にも薬を処分した時に新入りが落っこちてスライムの餌食になりやしたから……」


 ――スライム?

 近くの地下道にはいるが、この直下にはいないようだが。


「あんれぇ? 先客だか? ゴミ捨ててもええだか?」

「文官様、良かですか?」

「後にせよ――」

「待て、構わぬ捨てさせよ」


 下級官吏の言葉を遮って、後から入ってきた男にゴミを捨てさせる。


 ……例の魔物の解剖後の屍骸か。


 ん? 鼠型魔物の屍骸に後脚が無い。背肉や胸肉もサンプル採取にしては大きく削られているような気がする。


 腐臭に顔を顰める下級官吏を横目に、屍骸の投棄を見守る。

 魔物の血が水面に落ちると、周辺の地下道にいたスライム達が集まってくる。


「ちょ、ちょっとダンナ!」


 焦ったような下男の声を背に、オレは水面まで飛び降りる。水面ギリギリで天駆を発動して、屍骸やスライムに接触しないように注意した。


 照明用の光粒で水面を照らす。


 スライムの表面に魔物の屍骸にあったような赤い縄状の模様は無かった。その代わりに、黒い虫が付着していた。ここのスライムは腐肉しかエサにしないようだ。


 サンプル用に何匹かのスライムから、組織サンプルを試験管に採取する。

 これを研究所で調べさせて、魔人薬の残留や影響が残っていないか調べさせれば良いだろう。


 ここを引き上げる前に、さっきの事を下男に確認する。

 問い詰めてもトボけるか誤魔化すかするだろうから、下級官吏が先に地上に引き上げたのを確認してから尋ねた。


「迷宮都市でも魔物の肉は常食されていたからとやかく言わぬが、腐ると毒素を発生する種類も多い。疫病の元になる事もあるから、注意するのだぞ」

「へい、心得てまさぁ」


 やはり、実験動物の屍骸から肉を採取して横流ししていたか。

 ……何年か前に貧民街で疫病が流行ったそうだが、こいつらの持ち込んだ肉が病原菌の発信地になっていたんじゃないだろうな。

 防疫とかのマニュアルを作らせた方が良いかも。


「傷み始めた肉は近所の鼠や野良に食わせてから食べてやす。そいつらが死んだときは浄水施設前の池に捨てておけばスライム共が始末してくれやすから」


 王都の外縁部にある浄水施設の方にいるスライムも調査しておいた方が良いかもしれないな。


 そうだ、肉を持ち出せるなら、処分を頼まれていた薬物も持ち出していそうだ。

 マップの検索で王都内に魔人薬が存在しないのは確認済みだが、念の為、保険をかけておくか。


「処分に困った薬品があったら買い取ってやる――」


 オレは小声で男にそう告げて、下町にいくつかある宰相の配下の諜報機関員が経営する酒場を教えておく。

 これで流出薬品を回収し易くなるだろう。あとは宰相達にお任せだ。


 オレは下町の工場経由で浄水場に向かい、ストレージにあった魔物の死体を投棄して集めたスライムの組織を採取する。

 後の分析作業は王立研究所の職員に押し付けよう。

 蔦の館の設備を使えば調べられると思うが、全部抱え込むのは面倒だもんね。





 少し情報を整理しよう。


 結局、判った事は――。


 一つ、魔人薬の粉末は適正な処理を行わずに下水に流された。


 一つ、スライムを媒介にして地下道の生き物に蔓延した可能性がある。


 一つ、魔人薬の粉末は「戦意高揚薬」と勘違いされていた。


 この薬は麻薬に似た特徴があるので、下町に横流しされた可能性がある。


 一つ、貧民街の人間が魔人薬を摂取したかもしれない。


 一つ、王都内に魔人薬は存在しない。


 こんなものか?

 いや、もう一つあった。


 一つ、魔物騒動の原因と魔人薬は関係ないのかもしれない。


 魔物発生の原因が掴めるかと思ったが、謎が深まってしまった。

 都合の良い名探偵が現れて、事件をスパスパと解決してくれないだろうか。


 怪盗がいるんだから、名探偵もいてくれても良いのに。





「遅いですわ!」

「失礼、少々所用がございまして」


 カリナ嬢が特訓している迎賓館のホールに入るなり、カリナ嬢から叱責を受けてしまった。

 この部屋にいるのは、カリナ嬢とメイド達、それからダンスの教師、それからうちの子達だ。

 アリサはニナさんの仕事につき合わされているので、ここにはいない。


「カリナ様、集中してくださいませ」

「練習ならサトゥーとします。貴方はそこで見て指導しなさい」


 カリナ嬢が教師にそう告げて、こちらに手を伸ばす。

 少し頬が紅潮しているが、どこか不貞腐れたような顔だ。


 まあ、遅れてきたし、ダンスの相手くらい良いか。

 カリナ嬢の練習が終わったら、うちの子達とも踊ろう。


「では、お相手いたします」


 オレはカリナ嬢の手を取って教室くらいの広さのホールの中央に向う。

 ミーアの弾く舞踏曲に合わせて、カリナ嬢をリードする。


 カリナ嬢とダンスを踊ると胸元が幸せすぎて意識が飛びそうになるが、素数や円周率の助けを借りて乗り切った。


 相変わらず直線的でシャープな男らしい踊りだ。

 だが、ちゃんと努力をしているのか、前に踊った時よりは遥かに上達している。


「頑張りましたね。前よりも上手くなっていますよ」

「――あ、あたりまえです! 聖騎士団の演習見物も我慢しているのですから。本番でも、サ、サトゥーに踊ってもらいますからね!」


 ――う~ん、本番は無理じゃないかな。


 王国会議前夜の舞踏会は、子爵以上の上級貴族が集まる舞踏会と、男爵以下の下級貴族が集まる舞踏会に分かれる。


 そういう規定がある訳ではないが、暗黙の了解としてあまり位の離れた貴族は足を踏み入れない事になっているそうだ。

 具体的に言うと、上級貴族側は公爵、侯爵、伯爵、子爵が対象だが、男爵、准男爵までは参加する場合がある。こちらに士爵が参加するのはご法度だ。

 下級貴族側は、士爵、准男爵、男爵が対象だが、子爵あたりも参加する事がある。こちらに伯爵以上の貴族が参加する事は無い。


 当然ながら、カリナ嬢は伯爵扱いされている領主のムーノ男爵のエスコートで上級貴族達の舞踏会に出席するので、一緒に踊るのは無理だ。

 婚約者とかなら話は別だろうが、それこそカリナ嬢と婚約宣言をするようなものなので遠慮したい。


「私は上級貴族の舞踏会に出席できませんから――」

「ダメですわ!」


 ヒールのせいで少し高くなった目線から、子供の様な不安そうな声で断りの言葉を遮られた。


 ――ダメと言われても困るな。


「失礼いたします。カリナ様、お客様がお見えです」


 そこにピナが現れて来客を告げた。実に良いタイミングだ。


「応接間でお待ちいただいているので、士爵様とご一緒にいらしてください」

「お客様? お父様にではなく?」

「はい、セーラ様とトルマ・シーメン様のお二方です」


 今日の夕方くらいに飛空艇で来るという話だったのに、ずいぶん早く到着したんだな。

 確かに二人の青い光点が迎賓館の応接間で光っている。


 オレは問題を先送りにして、二人の待つ応接間に向かった。


※次回更新は 8/31(日) の予定です。


●再登場人物

【セーラ】 公都のテニオン神殿の巫女。オーユゴック公爵の孫娘。黄金の猪王の生贄にされ一度死亡。作中で唯一の復活経験者。

【トルマ】 公都のシーメン子爵の弟。情報通。サトゥーがムーノ男爵と知り合うきっかけになった人物。

【ピナ】  ムーノ男爵家のメイド。兵士としての訓練も受けている。おかゆ好き。


※2014/09/12 舞踏会に参加できる貴族の記述を細かく修正しました。



●物語の予定

 2日後 王国会議前夜祭

 3日後 王国会議開催。

 7日後 王国会議最終日。

 8日後 オークション開催

10日後 オークション最終日(宝珠の出品)



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 本作「デスマーチからはじまる異世界狂想曲」2巻の電子書籍版が8/20(水)より販売を開始しています。

 電子版をお待ちだった方がいらしたようなので告知しておきます。

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― 新着の感想 ―
[一言] フラグを立てたというのだろうか? トラブルに今宵なく愛される主人公の、平穏無事の願いだけは叶えられることはない。 トラブルとヒロインから1歩逃げ出せば、2歩詰められるものだ。
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