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デスマーチからはじまる異世界狂想曲( web版 )  作者: 愛七ひろ
第十二章

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12-9.桜の木の下で(2)

※7/16 誤字修正しました。


 サトゥーです。雪女の昔話と似ていますが、ドライアドに魅了された男達は幸せな夢をみたまま樹木の中で魅了されたそうです。

 前に出会ったドライアドが童女でなかったら危なかったかもしれませんね。





 お姫様だっこをしたミーアと一緒に隠形系のスキルで隠れながら縮地で桜の大樹の根元に向かって移動する。


 誰にも見つからず、俺達は桜の樹の下に辿り着いた。

 途中に桜の樹を守る為のフェンスや結界が張られていたが、特に障害にはならなかった。


 桜の樹の根元に腰掛ける儚げな容姿の少女がいた。

 ピンクブロンドの少女だ。


 きっと、この子がミーアを呼んだ桜の精だろう。

 オレは迂闊にもAR表示で確認もせずに、その少女の前に姿を現してしまった。


「何者?! 『桜守り』の許可無く『聖桜樹せいおうじゅ』に近付くとは!」


 少女は先程までの夜闇に溶けそうな儚げな姿から一転して、烈火の勢いでオレ達を誰何すいかしてきた。


 ここは芝居がかった仕草で返そう。


「失礼、桜の樹に呼ばれて参上しました」

「何を世迷い事――」


 オレの言葉を切って捨てようとした少女を止めたのは、幹から現れた桜色の美女だった。

 げっ、本当に桜の木の精が出てきやがった……。


「ごめんね、『桜守り』ちゃん。暫く眠っていてね」


 幹から現れた美女が少女に触れて一瞬で眠らせてしまった。

 桜の精が力なく倒れる少女を優しく受け止めて桜の根の上に横たわらせる。


 そして優しく少女の髪を整えたあと、顔を上げてこちらに振り返る。

 見覚えのある顔だ――。


「あら! 少年じゃな~い。桜な私にまで会いにきてくれるなんて!」


 それを肯定するようにAR表示でも「ドライアド」と出ている。

 もっとも、俺の知っている童女なドライアドとは似ても似つかないほど肉感的なスタイルの美女だ。

 美女ドライアドがオレを抱き寄せようと手を伸ばしてくるが、ミーアがそれを止めてしまった。


「むぅ、破廉恥」

「あら? ボルエナンの幼子ちゃんもいたの? 一人前いっちょまえに嫉妬なんて、幼くても女ねぇ」


 どうやら、ミーアが会いに来たのは美女ドライアドの方らしい。

 ミーアはオレとドライアドの接近を阻止する姿勢のまま会話を続けている。色々と理由を付けてミーアを説得していたがドライアドの用事なんていつも一つだ。


「サトゥー」

「少年、いつも悪いんだけどさ。魔力ちょうだい?」


 ――やっぱりか。

 吸血鬼のバンも顔負けだ。


 まあ、こんな豊満な美女相手なら、キスの一つや二つお安い御用だけどさ。


 ドライアドが俺の頭を掻き抱いて口付けをしてくる。

 ミーアも魔力供給と割り切っているのか「ギルティ」と言ってきたりはしない。もっとも不満はあるようで、風船のように膨らんだ頬が破裂しそうだ。


 今までで最大の2000ポイント近い魔力を吸い取った後、いやらしい音を立てて口を離すドライアド。

 魔力補給が完了するなり、ミーアがドライアドをオレから引き離す。


「うん、満足ぅ~。や~、助かったわ。ここしばらく王都の魔力の流れがヘンでさ。王都の源泉から魔力が上手く吸えなくて困ってたのよ。幼子ちゃんと少年がいて助かったわ」

「ん」


 微妙に気になるワードが出たので尋ねたのだが、魔力の流れが狂ったのが最近だという事以外の情報は得られなかった。最近というのもドライアドの狂った時間感覚での話だったのでいつから変なのかも微妙だ。


「少年、これは魔力のお礼。使い方はアイアリーゼ様にでも聞いて。あの方なら知ってるはずよ」


 ドライアドはそう告げて桜色の宝珠をオレに渡して桜の幹の中に消えていった。

 AR表示や鑑定では桜珠という名前になっている。精霊力を集めた結晶らしい。最近、やけにレア素材に縁がある。





 桜の幹に消えるドライアドを見送った後、そのまま立ち去ろうかと思ったのだが、「桜守り」の少女を放置したら風邪を引きそうなので起こす事にした。

 立ち去った方が不審者扱いされそうなのも理由の一つだ。オレ達の顔を見られているしね。


 そうそう、王都の地脈が変だっていう情報だけは、近いうちに王様か宰相さんに伝えておこう。


 少女に「魔法破壊(ブレイク・マジック)」を使った後に、声を掛けて数度揺すると目を醒ました。


「こんな場所で居眠りをしたら風邪を引いてしまいますよ?」

「……ん、桜の精」


 眠る直前に桜ドライアドを見ちゃったのかな?

 想定の範囲内だ。とぼけよう。


「桜の根の上で微睡まどろむ貴方は、まるで桜の精のように可憐ですよ」

「……そんな、私なんて――」


 寝ぼけながらもオレの誉め言葉に身をくねらせ、途中でハタと現状に気が付いて体を起き上がらせる。

 どうやら、彼女は低血圧ではないようだ。


「――何者! ここを『聖桜樹せいおうじゅ』の禁域と知っての事か!」

「夜桜見物の間に道に迷い、ここに迷い込んでしまいました。失礼とは存じますが、迎賓館までの道を教えていただけませんか?」


 オレの言葉に少女の緊張が別のベクトルに変化した。

 この時期に迎賓館を使うのが諸侯や同盟国からの国賓のみという事を知っているからだろう。


「お名前を伺ってもよろしいですか? 私はシガ33杖の一人、『桜守り』のアテナと申します」


 少女がローブに付けているタスキの紋章をこちらに見えるようにして名乗りを上げた。

 ギリシャ神話に出てくるような名前の少女だが、転生者や転移者らしき情報は皆無だ。名前は偶然の一致だろう。

 シガ33杖というのは宮廷魔術士の称号だったはずだ。


「私はムーノ男爵の家臣でペンドラゴン士爵と申します」

「ミーア」


 オレ達の名乗りを聞いてアテナ嬢の丁寧な態度が霧散した。


「なんだ、上級貴族のバカ息子かと思って警戒して損しちゃった」


 丁寧だった言葉が急にぞんざいな口調に変わった。

 平民出身かと思ったが、彼女は子爵令嬢だ。上級貴族の娘ならもう少し外面を鍛えられているはずなんだが……。

 成人したてで宮廷魔術士になっているし、魔法の勉強しかしてこなかったのかな?


「本当なら禁域に入った人間を衛兵の詰め所に連行しないといけないんだけど、面倒だから立ち去って――」


 こちらを格下だと見下したアテナ嬢の言葉が途中で止まる。

 彼女が見ているのはミーアだ。


 見つめられる理由が判らずミーアが首を傾げる。


「あ、あなたエルフね! 氏族はどこ?」

「無礼」


 不躾な問いかけにミーアがヘソを曲げる。

 仕方が無いのでオレが代わりに「ボルエナン氏族」だと教えてあげた。


「ボ、ボルエナン氏族って、もしかしてエルフの賢者トラザユーヤのいたボルエナン氏族?」

「ん」


 震える声で問い掛けるアテナ嬢にミーアが短く応える。


「やっぱり! 賢者様と同じエルフだからって偉いわけじゃないんだからね! ご先祖様は負けたけど、私は絶対に賢者を超える功績を残してやるんだから!」


 ミーアにびしっと指を突きつけた少女がそう宣言する。だが、ミーアは話の急展開についていけないのか困惑顔だ。

 どうやら、彼女の先祖とトラザユーヤ氏の間で何か確執があったみたいだ。


「私は生まれだけで偉そうにするエルフが大嫌いなの。私は弛まぬ努力と才能でこの宮廷魔術士の地位を獲得したのよ。今は赤帯のシガ33杖の一人だけど。いつか宮廷魔術士長になって銀色の帯を纏ってみせるわ!」

「むぅ?」


 アテナ嬢は鼻息あらくミーアにまくし立てる。

 謎ワードが多すぎてミーアがパニック気味だ。


 それにしてもシガ八剣といい、この国の人は数字の付いた称号が好きだな。

 この調子だと、なんとか四天王とかもいそうだ。


「違う」

「何がよ!」


 ミーアの言葉に脊髄反射的に返したアテナ嬢に、ミーアは薄い胸元からミスリル証を取り出して彼女に見せる。

 おそらくミーアは自分も努力をしていると言いたいのだろう。


「そ、それはミスリル証! そういえば、今回のミスリル証は上層と中層の主を倒したって……。いいえ、それなら私は下層の主を倒してみせるわ」

「無理」

「どうしてよ! 絶対に倒してみせる」

「無理だから無理」

「私たち人族は貴方達が森の奥に引き篭もっている間も進歩しているのよ! 今度、宮廷魔術士の演習に来なさい。私たち人族の真価を見せてあげる。同期魔術を見て腰を抜かしてもしらないんだから!」

「むぅ」


 ミーアは魔法使いだけじゃ勝てないと言いたいみたいだが、言葉が短すぎて伝わっていない。

 子供のケンカに介入したくなかったが、通訳くらいはするか。


「落ち着いて。ミーアは貴方を貶めているわけじゃなくて、魔法使いだけじゃ階層の主には勝てないって言っているんだよ」

「そうなの?」

「ん」


 オレの説明で毒気を抜かれたアテナ嬢が、ミーアにオレの言葉を確認する。

 首肯するミーアを見てエキサイトしていた自分が恥ずかしくなったのか、白い頬を桜色に染めて次の言葉に迷っている感じだ。


「え、えっと。とりあえず失言は謝ります。ごめんなさい。でも、人族が凄いのは本当なんだから! 一度、見に来なさい。絶対よ!」

「ん」


 アテナ嬢は謝罪した後、恥ずかしさを誤魔化すように捲くし立てて桜の樹の下から走り去っていった。

 おーい、禁域とやらに侵入した人間を放置していいのか?


 中高生くらいの少女とはいえ職務を疎かにするのはどうかと思う。今回は好都合だったけどさ。


 変な少女に出会ってしまったが、宮廷魔術士とのパイプができてラッキーだったと思うことにしよう。

 同期魔術とやらはオレも興味があるし、暇ができたらミーアと見学に行こう。


 それにしても、これだけの巨木だと桜の花びらを掃除するのが大変そうだ。

 頭や肩の上に桜の花びらを雪のように積もらせるミーアを連れて帰還転移で館に戻った。





 夜半になっても男爵達は戻ってこない。


 眠そうな子供達をベッドに運んで寝かしつける。

 ルルも料理大会に出場する為に明日の朝に飛空艇で公都に向かう予定なので早めに眠るように言ってある。リザとナナを護衛に、アリサを応援団長に付ける予定だ。


 ポチ、タマ、ミーアの三人はオレと王都に残る。

 人聞きが悪い事にミーアはオレの浮気防止の為に残るそうだ。ポチとタマの2人はオレやミーアの護衛役らしい。

 料理大会のご馳走とオレの傍の二択で迷う姿が可愛かった。

 もちろん、大会決勝には3人を連れてこっそりルルを応援しに行くつもりだ。


 カリナ嬢も連日の過酷なレべリングの疲れが出たのかそうそうに部屋に戻った。

 ただ、戻る時に「間違って迷い込まないよう」にと自分の部屋の位置を消えそうな声で告げたのは夜這いの誘いだったのだろうか? 誘いなら誘いらしく、色っぽく囁いてほしいものだ。乗らないけどさ。


 窓から見える魔法の照明にライトアップされた夜桜を愛でつつ、シガ酒を傾ける。

 アリサが一口! と強請ねだってきたが却下した。酒の代わりにお手製のジンジャエールをアリサのグラスに注いでやる。


 リザとシガ酒を飲み交わしながら、今後の事を少し話した。

 爵位の話、立身出世の話、奴隷からの解放の話。素面だとなかなかできない話をアルコールの助けを借りて本音で語り合う。


「私の槍はご主人様の為にあります。許されるならば、この身果てるまで私の忠誠と魂はご主人様と共に――」


 酒に弱いリザはそれだけ語り終わると、オレの答えも聞かずに酒杯を手にしたまま眠ってしまった。

 おやすみ、リザ。これからも宜しく。


 もちろん、アリサもね。


※次話(12-10)は 7/20(日) に投稿予定です。




 2巻発売を記念して7/16(水)までSSを割り込み投稿する予定です。

 できれば本編を連続投稿したかったのですが、色々あって無理でした。


 以下、発売日までのSS予定表。


7/14(月) 熱砂の猛特訓(2)

7/15(火) トレル卿の決断

7/16(水) ミーア先生の音楽教室

7/19(土) タマの好物(こちらは「なろう特典」なので、割り込み投稿ではなく活動報告にアップ予定です)

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ISBN:9784040761442



― 新着の感想 ―
わきまえてるのはルルとリザだけだね 他の子は普通にワガママだわ
「武人としての栄誉」と「生涯サトゥーの側に居たい」 リザにこの2つを叶える「ペンドラゴン7◯◯」の称号を大衆に喧伝したアリサは今回のMVPだね。
[一言] >「ボ、ボルエナン氏族って、もしかしてエルフの賢者トラザユーヤのいたボルエナン氏族?」 ミーアって『賢者(トラザユーヤ)の孫(娘)』でしたよね。
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