12-7.挑戦者達
※2015/5/30 誤字修正しました。
サトゥーです。対戦格闘ゲームが流行っていた頃、勝てないと判っている強いプレーヤーと戦うのが好きでした。一方的に負けつつも、色々と学ぶことができたものです。
◇
神官がジュレバーグ氏に駆け寄り、彼の手を癒す。
上級治癒魔法の効果は凄まじく、瞬く間に砕かれた手が復元されていく。
「リザ殿、貴殿の強さは本物だ」
「恐縮です」
治療を終えたジュレバーグ氏がリザに言葉を掛ける。
リザはお澄まし顔で応えるが、尻尾がピタピタと動いている。尻尾は正直だ。
「シガ八剣とは国を守る盾であり矛だ」
ジュレバーグ氏が唐突な話をリザに語りだした。
「それ故、実力と国を想う崇高な心さえあれば、種族や血統などの出自に拘るべきではないとわしは考えておる」
リザにはイマイチ伝わっていないようだが、どうやら彼女をシガ八剣に勧誘したいらしい。
「今、シガ八剣には三つの空席があり、その内の2つを貴族達が己の派閥争いの道具にしておる。だが、最後の一席の指名権はわしがもぎ取った」
派閥争いと言うところでオレを睨むのは止めてもらえませんか?
「その席に貴殿を推挙したい。――受けてくれるな?」
キリッとした顔でリザに告げる。
オレの周囲の子達がハラハラした顔でリザを見つめている。ナナだけはマイペースにシロとクロウの羽で遊んでいた。
「お断りいたします」
気負いの無い声でリザがジュレバーグ氏の誘いを断った。
アリサやポチが安心して脱力する。それは良いが、どさくさに紛れてオレの足に顔を擦り付けるのは止めろ、アリサ。ミーアもアリサのマネをしないっ。
「何故だ。今はペンドラゴン卿の奴隷かもしれんが、シガ八剣になれば王権によって奴隷身分から解放され、名誉伯爵位を得られるのだぞ? 亜人の身では決して届かない地位と栄誉を前に、なぜ拒むのだ」
信じられないといった顔のジュレバーグ氏の言葉をリザが止める。
「確かに、私には望外の栄誉だとは思います」
「ならば――」
「ですが、私の忠誠は国ではなくご主人様にあるのです。シガ王国に忠誠を向けるべきシガ八剣の資格はありません」
微妙に危ないセリフだ。
そこにムードメーカーのアリサが割って入る。
「そうよ! 私達は『ペンドラゴン七勇士』なの! ご主人様と一緒に『シガ八剣』に匹敵する新しい世界の守り手になってみせるわ!」
なんだよ「ペンドラゴン七勇士」って。真田十勇士をリスペクトしたのかな?
たぶん、この場を和ませようと適当な事を言ったんだろうけど、アリサのドヤ顔を見ると本気で言ってそうで怖い。
「おおっ! シガ八剣に並び立つって宣言したぜ?」
「だが、『不倒』のジュレバーグ卿を倒したんだ。その資格はあるだろう」
「ああ、光の槍撃を使う新たなシガ王国の守護者の誕生だ!」
「『黒槍』、いや、『魔滅の光槍』リザ!」
「『ペンドラゴン七勇士』とシガ王国に栄光あれ!」
なんだか、アリサの宣言した名前が公称みたいにギャラリー達の間に広がっている。
誰かがサクラを用意したんじゃないか疑いたくなるような流れだが、ギャラリー達のノリがおかしい。
リザがジュレバーグ卿を倒したのがそれほどの大事件だったのか?
リザが魔刃砲を使ったのを視認できたギャラリーもいたみたいで、新しい二つ名がついたみたいだ。
アリサの宣言でリザのシガ八剣入りが阻止できたとは思わないが、少なくとも先送りにするのは成功したようだ。後の事はニナさんあたりに相談して決めよう。
ちなみに、アリサの言い出した「ペンドラゴン七勇士」がポチの創作小説に出てくる称号だと知ったのは、かなり後の事だ。
◇
そろそろ王城で待つムーノ男爵の所に顔を出したいのだが、ギャラリー達の騒ぎは収まる様子がない。
出迎えに来てくれた知人達とは挨拶できたのだがリザを祝福する人の列が途切れないのには参った。
それを打ち破ったのは2つの人影だ。
「爺さんに勝ったってのはアンタか?」
「リュオナ殿、礼儀を忘れるな。我等はシガ八剣に籍を置く者ぞ」
「バウエンは堅ぇな」
大鎌を肩に担いだ野生的なリュオナと呼ばれた女性と、カタナを下げたバウエンという男性がやってきた。
彼らはシガ八剣の第8位『草刈り』のリュオナ女史とシガ八剣の第6位『風刃』のバウエン氏だ。
どちらもレベル40台中盤と、ジュレバーグ氏よりかなり弱い。
アラフォーのバウエン氏は普通にシガ王国の騎士服を着ているが、20代後半のリュオナ女史は膝丈のズボンにベストの様な上着と野生的な服装だ。ちなみに割れた腹筋が見えていて露出の割りに色気を感じない。
バウエン氏のカタナを刀と表現しないのは、その拵えが西洋風だからだ。サーベルと言ってもいいのだが、バウエン氏の雰囲気がサムライっぽかったのでそう呼ぶ方がしっくりくる。
新たな武人の登場に色めき立ったのはポチとタマだ。
順番を決めるためか、音速のあっち向いてホイ勝負を始めてしまった。きっと周りには意味不明な行動に映ったに違いない。
「アタイと勝負しな」
「お断りいたします。じゃ――」
「リュオナ様、申し訳ありませんが、リザはジュレバーグ氏との対戦で消耗しております。勝負を挑まれるなら後日改めてという事で」
リザが「弱者」とか言いそうだったのですかさず割り込んだ。
「なんだい、アンタ?」
「彼女の主人でペンドラゴン士爵と申します」
「――ペンドラゴン?」
「忘れたのかリュオナ殿。我らの新たな同僚候補だ」
「ああ……。なら、アンタが相手するかい?」
鼠を見つけた猫のような表情で問いかけるリュオナ女史に首を振る。
というか「新たな同僚候補」なんて初耳なんだが。
「勝負のお相手なら、あちらに」
オレはこちらをうずうずとした目で窺っていた脳筋――ミスリルの探索者達の方に手を向ける。
「皆、リザに勝るとも劣らない剣士達です。きっと楽しい戦いになりますよ」
「そうだね……。よし、そこの色男! あんたが一番強そうだ。アタイと勝負しな!」
「このジェリル、相手が女性でも手加減はいたしませんよ?」
「それでこそ戦士だ! さあ、場所を空けな! 楽しい戦いの始まりだ!」
上手く誘導に成功した。
シガ八剣対ミスリルの探索者達の勝負にも興味があるが、ここは一旦退散する事にしよう。
オレは最前列に齧り付いて観戦しようとしたカリナ嬢やうちの子達を引っ張って馬車に向かった。
あっち向いてホイに勝利したポチがしょぼんとしていたが、今日はムーノ男爵が歓待してくれるらしいからすぐに元気になるだろう。
◇
「あれって飛空艇?」
「ああ、空港に併設された造船所だよ」
アリサが指差したのは飛空艇工場だ。
ナナシとしてオレが持ち込んだ空力機関を組み込むための船体部分を建造している。飛空艇の設計はオレがしたが、賢者の石を使った魔力炉は付けていないので従来船と同じく魔核の粉から練成した燃料棒を使った魔力炉を使用するタイプのはずだ。
この燃焼型の魔力炉はどの国も技術を秘匿しているので、オレも作り方を知らない。
出力が賢者の石を使ったタイプよりも低いし、理論的に小型化できない仕組みらしいのであまり魅力が無い。
賢者の石以外にも小型化可能な魔力筒とかもあるし、当面は必要ないだろう。
王城の地下にある禁書庫や王立学院の書庫を閲覧する許可は貰ってあるから、ヒマができたら何かのついでに調べてみよう。
それにしても、街路から造船所の建造風景が見えていいのだろうか?
昔の軍艦の建造とかは、電車や国道を走る車とかからも見えないように気を使っていたと聞いた事があるんだが。
そんなオレの心配を他所に、馬車は造船所の横を通り過ぎ工場区画から貴族街へと続く大通りを進む。
ちなみに1台の馬車に乗り切れなかったので、4台の馬車に分乗している。
先頭がカリナ嬢達、2台目がオレ、アリサ、獣娘達、3台目が荷物、4台目がルル、ミーア、ナナ達となっている。乗る馬車は公平にグーパーで決めた。
「がらがら~?」
「ポチもガラガラしたいのです!」
タマやポチが路地をキックボードで走る人達を見つけた。
迷宮都市は曲がりくねった道が多いので普及していないが、ポチ達には迷宮内の通路で試乗させた事がある。
ああいう乗り物は初めてだったのか、リザやルルも含めて、みんな楽しそうに乗っていた。
「結構普及してきたね」
それを見て、アリサがしみじみと呟く。
キックボードはアリサの考案した物で、王都のエチゴヤ商会の工場で生産している。
工場長のポリナが過労死しそうなほどの売り上げを叩き出している人気商品だ。
近いうちに時間を作って工場に顔を出す事にしよう。
賑やかな通りは一国の首都だけあって混んでいる。
メインストリートは馬車が4台くらい横に並べるほど広いが、信号が無いので交差点などで稀に団子状態になったりする。馬車の往来が現代の自動車みたいに多くないのが救いだ。
――レーダーに赤い点が点る。
「敵襲」
「方向は?」
「大変! なのです!」
ほぼ時を同じくしてタマが皆に敵襲を伝える。
方向を問うリザにタマが棒手裏剣を取り出しながら視線で方向を教える。ポチも大慌てで長楊枝を鞄から取り出した。
レーダーに映る影は12、犯罪ギルド「手長猿」の一行らしい。
リーダーらしき男は水魔法と火魔法を使えるレベル20代後半の男だ。こいつは近くの3階建ての商店の屋根の上にいるようだ。
そこまで調べたところで賊の襲撃が始まる。十字路の交差点の真ん中だ。
衝突しそうな勢いで交差点に飛び込んできた4台の幌馬車が、オレ達の後ろの荷物を載せた馬車の前後を挟んで分断する。
幌馬車から降りた男達が発煙筒の様なものを幾つも地面に投げて視界を塞ぐ。迷宮で使われていた煙玉と同じものだろう。
「私とポチは曲者を排除します。タマは馬車を守りなさい」
「あい、なのです!」
「らじゃ~?」
リザとポチが白い煙の中に突撃し、襲撃者達を排除していく。馬車の屋根に上ったタマも棒手裏剣で家屋の上から呪文で援護しようとしていたリーダーを撃ち抜く。
オレも理力の手でタマの棒手裏剣でバランスを崩したリーダーの足を引っ張って地面に落とす。後ろの馬車もナナが対応しているようだ。
彼らの狙いは3台目の荷馬車だろう。
普通なら高価な探索者達の装備品が載っているはずだからだ。オレ達の場合はダミー装備品なので盗まれても痛くも痒くもないのだが、オレ達から盗むのがチョロイと犯罪集団に広まると、今後の王都観光がやりにくくなるので真剣に対応する事にした。
オレ達の対応速度が想定外だったのか、ヤツらが荷馬車に手を掛けるのは予想より遅かった。
荷馬車から御者を引き摺り下ろし、犯罪ギルドの人間が乗り込んで馬車を急発進させる。
「逃がしません!」
リザの短槍が荷馬車の車輪の一つを地面に縫いとめ、馬車が横転する。
御者席の賊を捕まえようと横を走っていたオレもその横転に巻き込まれそうになる。
同じく横転した馬車に轢かれそうになっていた男性を軽く足で押し出して地面を転がし、巻き込まれそうな奉公人っぽい服装の娘達を両手に抱き寄せて安全地帯に飛び退いた。
娘達を地面に降ろし、オレは逃げ出そうとする賊との距離を詰め、その足を払い背中を踏みつけて捕縛する。
手荒に扱ってしまったが、この賊は女性らしい。
まあ、いいか。賊だし。
「ご主人様、あそこ~」
馬車の警備をしていたタマが駆け寄ってきて、近くの屋根の上を指す。
そこには黒装束の怪しい女が潜んでいた。踏みつけた賊と違い胸が大きいので遠目にも女性と判る。
気付かれたと察した女が身を翻す。
「にげた~?」
追いかけようと瞬動を発動しそうになったタマの襟首を掴んで止める。
不思議そうに振り向くタマを抱き上げて頭を撫でる。
さっきの盗賊の一味ではないようだが、怪しいので念の為マップのマーカーを付けておいた。
認識阻害の装備を身につけているようで、情報が二重に表示されている。称号が「怪盗」になっていたので、そのうち宝物を狙ってきそうだ。
怪盗さんは「変装」なんかの珍しいスキルも持っていたのでマーカーは付けたままにしておこう。
「この騒ぎはなんだ!」
偉そうな声が割って入る。
騎乗した男性だ。鎧は着ていないが肩に描かれた紋章からして王都の警備兵のようだ。
「賊の襲撃を受けた。私はペンドラゴン士爵。主家の姫を王城までお連れするところだ」
オレはジェスチャーで、彼の視線を馬車から顔を覗かせたカリナ嬢の方に向けさせる。
カリナ嬢は乱闘に参加できなくて残念そうな表情をしているが、事情を知らなければ不安そうな顔にも見えるだろう。
男が顔を赤く染めてカリナ嬢の方に向かおうとするが、引き止めて賊を牢屋に連行する為の手勢を呼びに行かせた。
荷馬車の修理には時間が掛かりそうだったので、近くの商店から荷馬車を借りる交渉をする。
しばらくして、警備騎兵が連れてきた平警備兵に賊を引き渡す。
平警備兵によると、ここまで派手な襲撃事件は王都でもめったにないらしい。
恐らく、ミスリルの探索者達が飛空艇でやってくると聞いて、高価な魔法の道具を奪おうと考えた人間がいたのだろう。
階層の主から得た宝物は王家直属のアイテムボックス・スキル持ちの官吏達が城内に運び込んだ後なので大丈夫だ。詠唱の宝珠のマーカーが王城地下の宝物庫にあるから間違いない。
迷宮都市でも盗賊が増えていたし、王都の屋敷にも盗賊ホイホイを作っておくことにしよう。
カリナ嬢の馬車でしつこく愛をささやいていた警備騎兵を引き剥がし、オレ達の馬車は王城へと向かう。
ムーノ男爵は王都に屋敷を持たないので、王城の迎賓館の一つを借り受けているそうだ。
煌びやかな銀色の全身鎧に身を包み、斧槍を構えた門番の前を通り抜け、オレ達は王城へと辿りついた。
※次回は 7/6(日) の予定です。
※活動報告にタマSSをアップしてあるので、良かったらご覧ください。
●おまけ「シガ八剣」席次一覧
シガ八剣、第1位、レベル54、70歳越え。『不倒』のゼフ・ジュレバーグ
シガ八剣、第2位、(欠員)レベル40台後半。第三王子シャロリック・シガ
シガ八剣、第3位、レベル52。『雑草』のヘイム。大剣使い。
シガ八剣、第4位、(欠員)レベル41以上。60歳越え。トレル卿。飛竜騎士。
シガ八剣、第5位、(欠員)40台後半。40歳台。王都に中級魔族が現れた時に殉職
シガ八剣、第6位、レベル40台中盤。30歳前後。『風刃』バウエン。カタナ使いの男性
シガ八剣、第7位、レベル40台後半。60歳越え。老聖騎士レイラス。盾使い(王子と一緒にいた)
シガ八剣、第8位、レベル40台中盤。20代後半。『草刈り』リュオナ。大鎌の野生的な女性。







