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デスマーチからはじまる異世界狂想曲( web版 )  作者: 愛七ひろ
第十二章

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12-6.リザの実力

※6/23 誤字修正しました。


 サトゥーです。脳筋という言葉がありますが、変に陰謀を巡らせる人種より好感がもてます。

 ……少々暑苦しいんですけどね。





「返答やいかに!」


 リザに手合わせを挑んだシガ八剣の筆頭――ゼフ・ジュレバーグ氏が高そうな槍の石突を地面に突いて再度問いかけてきた。


「ご主人様、勝負を受けても宜しいでしょうか?」


 リザが飛び切りのご馳走を目の前に出された時のようにわくわくした顔で、ジュレバーグ氏を見つめている。

 まるで視線を外したら、その瞬間に打ちかかられると言わんばかりだ。


 とりあえず二人とも、その楽しそうな視線とは裏腹の殺気をどうにかしようか。

 周りのギャラリーが息をするのも忘れているよ。


「リザ、分かっていると思うけど」

「ご安心下さい。ご老人相手に無茶はしません。ちゃんと手加減は致します」


 戦っちゃダメって言いたかったんだけど、こんなセリフの後じゃ向こうも引いてくれないだろうなあ。

 ジュレバーグ氏本人ではなく周りのギャラリーから、罵声と言うか悲鳴のようなざわめきが溢れる。


 リザとしてはエルフ師匠たちの教え通り強敵を逆上させて本来の実力を出させない為にしたんだろうけど、挑発するのは場所を移動してからにしてほしかった。


 ジュレバーグ氏が槍をくるりと回して下段に構える。

 奥歯が割れそうなほど噛み締めるのは止めた方が良いと思う。


「ほほう、この老体を心配してくれるとは中々に敬老精神に溢れる女傑のようだ」

「ご主人様のご人徳の賜物です」


 それ、流れ的に褒め言葉になってないから。

 どうもリザはジュレバーグ氏の言葉を額面通りに捉えてしまったようだ。


「申し訳ありませんが場所を移しましょう」


 ここで勝負を始めるとまずいので二人の間に割り込んだ。

 ジュレバーグ氏が射殺すような視線を向けてくるが、魔王達に比べたらマダマダだ。


「ここで戦って貴族の方々に怪我人を出したり、国有の新型艦を壊すわけには参りますまい」


 オレの言葉にジュレバーグ氏が槍を立て、苦虫を噛み潰したような顔で承諾してくれた。


 決闘自体を止めたかったが、今のリザならば実力を発揮しても大丈夫だろう。

 貴族達からの無理難題は一部を除けば対処できるだけの人脈をゲットしてある。

 リザ達が対魔族や対魔王の兵器扱いをされないかが少し心配だが、それはオレがナナシとして活動すればいいだけの話だ。

 それに情勢的にシガ王国に戦争をしかけそうな国は東の果てにあるイタチの帝国くらいだけど、ナナシのレーザーで大軍の前に線を引いてやれば引き返すだろう。それでも攻めてくるなら、土魔法で攻められないような長城でも築いてやればいい。


 オレが仮定の話で頭を悩ませている間に、お付きの白矛を持った壮年の男がジュレバーグ氏の指示で、空港の隣にある駐屯地に決闘の準備の為に駆けていった。

 彼はミスリル証のパレードの後くらいにリザに勝負を挑んで返り討ちにあった「白矛の騎士」という二つ名を持った聖騎士だ。

 後でギャラリーから教えてもらったのだが、彼も3つあるシガ八剣の空席を狙っている一人だったらしい。


 ジュレバーグ氏が空港の外へ姿を消すのを見計らったかのように、周りの人達から歓声が上がった。

 出迎えに来てくれた知人達や他のミスリルの探索者達から激励の言葉を受け取りながら、オレ達も決闘の舞台へと向かった。


 公爵暗殺未遂とか、結構大きな事件が起こっているのに決闘なんて遊びをしている場合じゃないと思うんだが……。

 周りのお祭り騒ぎを見る限りでは、そう思っている人は少数派のようだ。





「いざ、参る」

「承知」


 ――君らはいつの時代の人だ。

 そんなオレの内心に誰も応える事無く、対決は始まった。


 昼の闘技場に鮮やかな赤い軌跡が交錯する。

 ジュレバーグ氏が「手加減無用」と言ったせいか、二人とも最初から魔刃を使って戦っている。


 ポチやタマは無頓着に使っていたから街中で魔刃を使わないように言い含めていたが、そういえばリザには明言していなかった。

 それにしても、殺し合いじゃないのに魔刃を使うのはどうかと思う。

 槍が傷まないように保護の為もあるんだろうけどさ。


 もちろん、この対決が本当の殺し合いじゃない証拠に、ちゃんとオレの隣の控え席にはガルレオン神殿の高位神官と水系と地系の宮廷魔術師が控えている。

 宮廷魔術師さん達は郊外の土木作業を中断して駆けつけてくれたそうだ。


 戦いの場となっている騎士団の駐屯地に併設された闘技場は半径200メートルほどで、高さ2メートルの強固な壁がある。

 オマケに騎士団の魔法を使える面々が魔力を提供して魔法の防御壁を生む魔法装置を起動しているので、ギャラリーは安全だ。


「さすがはシガ八剣の頂点に立つお方だ。ジェリルの魔刃よりも立派だぜ」

「ああ、リザ殿もジュレバーグ様と同じくらい素早く槍に魔刃を纏わせていたが、明らかに弱々しい光り方だ」


 そんなギャラリーの声が耳に入ってくる。


 リザは槍が傷まないように魔刃でコーティングしているだけなのであの程度の出力なのだが。

 普通は出力調整ができないのか?

 無闇に高出力にしたら燃費が悪いと思う。


「六連撃~?」

「リザも凄いけど、お爺ちゃんも凄いのです」

「え、嘘?! 今、一回突いただけにしか見えなかったけど?」

「わたしには2連撃に見えた」

「アリサ、ルル、足元の土埃を見れば大体の動きが判ると告知します」


 タマとポチの解説通り、両者が凄まじい速さで突きを入れ、目まぐるしい速さで攻防が入れ替わっている。

 しかし、これがシガ八剣の実力か。


 第三王子で大体わかっていたが、このままだとリザが軽く勝利してしまいそうだ。

 なにせ、リザの方がレベルが低いにもかかわらず、3レベルも高いジュレバーグ氏の方が押されている。

 しかも、「魔力感知」スキルで解析したところ、ジュレバーグ氏は既に自前のスキルで身体強化済みだ。高齢故の衰えなのか、リザの基礎体力がそれだけ優れているのかは比較対象が少ないので判らない。


 流派の異なる両者の槍術の粋を尽くした攻防にギャラリーが沸く。なかなかのハイスピードバトルだ。

 だが、このまま一進一退の戦いが続くなら、持久力でリザが勝ってしまうだろう。


 ジュレバーグ氏がいつ仕掛けるのかに注目していたのだが、先に仕掛けたのはリザだった。


「あっ!? 今、リザの槍が消えましたわ!」

「へ? 消えた?」

「リザの消える槍~?」

「消えないのですよ?」


 リザのフェイントに騙されたカリナ嬢が驚きの声を上げる。

 一定以上の武人にしか判らないトリックなので、アリサには見えなかったようだ。

 ポチは動体視力が良すぎるので、アリサとは別の意味で引っかからない。


 リザが行なったのは達人相手専用の高度なフェイント技だ。

 普通は見てから攻撃を避けたりできないので、視線や筋肉の動きで攻撃の予備動作を察知して避けるのだが、リザはそれを利用してフェイントを仕掛ける。

 エルフ師匠に教わっていた技だが、オレも最初にやられた時は引っかかりかけた。


 オレやポチみたいに見てから避けるタイプは大丈夫だが、タマの様に先読みして避けるタイプはこの技に引っかかり易い。


 ジュレバーグ氏もフェイントに掛かりリザの幻影の突きを槍で払ってしまい、胴に一撃を受けてしまった。

 彼の魔法の鎧が無かったらこれで勝敗がついたところだが、カリナ嬢のラカの守りを簡略化したような白い魔力板が彼を守り、白い欠片を散らせるだけで終わってしまった。


 リザも今の一撃で勝てるとは思っていなかったらしく、特に気落ちしたりはしていない。


「なるほど、魔刃やレベルだけの促成栽培の輩とは違うようだ」


 ジュレバーグ氏がリザと距離を取って、そう評する。

 まさか、数ヶ月前はリザがレベル3だったとは言えない雰囲気だ。


「ご主人様の指導の賜物です」


 リザが神妙な顔でオレの株を上げようとする。

 ナナとルルまで、うんうんと頷くのは止めてほしい。ポチとタマまでマネするじゃないか。


 リザは本気でそう思っていそうだが、オレがしたのはパワーレベリングと「命を大事に」という方針だけだ。

 強くなったのは彼女自身の努力と、エルフ師匠達の特訓の成果だろう。


「その歳でそこまで鍛えた貴殿に敬意を表して、この技を贈ろう。秘奥の魔刃のさらに秘された伝説の技だ」


 ジュレバーグ氏が腰ダメに槍を構えて魔力を穂先に集める。

 魔刃砲とは違うのかな?


 魔力の集まり方からして魔刃砲っぽい。

 リザも槍を構えてジュレバーグ氏の技を盗もうと彼の動きに集中している。


「おお、膨大な魔力がジュレバーグ卿の槍に集まっているぞ!」

「強敵にしか使わないという、あの技か!」


 槍の魔刃が膨張していくのを見てギャラリー達が騒ぎ出す。


 しかし、収束が甘い。

 あの状態だと弾丸状じゃなくコーン状に近い攻撃になるんじゃないかな?

 魔法防御が強い相手だと目くらましにしかならない気がする。


 ようやく準備が完了したジュレバーグ氏が「ぬおおお」と気合を篭めて魔力を打ち出す。

 赤く人の体ほどもある魔力の砲撃がリザを襲う。


「ちょ、棒立ちしてないで――」

「リザさん!」


 アリサとルルからリザの安否を気遣う声が上がる。

 ジュレバーグ氏の放った砲撃が二人の中央まで来た所で、ようやくリザの手が動く。


 瞬く間に形成された赤く小さな魔刃砲が素早く放たれる。


 砲弾はリザの手前で衝突し、赤い閃光で闘技場を染める。

 闘技場を守る魔力壁が共鳴したのか、魔力壁まで赤い光を反射して闘技場がよく見えない。


 リザが放った魔刃砲がジュレバーグ氏の魔刃砲を打ち砕き、その余勢をもって彼の体を打ち据えたのが見えた。

 ジュレバーグ氏の着る魔法鎧の白い魔法の防御が消滅する。


 ――ちょっと、リザ?


 2発目の魔刃砲がジュレバーグ氏に飛来する。

 その威力は最小まで絞られているが、ジュレバーグ氏の体勢では避けきれない。


 しかし、シガ八剣の頂点に長年君臨していたのは伊達ではないようで、「ぬんっ」という裂帛の気合と共に槍から離した拳で魔刃砲を打ち砕く。

 もちろん、その対価は彼の拳だ。完全に破壊されてしまっている。


 老戦士のメンタルはこのくらいではへし折れたりしないらしい。

 彼は残った利き腕で槍に魔力を通して最後の攻撃に出ようとする。


 そこにリザが放った最後の魔刃砲が槍を持つ手首に命中した。

 アリサが突撃銃の三点バーストの話をしてから、獣娘達の間で魔刃砲は3発で強敵を仕留めるようにしていた。

 そのせいで癖になっていたのだろう。


 瞬動で接近したリザが尻尾でジュレバーグ氏の足を払い、為す術なく仰向けに倒れた彼の喉元に槍を突きつけてその動きを止める。


 ようやく闘技場の魔法壁の赤い輝きが薄れ、ギャラリー達に結末が明かされる。


「なっ、どういう事だ?」

「魔刃砲を使ったジュレバーグ卿がなぜ倒れているんだ?」


 混乱したギャラリー達の間からそんな感じの戸惑いの声が漏れ聞こえる。

 だが、それも審判がリザの勝利を告げるまでだった。


「勝者、『黒槍』のリザ!」


 その言葉が闘技場に宣言された瞬間、王都が揺れるほどの歓声が響き渡る。

 誰が何を言っているか聞き取れないが、一つだけ明確なのはリザへの祝福の言葉だという事だ。


 リザがジュレバーグ氏から距離を取ってから、こちらに槍を振る。

 決着が着いてなお、油断をしないとはリザらしい。


 オレも精一杯の祝福の言葉を叫んで、手を振り返す。

 この後に待つ厄介事を憂うよりも、今は彼女の勝利を祝いたい。


 この日、リザは王都で一番有名な探索者となった。


※次回は 6/29(日) の予定です。


※「10-35-2.酒宴とベリアの実」を割り込み投稿しました。

11章の人物紹介を割り込み投稿しました。


※サトゥーが実力を隠そうとする理由は 11-2 でも書いてあるので気になる方はそちらもご覧下さい。

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― 新着の感想 ―
あぁ~~、王国一のおじいちゃんに完勝しちゃったww この後が大変じゃないのサトゥーさん(*´▽`*)
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