12-5.出迎え
※6/16 誤字修正しました。
サトゥーです。受験の合否に「サクラサク」や「サクラチル」とか電報が送られた時代があったそうですが、現代では封筒の大きさで合否が先バレするので廃れたのでしょうか?
合否の通達まで電子化したら、また復活するかもしれませんね。
◇
「お、王都が燃えている……」
オレの横でアリサが息を呑む。
「もえる~?」
「どこが燃えているのです?」
「むぅ?」
当然のように他の幼女達が首を傾げる。
アリサの頬が赤い。きっと、詩的な表現をしようとして失敗したに違いない。
「あれはサクラだと、情報を開陳します」
「あれが桜ですか? 絵本のままの姿ですね」
ナナとリザの言葉の通り、アリサが燃えていると表現したのは王都を彩る満開の桜達の姿だ。
王都までの街道や王都の中の街路を桜色の花が咲き誇っている。
青蓮華の絨毯も綺麗だったが、こちらの方が華やかだ。
「綺麗ですね……」
桜に魅せられたルルがオレの傍らでうっとりと呟いた。思わず「君の方が何倍も綺麗だよ」と口説きたくなるような可憐さだ。
もちろん、ナンパ男みたいに見境無く口説いたりしないけどさ。
そして空港へと飛空艇が旋回し、シガ王国で一番の桜の木が視界に入る。
「うげっ、何アレ」
「おっき~?」
「綺麗なのです」
「ん、綺麗」
アリサが驚いたのは王城に寄り添う様に咲く桜の巨木だ。
かつて王祖ヤマトがエルフ達から贈られた桜の木が桃色の花弁を満開にして白亜の王城を彩っている。
「綺麗ですけど、ちょっと大きすぎませんか?」
「窓のサイズから推測して全長100メートルを超えるサイズだと報告します。樹齢七百年とは考えられないと推論を述べます」
ルルの疑問ももっともだ。
巨大な王城と同じサイズの樹木なんて元の世界では考えられない。
だが――。
「何かおかしいですか? 世界樹はもっと巨大でしたよ?」
リザの言う通り天にも届く世界樹を見た後だとインパクトが薄い。
「あの樹の下で願ったら、どんな願いでも叶いそうね……」
そう呟くアリサの言葉は元ネタが分かるだけに苦笑が漏れてしまう。
残念ながら枯れない桜の樹じゃないんだよ。
◇
「サトゥー、王都への入港を見物するならワタクシも誘いなさい!」
言葉とは裏腹に着飾った己をみせつけるかのようにカリナ嬢がポーズを取る。
確かに息を呑む美しさだ。
アーゼさんがいなかったら、思わずプロポーズしそうになるくらいには暴力的な魅力を周囲に撒き散らしている。
ちょっと悔しいので、カリナ嬢ではなく彼女の横にいるエリーナと新人ちゃんの努力を先に褒め称える。
「お疲れ様、大変だったろう」
「ええ、本当に……。カリナ様もいつもあれくらい着飾ってくれたら良いんですけど」
「ちょ、ちょっと先輩」
エリーナの不敬な言葉に、生真面目な新人ちゃんが焦りの声を上げる。
当のカリナ嬢はオレからの称賛の言葉を待っているのか、外野の声は耳に入っていないようだ。
ほんの少しだけイタズラ心が首をもたげるが、せっかく着飾ってくれたカリナ嬢に報いるためにも普通に誉める事にした。
「大変、お綺麗ですよ、カリナ様」
なのに、カリナ嬢は返答ができずに赤面してしまった。
元がいいのに普段は野暮ったい格好をしているせいで、誉められ慣れていないのだろう。
カリナ嬢が再起動するまで、ドレスから覗く素敵な谷間を堪能させてもらった。
後ろからアリサとミーアの二人に足を蹴られたが、多少のリップサービスくらい大目に見てほしいものだ。
◇
飛空艇が王都郊外にある空港の上空に到着した。
オレ達は船室の荷物を纏めて、一旦展望室に集まっている。
「わぁ、凄い人ね」
「ひとがごみのよ~?」
「蟻みたいなのです」
「ん」
少々失礼な物言いのタマをリザが窘めている。
空港にはかなり広い駐車スペースがあるのだが、そこが人と馬車で埋まっている。
ビスタール公爵の出迎えの貴族達にしては馬車よりも人の数が多すぎる気がする。
飛空艇がゆるゆると高度を下げ、着陸脚のサスペンションが地上へ着地した振動を優しく包み込む。
『下船が可能になりましたら案内の者が参りますので、皆様、お部屋か展望室でお待ちください』
伝声管から女性船員の声が流れてくる。
まずはビスタール公爵一行からだろうし、急ぐ必要もないので最後の方に降りるとしよう。
甲板から搭乗タラップの方を覗き見ると、タラップから公爵家の一際豪華な馬車までの間に蒼い絨毯が敷かれていた。
――赤い絨毯じゃないのか。
絨毯の左右には公爵家の精兵が人垣を築き、蒼い花道に不埒者が近寄らないようにしている。
憮然とした顔の公爵が先頭を歩き、その後ろから11人の貴婦人が続く。
彼女たちは全員、公爵の奥さん達だ。
公爵の直後を歩く3人は公爵と同じ年代の女性だが、後ろに行くほどに若くなっていて最後の女性はナナくらいの若い顔立ちをしている。
マップで確認した年齢は17歳だった。
思わず、「何歳差だよ」と突っ込みを入れたくなる。
奥方達に続いて今年成人を迎える公爵家の子女達や未婚の子供達が7人ほど続き、家臣団が数十人続く。
凄い人数だ。乗客の半分強が公爵家関連の人達だっただけある。
しかし、命を狙われていたくせに護衛が子飼いの私設騎士団の人達だけなのか。ジェリルや彼のパーティーに護衛を頼めば、二つ返事で応えてくれただろうに。
やはり実力よりも、信頼度の方が重要なのかな。
オレがそんな事を考えている間に、公爵達の馬車が列をなして王城の方へ向かって発進していった。
続いて貴族達が続き、そろそろオレ達探索者の番のようなので搭乗口の方へ向かう事にした。
◇
ジェリル達、「獅子の咆哮」のメンバーがタラップに姿を現すと、出迎えに来ていた人々から黄色い歓声が上がった。皆、妙齢の身なりの良い美女達ばかりだ。
一番多いのは「紅の貴公子」ジェリルの名だが、他の面子も名を呼ばれてハンカチを持った手を大きく振られている。
続くパーティーへの歓声は少しずつ減っていったが、オレが姿を現すと、再び声が多くなる。
……なぜ、幼女を連れたおっさんか、ご夫婦ばかりなんだ。
よく見ると公都で見かけた貴族の人達だった。
ミスリルの探索者として出迎えられたのではなく、知り合いが到着したから知人として出迎えに来てくれた律儀な人達のようだ。
少し懐かしく思いながら手を振り返す。
もちろん、中には迷宮都市で知り合った貴族や商人さん達もいた。
タラップの前を行くミスリルの探索者――マーモットとかいう中年男性が何かを見つけたのか仲間の肩を突いて人混みの向こうを指している。
少し興味があったので尋ねてみた。
「どなたか有名人でも見えたんですか?」
「ああ、オレっちの記憶に間違いがなかったら、ありゃシガ八剣の筆頭殿だったはずだぜ」
マップで検索してマーキングしておく。
結構遠いな、よく気が付くモノだ。さすがはミスリルの探索者パーティーの斥候を務めるだけある。
他の探索者達も気が付いたようで、ざわざわと波紋のようにざわめきが広がっていく。
甲子園に出場するような高校球児の前にプロ野球のスター選手が現れたような感じなのだろうか?
ざわめきは無責任な憶測に変わっていく。
一番多いのはこんなセリフだ――
「きっと、ジェリルを勧誘しにきたんだぜ」
「それ以外に考えられないな。案外、自分の後継者を探しにきたのかも」
「さっすがジェリル、私達のリーダーだけはある!」
「獅子の咆哮」の仲間たちに冷やかされながらも、ジェリルは自信満々の満更でもない顔をしている。
――いささかフラグくさいので、横を歩くアリサが人の悪い笑顔を浮かべている。
続いて多いのがオレをスカウトに来たというセリフや、どちらをスカウトに来たかという賭けの仕切りの言葉だ。
無人の野を行くかのごとく、筆頭さんが真っ直ぐにこちらに向かって歩いてくる。
モーゼが海を割ったように、人々が彼の前に道を作っていく。
ジェリル達が立ち止まっているせいか、タラップを降り終わった他の探索者達が遠巻きに囲んでいる。
オレとしては出迎えの人達に挨拶に行きたいのだが、人垣が邪魔で移動したくても動く余地が残っていない。
いや、正面にはスペースがいっぱいあるが、そこに割り込むほど空気の読めない事はしたくない。
丁度、ジェリルや筆頭が一列にならぶような位置のせいか、ジェリルの背中しか見えない。
筆頭がその人垣の中に姿を現したらしい。
筆頭がジェリルに近付くたびにざわめきが広がる。
一瞬だけジェリルの横顔が「フッ」という気障な笑みを浮かべるのが見えた。
次の筆頭の一歩で、場が凍る。
潮が引く様に、ざわめきが消えた。
筆頭が、ジェリルの横を通り過ぎてしまったのだ。
彼はこちらに向かってくる。
「まさか、本命はペンドラゴン卿の方なのか?!」
「だって、若様は魔刃だって使えないだろ?」
ざわめきが少しずつ復活してくる。
そこでようやく、彼の後ろに続く白矛を持った聖騎士の姿が目に入る。その顔を見て筆頭の目的を理解した。
目の前までやってきた筆頭に道を譲る。
ジェリルには悪いが道化仲間に入るのは遠慮させてもらう。
彼はオレ達の少し前で止まり、口上を述べた。
「我はシガ八剣が第一位、『不倒』のゼフ・ジュレバーグ。ここに『黒槍』のリザ殿と手合わせを望むものなり!」
※6/21 「10-35-2.酒宴とベリアの実」を割り込み投稿しました。
※6/22 11章の人物紹介を割り込み投稿しました。
※次回更新は 6/22(日) の予定です。
活動報告にポチSSをアップしてあるので良かったらご覧下さい。
伏線じゃないので一応補足(次回の冒頭でサトゥーが呟きます)
・白矛君は以前迷宮都市でリザにボコられた人です(11-4)。







