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デスマーチからはじまる異世界狂想曲( web版 )  作者: 愛七ひろ
第十二章

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12-3.王都への旅路(3)

※6/2 誤字修正しました。

 サトゥーです。田植えの始まる前に咲くレンゲの花畑が好きです。うちの田舎ではレンゲじゃなく枝豆とかを植えていたので、そんなに雅な風景は電車の窓越しにしか見た事がないんですけどね。





「わぁ、これは凄いわね」

「綺麗」

「はたけ~?」

「ちっちゃな青い花がいっぱいで、いっぱいなのです!」


 難所を越えた後の景色が凄いと聞いたので、皆を連れて展望室に来てみた。

 案の定混んでいたが、うちの年少組はスルスルと隙間や人々の股下を抜けて窓へと辿りついていた。


「やあ、ペンドラゴン卿。オレ達はもう堪能したから代わるよ」

「お嬢さん達にも見せてやれよ。めったに見れない光景だぜ」


 昨日、ダンスの練習を手伝った男性探索者達が場所を空けてくれる。

 オレは礼の言葉を返して、ルル達を前に出してやる。


「凄い、です」

「綺麗ですね。あれは草原でしょうか?」

「恐らく畑と推測。あの一面の青色は青蓮華れんげの花だと報告します」

「きれ~」

「わぁ」


 リザやナナは冷静だが、他の面々は景色を見て感嘆の声を上げている。珍しくクロウが年相応の無邪気な反応だ。


 飛空艇から見える広大な空間が全て青い花で埋まっていた。

 もちろん、ポツポツと林や村落も見えるが、真っ青な花の絨毯を彩るオブジェでしかない。


 ここから王都まではこの光景が続いている。王国最大の穀倉地帯なのは知っていたが、花が咲いているかどうかでここまで印象が違うとは思わなかった。

 最初に閃駆で上空を駆け抜けた時は休耕期の茶色い大地だったから、余計にそう思う。


 演出なのか、展望室の壁際にあるステージで楽団が荘厳な曲を奏で始めた。


 その音色に耳を委ねて、この時期にしか見れない絶景を楽しむ。

 いつの間にか、うっとりした感じのルルがオレの腕に身を委ねていた。


 カリナ嬢と護衛メイドの2人はカリナ嬢をドレスアップする為に悪戦苦闘中なのでココにはいない。

 この景色は当分続くので、見逃して悔しい思いをする事はないだろう。





「ぴかぴか~?」


 展望室の喫茶コーナで喉を潤している時にタマがそんな言葉を呟いた。


「どうかしたのかい?」

「あそこで『ぴかぴか』してた~」


 タマが指差す方に視線をやるが、そこには船体から伸びる安定翼と推進用の大型魔力機関があるだけだった。

 何かが反射しただけとも考えられるが、言い出したのがタマなのが気になる。


 オレはマップを操作してタマが指差した方を確認する。

 大型魔力機関には数人の魔術士や技師が詰めていたが、そこはいつも通りだ。


 いつも通りじゃないのは、安定翼の内側にある狭い連絡路の方だった。

 ――そこにはなぜか、ビスタール公爵の家来の人がいた。


「こんどは、あっちでピカッてしたのです!」

「ご主人様、私も見ました。偶然かもしれませんが、何やら不穏な気配を感じます」


 今度はタマだけでなく、ポチやリザまで見かけたようだ。

 もっとも、方角は全然違う。


 2人が見ているのは飛空艇の進行方向だ。

 オレはマップを操作して、獣娘達が指し示した方を調査する。


 一緒にいた他の娘達には見えなかったようで、手でひさしを作って窓外の景色を覗いている。

 この船の窓はガラスのように透明だが、魔物の素材で作った謎の透過物質なのでオレ自身にもその組成はよく判らない。

 装甲には使えないが意外に頑丈で、割れた時に尖った破片ができないので飛空艇を建造する際に採用した。


 獣娘達が指し示した場所にあったのは、フランスのシャトーと砦の合いの子のような建造物だ。

 詳細を確認するとロイド侯の狩猟館だと出た。彼の名前を見ると公都で一緒に食べた天麩羅を思い出す。


 おっと、そんな事より、おかしな事がある。


 田園地帯のど真ん中にあるのに狩猟館というのも変だが、それ以上に変なのが館にいる人達だ。

 メイドや下男下女のような下級の使用人はロイド侯の家臣なのだが、なぜかビスタール公爵の家来が何人もいる。


 館の地下には魔物達までいた。

 称号が「従魔」になっているから、その近くにいる従魔士テイマー達の下僕しもべなのだろうが、レベル20代前半の突撃槍甲虫ランス・ビートルやレベル20代後半の砲撃蛙キャノン・トード噴進樹ロケット・ツリーのラインナップがおかしい。

 まるで対空戦をするかのような布陣だ。

 しかも合計30体近いともなれば、都市が一つしかないような小国なら攻め落とす事ができる。シガ王国でクーデターを起こすには不足だが、この飛空艇くらいなら撃墜できそうだ。


 だが、もう一層地下にはもっとヤバいのがいた――。


「サトゥー、ラカさんが不審な光を見つけたそうですわ」

『うむ、杞憂であれば良いのだが、光の反射を使用した信号のようだ』


 甲板で風に当たっていたカリナ嬢とラカがそんな情報をオレにもたらした。

 既知の情報だが、それは指摘すまい。


「オレっちも見たぜ。この船には公爵閣下も乗ってるし、何かきな臭ーぜ」


 カリナ嬢達の後ろからやってきたミスリルの探索者――たしか斥候のマーモットとか言う中年男性がそんな言葉を漏らす。

 火薬が廃れた世界でも「きな臭い」と言うのか、と変な感想を抱いてしまった。


「アリサ、皆を連れて装備を整えてきてくれ」


 万が一の為に、皆をドレスから公開装備に換装するように指示する。


「おっけー。乙型装備でいい?」

「ああ、通常でも可憐でも好きな方でいい」

「あいあいさー。行くよ、みんな!」

「あい~」「なのです!」


 アリサの言う乙型は公開装備でも最上級のモノだ。階層の主を倒した時の甲型装備や未使用の秘匿装備を使うような事態ではないので、その中で一番良いのを許可する。

 ちなみに「可憐」とは見た目が派手なパレード用の装備だ。性能的には通常の乙型装備と変わらない。


 マーモット氏は仲間と一緒に艦橋の方へと走っていった。





 オレとリザは着替えに戻っていない。


 さっきの従魔使い達の黒幕の狙いがこの飛空艇の撃墜だとしたら、もう少しで従魔達の射程圏に入ってしまう。

 噴進樹は対空ロケットみたいな魔物だから、特に油断ができない。


 もっとも、ビスタール公爵が乗船している飛空艇を彼の家来が撃墜するというのもおかしな話だが、お家騒動に巻き込まれた可能性もある。

 その場合、政敵のロイド侯が協力している理由が分からないでもないが、あののんびりした人が暗殺の片棒を担ぐというのもしっくりこない。


 まぁ、考えるのは後でいいだろう。

 今は迫りつつあるかもしれない危機への対処が先だ。杞憂なら笑い話で済むし、今は準備を進めよう。


 オレは座席に腰掛けたまま「信号(シグナル)」の魔法を起動する。


 狩猟館にロックオンしていたマップ上の光点が蠢きだした。

 やはり黒の様だ。


 ――圧縮コード送信。


 自分で作った船だ。

 万が一の保険もしてある。


 ――バックドア経由で飛空艇の最上級操作権を確保。


 できれば使わずに済ませたかったが、そうもいかないようだ。

 飛空艇の索敵水晶にマップで発見した従魔達の情報を送信する。この船に付けたレーダーではまだ発見できていないはずだ。


 少し遅れてサイレンが展望室に鳴り響く。


 サイレンの大きな音に驚きながらうちの子達が部屋に駆け込んでくる。

 その時、危機感知が僅かに反応した。


 地表で5つの赤く輝く光点が動き出した。

 あの速さは噴進樹だろう。


 飛空艇が回避の為に舵を切ったようだが、このままでは避けきれない可能性が高い。

 船内の伝声管から緊急放送が流れた。


『総員に伝達、緊急機動を行います――』

『――死にたくなかったら、最寄もよりの手すりにしがみつけ!』


 女性の震える声に、船長さんらしき男性の怒声が被さった。

 その怒声とほぼ同時に、船体が急激に横滑りを始める。


 オレは「理力の手マジック・ハンド」の魔法で、アリサを初めとした非力な面々を支える。


「うっきゃー」

「落ちてる~?」

「キケンが危ないのです!」

「口を閉じなさい。舌を噛みますよ」


 アリサを皮切りに皆が口々に騒ぎ出すが、リザが素早くそれを窘める。

 ルルとミーアは声も無くオレの腕にしがみ付いてきた。その横にはシロとクロウに抱きつかれて幸せそうなナナの姿があった。


 展望室の人々は最初の横滑りには堪えたようだが、ドンッという爆音に続いて起こった急加速に手すりを放してしまう者が多発した。

 オレが非常用に用意した緊急回避用の加速筒を使用したのだろう。


 展望室を無重力の様に飛ぶ人々の内、壁に激突したら怪我をしそうな一般人を選別し、壁際で「理力の手マジック・ハンド」を使って勢いを殺す。

 ミスリルの探索者達なら、この程度は痛がる程度で済むだろうから放置した。


 5本の噴進樹が窓外を飛び去る。

 回避は成功したようだが、こいつらの噴射時間は30秒程度あったはずだ。方向転換をしてもう一度襲ってくるくらいはするだろう。


 艦の左右に各一つある砲塔に頑張ってほしいところだが、右舷は先ほどの緊急機動で砲手が気絶してしまっている。どこかに頭をぶつけたのだろう。

 左舷砲手は健在だが、現在の飛空艇と噴進樹の位置関係だと船体が邪魔をして狙えないはずだ。


 確保したままの最上級操作権を行使して、右舷砲塔を旋回させる。

 マップに連動させてイージス艦のような攻撃をしたいところだが、残念ながらそこまでのシステムはまだ構築できていない。


 マップと砲の角度から弾道を計算し、遠隔で砲撃を開始する。

 魔力による火砲が、秒間3発の連射速度で5本の噴進樹を追いかけるように空に赤い花を咲かせていく。


 なんとか砲身が焼き切れる前に5本全てを撃破する事ができた。

 噴進樹に遅れて発進した突撃槍甲虫に向けて、左舷の砲塔が砲火を開いた。


 距離が離れているのか、至近弾のみで命中弾はまだ無い。


 船体下部から発進した鳥人族の迎撃部隊が隊列を組む。彼らは火杖を装備しているもののレベルは10代後半程度なので、突撃槍甲虫の迎撃をするのは心もとない。


 傾いていた船の姿勢が正されたので、抱きしめていたルル達を放す。

 伝声管から、さっきの男性の声が流れてきた。


『こちら艦長。艦内の魔術師に協力を要請する。本艦に接近しつつある魔物の迎撃を頼む』


 さあ、出番のようだ。


※次回更新は 6/8(日) の予定です。

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― 新着の感想 ―
[一言] 大筋は変わりありませんが、商業版では話に深みを持たせるためのキャラが加わっていますので、より細やかに描写されています。 Web版と商業版双方を読まれているなら、片方にしか出てこないエピソード…
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