12-2.王都への旅路(2)
※5/26 誤字修正しました。
サトゥーです。天照大神の岩戸隠れのエピソードは有名ですね。もっとも、女神が天岩戸に隠れた理由まで知っている人はそれほど多くない気がします。
◇
さて、ナナの天鈿女命役なら見てみたいが、いつものパターンだとアリサか他の幼女メンバーの誰かだろう。
オレは後ろ髪引かれること無く立ち上がり、カリナ嬢との間に立ちふさがる寝室の扉の前に歩み寄る。
風魔法で音を遮断し、「遠見」と「理力の手」の魔法を連続起動して寝室の内側から鍵を開ける。
このコンボを犯罪に使われたら怖いが、「風魔法」「空間魔法」「術理魔法」の三つが使えるなら、そもそも犯罪者にならなくても大成できる。
そんな埒もない事を考えながら寝室に入った。
テーブルの上でラカが青く明滅している。
カリナ嬢がラカを外すなんて珍しい。普段なら寝る時も装備したままなのに……。
明滅の具合から、ラカはオレの侵入に気が付いたみたいだが、カリナ嬢に警告する気は無い様で、沈黙を守っている。
残念な――もとい、幸いな事にカリナ嬢は先ほどの服装のままベッドにうつ伏せになって不貞寝している。
いや、マップで確認したところ「睡眠」状態にはなっていないので眠ってはいないようだ。
「カリナ様、具合が悪いとお聞きしましたが、お加減はいかがですか?」
カリナ嬢の枕元で彼女に囁く。
驚いたカリナ嬢がベッドから跳ね起きて、広いベッドの端にあるベッドボードに背中を預ける。
しまった、鍵を開けるときに音を消したせいか、忍び足で近寄ってしまった……。
ここはしらばっくれよう。
「驚かせてしまいましたか?」
カリナ嬢は赤くなった目元が目立たなくなるほど赤い顔をして、口をパクパクさせている。
……そんなに驚いたのか。
戦いに負けた悔し涙のせいか、目元が潤んでいて暴力的に色っぽい。
脳裏にアーゼさんを浮かべて、劣情を捻じ伏せる。
「じっとしてください」
「……はぃ……」
取り出したハンカチで彼女の目元を拭く振りをして、魔法で癒す。これで安心だ。
カリナ嬢は目を閉じていたし、ラカはオレの体が邪魔で魔法の発動が見えていないはずだから大丈夫。
でも、拭き終わってもカリナ嬢は目を閉じたままだ。
――隙だらけすぎる。
オレが肉食系の男だったら、そのままキスされて押し倒されてますよ?
「拭けましたよ。もう目を開けても大丈夫です」
カリナ嬢がパチパチと瞬きした後、呆けた顔で此方を見る。
オレと目が合うと何が気に入らないのか、ぷくりと頬を膨らませる。
「サトゥーは意地悪ですわ!」
カリナ嬢の投げた枕がオレの顔に飛んできた。
◇
「料理の到着なのです!」
「カラアゲ山脈~?」
ポチとタマが、そんな事を叫びながら部屋に飛び込んできた。
ぷんぷんと怒りながらも甘い空気を振りまくカリナ嬢の扱いに困っていたところだったので、正直助かった。
「うん、いい匂いだね」
「つまみ食いはダメなのです!」
料理の出来を確認しようとしたところ、ポチに叱られてしまった。
「味見だよ、味見」
「味見なら仕方ないのです」
「タマも味見~」
「ポチも味見をするのにヤブカサではないのです」
ポチ、それは「吝か」だ。
タマの皿の天辺から摘まんだカラアゲを、ポチとタマの口に放り込んでやる。
続けて自分の口にも一つ。
ルルも腕を上げたもんだ。もう、調理スキル最大のオレよりも上手いんじゃないだろうか?
カリナ嬢がオレの横でポチとタマを羨ましそうに見つめていたので、小さく開けていた彼女の口にも1つプレゼントする。
不意に口にカラアゲを入れられたせいか、もがもが、とカリナ嬢が抗議してくる。
手を上げてこないところを見ると、口に放り込まれたカラアゲには罪は無いという事なのだろう。
そこに、ミーアと少し遅れてアリサが戻ってきた。
2人とも、この暑いのに全身を覆うマントを着ている。その下の衣装を問うのが怖い。
「ぎるてぃ」
カリナ嬢の放つ雰囲気に反応したミーアがあらぬ罪を問うてくるが、むしろギルティ判定されるのは君らだ。
「あら、もう、おっぱ――カリナサマを部屋から誘き出したの?」
少し言葉が悪いが、アリサの問いに首肯する。
ブツブツと「せっかくの悩殺衣装が無駄になっちゃった」「夜」「そ、そうね!」と小声で交わされたアリサとミーアの不穏な会話は全力でスルーする。
さて、せっかくだから宴会でも始めようかな?
◇
「ふむ、さすが迷宮都市きっての料理人の作だ」
「美味い。まさか飛空艇で幻の料理人が腕を奮ってくれるとは思わなかったな」
ルルの作ったパーティー料理を口にしたミスリルの探索者達が、感嘆の声を上げる。
料理の品数が多かったので、飛空艇の食堂に他の探索者達を招待してパーティーを開いてみた。
予想よりも参加人数が多かったので、不足する料理は飛空艇の厨房の人達に協力してもらって追加してある。
飛空艇に乗っているミスリルの探索者達は、ほとんど男性だが7~8人ほどは女性探索者も混ざっている。
同じ女性の探索者なら、カリナ嬢にも友達が作れるかと思ったのだが、オレの思惑はハズレてしまった。
テーブルの一角でエリーナや新人ちゃんを防壁にして、料理を突いている。
さっきまではカリナ嬢の魔乳と美貌に惹き寄せられた男性探索者達が群がっていたが、多数に近寄られるとカリナ嬢が怖がるので、一度に2人以上が近寄らないようにオレがマネージャーみたいに仕切るハメになった。
ある程度一巡したところで、カリナ嬢にその気が無い事を悟ったのか、男性探索者達は給仕の女性にターゲットを変えていた。
ナナも男性陣に纏わりつかれていたが、いつも通りのマイペースさであしらっている。彼らがナナの鉄壁の防御を突破するには幼さが足りないようだ。
いなくなった男性陣の代わりに、パーティーで仲良くなった女性探索者をカリナ嬢に紹介したのだが、どうも馬が合わないのか会話がぶつ切りで上手くいかなかった。
せっかく相手が好意的な感じなのに、どうしてそうトゲのある対応をするのか問い詰めたい。
女性探索者達が苦笑する程度で、あまり気分を害していなかったのが救いだ。
◇
それなりに広い食堂の一角でミーアが音楽を奏で始める。
探索者の誰かに請われたのか、シガ王国の社交ダンスに使われる有名な曲だ。
探索者の男女が曲に合わせて踊り始める。
あまり練習していないのか、どちらも慣れない感じだ。
「笑わないでやっておくれよ。あたしらはペンドラゴン卿やジェリル達と違って平民なんだから。みんな王都に着く前に練習しておきたいのさ」
「笑ったりなんてしませんよ。最初はみんな初心者ですから」
さきほどカリナ嬢に話しかけていたアラサーの女性探索者が、ダンスのヘタな探索者達のフォローをする。
王都に着いたら、彼らは様々な貴族達が主催するパーティーに招かれるはずだ。その場で恥をかかないためにも、社交ダンスができるように練習しているのだろう。
丁度良い。
せっかくだから、カリナ嬢にも練習してもらおうか。
「さぁ、カリナ様。私と踊っていただきます」
「お、踊りません」
「ダメですよ。それに、ここでは私の足を踏んだって、叱る人も、笑う人も、失望する人もいません」
「でも……」
尻込みするカリナ嬢の手を取る。
「決闘の勝者の権利を行使します」
オレは強権を発動してカリナ嬢をダンスの行われている空間に連れていく。
アリサ達から抗議の声が上がったが、カリナ嬢のダンスの練習が終わったら交代するという事で納得してもらった。
カリナ嬢の次は、今日のパーティーの準備を頑張ったルルの予定だ。
「カリナ様、もう少し体を寄せて」
「うう、は、恥ずかしいですわ」
恥らうカリナ嬢は少しそそるが、ここはダンスを教える事に集中しよう。
集中だサトゥー。
決して、自分の胸板に触れる二つの奇跡に集中シテハイケナイ。
いけない、のだ。
ミーアの鋭い視線をかわしつつ、カリナ嬢にダンスを教える。
「そうです。上手いですよ」
「……そ、そんな事」
少しでも上手くいった時には、間髪いれずに誉めて、ダンスに対する苦手意識を取り払っていく。
「見えない足元に気を取られないで。戦闘中の足捌きを思い出してください」
「こ、こうですの?」
「そう、そんな感じです」
カリナ嬢は偉大すぎる胸のせいで、ダンス中に足元のステップが確認できない。その為、不安感が増していたようだ。
格闘や足捌きに絡めて教える事で、少しずつ物にできてきた。
優雅とはお世辞にも言えないが、スピーディーな切れのあるダンスだ。
あとは場慣れしていけば良いだろう。
カリナ嬢と踊った後は、ルルから順番にうちの子達と踊り、そのままの流れでエリーナや新人ちゃん、それに女性探索者達とも踊る事になった。
なぜか、最後に、男性探索者達のダンスを指導する仕事が待っていた。
少しばかり大変だったが、こんな事ぐらいで男性探索者達が恩に着てくれるなら安いものだ。
ただ、オレが男性探索者達のステップの練習相手をするときに、見学するアリサの鼻息が荒くなるのに閉口した。
◇
特に飛行型の魔物に襲われることもなく、オレ達を乗せた飛空艇は王都前の最後の難所たる山々を越える事ができた。
さあ、もうすぐ王都だ。
※次回更新は 6/1(日) の予定です。







