12-1.王都への旅路
※5/19 誤字修正しました。
※6/10 加筆修正しました。
サトゥーです。中学時代に親とケンカして部屋に引きこもった事はありますが、三日と保ちませんでした。アレはアレでよほどの覚悟か適性が必要だと思うのです。
◇
「ビスタール公爵閣下におかれましてはご機嫌麗しゅう存じます」
「うむ、ジェリル卿も壮健で何よりである」
貴賓室に呼ばれたのは、「紅の貴公子」ジェリルを筆頭に貴族籍にある者達だけだ。
オレ達以外のミスリル証を得た面々も、王都で叙爵されるはずだが平民でここには呼ばれた者はいない。
もっとも、貴族と言っても准男爵位を持つジェリル卿を除けば、名誉士爵と爵位無しの貴族の子弟のみだ。
オレ達を呼び出したビスタール公爵は、叔父のエルタール将軍と同様にワシ鼻の厳ついご面相の中年男性だ。
オレは他の者達の末席でヒザを突きながら、彼の顔を盗み見た。
相手は王族ではないので平伏する必要は無いのだが、現国王の従兄弟という高貴な血筋のせいか、それともビスタール公爵の権勢故か、部屋に先に入っていた面々がヒザを突いて彼の入室を待っていたので、オレも日本人らしく右に倣えで場に合わせてみた。
ようやくジェリルとの会話が終わり、彼が貴族の子弟に「階層の主」討伐を祝福する声を順番に掛けていく。
続いて名誉士爵達に先程よりも幾分簡素な祝福の言葉を贈り、最後はオレの番になった。
視線からして、オレに含む所がありそうな感じだ。
「先ほどの曲芸は楽しませてもらったぞ。卿は探索者よりも大道芸人の方が向いているのではないか?」
曲芸なんて聞いたらカリナ嬢が逆上しそうだ。
でも、ミーアに演奏してもらって、ポチやタマと踊りながら大道芸をして諸国漫遊なんて、実に楽しそうだ。
そんな風に思ってしまったせいか――
「それは楽しそうですね。探索者を廃業したら、公爵閣下の城下町にも巡業させていただきます」
――つい、そんな感じで口にしてしまい、公爵に渋面を作らせてしまった。
彼は厭味で言ったはずだから、オレの素直な感想が意趣返しにでも聞こえたのかもしれない。
ここは「下賎な平民出の成り上がりは云々」と盛大に嘲笑して終わるのがお約束なのに……。
「オーユゴック公は貴殿をシガ八剣に推挙するつもりのようだが、実力も無しに務まるほど、シガ八剣という存在は軽くない」
公爵は視線をジェリルに送り、重々しく頷く。
なるほど、彼はジェリルをシガ八剣に推挙してオーユゴック公爵に対抗したいのか。
間違ってシガ八剣なんかになったら、観光どころかうちの子達のレベル上げにも支障をきたしそうだ。
それに勢力争いの代理戦争のコマ扱いされるのは、できれば遠慮したいしね。
迂闊な発言で敵認定されても困る。
とりあえず、さっきの失言をカバーするべく「公爵閣下のご忠告に感謝いたします」と無難に応えておいた。
もし、火の粉が飛んでくるようなら、第三勢力の「ムサシ」とか「ランスロット」とかの剣豪として登場して、シガ八剣の座を横から攫うとかしてもいい。
適当に場が納まったら、謎の剣豪は竜に挑んであえなく戦死した事にすればいいだろう。
ジェリルにはその後釜に座ってもらえば、丸く収まるよね。
それにしても幾ら政敵のコマ相手だからって、ミスリルの探索者に「実力も無し」と決め付けるのには無理があると思う……。
◇
「へ~、本当にシガ八剣になったら?」
「なって、どうする」
オレは貴賓室での顛末をアリサ達に話しておいた。
ルルは厨房に、ポチとタマはカリナ嬢の部屋に行っていてここにはいない。
万が一、変なヤツが接近してきたら、ちゃんと報告するように言い含めておく。
「何を言ってるのよ。シガ八剣になれば在籍中は大臣達と同様に伯爵扱いよ?」
「そんな地位に興味は無いよ」
もし、爵位が欲しいならナナシから国王にお願いすれば、侯爵あたりは無理でも伯爵の位なら簡単にくれそうだ。
そもそもオレには上級貴族になるメリットが無い。
「かぁ~~っ。もう! どうして、そう欲が無いのよ! 男なら異世界来てチートを手に入れたら立身出世したいと思わないの? 伯爵とかになったら貴族の令嬢とか嫁に貰い放題よ?」
「落ち着け、アリサ」
よく分からない主張をしながらアリサが詰め寄ってくる。
アリサは「お約束」が絡むと暴走しがちだ。普段はオレの事を好きだと発言しているのに、他に嫁が増えてもいいのだろうか?
そんなアリサの発言に目くじらを立てたのはミーアだった。
「浮気はダメなの。絶対よ? それに嫁はもう充分いるの。いっぱいなのよ?」
「ミーアごめん! わ、悪かったってば、反省してるからぁ~」
ミーアの剣幕にアリサもたじたじだ。
嫁が誰を指すのかは薮蛇なので確認しなかった。
ちなみに、同室にいたナナはシロとクロウを相手にした「あやとり」に夢中で、オレの話を聞いていなかった。
シロとクロウの二人は、部屋に入った時に当たり前のように居た。
飛空艇が出港した後だったので、そのまま同行する事になった。
羽はあっても、飛空艇から飛び立つのはそれなりに訓練が必要らしいので「帰しなさい」とは言いにくかったのだ。
ナナの場合、お仕置きとなるのは週一回の魔力供給の停止だが、その場合はオレ自身の損失が大きいので何か他の事を考えよう。
おっと、少し思考が逸れてしまった。
リザは特に意見を言わなかったが、アリサと同様にオレがシガ八剣に成ればいいと思っているようだ。
むしろ、リザの方がシガ八剣に向いていると思う。少なくともシガ八剣だった第三王子よりは強いはずだ。
ポチやタマも既に第三王子よりは強いが、この二人はまだ子供なのでそういった役職に就くのは早いだろう。
◇
「たらりま~?」
「ただいま、なのれす」
ポチとタマが疲れた顔で帰ってきた。
「カリナ様はどうだった?」
「ひきもこもこ~」
「部屋から出てこないのです!」
ぐで、とソファに伸びるポチとタマにお疲れ様の意味も篭めて、とっておきのクジラ肉のジャーキーを口に差し込んだ。
前に作った100キロ分のジャーキーはこれで最後なのでまた作らないと。
「こ、これは!」
「くじらじゃ~き~」
「元気百倍なのです!」
口にジャーキーを咥えたまま飛び起きて、シュピッのポーズを取る二人。
余所行きのドレスだと、こういうポーズはイマイチしっくりこない。
――可愛いけどさ。
「さて、それじゃ――」
「おっぱいさん所に行くの?」
――いや、そのつもりは無いけど?
オレはそう口にしそうになったが、賢明にも言葉にはしなかった。
たしかに、あの状況で落ち込むカリナ嬢を放置するのは酷いか。
せっかくだから、皆を連れて他のミスリル証の人達との交流に行こうかと思っていたんだが、そちらは後回しにしよう。
「そうだね。もう少し時間を置いてから、様子を見に行ってみるよ」
来客を告げるノックの音に、リザが腰を上げる。
やってきたのはカリナ嬢の護衛兼メイドのエリーナと新人ちゃんだ。
新人ちゃんは何故か誰も名前を呼ばない不遇な子だが、本人も気にしていないようなのでエリーナが彼女の名前を呼ぶまではこのままにしておこう。
「士爵様助けてください~」
「お願いします!」
二人が頭を下げて、引きこもったままのカリナ嬢をなんとかしてほしいと頼んできた。そこまで心配しなくて良い気がするが、彼女達の経験では異常らしい。
「だって、厨房でルルさんに作ってもらったカラアゲのお皿を部屋の前に置いても出てこないんですよ?」
エリーナ、それで出てくるのは君だけだ。
ポチとタマに加えて、リザまでうんうんと頷いている気配を感じたが黙殺する。
ちなみに、気球船の旅では取り乱していたリザやポチを初めとした面々も、さほど揺れない飛空艇は怖くないのか、いつもの調子だ。
迷宮の中でアクロバティックな戦いを色々と経験したからかもしれない。
まぁ、今のうちの子達のレベルなら、飛空艇から落下しても魔刃砲や魔法でなんとか生還しそうだけどさ。
「だって、ニナ執政官に叱られたって、ゾトル隊長にコテンパンにされたって、ゲルト料理長の作ったカラアゲの匂いで、元気になってたんですから! それなのに~」
エリーナが必死な様子でオレに迫ってくる。
カリナ嬢が心配なのはわかるが、さっきからオレの腕を薄い胸で抱き込むのは止めてほしい。新人ちゃんまで真似をしているじゃないか。
「ギルティ」
「ちょっと、そんなにくっ付く必要はないでしょ」
アリサとミーアが二人をオレの腕から引き剥がす。
他のミスリルの探索者達に面白エピソードを聞くのは後回しにして、オレ達は二人に請われるままにカリナ嬢の部屋に向かう事になった。
◇
「カリナ様、臥せっているとお聞きしましたが、お加減はいかがですか?」
カリナ嬢の引きこもる寝室のドアをノックする。
もちろん、返答は無い。
さて、どうしよう。
「ここは天岩戸作戦よ!」
「アマノイワトですか?」
「そうよ! 勇者様の世界の神話で引きこもった女神様がいたの! その女神様を誘い出した作戦を実行するのよ!」
鼻息荒くテーブルの上で仁王立ちになって主張するアリサだが、リザに行儀が悪いと叱られて小さくなってしまった。
アリサは自信満々に宴会準備の為、皆を引き連れてルルのいる飛空挺の厨房へと向かった。
しかし、本気で落ち込んだ人間の部屋の前で宴会なんてしたら、余計に意固地になって引きこもりそうなんだが……。
カリナ嬢の寝室の扉を前に、オレは思案に暮れた。
※次回更新は、5/25(日)の予定です。
※6/10 リザやポチ達が空の旅を怖がっていない理由を追記してあります(「ちなみに」以降です)。







