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デスマーチからはじまる異世界狂想曲( web版 )  作者: 愛七ひろ
第十一章

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幕間:ペンドラゴン卿の物語

※5/19 誤字修正しました。


 彼の話を耳にしたのは、酒場での万年青銅の中年探索者達の愚痴だった。

 その青年貴族が只一度の迷宮探査で赤鉄になったという信憑性の薄い話だったが、酒を奢りつつ聞いていると話の出所はギルドの職員だと言う。

 俄然信憑性を増した噂話を集める為、私は彼らに教えられたギルド職員の所へ向かう事にした。


 申し遅れたが、私は迷宮都市にて探索者達や英雄達の活躍を人々に語り聞かせて糊口を凌ぐ吟遊詩人のバリドと申す者なり。

 新しい英雄譚になるか喜劇を紡ぐかは、彼の行い次第。はてさて、いかなる事になるのやら……。



◇とあるギルド職員の証言◇


「ああ、知ってるよ『ペンドラゴン』の連中だろう?」


 職員達の集う酒場で、顔見知りの職員に話し掛けると、あっさりと彼らのパーティー名を知る事ができた。

 重ねて彼に尋ねたところ、「ペンドラゴン」が一度の迷宮探索で赤鉄証を得たのは事実だと断言された。


 酒が口をなめらかにするのか、職員達が口々に情報を提供してくれる。


「若い青年貴族がリーダーをしているよ」

「ああ、金持ちらしくて、美女や美少女や美幼女を侍らせてたぜ」

「獣人や鱗族の亜人の戦闘奴隷が主力らしいぜ」

「不細工なメイドもいただろう?」

「美少女や美幼女が魔法使いだって話だ」


 1つのパーティーに魔法使いが2人もいるとは贅沢な。その代わり神官が居ないという話だったので、亜人奴隷を使い捨てにする攻撃主体のパーティーなのだろう。

 初めての迷宮探索で100個もの魔核を持ち帰ったという話も、その想像を裏付けてくれる。


 私は職員達に求められるままに、リュートを奏で「ドゾン様の活躍」や「紅の貴公子のヒュドラ退治」を謳い上げる。


 それにしても「ペンドラゴン」か……架空の勇者の名前を使うとは、なかなか趣味の良い連中だ。



◇とある美人探索者の目撃談◇


「知ってるよ、あたし達も迷宮で助けられたもん」

「強いかって? 凄いよ、あの硬い迷宮アリを剣の一振りで真っ二つさ」

「高そうな剣だったよね」

「ああ、綺麗な剣だった」


 何十匹もの迷宮アリに追われているところを助けられたという彼女達の話を話半分に聞いても、十分に英雄譚として通用するだろう。


 彼女達の話していたくだんの剣は、ドワーフの名匠ドハル老の鍛えたミスリル製の名剣らしい。

 なるほど、それほどの名剣なら迷宮アリを一刀で真っ二つにする事も不可能ではないのだろう。



◇とある運搬人の証言◇


「士爵様? お仕事くれたの! お掃除と草むしり!」

「いっぱい美味しいご飯を食べさせてくれたの!」

「あたしも食べた! すっごいの!」


 新しく買った屋敷の掃除に、仕事にあぶれた運搬人の子供達を雇ったそうだ。

 飢えた彼らが満腹するほど食べさせてくれた、と実に嬉しそうに語ってくれた。


 他にも迷宮門前で、仕事を求める子供達に気前よく食事を振る舞っていたという話もあった。


 ドゾン氏のような慈善家なら良いのだが……彼が年端のいかない幼子を愛人にしているとの噂もあるので少し心配だ。



◇とあるメイドの証言◇


「えへへ、良いでしょ? この服、仕事着なんだよ?」

「うん、士爵様がくれたの。一人前のメイドになったご褒美だよ、って」


 幼いメイドの子達の笑顔が眩しい。

 しかし、この縫製にこの生地だと相当な値段になるだろう。普通はメイドの衣装は各人の持込みだ。この屋敷のように主人が買い与えるような家はごく稀だ。

 裕福だと聞いていたが、彼の資産はいかなる所から来ているのか気になる。


「え? 誰の紹介かって?」

「紹介なんて無いよ」

「あたし達、お屋敷の馬小屋で行き倒れているところを助けてもらったの」


 なんと! たとえ名誉貴族の屋敷でも、住み込みの使用人ならば、相応の家柄の者を雇うのが普通だ。

 無学な運搬人達や行き倒れの子供を治療してまで使用人に雇うとは……。


 この話を聞いた多くの者が彼に下心があって娘達を助けたのだと、口さがなく断言していたが、私の吟遊詩人としての勘がそれは違うと訴えてくる。

 彼女達の明るい笑顔が、その証左だ。人は虐待されていて、あそこまで屈託無く笑えるモノではない。



◇とある中堅探索者の目撃談◇


「『ペンドラゴン』は、そのうちミスリル証あたりを手にするんじゃないですかね」


 そんな話を聞かせてくれたのは、複数のパーティーを集めては迷宮の奥深くに遠征する中堅探索者殿とその仲間達だ。


「凄かったよ、私達は迷宮油虫(メイズ・コックローチ)に包囲されて絶体絶命だったんだ。そこに彼の家臣達が現れて、次々と迷宮油虫を倒していったんだよ」

「あれは凄かったよな。滑る迷宮油虫の外皮を難なく切り裂いていたから、あの子達の使っていたのはきっと魔剣だぜ」


 ふむ、士爵殿本人だけでなく、部下の者達にまで魔剣を持たせているのか。

 彼の潤沢そうな資金なら可能かもしれないが……。


「だが、本番はその後にあったんだ」

「湧き穴から巨大な『狩人蟷螂(ハンター・マンティス)』が顔を覗かせた時は、生きた心地がしなかったね」


 ――なんと!


 蟷螂の魔物は迷宮に数多いが、「狩人蟷螂(ハンター・マンティス)」と言えば探索者達でも赤鉄級の者しか手を出さないような強敵だ。

 しかも、予期せぬ遭遇なら確実に逃走を選択する。

 十分な地形の調査と入念な道具類や罠の準備をして、初めて勝負を挑むような相手なのだから。


「あんたが驚くのも分かるよ。小さな娘っ子達が、あのデッカイ『狩人蟷螂』を相手に退かないどころか始終圧倒していたんだから」

「あの後、逃げ出した『狩人蟷螂』を追いかけて、湧き穴に突っ込んでいく『ペンドラゴン』の連中を見たときは今生の別れかと思ったぜ」


 自ら湧き穴へと侵入するなど、ありえない。

 なんと言っても湧き穴は、魔神の治める魔界に繋がっているという噂話もあるような場所なのだ。魔界自体行った者などいないが、昔からまことしやかに語られている。


 しかし、彼らの話では、「ペンドラゴン」の少女達はちゃんと生還したと言う。

 どのような幸運に恵まれたのか彼女達の話を聞きたいところだが、英雄譚を作る時は本人の話は最後に聞かなければ駄作になる。


 ――ここは我慢だ。


 残念な事に、件の士爵殿はこの戦いに参加していなかったそうだ。

 彼や彼に付き従うメイドは滅多に迷宮に入らず、それ以外の娘達だけで迷宮に挑んでいるとの話だった。


 彼は迷宮に行かずに何をしていたのだろう?



◇とある貴族の屋敷にて◇


「どう素敵でしょ? 侯爵夫人のお茶会にお呼ばれした時に戴いたの」


 男爵夫人の見せる指輪は、銀の台座に小さな瑪瑙が付いたありふれた組み合わせの物だったが、その意匠が素晴らしい。

 精緻な細工の一つ一つがお互いの美を引き立て合っている。

 いかなる名工の作なのかは判らないが、これだけの力作だ、さぞや高価だったのだろう。


「彼のメイドはとっても料理上手なのよ?」

「カステイラを食べたら、もう他のお菓子なんて食べられないわ」

「あの柔らかくてしっとりとした甘みは、まさに奇跡ですわよね」


 口の肥えた貴族の婦人達がここまで称賛するカステイラとやらにも興味があるが、婦人達の欲しがる物をよくわかった人物のようだ。

 それにしても、彼の家来は優秀な人材が多い。

 きっと、莫大な資産を使って方々から集めたのだろう。


 男爵夫人の口利きで、侯爵夫人からも話を伺う事ができた。


 お気に入りの士爵の身辺を嗅ぎ回る曲者くせものと思われていた様で、最初に彼に害意を抱くなら自分を敵に回す事になると釘を刺されてしまった。

 いかなる手管で彼女に取り入ったのか判らないが、迷宮都市の貴族社会を牛耳る彼女を味方に付けるとは、単純な武力だけでなく政治方面でも優秀なようだ。


 彼が栄達を望むなら、侯爵夫人の三女や四女との交際や縁談を望むはずだが、そのような話は出ていないそうだ。

 もっとも海千山千の彼女の言葉を鵜呑みにはできないが……。


 侯爵の屋敷を去るときに、使用人達の話を聞くことができた。

 さすがに侯爵家の使用人ともなれば羽振りが良いのか、迷宮都市では珍しい珊瑚の装身具を身につけていた。


「これですか? 奥様から戴いたんです」


 彼女がこっそりと耳打ちしてくれた話によると、それが侯爵夫人から下賜された物で、元々はペンドラゴン士爵様から侯爵夫人への贈り物という事だった。


 他にもお茶会のお菓子を持ち込む時には、かならず使用人達の分まで焼き菓子や蜜菓子を差し入れるらしい。

 普通なら、相応の対価――他人に言えない主人の噂や口利き――を求められるのに、彼は「うちのメイドと仲良くしてやってください」と言うくらいだったそうだ。

 彼のメイドも菓子の感想を尋ねるくらいで、侯爵家の内情を探る様子はなかったらしい。


 彼の深謀遠慮はどこを目指しているのだろうか……。



◇とある貴族の屋敷にて◇


「ふん、あの黒髪の小僧なら、いつか謀反を起こしてこの迷宮都市を乗っ取るぞ」


 ペンドラゴン士爵に好意を持たない者を探して行き着いたサロンで、壮年の貴族がそんな話を聞かせてくれた。


「貧乏人共を金に飽かせて集め、武器を取らせて迷宮に放り込んでおるのだ。生き残った者のみを兵隊にして、国家に反旗を翻そうと力を蓄えておるに違いない!」


 彼の言葉には裏づけや証拠は無さそうなのだが、妙な説得力を感じる。


 彼の言う「迷宮に放り込まれた貧乏人」とは、噂に聞く「ぺんどら」という士爵の下部組織の事だろう。

 一度、その「ぺんどら」に接触し、彼が設立したという探索者育成校にも顔を出してみよう。



◇ぺんどら◇


 木陰から覗いた育成校は、確かに件の壮年貴族が恐れたように、軍隊もかくやという規律正しい訓練風景だった。


「役割を忘れるな! 槍持ちの三人は盾役二人の横から突け! 斥候は戦闘に参加する必要は無い。他の五人が安心して敵に集中できるように周辺警戒に専念しろ!」


 魔物役の教官が、六人の訓練生に指示を飛ばしている。

 校庭には同じような組み合わせの集団が、3組ほど訓練に励んでいる。不意打ち係なのか、戦闘に参加しない教官もいるようだ。


「怪しいヤツ~?」


 突然かけられた声と首に生じた冷たい感触に、心臓が止まりそうになった。


 いつの間に現れたのか桃色の奇妙な服を着た猫人の娘が、私の首に小剣を突きつけていた。

 私は荒事は苦手だが、気配感知は得意な方だ。

 それなのに毛ほども気がつかなかったとは……。


「やめなさい、ただの吟遊詩人さんだよ」


 今度こそ私の心臓は口から飛び出すかと思った。

 いつの間にか私の背後から伸びた手が、猫人の娘の小剣を細い指で摘まんだのだ。


 恐る恐る振り返ると、にこやかに微笑むペンドラゴン士爵の姿があった。

 彼は猫人の娘の無作法を詫びて、訓練校の見学をしたいなら事務所で許可を貰うように私に告げて去っていった。


 それにしても、彼はいつの間に現れたのだろう?


 ――もしかして、最初から?


 彼が歩き去った方を振り向いたが、そこには誰も居ない。

 なのに私の脳裏にはいつまでも、彼の底の知れない笑顔が残っていた。


 私が彼の物語を歌える日が来るのだろうか。

 気弱な心を叱咤するように、胸に抱いたリュートを撫でる。


 今の私には竜に立ち向かう騎士の気持ちが分かる。


 私はバリド、迷宮都市の無謀な吟遊詩人だ。いつの日かきっと、後世まで語り継がれる物語を紡いでみせる。


 その物語の名は――。


※次回更新は 5/18(日) の予定です。

 余り幕間ばかりやっても叱られそうなので、来週は本編12章王都編スタートです。


 サトゥーの幕間は他にも「ポーション無双」「サロンに潜む闇」とか2本分のプロットを書いていたのですが、結局、コレになってしまいました。

 「幕間:アーゼ様の日々」は次回持ち越しとなりました。

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― 新着の感想 ―
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