3-8.仮面の勇者
※8/30 誤字修正しました。
※4/7 罠発見スキルを有効化する描写を削除しました。
※6/23 手加減スキルの記述を変更しました。
サトゥーです。小さい頃に変身ヒーローのマネをして遊んだ事はありますが、本当に変身ヒーローみたいな事をする羽目になるとは思わなかったサトゥーです。
◇
オレは迷宮に戻ってきている。金髪の鬘と仮面を被った勇者(笑)スタイルだ。
獣娘達は宿で休息を取らせているので一人だ。ポチとタマが居ないので「罠解除」スキルを有効化する。
マップを開き、腕悪魔のいるはずの場所までの経路にマーカーを書き込んでいく。
よし、これで分岐点毎にマップを読む手間が省ける。
しばらく進むと罠発見スキルが罠の存在を教えてくる。AR表示されるより先に何となく罠のある場所がわかるのだ。
勢いを付けて跳躍し、罠を飛び越える。
その先の部屋には骨兵士が5匹ほどいるようだ。剣を抜くのも面倒なので蹴散らす。
骨兵士はバラバラになって壁際に吹き飛ぶが、すぐに元の様に組みあがる。
「しまった、スキルを無効にしていたか」
メニューを開きスキル画面の「格闘」をタップする。レベルではなく名前の方だ。「格闘 Lv10」が灰色から白に表示が変わる。街中で人を撲殺しないように、拉致スキルを覚えてからは、無効にしていた。拉致スキルは不殺効果があるらしく重宝している。
近寄ってきた一匹目を蹴る。蹴りの当たった胴体が散弾の様に吹き飛び後方の壁にメリ込む。胴体を失った骨兵士は少し間を置いてから引っ張られるように後方へ吹き飛んでいく。何体かの骨兵士は巻き添えを食らって破壊されたようだ。
残り1体になった骨兵士を軽く蹴る。先ほどの様な散弾状にはならなかったがバラバラになりながらノーバウンドで壁に叩き付けられていく。
「街に戻ったら格闘スキルを忘れずに無効に戻さなくては……」
丁寧に戦っていると時間が掛かりそうなので、進路を塞ぐ敵だけを倒しながら進むことにした。
罠を飛び越え、敵を蹴散らし、迷宮を駆ける。
一度だけ生命吸収の罠を受けたが多少スタミナが奪われただけだった。
だが、足を止めざるを得ない場所があった。
◇
『汝、扉を越えたくば、問いに答えよ』
その門にはそう書かれてあった。謎解きか、これも迷宮の定番だな。
『ショニムは木を奉ず、ダレソンは実を食べる、ユラトは種を植える。我らを正しき位置に揃えよ』
うん、わからん。
なので力ずくで行く事にした。
大槌をストレージから取り出し、殴る。殴る。殴る。殴る。
「だめか? いやハンマー系のスキルは有効にしてなかったな」
「両手槌」スキルにポイントを割り振って有効化する。
……なんとなく殴ってもダメな気がする。これはスキルの効果なのか?
気にせず大槌を全力で叩きつける!
柄の所で折れ、先端の部分が部屋の反対側まで飛んでいく。扉は少し凹んだが無事のようだ。
「この扉を外して持って帰ったら売れそうだな」
扉を無視して壁を掘るのも考えたが、マップ表示からして時間が掛かりそうだ。
「効果のよく分からない魔法の道具に頼るか?」
独り言が増えてきた。
残念ながら迂回路は無い。縦穴も確認したが、この扉の向こう側に出るものは存在しなかった。
しかたなく謎解きに戻るが、前提となる知識が無いと分からないタイプの謎だ。
「木と実と種か……怪しい生き物の絵はあるが植物を指すもの無いんだよな~」
オレは途方にくれる。
「『朝は4本足、昼は2本足、夜は3本足。これは何か』とかも人間を知らなきゃ答えが出ないしな~」
そうか!
ストレージからピックを取り出し、壁に刻む。
『朝は4本足、昼は2本足、夜は3本足。これは何か』
『それは人間だ』
>「謎解きスキルを得た」
ありがとうスフィンクス! 答えたのが誰かは知らんがキミにも感謝だ!
謎解きスキルに最大までポイントをふって有効化する。
ショニム、ダレソン、ユラトが何かは結局分からなかった。ただそれぞれの名前が関連するだろう怪しい生き物の絵はどれかわかる。
そして、この部屋に木、実、種を指すものが無い事もなんとなくわかった。
「スキルゲットで楽勝~って思ったんだけどな~」
落胆しつつも、謎解きスキルが与えてくれる感覚か? 謎を解く方法はまだ有るとわかる。具体的な事までは分からないが……。
ゲームではキーアイテムが別の部屋にあるのはよくあることだ、マップで近くに強めの敵がいる部屋を探す。
あからさまに怪しい部屋が3つ、しかもその部屋の敵は他より明らかにレベルが高い。
「ほんとゲームっぽいな~」
一番近い部屋に行ってみる。部屋の中央付近を除き部屋が陥没している。陥没している所には木の根のようなものがウネウネと蠢いている。
部屋の中央部分には台座があり、その上に何かの像が置いてある。どうもそれが謎のキーアイテムのようだ。
1回の跳躍で台座まで飛ぶのは無理のようだ。とはいえ、あのウネウネに着地するのは嫌だ。
AR表示では彷徨う根と出ているが、群体の様で魔法短銃で撃ち抜いても、直撃を受けた個体だけが死ぬようで埒が明かない。
なので前に作った火炎瓶を使う。体は火耐性スキルを最大まで有効化したから大丈夫だろう。鬘が燃えてしまっては変装にならないので奈落の水瓶で頭から水を被る。これで燃え移りにくくなるだろう。
火炎瓶に点火魔具を使って火をつける。5つほど、ひょいひょい投げて燃え具合を確認して、火の中に跳躍!
「できるか!」
無理無理無理! 体が燃えないと判っていてもムリだって。
生木のわりによく燃える。煙がこっちに来ないところを見ると、どこかに風穴があるのか?
待つのも面倒なので他の場所を確認に行く事にした。
2つめの場所は広場のようだ。
やや低くなっている部屋の中央には身長3メートルの大魔神っぽい外見の魔物が居る。AR表示では「石魔巨人」と出ている。レベルは40。「物理攻撃半減」「精神攻撃無効」の固有能力を持っているらしい。
「ゴーレムか定番だと体に書いてあるEMETHのEを取ってMETHにして倒すんだっけ? それらしい文字は無いし、文字自体違うからな~」
物理攻撃半減か……半減というからには効くんだろう。
槍スキルに最大までポイントをふって有効化する。
ストレージから鋼の槍を取り出す。
よく狙いを付けて槍を投げ下ろす!
槍は斜めに石魔巨人に突き刺さり、そのまま突き抜けて地面に根元まで刺さる。
少し遅れて槍が突き抜けた場所から裏側に陥没し、石魔巨人は一撃で粉砕される。
「オーバーキルだな~」
石魔巨人の口内に青い宝玉があった。これが『実』らしい。
3つめの部屋は中央に宝箱のある部屋だった。
宝箱までは罠が敷き詰められ、安全に通れる道は一つしかないようだ。
もっとも一つあれば楽勝なんだが。
黒鋼の刺突剣を腰に装備し、危なげなく罠を避け宝箱の前に行く。
「おお~っと、宝箱はミミックだった!」
そう、この部屋の魔物は、ダンジョンおなじみの偽宝箱だ。
刺突剣を構えてから宝箱に触れると大口を開けて襲ってきたので、刺突剣を連続で突き刺す。生き物というよりは器物を破壊するような感触だ。
>「連続攻撃スキルを得た」
偽宝箱は紫色の煙を出しながら蒸発していく。思わず一歩下がってしまい、足元の罠に掛かるところだった。危ない危ない。
偽宝箱が居た場所の下に、黒い石があった。これが『種』らしい。
1つ目の部屋に戻ると鎮火しており燠火からうっすらと白い煙が上がっている。
彷徨う根はどこかに避難したのか居なくなっている。
これ幸いと台座から像を回収する。これが『木』だろう。
像を取っても巨大な石は転がってこないようだ。
集め終わった3つを謎解きの扉の定位置に置くと扉は音も無く開いた。
戻ってきたときに扉が閉まらないように、適当な大剣を床に突き立てておいた。
そこから目的の部屋までは語るべき事も無く、駆け抜けた。
◇
「ここが腕悪魔の居場所のはずなんだが……」
復活していないなら帰って惰眠を貪りたいね~。
部屋の奥に祭壇っぽい場所がある。
そこに近づくと……。
祭壇の周りの燭台に青い火がともっていく。
「ふはははっは!ワガハイ、登場!」
腕悪魔の声とともに祭壇に紫光の魔法陣が浮かび上がる。
その中央にユラリと立ち上がる腕悪魔、いや全身が復活している。
「ムッハ~~! 完全なるワガハイ、復活!」
「相変わらず、頭の悪い喋り方だな」
「むむむむ! キサマ! 銀仮面! ワガハイ、奮闘!」
悪魔が吼えると体に漆黒のオーラが浮かぶ。支援魔法の一種らしい。AR表示では「物理ダメージ90%カット」と出ている。
「油断大敵! ワガハイ、全力!」
悪魔がまた吼える。爪や角、尻尾に紫色の光が瞬く。AR表示では「物理攻撃力300%アップ」と出ている。
「もういいか?」
腰に差した聖剣の鯉口を切りながら聞く。西洋剣も鯉口と言うのだろうか?
逸れそうな意識を悪魔に戻す。
「余裕ヲ見せるノも今のうちだ! ワガハイ、奮迅!」
悪魔が一足飛びに襲ってくる!
紫の残光を残しながら右手の毒爪で突いてくるが、それをダッキングでかわし、居合い一閃で掬い上げるように下から斬り上げる。
蒼い光の軌跡が相変わらず美しい。
聖剣はまるで抵抗を受ける事無くスルリと肉を裂き、骨を断つ。
「ぐぬぬぬ!ワガハイ、不退転!」
腕を斬り飛ばされた悪魔は、その場でクルリと回転してシッポを叩きつけてくる。そういえば初回はこのシッポに薙ぎ倒された。
油断していなければ問題ない。尻尾を一太刀で斬り飛ばす。
「まサか! キサマ! 勇者なのカ! ワガハイ驚愕!」
尻尾攻撃で背を見せている悪魔を背後から3つに斬り分ける……。
うん、平気だ。虫をたくさん倒してきただけあって大分慣れたようだ。
「バカナ!マオウさま……、ワガハイ、無念……」
悪魔の体力がゼロになったのを確認してから、斬り飛ばした腕と尻尾を本体の所に集める。前みたいに復活されても面倒だ。火葬しよう。
集めた死体から少し離れて残りの火炎瓶に火をつけて死体に投げつける。
離れた場所で、遺体が燃え尽きるまで監視する。存在が薄いのかわずか5分で灰も残さず燃え尽きた。
用事をすませたオレは迷宮を後にした。
>称号「迷宮踏破者」を得た
こそこそ無双?してみました。さすがに薄情なサトゥーでも知り合いが死ぬのは嫌だったようです。
それにしても無双するのに最大の敵は主人公の性格ですね~。力ずくで扉を壊すと決めてもすぐ諦めるし、たいした怪我をしないと判っていても火に飛び込まないし……。
なんとか悪魔を殺せましたが、人間や普通の動物はマダマダ殺せないでしょうね~。
途中の扉は武器が脆かったせいで破壊できなかったのです。聖剣なら簡単に破壊できていたでしょう。
今回主人公は迷宮核の所有権を手に入れる前に出てしまいました……。
新しい迷宮の主が誰になるかは未定です。
ちなみにスフィンクスの問いに答えたのはオイディプスです。







