SS:青いマント
※本日2回目の投稿です。
「なんだと! 俺達は『ぺんどら』だぞ?! さっさと一番いい酒を持ってこい」
「は、はい、只今!」
暴れる若者達に、周りの客達は眉をひそめる。
彼らは迷宮都市でも頭角を現したペンドラゴンの下部組織の者達のようだ。
先日も階層の主を討伐し、パレードが行われたので酒場の客達の中にも知らない者はいない。
だが、噂に聞くペンドラゴン士爵は、孤児院を建設し貧しい人達に炊き出しをしたり徳の高い人物だったはずだ。
組織も大きくなりすぎると末端には、こういった人物が集ってくるのかもしれない。
「おい! そこの美人のねーちゃん! こっちに来て酌でもしろい」
「なんですの? ワタクシに酌をしろですって?」
酔った若者が、美女の立派な双丘に手を伸ばすが、彼女の前に生まれた鱗状に光る盾に阻まれる。
「うおっ、イテェ……何しやがる!」
『何をすると抗議するのは、こちらの方だな。先ほどの犯罪行為は、看過できぬぞ?』
女性の方から不思議な響きの男の声がする。
もちろん、小人が隠れているわけではないようだ。
「もう、一人で先に行かないでくださいよ」
「まったくです! 男爵令嬢なんだから、せめて馬車で移動してください」
お付きらしき娘達の言葉を聞いて、先程まで喚いていた男達が裏口から這々の体で逃げ出す。
永らく王政の続くこの国で、貴族に無礼を働いたとなれば確実に有罪となり、犯罪奴隷に落とされてしまうからだ。
◇
「よう、そこのネーチャン、オレと遊ばないか? オレ達『ぺんどら』なんだぜ!」
「いや、離してください。触らないで!」
逃げ出した男達は、先ほどの酒場から離れた貧民街の一角で地味な娘に声を掛けていた。
相手の娘の手を無理やり掴みあげて、壁に押しつける様はとてもナンパには見えない。
人通りの少ない道だが、武装した探索者達に意見できる者は多くない。
できるとすれば、衛兵や自警団に連絡するくらいだ。
だが、勇敢な者も少なからずいるらしい。
「アンタ達! その手を離しなさい!」
「なんだ? 兎の小娘か? オレ達は『ぺんどら』だぞ! 痛い目に遭いたくなかったら消えやがれ!」
「ぺんどら、ですって?」
身なりの良いワンピースに身を包んだ兎人の少女は、男達の言う「ぺんどら」という言葉に動きを止める。
男達の目から怯んだように見えたのか、男達は尚も暴言を続ける。
「そうだ! あんまり喧しいと迷宮に連れ込んで魔物の前に捨ててくるぞ!」
「衛兵なんて呼んでも無駄だぜ? オレ達の後ろにはミスリルの探索者様がついているからな」
「わかったら、さっさと消えな! いくら女でも獣臭いメスなんかに用はないんだよ!」
肩を震わせる少女の姿を目にして、征服欲を刺激された男達は重ねるように罵声を浴びせ下卑た笑い声を上げる。
だが、次の瞬間、男達の一人が泡を吹いて地面に崩れ落ちた。
いつの間にか兎人の少女の姿が消えている。
町娘の手を押さえていた男が、慌てて手を離して周囲を警戒する。
男の足下近くに身体を沈めていた兎人の娘が、鞘に入ったままの短剣で男の鳩尾を突き上げる。
気絶するその瞬間まで、男の目は兎人の娘を捉える事ができなかった。
「あれ? ラビビ、何してるんだ?」
「あ、ウササ! いいところに来たわね。噂のニセ『ぺんどら』を捕まえたわよ」
「え? このオッサン達か?」
「ええ、紺のマントだから怪しいと思って尾行してたの」
男達は探索者だった事もあり、いきなり奴隷に落とされる事も無く罰金刑で済んだのだが、他人の威光を騙る輩に罰金を支払う事ができるかなど語るまでも無いだろう。
その後、迷宮都市で「ぺんどら」を騙る者は居なくなっていったそうだ。
※次回更新は、5/10(土)予定です。
※すみません、リクエスト分を書く時間が取れませんでした。
これは11章の前半で書いていたもので、活動報告にアップするのを忘れていた話です。







