3-7.過去と失敗と枯れた迷宮
欝話に見せかけたイチャイチャ回かもしれません。
※2018/6/11 誤字修正しました。
サトゥーです。勇者が救えなかった悲劇は多いようです。
ファンタジーの世界なら、めでたしめでたしで終わってほしいものです。
◇
「転生前の知識で故郷を豊かにしようとして失敗したの」
「これでも王女様だったのよ」とアリサがおどけるように言う。
「最初は上手くいってたんだけど、不自然なくらい失敗しだして国は荒れ内乱は起こり最後は隣国に乗っ取られたの」
「何をやったんだ?」
「普通の農地改革よ。腐葉土とか肥料とか四輪農法とか内政チートの基本よ」
内政チートとか聞き覚えのない単語だが内政改革と脳内変換しておこう。
「失敗しても国が荒れるほどなのか?」
「だから『不自然なくらい』って言ったの。腐葉土を集めた山が枯れたり。発酵中の肥料の中から蟲系の魔物が大量発生したり、クローバーやカブで地力が回復するどころか土地がやせ細っていったりね」
いかにもファンタジーな現象だが、『不自然なくらい』と付け足すって事は……。
「誰かが妨害していたのか?」
「そうよ、でもそれを知ったのはもっと後。その時は異世界と地球の違いのせいだと思い込んで落ち込んだわ。『亡国の魔女』とか『気狂い王女』なんて呼び方もされた」
あの称号はソレか。
精神魔法で国王をあやつって美少年ハーレムを作ったとかじゃなかったんだな。
「それにしても国を乗っ取るためなら、乗っ取った国から利益が取れないと意味がないだろう? 国土を荒らしたら本末転倒だと思うんだが?」
「彼らには貧乏国の国土なんてどうでも良かったの。城の地下にあった『枯れた迷宮』がほしかっただけだったのよ」
◇
「国を乗っ取った後、彼らは国民の不満を解消するために、国王と王太子、妃達を公開処刑にしたわ」
悔しそうな顔に涙が浮かんでいる。
「そして残りの王子と王女達を集めて、こう言ったわ」
『国を滅ぼしたのはお前達が愚鈍だからだ。お前達に王族たる資格は無い』
「彼らに命令された宮廷魔術士はわたしを始めとする王子と王女に強制の魔法を掛けたの」
『死ぬまで奴隷として生きろ』
「自分のせいで国を滅ぼしたと思い込んでいたわたしは甘んじてその強制を受けて奴隷になったの」
布団の下でストレージから取り出したハンカチで涙を拭いてやる。
「どうして奴隷にしたんだろうな……」
「さっき言った『枯れた迷宮』を復活させる儀式の為だったの。奴隷なら逆らったり逃げ出したりできないし、契約と違って強制を解けるのは国に一人しか居なかったから……」
ハンカチごとオレの手を握り締めながら続ける。
「毎月、満月の晩に1人ずつ迷宮の奥で怪しい儀式の生贄にされていったわ」
「一年後、迷宮が復活したみたい。生贄の儀式は終わり忌み色の髪を持つ私と庶子だったルルだけが生き残ったわ。わたし達は幽閉されていた塔から近くの離宮に移された。その場で処分されなかった理由はわからないけど。迷宮がまた枯れた時の予備だったのかもね」
手を握る力が抜けていく。
「そして次の満月の晩に悲劇は起こったの。魔族が現れて、城とその城下町を破壊していったわ。わたしの居た離宮も焼かれ、わたしとルルは山に逃げ込んだ」
外出禁止命令を受けていたアリサだが、城が壊されたときに主人として登録されていた奸臣が死んだお陰で離宮から脱出できたそうだ。
「あのまま焼け死ぬしか無いと思ってたけどルルの表示が『主人なし』になってるのに気づいたお陰ね。わたし一人きりなら、そのまま死んでいたわ」
オレの手を巻き取るように抱きこみ膝の上に座るアリサ。手が少し震えているのでしたいようにさせてやる。
「そのまま山を彷徨って、死にそうなところを奴隷商人のニドーレンに拾われたの。主人の居ない奴隷は街に入れないしね。変態貴族とかに売られないように、わたしは技能隠蔽でスキルを隠してルルも精神魔法で失語症に見せかけたの」
オレの腕に小さな頭を預けてくるので表情は見えない。
「精神魔法でニドーレンを操って娘のような扱いにしてもらえば良かったんじゃないのか?」
「そうなのよ。スキルを隠すのに必死すぎて、その事に思い至ったのは契約でニドーレンの奴隷になった後だったの」
「後からでも魔法で操れば良かったのに」
「そんな事したら契約違反で首が絞まって下手したら死んじゃうもの」
ん? ちょっと待て。
アリサをこっちに向かせる。
「さっき魔法を悪用して俺を押し倒してなかったか? どうして契約違反にならない?」
見上げた顔が苦笑いになっている。
「あれは奴隷としての奉仕だもん。契約の時にちゃんと宣誓したじゃない」
『昼も夜も奉仕の手を休めず精力的に、ご主人様にお仕えします』
「だから魔法も使って全力で奉仕するのよ!」
手をわきわきさせながら「だから抱いて~、わたしの青い肉体を貪って~」と抱きついてくるのをチョップで撃墜する。
◇
「ところでその魔族は何者だったんだ?」
「知らないわ。直接魔族を見てないもの。ニドーレンが他の商人達と話しているのを聞いただけ。城下町を焼いただけでどこかに行ってしまったらしいとしか聞いてないの。生き返った迷宮を奪いに来たのかもね」
腕悪魔みたいに迷宮で力を蓄えたかったのかな?
アリサにそう話してみる。
「ニドーレンが巻き込まれた騒動って、迷宮だったの?!」
顔が近い。
勢い込んで迫ってくるアリサを押し戻しながら、悪魔の襲撃や暴動騒ぎ、腕悪魔が迷宮を作った事なんかを掻い摘んで話してやる。銀仮面の勇者は省略した。
「新しく迷宮を作ったって言うの?」
「みたいだな」
驚くポイントだったのか。
「この大陸に生きた迷宮は6個しかないの。最後に迷宮ができたのは100年以上も昔よ。魔王の屍の上に迷宮が生まれたって本に書いてあった」
「あの腕悪魔は完全復活する為に作ったとか言ってたから回復用のシェルターアイテムなのかと思ってたよ」
「そんな安いものじゃないわ。伝説級の秘宝よ。目的は何なのかしら……」
「魔物を量産して勇者と戦うとか?」
オレの適当な答えを黙殺し、アリサは真剣な顔で考え込む。
オレの肩に両手をかけるのはいいが、足をオレの腰に回してガッチリ固定するのはヤメロ。
「この辺に地脈の濃い所はある?」
「竜の谷っていうのがあるらしい」
真剣な顔で見上げながら言う……のはいい、どうして薄い胸を押し付ける?
「もし悪魔の目的が腕一本からの復元なら、たぶんもう終わってるかもしれない。完全復活は何ヶ月もかかると思うけど。短時間なら元の姿で動けるはずよ」
「そんなのが足の下にいるなんてゾッとするわね~」と震える。
短時間っていうのがどれくらいかはわからないが、迷宮出口の駐屯地にいるゼナさん達は危険だな。
「やけに詳しいな」
まるでナディさんみたいだ。
「王宮の図書室の蔵書はあらかた読んだもの」
「この世界は活字が少なすぎるのよ~」と憤慨するアリサ。
「知ってた? 本を読んで新しい知識を手に入れると経験値がたまるのよ~ お陰で王城に篭ったままでレベルが上がったわ」
なるほどゲームじゃないし戦闘でしかレベルが上がらないはず無いか。
◇
「知ってたら教えてくれ」
「もちろんよ~ ご主人様~」
顔を胸に擦り付けながら、指で胸を弄るな。
「この世界でレベル62の魔族と戦うには、どれくらいの戦力がいる?」
「用意できる駒のレベルは?」
「最大48くらいだ」
「それなら聖属性の武器を用意して6人くらいのバランスのいいパーティーなら勝てるわよ~」
「6人もいないな。48の魔法使いが一人、40台中盤が3人、40前後が2人」
「ちょっと厳しいけど、30台後半の人が10人ほど補助に回れば何とかなると思うわよ? 犠牲はかなり出ると思うけどね」
指で弄るのを止めてこちらを見上げる。
「ご主人様、やけにこの都市の戦力に詳しいわね。商人じゃなかったの?」
「軍人に知り合いがいてね。あと商人を名乗っているが商業活動はまったくやってないな」
「よく5人も奴隷を買えたわね」
「まあね、迷宮で魔核をたくさん手に入れたし、暫くは金に困らないと思うよ」
金は竜達から強奪したものだが、正直に言うと話がややこしくなりそうなのでミスリードしておく。
胸を弄ってくる手を上から握り締めると、何を勘違いしたのか口をすぼめてキスをしてこようとする。
それを押し返し、体から引き剥がしてルルの横に寝かせる。
◇
安物のローブと外套に着替えて部屋を出る。
「どこいくの~」と聞くアリサに「朝まで寝てろ」と『命令』だけして部屋を出る。
初稿のアリサの過去が欝過ぎたので改稿を繰り返していたら話が変な方向に。
キャラを覚えやすいようにキャラの特徴の上にルビで名前を乗せる形式を試してたんですが、不評のようなので4章から変更します。
3章までは既に投稿予約済みなので、そっちの修正はちょっと後になります。







