11-7.ゼナの行方
※3/7 一部加筆しました。
※3/10 誤字を修正しました。
サトゥーです。青天の霹靂という言葉がありますが、人生いつ何が起こるか分かりません。だから今日という日を悔いなく楽しく過ごすのだ――そう田舎の爺ちゃんが、いつも言ってました。
◇
ゼナさんが行方不明?
素早くマップを開き、検索バーではなくマーカー一覧からゼナさんを選ぶ。
現在位置は――迷宮下層?
どうして、そんな場所に。
「ゼナっちが魔物に攫われたのかもしれないんだ! 少年は色々と顔が利くんでしょ? お願い、ゼナっちを探して!」
リリオがオレの両腕を掴んで懇願する。
ボロボロとあふれ出した涙が、彼女の頬を伝う。
とりあえずゼナさんに怪我は無い。状態異常も無いみたいだ。
そうは言っても、いつまで無事か判らないので、素早く行動しよう。
「分かりました。探しに行ってきます」
「お待ちなさい」
横にいたイオナ嬢に肩を掴まれる。
彼女の甲冑も肩当てが壊れて、肩が剥き出しになっている。
「なんですか?」
早く救助に行かせてほしい。
「行方不明になった場所も状況も聞かずにどこに行こうというのです」
「それは……」
しまった、急ぎ過ぎた。少し不自然だったか。
言い訳だ。詐術スキルよ、君の本気を見せてみろ。
「人を集めに行ってきます。探索系の魔法が得意な人間に心当たりがあるので、助力を請おうと思って。状況は後で伺いますから、先に神殿の出張所で治療してもらってきてください」
「ええ、分かりました。ゼナさんは黒い霧に攫われる直前に大怪我をしていたので、治療のできる方も確保してください」
大怪我?
マップで見る限り全回復しているけど?
それに、「黒い霧に攫われた」って、そんな魔物なんていたっけ?
おっと、疑問は後回しだ。
オレはイオナ嬢の依頼を請け負い、ギルドを後にした。
◇
屋敷まで辻馬車で戻り、地下室から迷宮の66区画へ「帰還転移」の魔法で移動する。フロアマスター退治の時に刻印板を設置しておいて良かった。
そこから中層へ降り、下層入り口までの最短距離を調べる。
念の為、迷宮到着後にクロの姿に変装しておいた。
移動しながら、アリサに「遠話」の魔法で連絡を取る。
「アリサ、悪いが試食会を中断して迷宮に入る準備をしてくれないか?」
『おっけー』
理由も聞かずに即答とは、さすがアリサだ。
男前過ぎる。
アリサに「ゼナさん失踪」を伝え、ダミー救出隊を編成してもらう。
公都の料理大会の為に特訓していたルルには悪いが、味見係兼アドバイザーのリザ、アリサ、ミーアの3人を少し借りる事にした。
潜伏のスキルを頼りに、中層で狩りをする探索者達に気がつかれないように天井付近を天駆で突破する。
少し風が巻き起こったかもしれないが、許してほしい。
道を塞いでいた巨大なスライムに穴を開け、密集して生えていた食人植物の森を砕き、幾重にも鋼糸を編んだ巣を作る惨殺蜘蛛の領域を薙ぎ払って中層を抜けた。
他にも通行に邪魔な大型の魔物を始末したが、些細なことだ。
下層へと続く道を、謎金属の扉が塞いでいた。
どうやら、謎解きで開く扉らしい。
開け方自体は「謎解き」スキルですぐに判ったのだが、時間がかかりそうだったので聖剣カリバーンで切断して無理やりに道を作る。
今は寸刻が惜しい。
扉の向こうにあった螺旋階段で、どのくらい地下に潜ったのだろう。
ようやくレーダーが未知の領域に入った事を知らせてくれた。
久々に「全マップ探査」の魔法を使って、下層を調べる。
迷宮下層は、上層中層とは少し異なる作りになっていた。
植物に例えると、8個ほどの巨大な瘤状の地下茎があり、網の目状の回廊が数百の小さな地下茎を結んでいるといった表現になる。
この地下茎に当たる部分が、上層や中層でいう区画に相当する。小さい方は平均的な区画の1~3割程度の小さいものだが、8つの大きな方はセリビーラ市がそのまま入りそうなくらいの巨大な区画だ。
そして、ゼナさんは、そのうちの一番大きな区画にいた。
◇
ゼナさんを攫った相手はマップの範囲検索ですぐに判ったのだが、ちょっと油断ならないヤツだった。
吸血鬼――それも真祖だ。
おまけに、「一心不乱」というスキルを持っている。確証は無いがユニークスキルの香りがする。
しかも、レベルが61だ。その他のスキル構成を見る限りでは魔法使い寄りの魔法剣士らしい。
マップに表示される名前は、「バン・ヘルシング」――吸血鬼の名前としては些か間違っている気がしないでもない。
あからさまに転生者っぽい名前だ。
転生者の子孫とも思えたが、詳細情報に「ヘルシング伯爵家の開祖」とあるので家名は自分で付けたのだろう。「ヴァンじゃないのか?」とか突っ込む者も居ないだろうし。
ゼナさんがいる大区画は、ほぼ全てが一つの地下空間を成しており、その中心に大きな城がある。
城内にいるのは、真祖を除いて7人の上級吸血鬼達と無数の騒霊達、そして17人の人族の女性達だ。
不思議なことに普通の吸血鬼はいない。
ゼナさんのいる部屋には、彼女の他にも攫われたとおぼしき女性が6名ほど居り、そこには探索者ギルドで失踪したと言われていたゲルカという女性もいた。
この部屋の外にいる10人は、「常夜城の侍女」という肩書きが付いていたので、城で働いている者達なのだろう。
正面入り口から突貫してもいいが、ゼナさんを人質にされると困るので、こっそりと侵入する事にする。
その区画の直下にある小区画から、土魔法を駆使して迷宮の壁に通路を作成する。
前に公都の地下迷宮から脱出するときにも使った魔法だが、この迷宮で通路を作る方が抵抗が強く、その分だけ魔力消費が多かった。
ゼナさんのいる城の地下に出たかったのだが、間に地底湖のような大量の水源があったので避ける。
大量の水はストレージに収納するという手段も使えるが、急に水が無くなったら、その上にある構造物が崩れたり、吸血鬼に気付かれそうなので、止めておく事にする。
それでも10分後には無事に通路を作成し終わり、無事にゼナさんが捕まっている大区画に侵入する事に成功した。
穴から抜け出て、近くの茂みに身を隠す。
そこから顔を出して静かに周囲をチェックした。
地下都市という言葉よりも、魔界という言葉が相応しい光景が眼前に広がっている。
思わずマップを確認してしまったが、ちゃんと迷宮の中だ。
スケルトンの農夫達が広大な葡萄畑で作業を行い、操り人形のようなリビングドールが取り入れた作物をぎくしゃくした動きでどこかに運んでいく。
畑の向こうには地底湖があり、その上には白亜の城が月明かりに浮かびあがる。
そう、地下のはずなのに空には月が昇り、この広大な空間を照らしている。おそらく、あの月は魔法か魔法道具なのだろう。
岸から湖上の城までは、曲がりくねった橋が架けられている。
湖上にはなんらかの結界が施されているのを、魔力感知スキルが教えてくれた。
オレは侵入に使った穴を土魔法で埋め、念の為、消費した魔力を魔剣からリチャージしておく。
こっそりと潜入したいところだが、橋の上を通れば城から確実に見つかってしまうだろう。
湖上にガーゴイルらしき影も見えるし、水中にも魔物がいるようだ。
さて、どこから侵入するべきか。
もちろん、城主に直接会って話し合いで返してもらう手もあるが、ここはゼナさんの安全を最優先で行こうと思う。
大怪我をしたゼナさんを治療してくれたようだし、悪人とも限らないのだが、なんといっても吸血鬼だ。ゼナさん達を食糧としか見ていないとか、花嫁にするために攫ったとかの可能性が高すぎる。
とりあえず、ゼナさんの居る場所を「遠見」の魔法で確認する。
――あれ?
空間魔法が阻害されているのか、魔法が失敗した。
湖上の結界のせいだろうか?
マップやレーダーは阻害されないようなので、ゼナさんのマーカーをアクティブ設定にして、AR表示で現在位置が出るように設定する。
本来は、クエストなどでNPCの位置をナビゲートするための仕組みだったのだが、こういう使い方もできるようだ。
正直、便利すぎる。
気のせいか、AR表示のゼナさんのマーカーが移動している。
まさかと思うが、自力で脱出を始めたのか?
マップでチェックしたところ、自力で脱出を始めたのはゼナさんとゲルカ嬢の2人だけのようだ。
彼女達の進行方向のマップ上に、光点が出現した――真祖だ。
恐らくは彼女達を捕縛しようとしているのだろう。
――時間が無い。
彼女達の未来位置を想定して、そこまでまっすぐ突貫する事にした。
ストレージから神剣を抜き、閃駆で一直線に湖上を駆け抜ける。
途中にあった結界は神剣でサックリと穿ち、通り道を作って突き抜けた。
結界を抜け、ストレージに納刀した神剣をしまう。
城壁の直前で静止し、背後に「風壁」の魔法で壁を作り全速の閃駆で生まれた突風を散らす。
城壁に手をついてゼナさん達のいる通路まで、土魔法で一気に穴を開ける。
よし、ゼナさんの横顔が見えた。
ゼナさんは進行方向を向いたまま停止していたので――おそらく真祖と対峙しているのだろう――閃駆でゼナさんの正面に急接近し、彼女達が驚きの声を上げるより早く両肩に担ぎ上げて、「帰還転移」の魔法を使う。
転移直前に、驚いたのか肩の上のゼナさんが、ビクッと身体を固くする。
さきほどの「遠見」みたいに阻害されるかと危惧したが、神剣で結界に穴を開けたせいか問題なく転移できた。
少しギリギリだったが、ミッションコンプリートだ。
>称号「救出者」を得た。
>称号「逃亡者」を得た。
※次回更新は、3/2(日)の予定です。
※3/7 「マップに表示される名前は」の以降の部分に転生者疑惑について加筆しました。







