3-3.奴隷市場にて
※8/16 誤字修正しました。
サトゥーです。合縁奇縁とも言いますが、係わり合いたくないのに出会ってしまう。
そんな運命もあるようです。
◇
奴隷市が開かれる広場は直径200~300メートルくらいの広さがあり約20メートル毎に篝火が焚かれている。
祭りのように幾本も細い木の柱が立てられ、その間に渡された紐に括られた無数の薄い金属板がキラキラと魔法の光を反射している。催されているのが奴隷市じゃなかったら幻想的な感じでデート向きなのに……。
中央のオークション会場らしき所にはロープが張られている。
奴隷オークションはまだ始まっていないようだが、舞台の上では数人の楽師がゆったりとした淫猥な雰囲気の曲を奏でている。
オレ達は広場には入らず、そのまま道なりに広場の様子を見物しつつ通りを歩く。
「サトゥー殿!」
殿? そんな呼び方をする知り合いは……。
迷宮で蜘蛛から助けた奴隷商人のニドーレン氏だった。奴隷達を乗せた馬車の横にある小さな天幕から出てこちらに来る。馬車の上は鎖で繋がれた少女達が並べられている。
「馬車の上に並べられているのは今日のオークションに出品される奴隷達です。算術スキルや秘書スキル持ちもいるのでサトゥー殿も使用人代わりにいかがですか? ちゃんと教育してあるので、皆処女ですが夜のほうを拒絶するような者は居ないと保証できます」
……教育ね。
おっと皮肉よりも先に用事があった。
「申し訳ありませんが、新規の奴隷よりも先にうちの奴隷達の手続きをしないといけないので……」
「おや? お売りになるのですか? でしたら、ぜひ我が商会へ! 今なら美しい処女奴隷と交換いたします! いかがですか!」
すごい食いつきだな。そんな気は無いんだが。
……無いから、足元でローブを掴んだまま不安そうに見上げないっ。ポチとタマの頭を乱暴にガシガシと撫でる。後ろで見えないけどリザも不安そうにしている気がする。
「前にも言いましたが売却するつもりはありません」
うん、解放するのはありだと思うが。
ポチ、タマのローブを掴む手が緩む。
「そうですか、残念ですな。では手続きとは何を? 奴隷解放の手続きでも無いでしょう?」
「まだ仮契約なので正式な奴隷契約を済まそうと思って。手続きできる場所をご存知ありませんか?」
「それでしたら私ができますよ。部下が『契約』スキルを持っていますので」
「では、お願いできますか?」
「畏まりました」
ニドーレン氏の天幕の中に招き入れられて椅子を勧められる。部下らしき青年に指示して契約書を用意させる。
文書は定型文があるらしく、主人と奴隷の名前を書くだけで済むらしい。
「では、こちらに名前をお書きください。奴隷は名前を書けないでしょうから、こちらのインクで拇印を押させてください」
青年の言う場所にサインする。定型文とは言っても「誰が誰の奴隷になるか」「奴隷は主人を害しない」「奴隷は主人の命令に従う」「奴隷は自分の身を保全する」の4つしか書いてない。最後の2つの順番が逆だがロボット三原則にそっくりだな。
契約書が書き終わると青年が契約の儀式を始める。
「■■■■■■■■■■■ ■■■ ■■■■ ■■■■■■■■ 契約」
なん……だとっ?! 魔法なのか?
最後の発動語句が終わると契約文書が燃えて灰になりそこから出た青い光がオレとリザを繋ぐ様に光の帯を繋ぎ2、3度瞬いた後、光は染みこむように消えた。
青年のステータスを見ると確かに「契約」はスキル欄に書かれている。
たった一つの魔法を使うタイプのスキルなのだろうか?
>「契約スキルを得た」
よっし、後でこのスキルが使えるか試してみよう。
「これで奴隷契約が完了です。 ご希望でしたら広場のオークション会場裏に簡易型のヤマト石があるので契約の確認ができます」
3人分の契約が終わったので手数料を払おうとしたのだが、金銭授受はニドーレン氏の権限らしく、しばらく待ってほしいと言われた。そういえば契約の儀式を始めたあたりで天幕を出ていった。すぐ戻るらしいが、間が持たないな。
「ありがとう、ちょっと聞きたい事があるんだけどいいかな?」
「はい、なんでしょう?」
「奴隷を解放する人というのは珍しいのかな?」
「そうですね。奉仕年月が決まっている一般奴隷はともかく、下級奴隷を解放する人は見た事がありません。長年仕えた下級奴隷を解放したという話は聞いたことがありますが、実際に目にした事はありませんね」
そんなにレアなのか?
「解放自体は可能なんだよね?」
「はい可能です。不可能なのは犯罪奴隷や戦争奴隷くらいです。これらは、国家や上級貴族しか解放できません」
「解放もさっきの契約と同じような感じでするのかな?」
「そうです。一般奴隷の解放は何度かした事があります。さきほどの契約スキルで契約解除可能です」
せっかくだから獣娘達を奴隷の身分から解放しておこうかな?
解放後は希望するなら、そのまま雇用するって感じで。
「ご主人さま、僭越ですが会話に割り込む無礼をお許しください」
目を伏せて静かに聞いていたリザが話しかけてくる。ポチとタマは契約の儀式で緊張したのかリザの足に抱きついて眠っている。
「いいよ、何かな?」
「迷惑でないなら私共を解放するのはお止めください」
ゆっくりとした口調でハッキリと言う。
エスパーか!
それよりも、どうして解放されたくないんだろう? 自由の方がいいよね?
「確かこの伯爵領では獣人と蜥蜴人は奴隷以外が存在できないんですよ。領軍に出頭すれば国外追放で済みますが、それ以外だと私刑にあって殺される危険性が高いですね」
「はい、それに私の部族はもう無いですし、前に聞いた話ではポチとタマも同じような境遇です」
同族を頼る事もできますが、身寄りの無い者は奴隷以下の扱いになるとリザは淡々と言う。
ポチとタマが眠っていて良かった。
◇
重い雰囲気を壊すようにニドーレン氏が5人ほどの娘を連れて入ってくる。
5人共かなりの欧風美人だ。みな膝丈の薄布1枚だけを着ている。かなり薄いようで胸元が透けている。
「もう契約は終わられましたかな? とりあえず見るだけでも見ていってください」
「その前に契約の手数料をお支払いしたいのですが?」
さっさと料金を払って帰ろう。
「いえいえ、迷宮から助け出していただいたお礼もありますから、手数料など頂けませんよ。それだけでは不足ですな、奴隷のほうも3割引でお譲りしましょう」
くっ、先手を打たれた。先に小額の利益を相手に与えておいて後の話を聞かせやすくする新興宗教とかの勧誘テクニックと同じだ。
結局断れず、ニドーレンの奴隷紹介を順番に聞く事になった。
ただ聞いているだけだと途中で居眠りしそうなので、この機会に鑑定スキルの練習をしてみることにする。鑑定スキルは常時発動型のスキルだが「知りたい」「鑑定したい」と思いながら見つめると脳裏に鑑定結果が投射されていく物らしい。
見つめるとどうしても先にAR表示で詳細が表示されてしまうのでレーダー以外のウィンドウは表示をOFFにした。
途中入れ替えがあり2セット10人分、相槌を打ちながら聞き流した。
それにしても、アピールポイントが処女かスキルしか無いのはどういう事だろう? この国の人はそんなに処女が好きなのか?
「お疲れですか? 次が最後なので、もう少しお付き合いください」
そう言って連れてこられたのは、何日か前に見た黒髪の和風美少女を含む6人ほどの少女達だ。
なるほど、最後にここ一番の奴隷を持ってくるとは、さすが熟練商人。
他には、……いた。あの危険な称号持ちの紫髪の幼女もいる。しかも見てる。すっごいガン見してくる。
目を合わせず、他の娘に合わせる。金髪そばかすの不貞腐れた顔の15歳の少女、茶髪で長身の20代後半の面長の女性、くすんだ金髪の10歳未満の痩せ過ぎの幼女。三つ編み赤毛の15歳くらいの文学系の地味な少女。
最初の10人に比べると見た目が劣るものが多い。何か特殊なスキル持ちか?
鑑定でスキルを調べてみるが、そばかす少女が「交渉」、面長の女性が「性技」、痩せ過ぎの幼女はスキルなし、三つ編み少女が「採取」スキル。
ついでに調べると紫幼女がスキルなし、黒髪さんが「礼儀作法」だ。
どういうラインナップだ?
「こちらは容姿の点では劣りますが、皆主人に良く尽くす働き者です」
ニドーレン氏はそう言いながら一人ずつ説明していく。彼の主観ではあの黒髪さんも不美人扱いなのか?
「いかがでしょう? 今なら6名セットで金貨3枚でご提供いたします!」
ニドーレン氏は力強く売り込んでくる。幾らなんでも安すぎるだろう。一人銀貨2枚半じゃないか。
「今日明日で売れないと鉱山都市に行く隊商に委託する事になるのです」
ニドーレン氏のその一言で、やる気のなかった奴隷娘達の背後に「ザワッ」と擬声語が背後に見えるほど慌て始める。
肩布をずらして胸を晒す者、すそをたくし上げる者、変なポーズを取る者など方法は違うが皆アピールを始める。変化が無いのは紫幼女と黒髪少女だけだ。紫幼女は相変わらずガン見してくるし黒髪少女は目を伏せたままじっとしている。
しばらくアピールしていた女奴隷達もオレが反応しないとわかると一人また一人と諦めていく。
ニドーレン氏が退出を指示して初めて紫幼女が我を取り戻す。
「旦那様! 旦那様にはそちらの優秀な亜人奴隷がいるので他の奴隷はいらないとお考えのようですが、間違い無いでしょうか?」
「そうだよ、他に奴隷は要らない」
特にトラブルを呼びそうな君を買う気は無い。絶対にだ!
「ですが、彼女達は亜人です」
「その通りだけど、それを不満には思っていないよ?」
「はい、彼女達の様子を見る限り大切にされているのはわかります。だからこそ! 私をお買い上げください」
だからの理由がわからん。
「この都市では亜人は忌避されます。買い物や用事を言いつけても彼女達だけではパン一つ売ってもらえないでしょう」
そうか、そのへんは考えていなかったな。
でも雑用なら奴隷を買わなくても、宿の小間使いに頼めばいいし、要らないな。
「そこで私が居れば、彼女達の代わりに雑用ができます! 値段もお手ごろですし、ぜひ買ってください」
紫髪の幼女が見上げるように訴えてくる。肩口の辺りで切りそろえられたくせのある髪、潤んだ紫色の瞳、薄く小さな唇、震える小さな肩。幼女趣味ならほっておかないだろう。
……買うか?
幼女趣味は無いはずなのに魅力的に思える。いや要らないだろう?
だが、どうしても買わないと損な気がする。
オレは、そのまま紫幼女を買い、彼女の勧めるままに黒髪少女を購入した。
自分の行動に疑問を持ちつつも、オレは獣娘に続いて2人の奴隷のご主人さまになった。
ようやく正統派幼女の合流です。
主人公の突然の変節の理由は次回で~。
もうちょっと奴隷達のアピールのところでHな感じにしてみたかったんですが……。







