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デスマーチからはじまる異世界狂想曲( web版 )  作者: 愛七ひろ
第十章

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10-47.ミスリル証(5)

※中二病な発言や文が存在します。苦手な方はご注意ください。

※12/23 誤字修正しました。

 サトゥーです。サプライズというのは嬉しい方向でのみ許されると思うのです。ハプニングは全力で遠慮したい今日この頃です。





 上層66区画は、一部屋しかない。

 ここはフロアマスターの召喚魔法陣のある巨大な広場だ。クジラを5匹同時に解体できるほどの広さがあり、高さも100メートル近いので天井が遠い。

 広いので、一見、平地に見えるが、中央付近以外の床には2~3メートルの大きさの岩が砂利の様に転がっているので、遮蔽物には困らないだろう。もっとも、フロアマスターの攻撃に対する壁になってくれるのは、期待できそうにないけどね。


「どうする? フロアマスターを召喚する役はオレがやろうか?」

「大丈夫! わたしがやる!」


 一番危ない役なので申し出たのだが、眼を爛々と輝かせたアリサに断られた。


「昨日セオルさんに確認したけど、召喚後は必ず10秒くらい動かないらしいから」

「そうか、それでも油断せずに、防御魔法は展開してから行けよ?」

「うん、分かってる。まったく、心配性なんだから」


 魔力譲渡で、ゲートの分で減った魔力を充填してやりながら、アリサに忠告する。


 更地になっている中央広場の外縁に少しずつ距離を置いて皆が布陣している。出てくるフロアマスターのタイプによって使う魔法が変わるので、ミーアもナナとルルに守られるような場所にいる。


「みんな! 位置についたわね! はじめるわよっ!」


 アリサの声を風魔法で皆に伝達してやる。

 この部屋は広すぎて音が反響しにくいからね。


 アリサが、トリガーになる魔核(コア)を祭壇にある不思議な文様の甕に入れる。AR表示では聖杯と表示されている。


「我は不可能に挑む者! 定命の者にして、神と魔と世界の法則に抗う者なり! 今ここにその証を立てるべく階層の主との対戦を求む! いずれ3つの証を携えて、汝のもとに至ろう! 我は挑戦者! 試練よ、今この場に現れ出でよ!」


 アリサの中二病っぽい召喚句に応えて、召喚陣から赤い光が漏れだす。アリサの詠唱が終わる頃には目を開けるのも辛いほどの激しい光が召喚陣の上を走る。


 そして、そいつは召喚陣の上に湧きあがるように現れた。





「ああ、失礼。君の召喚陣に便乗させてもらった。階層の主なら、もうすぐ来るはずだから、僕に構わず挑戦してやってくれたまえ」


 召喚陣の上に現れたのは、180センチほどの背丈の紳士だ。仕立ての良いスリーピースの白いスーツに白いコートを着て、お揃いの白い手袋を付けた手には1メートル強のステッキを持っている。シルクハットを小脇に抱えて、アリサに気安く告げる。


 横にいたアリサが、震える手でオレの腕を掴む。


「ふむ、視えるのか? 口封じする気は無い。僕が倒したいのは神々とその狂信者だけなのだ。悪いが神々の人形相手に無双して悦にいる趣味は無いから、僕に挑むのは遠慮してくれよ?」


 紫色(・・)の体毛をした狗頭の魔王(・・)が、哀れむように告げる。

 不思議と危機感知が反応しない。手出しをする気が無いと言うのは本気なのだろう。


 AR表示では残念ながらスキルが不明だが、レベルだけは過去最高だ。それでもオレの半分もないが、このクラスのヤツはオレの防御魔法を突破する攻撃をしてくるから慎重に対応しないと皆が怪我をしてしまう。


「ま、まおう」


 ショックを受けてバランスを崩したアリサを片手で支える。その時にベールに指をひっかけたのか、ベールが少し捲れてアリサの髪が外気に晒された。


「ほぅ、視えるはずだ」


 立ち去ろうとしていた魔王が、アリサの髪に目を止めて振り返る。


「欠片を内に秘めた種子の娘よ、一つ忠告といこうか」


 ――やはり、アリサにも神の欠片があるのか。


「いずれ君は真実にたどり着くだろう。だが、決して絶望するな。感情に流されて狂える魔王と成り果てて勇者に討伐されるか、僕のような理性ある魔王となって世界と戦う道を選ぶか、それは君の心の強さで決まる。もっとも、魔王と成るか真実から目を逸らし人としての生を歩むかは、君の選択しだいだ」


 ふむ、魔王なのに理性的というか、お節介と言ってもいいくらいの助言をしてくれる。できれば、アリサには、こういう話は聞かせたくなかった。


 オレは、後ろのナナ達に手信号を出す。


「勇者に気をつけたまえ。やつらはパリオンの走狗だ。くっくっくっ、走狗か、狗頭の僕が言うとギャグにも成らない」


 手信号を受けて、ナナとルルが物理防御と魔法防御を重ね掛けする。

 内容は「強敵出現、命を大事に」だ。


 オレは幾つかの確認をするために彼に話し掛ける。


「聞いていいかな?」

「荷物持ちの下男の戯言に耳を貸す気は無い。話をしたくば、この娘くらいまでレベルを上げてから来るのだな」


 そこで初めて、狗頭の魔王の視線がオレの方を向く。そういえば交流欄のレベルが34のままだった。

 オレを見て訝しげにしていた魔王が、何かに気が付いたように思案する。指を伸ばした掌を額にあて、ナルシストのように斜め45度の角度でスラリと天を仰ぐ。


「こんな場所でニンゲンの真似事とは、酔狂がすぎるのでは?」


 彼は疲れた声でそんな言葉を吐き捨てる。

 まさか、レベル310なのが見破られたのかな? だとしてもニンゲンの真似事ってのは酷い。


「遊びは程々に。僕はこれから世界中の神殿を焼き払う大事な仕事が」


 神殿を――


 フラッシュバックするように脳裏に映ったのは猪王の時にみたセーラの遺体。

 そして、巫女長をはじめとしたテニオン神殿の神官さん達の楽しそうな姿だった。


 ――それを焼き払う、だと?!


 その言葉が耳に入るなり行動を起こす。

 閃駆でアリサを後方のナナに押し付け、再び閃駆で魔王に肉迫し聖剣を喉元に突きつける。その切っ先は、ヤツの眼前に現れた薄い板を少し貫いた所で止まっている。


 我ながら短気な事だ。ちょっと迷宮都市に毒されてしまったのかもしれない。

 さっきの発言を聞いて、セーラや巫女長が魔王に殺される幻を視てしまった。こいつが殺すというのなら、彼女達にその運命から逃れる術は無いだろう。


「――相変わらず、無茶苦茶な方だ。物理攻撃を完全に無効化する絶対物理防御(アンチフィジカル)の盾を貫くとは」

「悪いが、さっきの発言は容認できない」


 まったく、共存できそうな魔王だと思ったのに。語尾が普通だから油断したよ。

 というか、知り合いみたいに言うのは止めてほしい。オレの知り合いに狗頭の魔王なんてヤツはいない。


「神殿を焼かれるのを忌避されるのか?」

「そうだ」


 オレは魔王を倒す算段を考える――だめだ、ここだと狭すぎて皆を巻き込んでしまう。全力の魔法を使ったら、今の皆の装備とレベルじゃ無事で済みそうにない。


「ちょっと、出ようか」


 ヤツのコートを掴んで、迷宮都市の西方にある砂漠へと転移した。

 備えあれば憂いなしだね。ルルの滑腔砲の実験用に砂漠に転移ポイントを用意しておいて良かった。





 転移に抵抗するかと思ったが、魔王は思いの外、素直についてきた。


「先ほどの発言を撤回する気はないか?」

「ありませんな。アレは僕の存在意義と言っても良い。僕は神と神殿の木偶でく共を滅ぼす為に魔王に成ったのだから」


 一応、翻意を促したが、ダメか。

 さっきは熱くなって斬りつけたが、できれば話し合いで妥協点を模索したかった。

 だけど、魔王の口調や態度を見る限りじゃ、無理っぽい。


「ふむ、貴方に殺されるのは、これで何度目かな? だが、たまには一矢報いてみせましょう。これでも二万年前に世界中の神殿を滅ぼした原初の魔王としての誇りがあるのでね」


 初めから負けるのが前提なのか?

 それよりも重要なのは「何度も殺されている」という点だ。殺しても、ヤツは時間経過で復活してしまうのだろう。前に誰かが、神や亜神は死んでも勝手に蘇ると言っていた。きっと、こいつも亜神の領域にいるに違いない。お陰で気兼ねなく戦えるよ。


 それにしても、勇者の歴史が1300年くらいなのに、魔王はそんなに昔からいたんだな。どうやって2万年経過したのを知ったのかは知らないが、些末な事だ。


 戦いが避けられないなら、全力でいこう。

 前に戦った黄金の猪王と同クラスなら、それでも苦戦するはずだ。


 悠長に開始の合図を待ったりせずに、「光線(レーザー)」の魔法で先制する。

 今回は「集光(コンデンス)」で束ねるのを止めておく。余計な魔法を使うと奇襲にならないからね。


 かつて大怪魚(トヴケゼェーラ)を焼き切った必中の魔法が、魔王の体を避けるように軌跡を歪めて砂漠の上に幾条もの空洞を穿っていく。


 なぜ、外れた?


「お忘れかな? 僕のユニークスキル『確率変動(トリックスター)』の前では精密射撃系の魔法や武器は通用しない」


 このチート野郎め。アリサの気持ちが少し理解できた。ユニークスキルじゃなくチートスキルと改名するべきじゃないだろうか。

 だが、ヤツの勘違いはまだまだ続いているようで、自分のユニークスキルの種明かしをしてくれるのは正直助かる。

 なかなかズルいスキルだが、直接殴るか広範囲魔法を使えば関係なさそうだ。レーザーの軌道が逸れたのに驚いてしまったけど、レーザーで薙げば良かったのか。


「では、胸を貸していただきますよ」


 ヤツは耳元の毛を摘まむと、ふぅと一息吹きかけて毛を散らす。


「――眷属よ」


 その毛が紫色の狗となって、一斉に襲い掛かってくる。

 孫悟空か!


 空を駆ける紫色の狗は、レベル50の幽狗(ゴースト・ハウンド)と表示されている。「分解」のブレスを使うらしい。


 厄介そうな攻撃方法を持っているみたいなので、幽狗達が広がる前に、一網打尽にするべく「火炎嵐(ファイアーストーム)」の魔法で焼き尽くす。「火炎炉(フォージ)」と違って効果範囲が広いから楽だ。


「相変わらずふざけた威力だ。とても『火輪(ファイア・サークル)』のような下級魔法には見えない。それでこそ、戦う価値があるというものだ」


 いやいや、火炎嵐は中級ですから!


 ――ん?


 魔王の言葉に心の中でツッコミを入れた後に、少し嫌な事に気が付いた。

 下級の火輪を、オレの火炎嵐と同等の威力にするようなヤツがいるのか? ありそうな存在としては魔神あたりか。


 オレはげんなりとしながら、方針を「魔王掃滅」から「情報収集」に変更する。

 皆の安全と、今後の観光ライフの為にも、ヤツから情報を集めないとね。


 手加減できない相手から情報収集とか、なかなかに無理ゲーっぽいけど、コイツなら勝手にしゃべってくれそうだ。


 次回更新は、2013/12/29(日)を予定しています。


※注意! 12/25に8章の最後のあたりにクリスマスのお話を割り込み投稿してあります。


※12/23 AR表示で魔王のレベル等を確認した部分を明記しました。(気になる方は「AR」で検索してください)

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― 新着の感想 ―
[良い点] 現在読み返し中。 やはり面白いな。書籍出た後に修正されてる箇所もあって吃驚。 [気になる点] フロアマスター召喚呪文の「いずれ3つの証を携えて、汝のもとに至ろう!」って上層・中層・下層の討…
[一言] 共存できる魔王。 意味のある言葉ですね。 復活する魔王や神の場合、死ぬと言うよりもこの世、物質界に顕現する肉体を失い直接干渉できない間を、死んだと表現しているようですね。 肉体不在のこと…
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