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デスマーチからはじまる異世界狂想曲( web版 )  作者: 愛七ひろ
第十章

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10-46.ミスリル証(4)

※6/21 誤字修正しました。


 サトゥーです。参観日というと子供達の晴れの舞台という印象がありますが、大人になってみると保護者達の見栄の張り合いの場所でもあると気付かされます。きっと、先生方もバランスよく子供達の見せ場を作るのに、胃が痛かった事でしょう。





「わ~い、ポーアなのです!」

「シーヤ、おひさ~?」


 オレが別荘に連れてきた2人を見たポチとタマが、諸手を上げて歓迎する。この2人は、フロアマスター討伐時の助っ人だ。


 あいにくと、戦力としてではなく、人数を水増しする為だ。この2人には、それぞれトロル5人とスプリガン10人、レプラコーン10人を引率してきてもらった。さきほど、地味な中年男性に変装したオレが、東ギルドまで案内して全員の登録を手伝ってきた。この辺りだと珍しい種族ばかりだったので、みんな人族に偽装してもらった。トロルはサイズ的に無理があったので、比較的メジャーな小巨人に化けて誤魔化した。


 エルフ2人以外は、地上の宿を一軒貸切にして、そちらに泊まってもらっている。


 オレ達が迷宮都市に最初に来たときに泊まった高級宿だ。トロル達が泊まれるような宿が、他になかったんだよね。食事や酒は全てオレの奢りなので、今頃は人族の料理を堪能しているはずだ。酔ったトロルたちが、宿を壊さないか少し心配だ。


「おう、ポチ! 達者にしてたか?! 後で稽古をつけてやる! ()ッ剣の用意をしておけよ!」

「あい! なのです!」


 ポチの師匠のポルトメーア女史が、前に贈った青薔薇の剣を片手にニヤリと微笑む。


 別荘に駆け戻ったポチが、無傷木剣(ソフト・ソード)2本を頭上に掲げて嬉しそうに帰ってきた。さっそく稽古を始めるつもりみたいだ。


「タマは、息災か」

「さくさくでゴザル~? ニンニン」


 タマの師匠のシシトウーヤ氏は、着流しのエルフさんだ。落ち着いた物言いはツワモノといった風情だが、見た目が若いので背伸びした中学生に見えて、どこか微笑ましい。外見がショタっぽいので、アリサのお気に入りのエルフさんだ。


 こっちの2人はのんびりとしていて訓練を始める様子もないので、別荘の中で待っているリザの師匠のグルガポーヤ氏とユセク氏、それからナナの師匠のケリウル氏とギマサルーア女史の所へ連れていく。彼らも、今日連れてきた2人と同じく、10~15人ずつの偽装部隊を連れてギルド登録してもらっている。


 先に連れてきた50人は、ボルエナンの森に住む獣人達だ。彼らは、迷宮に突入した後に蔦の館に転移で連れていって、レリリルの作るご馳走を堪能してもらっている。


「おう! シーヤ。ポーアは一緒じゃなかったのかよ?」

「ポーアなら、ポチ嬢と手合わせをすると申して行ってしまった」

「まったく、あの戦闘狂にも困ったものだ」

「然り然り」


 オレみたいな温和な人間から言わせると、この5人の師匠連も同類だ。


「やはり、リザ殿には敵わぬな」

「いえ、ケリウル殿ほど手ごわい方は初めてです」

「それは、サトゥーを除いてか?」

「ご主人さまは別格ですから」


 真剣勝負を終えたリザとドワーフのケリウル氏が、そんな発言をしている。


 もっとも、真剣勝負といっても剣を交えていたわけではない。

 先ほどから、この2人は、リビングの一角で利き酒ならぬ、利き肉をしていたのだ。


 リザが持ち上げてくれたが、オレには別に絶対味覚とかは無い。調理スキルを上げてから、味の違いが鋭敏に感じられるようになったけど、食べただけで産地や雄雌まで見分ける二人には及ばない。

 単に、鑑定スキルやAR表示でわかってしまうだけだ。


 2人の世界を作っていたのは、リザ達だけではない。


「なるほど、気を付けるべきは魔法無効(ニュートラルマジック)と体力を削った後の暴走(スタンピード)状態なのね」

「うむ、そうだ。我が主も、その2点に悩まされたものだ」


 アリサに、フロアマスターと戦った時の注意点をレクチャーしてくれているのは、影人(シャドウ)族のセオル氏だ。トラザユーヤ氏が迷宮都市にいた頃に、彼のパーティで斥候を担当していたらしい。フロアマスターの討伐にも参加した事があると聞いたので、ご足労願ったわけだ。


「アリサ殿、貴殿らは強い。だが、階層の主とは、更に別次元の相手なのだ。竜を退けた事のある我らが主でさえ、3度挑んで2度は敗退しているのだ。勝てぬと判断したら、速やかに退き、次の機会に賭けるのが宜しかろう」

「ありがとう、セオルさん! 大丈夫よ! わたし達には奥の手が売るほどあるんだから! 明日はズパーンとぶちかましてやるわ! 明日の晩は、食べた事の無いようなご馳走で宴会よ!」


 セオル氏の忠告を聞いて、アリサのヤル気は、なおいっそう熱く燃え上がったようだ。


 それはいいが、宴会料理を作るのってオレだよな? 変にハードル上げるの止めてくれないかな。そろそろ、レパートリーが尽きてきたんだよね。エルフの料理研究家グループの人達から教えてもらった妖精料理なら沢山あるんだけど、エルフ達に出しても食べ飽きてそうだし。

 ここしばらく洋食や日本食ばっかりだったから、中華料理や創作料理に走るのもいいかもね。





 翌朝、宿に戻ったシシトウーヤ氏から困った事になったと連絡を受けた。

 深夜まで宴会していたトロル達が、酔った勢いで宿の壁を破壊してしまったらしい。なかなか、豪快に壊れている。これは修理代が結構掛かりそうだ。

 せっかくなので、このハプニングを利用して、彼らを雇用するきっかけに利用させてもらう事にした。


「何かお困りですか?」

「おお、これはこれは立派な若君。じつは、我らの仲間が粗相を働いてしまったようなのでござる」


 オレとシシトウーヤ氏の三文芝居を、ポルトメーア女史はつまらなさそうに無視している。


「こ、これはペンドラゴン様」


 オレに気が付いて、気まずそうに挨拶してくる宿の主人に被害額を聞く。

 金貨50枚だそうだ。確かに、これだけ激しく壊れていたら修理代と休業補償でそれくらい掛かるだろう。


「ふむ、貴殿らは腕利きの探索者のようだ。私に力を貸してくれるのなら、宿の修理代を立て替えよう」

「なんと! これはかたじけない。我らにできる事あらば、階層の主の討伐とて手伝ってみせようぞ!」


 オレも人の事は言えないが、シシトウーヤ氏もたいがい大根だ。でも、ヘタの横好きなのか、シシトウーヤ氏は芝居がかった仕草をノリノリで演じている。タマが変な影響を受けていないといいんだけど。


 宿の主人に修理代を支払う。ちょっとした世間話をしている間に、なぜか修理代が金貨28枚まで減少していた。不思議な話だ。





 オレがシシトウーヤ氏達と一緒に西門に向かっていると、街の人達がガヤガヤと好き勝手な事を言っている。きっとトロル達の巨体が珍しいのだろう。


「おい、アレってペンドラゴンの若様じゃないのか?」

「何してるんだ、あの人? いつものチビっ子や巨乳美人がいないじゃないか」

「黒槍のリザさんやメイド王のルルさんなら、何日か前に迷宮に入ってたぞ」

「帰還予定日に帰ってこなかったのか? 心配だな」

「心配するだけ無駄だって、養成所の『ぺんどら』達だってアレだけ強いんだ。正規員のあの娘らを怪我させられるのなんて、階層の主くらいのもんじゃねぇ~の?」


 炊き出しをしたりしているせいか、知らないうちに若い探索者達の間で、ずいぶん顔が売れていたようだ。


 彼らの言う「ぺんどら」とは、養成所の卒業生達の事で、卒業証書代わりにペンドラゴンの紋章――ペンを持ったドラゴン――を3頭身にした簡易版の紋章を染め抜いた青いマントを与えてあるので、そんな名前で呼ばれるようになったらしい。

 この簡易版の紋章はアリサが考案したもので、ナナのお気に入りだ。最初にアリサが描いた図案は、今でもナナのポーチの中に大事に仕舞われてある。


 しかし、メイド王って、どこから出てきた二つ名なんだろう? ルルなら王じゃなくて女王だと思うんだけどね。


「あの小巨人みたいなヤツらを引き連れて、階層の主の討伐に行くのかな?」

「カネの力にものを言わせての討伐か……オレ達も雇ってくれないかな」

「やめとけ、やめとけ。狩人蟷螂みたいな化け物を無傷で倒すような連中が、助っ人を雇ってまで挑むような相手だぞ。オレ達なんて肉の壁にも使えねぇよ」


 よしよし、予定通り外部戦力を沢山雇って迷宮に入るのを、大勢に目撃される目的は達成できた。

 先に50人を連れてきていた4人と交渉している姿を、探索者達がよく通るオープンテラスの一角で見せ付けておいたから、オレが多数のパーティーを雇っているのは印象付けられているはずだ。


 ふう、あとはアリサ達と合流して、安全に狩りを達成すればミッション完了かな。





 迷宮に入ってしばらくのところで、連れていた面々を蔦の館のパーティー会場に転移で連れていく。


 蔦の館に滞在していた奴隷達は、迷宮都市や迷宮都市の近郊に作った実験農場で働いているので、もうココにはいない。


 ティファリーザとネルの2人は、王都に作ったエチゴヤ商会で働かせている。蔦の館に残っていた貴族出身の探索者の娘達も一緒だ。

 この商会は、フルサウ市の5人の調合士が作った薬を扱う薬剤部門と、迷宮都市の職人長屋のポリナ達が作る日用雑貨を扱う部門から成っている。

 一番の売れ筋は、アリサが考案したキックボードだ。王都では受注生産で2ヶ月待ちの人気商品だ。誰でも作れそうなのに、過去の転移者や転生者は作らなかったのだろうか? 売れ行きが良いのはいいが、王都までの輸送が面倒になってきたので、王都の郊外にあった工場を買い取って、そちらで作らせる事にした。工場長にはポリナを送る予定だ。


「サトゥーさま、今度はスプリガンやレプラコーンに加えてトロル達もですか! これは腕の振るい甲斐があるってもんです!」

「食材や酒は足りているかい?」

「はいです!」


 色々な妖精族を歓待するのが楽しいのか、レリリルのテンションが高い。


「ワインも蜂蜜酒(ミード)もたっぷりです!」

「じゃあ、歓待は任せたよ」

「はいです! お任せくださいませです!」


 張り切るレリリルと手伝いの魔動人形(パペット)達に後を任せ、ポチとタマの師匠を連れてアリサ達の待機する別荘へと転移した。





「みんな、準備はいいかい?」

「はいなのです! お弁当もオヤツもバッチリなのです!」

「バナナもちゃんとある~」

「もちろんなのです! バナナはオヤツに入らないのですよ!」


 ポチとタマが両手にバナナを握ってポーズを付ける。

 くるりとアリサの方に視線を向けたが、容疑者はテンパっていてオレの非難の視線に気が付いていない。


「装備の点検も完了していると告げます。ルルの作ってくれたキャラ弁もヒヨコ柄なのだと自慢します」


 フル装備のナナが、巾着に入った弁当箱を妖精鞄から取り出して見せてくる。

 3人とも装備と弁当を同列に置き過ぎだ。


 前衛陣は最近の正装になったオリハルコン製の全身鎧を着込み、後衛達も魔力ブースト機能を中心にしたドレスアーマーを装備している。デザインをアリサに任せたせいか、ミーアとアリサは、どこかの魔法少女っぽいハデさがある。

 ルルはメイド服を基本にしているが、いざという時はアリサとミーアを守る役目もあるので、後衛でありながらナナに次ぐ重装備だ。


 オレが66区画の階層の主の召喚部屋を中空に映し出す。それを見て目標地を視認したアリサが、「空間門(ゲート)」の魔法でそこに通じる道を作り出した。


 さぁ、行こうか。

 オレ達は66区画へと通じるゲートに踏み込んだ。


 戦闘シーンまで届かなかった……。

 でも、10章は年末年始で終わるはず!


 次回更新は、12/22(日)の予定です。

 活動報告に「モテモテSS」をアップしてあります。


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― 新着の感想 ―
[一言] サトゥー曰わく、俺みたいな穏和な人間? 清掃と魔物討伐が同義な? 上級悪魔以上でなければ、害虫駆除と区別せず、むしろ如何に手抜いて目立たず排斥するか腐心している人が? 憤怒とは、無縁っぽ…
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