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デスマーチからはじまる異世界狂想曲( web版 )  作者: 愛七ひろ
第十章

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10-29.迷賊退治

※10/12 加筆修正しました。

※2/11 誤字修正しました。


 サトゥーです。昔遊んだ迷宮モノのPCゲームで、侍や盗賊が敵として登場するものがありました。当時は気にしていませんでしたが、彼らは迷宮の中で暮らしていたんでしょうか?





「あと15分ほどで、そっちにたどり着く」

『ほ~い、待ってるね』


 アリサとの「遠話(テレフォン)」で向こうの状況を確認した。


 迷賊達は、アリサ達を包囲したものの、膠着状態になっているらしい。リザ達が出てきたら逃げ、その隙に小部屋に突入しようと隙間のような小回廊や迷宮の暗い壁を伝って襲ってくるそうだ。

 しかも、迷賊の親玉らしきレベル30台のヒゲ男と、マヒ毒の吹き矢を使う狙撃部隊が厄介で、なかなか攻めに転じられないと愚痴っていた。アリサ達の実力なら、排除自体は簡単なはずなので、不殺を貫いてくれているのだろう。

 そして、膠着状態に痺れを切らした迷賊の親玉が、子分に魔物のトレインを作らせて、アリサ達のいる小部屋に突撃させているそうだ。


 マップで確認する限り、多少スタミナと魔力が減っているものの、誰も怪我をしていないようだ。





 オレとルルは、太守の衛兵達を引き連れ、回廊をひた走っている。


「ご、ご主人さま、前に、また(・・)……」

「ルル、見ちゃダメだよ」


 回廊に横たわるのは、半ば魔物に喰い散らかされた迷賊の屍骸だ。これで何体目だろう? 当たり前だが、魔物をトレインするのも命がけのようだ。隷属の首輪をしているところをみると、この男は奴隷だったのだろう。


 遺体にたかるハチのような魔物を、妖精剣で斬り捨てる。硬そうな見た目の割に豆腐のように柔らかい。


 回廊を進む間にトレインから漏れた雑魚の魔物を、ルルと2人で倒しながら進む。後ろの兵隊さん達は、このペースの移動が辛いのかさっきから静かだ。


 レーダーの端の方に迷賊が映る。


 回廊の角を曲がった瞬間を狙って、「誘導気絶弾(リモート・スタン)」を放つ。狙いは、アリサ達を囲んでいる迷賊の連中だ。「理力の手(マジック・ハンド)」と違って、誘導気絶弾は発射するのが判るので、後ろから追いかけてくる衛兵さん達の視角から外れた瞬間を狙ったのだ。

 同時に、ストレージから取り出したワイヤーの束を投げ、「理力の手(マジック・ハンド)」で掴んで気絶させた迷賊を縛っていく。思ったよりも難しかった。


 縛った状態で地面に転がる迷賊の所にたどり着いた。


「士爵様、この者共は?」

「恐らく私の家臣達が捕縛した迷賊達だろう。悪いが、縛るだけで固定はしていないようだ。後で地上まで連行するとして、とりあえず、そこの柱にでも括りなおしてくれないか?」

「ハッ! おい、賊を一箇所に集めろ!」


 衛兵さん達に、近くにあった柱のような構造物に迷賊達を固定してもらう。 20人弱の迷賊達を衛兵達に任せて、オレとルルで回廊を進む。隊長さんを含む半数ほどの衛兵達が、後を付いてきた。ここからアリサ達のところまでは、魔物はいないようだ。


 前方から、剣戟の音が聞こえてくる。

 湾曲した通路を駆け抜ける。通路の先に、2つの赤い光が暗闇の中で交差するのが見えた。


 1人目はリザ。気のせいか、赤い光が槍だけでなく鎧にまで広がっている気がする。その影響か魔力の残りが厳しそうだ。


 2人目は迷賊の頭目らしきヒゲの大男。人族のはずなのにドワーフみたいに見える。やはり手にした魔斧のもたらす印象だろう。バトルアックスで戦う者を見るのは、ドハル老についで2人目だ。


「ご主人さま~?」「なのです!」


 小部屋の入り口を守るナナの後ろから、ポチとタマが大きく手を振ってきたので俺も手を振り返す。


 リザと戦っていた頭目が、ワザとらしい大振りでリザに距離を取らせて、懐から取り出した閃光玉を地面に叩きつけた。


 漫画でありそうなシチュエーションだ。


 閃光玉が地面に叩きつけられる寸前に、ルルの前に移動して強烈な光からルルの目を守る。少し眩しかったが光量調整スキルのお陰で、幻惑される事はなかった。


「利き手を剣から放すたぁ、とんだ素人だぜ!」


 閃光を背にした頭目が、身体強化したナナ並みの素早さで俺を人質にしようと接近してきた。ここで捕虜になって、リザに助けてもらうのも一興かな。


 オレを捕まえる為に、剛毛で覆われた頭目の太い腕が首元に伸びてくる。同時に、魔斧を持ち替え、柄の方でオレの鳩尾を狙って突き出してきた。


 悶絶させた上で捕まえるつもりなのか。


 臭っ。


 強烈な臭気が、オレの鼻腔に突き刺さる。


 無理、無理。


 この臭い腕に掴まれるのは嫌だ。


>「悪臭耐性スキルを得た」


 そう考えが頭に浮かぶより早く、相手の腕を握り潰し、魔斧を膝で蹴り上げる。そのまま膝を折りたたんだ姿勢で、つま先で軽く相手の腹を蹴った。悲鳴すらなく小さな空気が漏れる音が耳に届く。臭い唾を自在盾フレキシブル・シールドで防ぎ、ヤツの体が浮かぶより速く「消臭(デオドラント)」の魔法で臭いを消す。


 頭目を頭上で一回転させて、オレの後ろ、丁度ルルの前に着地させた。ルルは、突然目の前に現れた頭目の姿に驚きつつも、エルフの里で学んだ護身スキルを活かして、流れるような動きで頭目を地面に組み伏せる。


 閃光が消え切る前に、「誘導気絶弾(リモート・スタン)」とワイヤーで、近隣の通路の残りの迷賊を捕縛しておいた。まだ、衛兵さん達の視界に入っていないから気付かれないはずだ。ついでに、頭目が悪あがきをしないように「魔力強奪(マナドレイン)」で魔力を奪う。


 閃光が消えた時、皆の前にあったのは、頭目を軽々と捕縛したルルの姿だ。


 素早く駆け寄ってきたリザが、オレの渡したワイヤーで頭目を縛り上げる。骨が砕けた頭目の腕がぶらぶらとしているのが少し気になったが、先ほどのトレインの犠牲になった死体を思い出して放置する事に決めた。


 リザは縛り上げた後に、頭目の装備する魔法の発動体らしき指輪や隠し武器を奪っていく。取りこぼしはオレが指摘して回収させた。最後に鞄から取り出した「魔封じの鎖」をリザに渡して、頭目を更に縛り上げさせる。これは放火貴族の拘束時に見かけた品で、巻物を受け取りに公都に寄った時に買い求めたものだ。公都の魔法道具屋で、普通に売っていた。1本で金貨10枚と、なかなかの値段だった。


「ご主人さま、賊を止められず申し訳ありませんでした」


 リザが、頭目を止められなかった事をオレに詫びた後、ルルを褒めている。駆けてきたポチとタマをキャッチして、手をつないでアリサ達の所に向かう。回廊の途中で転がっている雑魚迷賊の回収は、隊長さん以外の衛兵達に任せた。


 魔斧は天井深く刺さって、落ちてくる様子もないので、「理力の手(マジック・ハンド)」を使ってストレージに回収した。


>称号「迷賊の天敵」を得た。

>称号「秩序の守護者」を得た。





 アリサ達が篭城していた部屋の前には、無数の魔物の屍骸がある。


「遅くなってスマン」

「ご主人さま、怖かったですぅ~」

「むぅ?」


 変な口調で抱きついてくるアリサが気持ち悪い。ほら、後ろでミーアがハテナ顔だ。抱きついてきた後に、小声で状況の補足をしてくれた。確かに助かるのだが、変な演技は不要だと思う。


 部屋の中は20畳くらいの広さの凸凹の石畳の部屋だ。部屋の左側――通路から見えない位置に、王女とポッチャリ君、それに5人の貴族子弟が座り込んでいる。貴族子弟の内、1人は女の子だ。部屋の右側には、25人の縛られた迷賊がいる。5人ほど増えているのは、トレインしてきた迷賊の生き残りだろう。服が血で真っ赤の割にHPが減っていないのは、ミーアが治癒魔法を使ってやったからだと思う。


 おかしいな、怪我をしていないはずの貴族子弟達が、みんな死にそうな青い顔だ。よっぽど、迷賊に囲まれたり、魔物の大群に攻め込まれたのが怖かったのだろう。「麗しの翼」の2人は、もう少しマシだが、気力だけで立っている感じだ。


「ゲリッツ殿、侯爵夫人のご依頼でお迎えに上がりました。衛兵の皆さんも一緒ですから、ご友人方ともども安全に地上までお送りいたしますよ」

「ご、ご苦労」


 憔悴した顔のポッチャリ君に、笑顔でそう告げた。「もっと早く迎えに来い」とか文句を言われるかと思ったが、コクコクと頷いた後に普通に労いの言葉が返ってきた。ストレージに保管してある湿らせた絞りタオルを、鞄から取り出してポッチャリ君に渡す。このタオルは、ポチやタマが食事の時によく顔を汚すので、ストレージにたくさん常備してあるヤツだ。


 キョトンとしていた彼だが、顔を拭いてさっぱりしてくださいと伝えると、ぎこちない動作で顔を拭き始めた。


 横に座り込んでいた王女も、顔に返り血なのか、泥のような汚れが付着していた。ポッチャリ君に渡したのと同じ絞りタオルを新しく出したのだが、目が死んでいるので、広げて顔を優しく拭いてやる。


「殿下もよく頑張りましたね。可愛い顔が汚れていますよ」

「……う、うむ、救援、感謝なのじゃ」


 顔を拭かれてさっぱりしたのか、王女が朦朧とした表情の中に意思の輝きを呼び戻したようだ。ロリ顔だったから気にせず拭いてしまったが、口紅や化粧がはげてしまった。


 失敗は笑顔で誤魔化そう。弱々しくだが王女も儚げに微笑み返してくれたので、良しとしよう。


 他の貴族子弟も、抜け殻の様な有様だったが、お絞り効果がそこそこ効いたようで、「疲れた」とか「腹が減った」とか不満を漏らす程度には回復したようだ。意外な事に、と言うと失礼かもしれないが、ほとんどの子弟が、ちゃんと救援の礼を告げてきた。


 総勢70人もの迷賊を地上まで連行するのは骨だと思ったのか、隊長さんが、この場で迷賊達の首を刎ねるのを提案してきたが却下した。


 10人ずつをワイヤーで連結して、うちの前衛陣で1グループずつ連行させる。これで40人。オレとルルが特にレベルの高い10人を担当し、残り20人強の幼い迷賊達を衛兵達に担当してもらった。王女や貴族子弟は、麗しの翼の2人に護衛してもらう。


 さて、道中逃げようとするだろうから、迷賊を脅しておこう。レベルの高い10名が、余計な事を言わないように事前に猿轡を嵌めておいた。


「聞け! 迷賊どもよ! これから貴様達を地上に連行する。逃げようとした者はこうだ――」


 打ち合わせ通りに、ミーアの魔法が剥ぎ取り終わった後の一角飛蝗の魔物の死体を強酸の魔法で焼く。嫌な臭いの煙を上げながら、ずぶずぶと溶け崩れる魔物の死体を見て迷賊達が青い顔をしている。


「――こんな風に魔法の酸で生きたまま焼かれるか、このワイバーンの腐敗毒で死ぬよりも恐ろしい姿になって悶え苦しむ事になるだろう」


>「脅迫スキルを得た」


 オレは鞄から取り出した殊更に禍々しい形状の瓶を取り出して、迷賊達に見せ付けた。この瓶は、公都で貰った新進気鋭の芸術家の作品なのだが、見た目の印象を利用してみた。詐術スキルの助力もあってか、迷賊達もオレの言葉を信じたようだ。


 途中逃げ出そうとする者が出る前に、迷宮方面軍の兵士30名が応援に来てくれたので、特に問題なく地上まで連れていく事ができた。幸い総勢100名を超える大所帯だったせいか、襲ってくる魔物もいなかった。


 さて、あとは保護者達に貴族子弟を渡してミッション完了だ。




※10/12 悪臭耐性をゲットしました。

※10/12 ルルに押し付ける前に色々するように改変してあります。他にも細々と部屋の配置などの描写追加や残りの雑魚迷賊の始末関係の描写を足しています。

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― 新着の感想 ―
もういい加減、サトゥーは仲間に課した不殺縛りは解除しないと危ういよね。 今回のようなケースでいつまでも縛りアリでは、そのうち仲間が命を落とす
[気になる点] >臭っ。 >強烈な臭気が、オレの鼻腔に突き刺さる。 >無理、無理。 >この臭い腕に掴まれるのは嫌だ。 >>「悪臭耐性スキルを得た」 >ルルは~(中略)~流れるような動きで頭目を地面に…
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