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デスマーチからはじまる異世界狂想曲( web版 )  作者: 愛七ひろ
第十章

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10-13.挨拶回り(2)

※2016/10/15 誤字修正しました。

 サトゥーです。人間、目標と言うか目的が無いと中々頑張れないものです。あまり壮大すぎる目標だと心が折れるので、長期、短期の2種類の目標を持つのがいいのかもしれません。





「まあまあ、こんなに素敵な贈り物なんて、ムーノ男爵領は豊かなのですのね」


 目の前に座るアシネン侯爵夫人は、オレの贈った「絹の反物」「サファイアの首飾り」「珊瑚細工」を見てご満悦だ。はじめは首飾りだけの予定だったのだが、アリサから、贈り物なら嵩増しした方が見栄えがいいというので少し増やしてみた。特に珊瑚細工は、内陸では珍しい上に、バリエーションが色々あったので、夫人が使用人達へ下賜したりするのにも使えて便利だとシーメン子爵の秘書さんにアドバイスされた。


 アシネン侯爵への黄金の裸婦像は、梱包したうえで家令に渡しておいた。夫人に渡したらそのまま出入りの商人に売却しそうだしね。


 アシネン侯爵夫人は、30代後半の肥満女性だ。ここには居ないが娘が4人に息子が3人いるそうだ。子供達は10~18歳で、娘2人は王都の貴族の嫁に行き、一番上の息子は王城で働いているそうだ。次男は南海の砂糖航路で交易をしているらしい。

 夫人のマシンガントークのお陰で、侯爵家の構成や迷宮都市の貴族や富裕層の情報が色々集まった。聞き役に徹するのは、公都のお茶会で慣れていたから特に疲れることも無かった。


「お母様、お呼びですか?」

「あら、遅かったわね。殿下はどうなさったの?」

「夫人よ! (わらわ)に何用ぞ?」

「殿下ご紹介しますわね。こちらが――」


 新たに入室してきたのは、侯爵三男のポッチャリ少年15歳と迷宮都市に到着した時に見かけた小国の王女様だ。あの時とは違い髪をキチンと巻いて、短めのドリル・ツインテールにしている。銀の髪飾りが茶色の髪に似合っている。その後ろからは王女のお付らしき地味顔の侍女さんが付いてきている。侯爵三男の許婚とかかな?


 夫人の紹介で、オレの爵位を聞いた侯爵三男が見下したように鼻を鳴らした。


「ふん、なんだ名誉士爵か。お母様に取り入りに来たご機嫌取りのエセ貴族にわざわざ挨拶なんてバカバカしい。もう部屋に戻っていいですか?」


 前に貿易都市で見かけた侯爵も大概だったが、この三男も相当なものだ。相手が格下貴族でも、もうちょっと持って回った侮辱をするものなのに、ストレートすぎる。


「ゲリッツ殿、その物言いは失礼ではないかや? 我が国では下位の貴族相手でも、もそっと敬意を持って接するものなのじゃ」


 こっちの王女は、口調は変だが意外にまともっぽい。

 三男は王女に口の中でボソボソと「女のくせに生意気だ」とか悪態をついたあと侯爵夫人に許可されて部屋を出ていった。


 彼の発言は彼自身ではなく、侯爵夫人が代わりに謝ってくれた。過保護なのか?


 入れ替わりに侯爵三女と侯爵四女が入ってきた。三女ゴーナは軽肥満、四女シーナは姉や母と違ってガリガリに痩せている。心なしか顔つきも2人とは少し違うようだ。姉の方は、12歳なのに、もう腹心の子爵の家に嫁に行く事が決まっているそうだ。10歳の妹は病弱の為に、嫁ぎ先が決まっていないらしい。


「失礼いたします」


 そう言って、侯爵家のメイドさんが入ってきた。押してきたワゴンには、オレがお土産に持ってきたカステラと青紅茶が載っている。


「まあ、本当に珍しいお菓子ね?」

「柔らかい」

「まあ、口の中でホロホロと溶けて……なんて上品な味かしら」

「遠い妖精の国で女王が食していたというお菓子で、カステラというそうです」


 嘘は言っていない。ハイエルフ様が美味しそうに頬張っていた。うん、後でカステラを持って遊びに行ってこよう。


「さすが、大国シガ王国の菓子じゃ。先日の『ほっとけーき』も美味じゃったが、これほど美味な菓子を食べた事が無い。我が国も、はようこのような菓子が気軽に食べられる国にしたいものじゃ」


 王女さまにも喜んでもらえたようで何より。


 軽肥満の三女さんは、一気に食べ終わって妹の皿を狙っているが、客の手前はしたないと思っているのか、手を出していないようだ。手を付けていなかったオレの皿を、侯爵夫人の視線が外れた瞬間を狙って進呈した。


「シーナも食べて御覧なさい。甘くて美味しいわよ」

「はい、お母様」


 母親に促されて四女さんが、カステラの黄色い部分を小さく切って口に運ぶ。しばらくもごもごしていた四女さんの口から「美味しい」という蚊の鳴くような称賛の声が漏れた。表情に変化が無いが、青い顔に少し紅がさしているので喜んでくれているのだろう。


 侯爵夫人に迷宮都市に来た目的を聞かれ、「探索者」と答えた。三女と四女は特に興味がなさそうだったが、王女が食いついてきた。


「なんと! 冒険者に成りに来たのか! 良いぞ! (わらわ)も冒険者に成るために来たのじゃ。いずれ必ず貴国のリーングランデ様のような偉大な成果を残して、勇者の仲間になってみせるのじゃ」


 さすがに王女が探索者というのは無理ではないかと思う。彼女はレベル2しかないし、戦えるようなスキルは何も持っていない。礼儀作法スキルのみだ。


 目指す相手について、ひとこと言いたい気分だったが、とりあえず社交辞令で「素敵な夢ですね」とだけ答えておいた。





「ただいま」

「おかえりなさい、ご主人様。焼き菓子の方は家令さんに渡しておきました」


 馬車で待っていたルルと一緒に宿に戻る。ルルには、砂糖と蜂蜜をたっぷり使った焼き菓子を、メイドさん達に配るように頼んであった。公都でもそうだったけど、使用人ネットワークはなかなか侮れないので、先行投資のつもりで豪華な焼き菓子を奮発しておいた。カステラにしなかったのは、主従に差をつけるべきというアリサの助言に従ったからだ。


 馬車は富裕層の街並を抜けて、東の探索者ギルドに向かった。


 アリサ達は、朝からギルド主催の講習会に参加している。参加費用は無料らしい。講義内容はアリサに後で教えてもらう予定だ。この講習会は、ベテランの探索者が講師を務めていて、迷宮での立ち回り方や注意点、魔物の特性など様々な内容を初心者達に教える為に定期的に開かれているらしい。


 講習会は、ギルドの裏手の広場で行われていた。光魔法か術理魔法かは判らないが、魔物の映像を出しながらのなかなか本格的な講義のようだ。


 アリサ達だけでなく、この間のジーナ嬢を初めとした5人くらいの探索者と、40人くらいの子供達が来ている。子供は男女両方だが、男の子は10歳以下の子しかいないようだ。


 見ているうちに講義が終わったようで、職員さん達が参加者に木札を渡している。あれは修了証書みたいな物なのかな?


 なんとなくその様子を眺めていたところに、昨日の受付嬢に声を掛けられた。


「あら、士爵さま。家臣の方なら熱心に講義を受けておられましたよ」


 彼女は、ギルドの建物の中から大なべを抱えて出てきたようだ。熱いらしく、ナベを持つ手には布巾がある。彼女は先に設置されていた長机のカウンターの後ろにナベを置き、講義に参加していた人たちに呼びかけた。


「配給よ。今日は、セリビーラ風シチューよ。木札を持って並びなさい」


 なるほど、学校給食みたいなものなんだろう。食事を目的に子供達が集まり、結果的に迷宮での知識を得て、迷宮探索時に生き延びやすくなるのだろう。ギルドとしては、人件費と食費を負担する代わりに、探索者達の損耗を減らして全体の魔核(コア)収集数の底上げを期待しているに違いない。ただ、この講義は5日に1回しか開かれていないうえに、人数制限があるので、来る子供は限られているそうだ。


 子供達は持参した木椀にシチューを注いでもらって、広間の適当な場所に腰を下ろしてシチューをパク付いている。


「ご主人さま、お勤め御疲れ様です」

「おかり~?」

「ご主人様とルルなのです!」


 獣娘達3人もシチューの入った木の椀を持っている。ポチが「あーんなのです」と言って差し出してきた匙を咥える。塩味がキツイが、屑野菜を煮たシチューに何かの肉が入っているみたいだ。食べた事の無い味だけど、たぶん魔物の肉だろう。正直言うと美味しくない。


 もっとも、そんな感想を抱いているのは、オレだけみたいで、子供達はみな美味しそうにシチューを食べているみたいだ。獣娘達は微妙な顔をしていたが、とくに不満を口にする事なく平らげていた。


 アリサ、ナナ、ミーアの三人は、まだ講師をしていた女性探索者を囲んで質問攻めにしている。勉強熱心でなにより。


「ペンドラゴン卿。ご無沙汰している」

「はじめまして、ペンドラゴン卿。私はジーナの友人で、ケテリ男爵の娘ヘリオーナ。『月光』に所属している」


 ヘリオーナ嬢は、背の高い黒髪の女性だ。ボブカットにしているが、その髪には孔雀のような羽根をあしらった髪飾りが付いている。服装は騎士服っぽいズボン姿だ。ジーナ嬢と違い胸は小さいが、ウエストの括れから腰へのラインが色っぽい女性だ。最初に会った時にジーナ嬢が言っていた「同郷の友人」というのは彼女の事なのだろう。


「ペンドラゴン卿。不躾だが、迷宮に入る時は鎧を着るべきだ。魔法使いでも革鎧は着て迷宮に入る。周りが幾ら手練(てだれ)でも、どこから奇襲されるか判らないのだ。油断は禁物だぞ?」


 ヘリオーナ嬢が先輩探索者として諫言をくれたので、反省と感謝の言葉を返しておく。困った事に、オレ達が迷宮で蟻の大群に攫われたという噂は、西ギルドで有名になっているそうだ。特に鎧も着けずにメイド連れで迷宮に入った貴族と言われているらしい。彼女は言葉を濁したが、「貴族」の前に「バカ」と付くのだろう。次からは、ダミーの鎧を着ていった方が良さそうだ。


「時にペンドラゴン卿は、ミスリルの名剣をお持ちとか、ぜひ一度見せてもらえないだろうか?」


 それまでと一転して、愛の告白をするかのようなモジモジしたヘリオーナ嬢に面食らいながらも、腰の妖精剣を貸す。


「抜いていいかな?」

「どうぞ」

「なんと美しい剣だ。しかし、意外と軽いのだな。これでは大型の魔物相手には厳しいのではないか? 迷宮では槍や長柄の武器(ポールアーム)を主装備に、予備の小剣を持ち歩くのが良いと思うぞ。

 嘆かわしい事に、迷宮都市では、魔物の素材を使った武具が主流だが、貴族なら、やはり美しい銀色の全身甲冑を着るべきだと思わんか? あの美しい銀! あれこそ破邪の力があると――」


 彼女が迷宮に入る時は金属鎧に長柄斧(ポールアックス)を装備するらしい。細い通路では予備の小剣で戦うそうだ。金属製の鎧が好きらしく、やたらと金属の全身甲冑を勧められてしまった。話が長いので途中から聞き流したが、ジーナ嬢は聞きなれているのか苦笑いをしている。


 彼女の熱い鎧薀蓄はまだまだ続きそうだったが、アリサ達が戻ってきたのを機に席を外させてもらった。


 午後からは、セーリュー市で商人のスニフーンさんに教えてもらった商会に顔を出して、セーリュー市行きの便に手紙を預けに行く。オレはなんでも屋やゼナさん宛てに、ポチとタマは門前宿のユニ宛てに手紙を出した。1通銀貨1枚と高めだったが、あの旅路を考えたら安いものだろう。


 手紙を送った後は、予定通り「蔦の館」へと足を向けた。


 サトゥーも信用できない宿に長居する気はなさそうですね。


※活動報告に男爵SSをアップしてあります。良かったらご覧下さい。

※2016/8/9 侯爵子息のゲリッツ君を三男に変更しました。

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ISBN:9784040761442



― 新着の感想 ―
[一言] カステラの時、漫画では割り込みでアーゼさんに突然の嚔をさせて欲しい。 目前に、とばっちりを受けるエルフさんが居たら尚よし。
[一言] 貴族、爵位持ちとして来たのか冒険者?探索者?としたきたのかよくわらん章やな(笑)
2020/01/18 13:55 退会済み
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