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デスマーチからはじまる異世界狂想曲( web版 )  作者: 愛七ひろ
第九章

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幕間:プタの街の災難[後編]

※9/15 誤字修正しました。


※今回はサトゥー視点ではありません。



「どうした、ケナ。ずいぶん組の人間が増えてるじゃねぇか」

「こいつらはオマケだよ。それより、報告があるんだ」


 街に辿りつくなり、ケナが門番に山で見た異変について話しにいった。

 今の内にと、こっそり街の中に入ろうとしたけど、もう一人の門番にあっさり捕まって、地べたに組み伏せられてしまった。背中に足を乗せられているだけなのに抜け出せない。


 半月ぶりの街なんだから、もっと優しくしてよ。

 オレはしぶしぶ、山の中の小川で見つけた綺麗な縞模様の石で入街税を払う。この小石は、山奥でしか採れない種類だからそれなりの値段が付く。それでも小袋一杯で、銅貨2枚だからガディ達にはバカにされちゃった。


「どうせ物納するなら、獣でも獲ってこいよ」

「前にも言ったじゃん。罠や弓も無しに獣なんて獲れないって」

「カタバネみたいに、投石器で石なげりゃいいんじゃね?」

「あれって見た目より難しいんだよ。前に練習したけどさ、どうやっても狙った所に飛ばないんだよ」

「ふ~ん、簡単そうなのにな」

「まったくだよ」


 胸当てに付いた土埃を払いながら、若い方の門番と駄弁(だべ)る。


「ガディ、あたしゃ、ちょいと守護ん所に行ってくるから元締めへの連絡はまかせたよ」

「あいよ」


 ケナとオルドは、年寄りの門番と一緒に、守護の館の方に行ってしまった。若い方の門番は、年寄りの方に言われて正門を閉めている。なぜか、オレも手伝わされている。


「次の入街税は只にしてよね」

「ばかやろう、こんなのはな、義務だ。義務。街が魔物に蹂躙されたら嫌だろう?」

「そりゃ、嫌だけどさ」


 何か丸め込まれた気がする。

 他の魔狩人たちは、とっくにいない。きっと半月ぶりの街を謳歌してるんだろう。





「よう、こんな昼間っから正門を閉めてどうしたんだ」


 閉ざした門に背を預けてへたり込んでいた俺の耳に、暢気なおっさんの声が聞こえてきた。


 顔を上げると、中年のオッサンが若い門番に何か言っている。


 その横には騎士みたいな服のハンサムな男の人、物干し竿みたいな棒を持った女神官、もう一人はローブ姿に杖を持った20過ぎのおばさんだった。


 中年のオッサンは背中に大剣を背負っている。

 もしかして、探索者ってヤツなのかな?


「じつは、近くの山中に多頭蛇(ヒュドラ)が出たそうなんですよ――」

「ほう、多頭蛇だと?! 旨いんだよな、アレ」

「ちょっと、アンタ前に食べた時に、一週間ほど腹痛になったのに懲りないね」

「今回はキューラがいるから大丈夫だって」

「やーですよー。毒と判っていて食べるよーなー、おバカさんはー勝手にぃーくるしめばいいんですー」


 この人達、何言ってんの?

 多頭蛇って食べられるの? えっ? 毒って言ってるよ?


「そこの少年。この男は自分の階位(レベル)を棚に上げる悪い癖がある。多頭蛇(ヒュドラ)は、軍隊が集団で戦うような相手だ、間違っても手をだそうとか考えるなよ」


 ハンサムな男の人に、コクコクと頷く。


「ちょっと失礼。ふむ、素晴らしい出来だな」

「ん? どれどれ。素材は普通の狼じゃねぇか――おい、この甲殻って」

「ああ、甲虫兵(ソルジャー・ビートル)突撃甲虫(アサルト・ビートル)の甲殻だとは思うんだが、ここまで見事な加工は見た事が無い。しかも、1匹の甲虫の一番胸甲に向いた箇所だけを贅沢に使っているぞ」

「ちょっと、ヤサクもタンもその辺にしておきな。小僧が目を白黒させているよ」


 胸当てを褒めてもらえるのは嬉しいけど、2人で詰め寄るのは止めてほしい。


「この街で作ってもらったのか?」

「うん、そうだよ」

「なら、その鎧職人を紹介してもらえないか?」

「ごめん、無理なんだ」

「偏屈な方なのか? 紹介してくれれば、君にも謝礼は弾むよ」


 謝礼って、お金? う~ん。紹介してあげたいけど、無理だよ。


「ごめんね、その人は、もう街にいないんだ」

「そうか、残念だ。公都には魔物の素材を扱う職人が殆どいなくてな。武術大会で痛めた鎧の補修をしてくれる人を探していたんだ」


 へ~、珍しいのか。魔物の素材の鎧って軽くて頑丈だから、公都とかなら、もっとありふれているのかと思ってた。この鎧をくれた貴族様も、安物だって言ってたし。





 数日後に、多頭蛇が現れた。2匹もいる。

 周りには、変な模様の描かれた布製の覆面をした獣人の男たちが100人ほどいる。その人混みを割って、蜥蜴馬(ラプター)に乗った白い覆面の男たちが出てきた。こっちは2人とも人族みたいだ。


「……■■■ 魔物測定(モンスター・チェック)


 おおっ、魔法だ。ハンサムな人が魔法を使って森の間から姿を見せた多頭蛇の事を調べているらしい。


階位(レベル)29と28ってとこだ。迷宮産のものより少し強め。あっちの白覆面も調べたかったが、どうも見えん。あの覆面が、鑑定阻害の魔法道具のようだ」

「魔物使いは、どいつだと思う?」

「たぶん、あの多頭蛇の陰に隠れている背の低いヤツだ」


 俺は、探索者の人達に紛れて、門の上の櫓に上がりこんでいる。この人達と、衛兵長の連絡係――の予備員としてここにいる。


『愚かな民よ、シガ王国の圧政からその身を解き放て! 我らは自由の翼。汝らを真なる自由へと導くだろう!』


 覆面の人の大声が聞こえてくる。難しい言葉だから、何がいいたいのかわからない。降伏しろっていいたいのかな?


「ヤサク殿、守護閣下より攻撃許可がでました。貴方の攻撃を合図に弓部隊が攻撃を開始します」

「おう、任せとけ」


 ヤサクが、何か唱えると目の前に黒い穴が開いた。なんだろう?

 なんと、そこから、気味の悪い像が彫刻された長弓と矢束を取り出した。


「どうした坊主。宝物庫(アイテムボックス)を見るのは初めてか? なら、一度触っておけ。探索者のゲン担ぎで、宝物庫に手を入れた者は、いつか自分の宝物庫を手に入れるってのがあるんだ」


 俺はおっかなびっくり宝物庫(アイテムボックス)に手を突っ込んで、引き戻した。何の感触もないけど、真っ暗な穴に喰われそうな、そんな恐怖がある。


「ヤサク、さっさと撃たないと、あたしが一番手を貰うよ?」

「ばーろー、そこは探索部隊長(パーティーリーダー)様に譲りやがれ。≪撹乱しろ≫、蒼魔弓」


 ヤサクの言葉に答えるように、弓矢が赤く光っている。赤いのに蒼魔?

 赤い矢が、多頭蛇の横にいた魔物使いを倒す。


「ふふん、魔法防御に頼りきるからそんな目に遭うんだぜぃ」

「本当にー、その弓はー魔術士殺しにー向いてーますねー」


 それに続けてプタの街の防衛軍から一斉に矢が放たれる。相手は木陰に隠れて矢を防いでいるようだ。多頭蛇にも当たっているけど、体の表面で弾かれているみたいだ。あ、怒ってる。こっちに向かってきたよ。


「なあ、多頭蛇に敵軍の中で暴れてもらった方が良かったんじゃないか?」

「奇遇ですねー、私もー同ー意見ですー」

「ちょっと、2人とも暢気な事言ってないで、なんとかしてよ。あいつ、こっちに来るってば」


 暢気な二人に、思わず文句を言っちゃった。生意気だって殴られるかと思ったけど、2人とも笑って流してくれた。


 多頭蛇は、森と門の中間地点まで来ると、おもむろに口から火の玉を吐き出してきた。思わず城壁の陰に隠れる。熱い熱風が頭上を飛び越えて、着弾した家を焼いている。


 うあ、あの家、先々月に完成したばかりなのに。


 呪文を唱えていたヤサクの仲間のハンサムさんとローブのオバサンの魔法が完成する。


「…… ■■■■ 理槍(ジャベリン)

「…… ■■■ 雷刃嵐ライトニング・ストーム


 何本もの光る槍と耳が痛くなるようなカミナリの暴風が、多頭蛇を蹂躙する。狂ったような悲鳴を上げる多頭蛇が、哀れだ。


『おのれ、公爵め! 我らの作戦を聞きつけて、手練れを送り込んできおったか!』


 向こうの陣で、白覆面の人が叫んでいる。

 白覆面の人が合図すると半分くらいの人数が、突撃してきた。走り方から見て猿人族みたいだ。


「なあ、オレ達って、公爵の部下なのか?」

「誤解もいいところよね」

「たまたまーですからねー。たまたまーって、かわいくないですかー?」


 どうして、こう緊張感がないんだろう? 探索者はみんなこうなのかな?

 雷の魔法で、多頭蛇の鱗が脆くなったのか、防衛軍の矢が普通に刺さるようになっている。もうちょっとで倒せそうだ


 覆面の猿人族は、一人、また一人と、壁に届く前に射殺されている。

 よく見ると、何人かの仲間を、庇っているみたいだ。


『魔王様! ここに再び供物を捧げます! 我らの自由は陛下と共に!』


「なんだ? 魔王崇拝者か?」

「そーみたいですねー。困ったちゃんですー」

「アタシ、ああいう狂信者って嫌いなのよ。全部焼いていい?」

「待て、シェリオーナ。あのリーダーは捕まえないと背後関係がわからん」

「面倒ね」


「ちょっと、大変だよ」


 壁にたどり着いた獣族の人の体が、ボコボコと歪に歪んでいる。隣にいたヤサクの袖を引っ張って、それを伝えた。


「げっ、なんだありゃ?」


 ヤサクの周りの人がみんな呪文を唱え始めた。ヤサクも弓をしまって、大きな盾を取り出している。


 元の大きさより3倍くらいになった猿人が、軽い跳躍で城壁の上に跳び上がってきた。猿人じゃないよね? だって、お腹に牙がいっぱい生えた口があるんだもん。


 ああ、体が竦んで動けない。牙が、顔の横まで来てる。獣臭い息が目の前の口から漂ってきた。


「探索者ヤサク、いざ参る!」


 横合いから盾を翳して突っ込んできたヤサクが、その腹口猿(まもの)と一緒に地面に落下する。

 でも、どっちも頑丈だ。こんな高さから落ちたのに何事も無かったように距離を取っている。


「……■■■ 身体強化・酷使(ハード・ブースト)

「……■■■■■ 稲妻(ライトニング・ボルト)


 耳が痛くなる音と目が眩む光を伴って、腹口猿に稲妻が落ちる。ハンサムさんは、身軽な動きで、腹口猿の死角から斬りかかっている。どちらも速すぎて目が追いつかないよ。


「……■■■■ 神壁(ディバイン・ウォール)


 ヤサク達の周りに光る壁ができた。


「これでーだいじょーぶ。もうー大っきいー魔法でもー大丈夫ぅー」


 とっくに呪文を唱え始めていた、魔法使いのオバサンが小さく頷く。


「…… ■■■ 雷神嵐(サンダー・ストーム)

「うわっ、ばーろー、オレ達まで消し炭にする気かよ」

「ヤサク、君が逃げるのが遅いのですよ」


 さっきの多頭蛇に使ったのより遥かに凄い稲妻の嵐が吹き荒れている。ヤサクとタンが下で何か言っているけど、聞こえないや。


「とどめは貰ったぜ、旋風烈刃」


 大剣が赤い光を帯びて腹口猿に何本もの傷を刻んでいく。


「見込みが甘いですよ。鋭閃」


 ヤサクの反対側から、タンが光る長剣を突き込んでいる。

 もうすぐ倒せそうだ。やっぱり探索者ってすごいんだ。俺やケナ、それどころかオルドだって全然敵わないくらい強い――こんなに差があるんだ。


 俺の場違いな、わくわくを消したのは、左右の城壁から上がった複数の悲鳴だ。


 そこには何匹もの腹口猿が、衛兵や魔狩人達を蹴散らしている。


『恐れ入ったか! 我らの切り札! 我らにも制御できぬ圧倒的な暴力を味わうがいい! これこそが魔族だ! ああ、魔王陛下! この地より再び、魔族の世界が始まるのです』


「魔族?! まずいね」

「やーばいーですねー。ヤサクー、タンー、とっととずらかりましょー」

「そうね、魔物ならともかく、魔族はまずいわ」

「どうして? もうすぐ倒せそうじゃないか」


 魔族と聞いたとたん、ヤサクの仲間達が逃げ出そうとしている。今、まともに戦えているのは彼らだけなのに。


「魔族はね、頭がいいんだよ。こうやって、弱い魔法使いや神官から狙うくらいにはねっ」


 魔法使いのオバサンが、さっきとは別の杖を飛び移ってきた腹口猿に突き出す。そこから火弾が放たれ、腹口猿に当たって爆発する。地面に落ちた腹口猿は、全然ダメージを受けていないようだ。


「1匹ならともかく、こんな数を相手にできるのは勇者くらいなもんさ」

「あぶないー」


 ぐえっ。

 城壁を越えて降ってきた、腹口猿に潰される。門番の踏み付けなんか目じゃない重さと痛さだ。消えそうになる意識を振り絞って、掴んだ矢を腹口猿の爪の間に突きたてる。何度も突き立てているのに腹口猿は気にした様子もない。


 魔法使い達のオバさんたちも、俺を助けようとしてくれているみたいだけど、俺が邪魔で魔法が使えないみたいだ。


 あれは、なんだろう。

 無理矢理仰向けにされた視界に、空に浮かぶ人影が見えた。紫色の髪?


『≪踊れ≫ クラウソラス』


 その人影から、何本もの剣が振ってくる。綺麗だ。

 その剣は、生き物の様に勝手に動いて、オレの上に乗っていた腹口猿(まぞく)を斬り裂く。ただの一太刀で、腹口猿は真っ二つに斬られて死んだ。


 俺が腹口猿の下から這い出した時には、城壁の中と外での戦いは終わっていた。


「天空の剣だ」

「王祖ヤマト様だ」

「ヤマト様、万歳!」

「王祖ヤマト様に栄光あれ!」


 口々にみんながヤマト様の名前を叫んでいる。

 空を飛ぶあの人が、本当にヤマト様かはわからない。だけど、その人が飛び去る前に、力一杯「ありがとう」と叫ぶ事はできた。


 死んじゃったかと思ったけど、ガディやバハナは骨折で済んだみたいだ。ケナとポミにいたっては、かすり傷で済んだらしい。


 俺は打ち身程度ですんだ。ヤサク達に言わせると奇跡らしい。貴族様のくれた鎧のお陰かな。今度会ったら、もう一度お礼を言わないとね。


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