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デスマーチからはじまる異世界狂想曲( web版 )  作者: 愛七ひろ
第九章

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9-29.駆除準備

※9/6 一部加筆修正しました。

※2/11 誤字修正しました。


 サトゥーです。「毒を薄めれば薬になる」なんて言葉を聞いた事がありますが、全てがそうではないでしょう。その逆の「薬も濃すぎれば毒になる」というのは大体の場合に当てはまりそうです。何事も「過ぎたるは及ばざるが如し」なのです。





「こんにちは、サトゥーさん」

「ああ、ルーアさん、丁度良かった」


 オレはできたてのクラゲ用「睡眠薬」の入った大瓶を5本ほどルーアさんに渡す。彼女は、オレの持つのと同じような「魔法の鞄ホールディング・バッグ」を持っているので重い荷物でも気軽に預けられる。


 ここ10日ほどは、毎日、3~5種類ずつの睡眠薬をジーアさんに渡して実験してもらっている。今のところ、効果が高かったのは、世界樹の樹液を使用したタイプのやつだ。


「確かに預かりました。アーゼ様から『遠話(テレフォン)』で実験結果速報を聞いているとは思いますが、ジーアからの文章の報告書です」


 オレは礼を言って、ルーアさんから紙束を受け取る。

 効果の薄いものだと10分ほどで起きてしまうみたいだが、逆に効果の高過ぎるものだと、仮死状態どころか生命活動が停止しそうになってしまって、大変だったらしい。


 人間に使ったら死にそうなので、誰も来ないように街の外にある無人の工房を借りて薬品を調合している。以前はスプリガンのリレック氏が使っていた場所だそうだ。

 この館の地下にも小さな源泉があるらしく、館の魔法道具は魔力補充をする必要もなく稼動してくれるので、色々と便利だ。


 便利すぎて、引きこもりたくなるが、あまり遅くなるとアリサから1時間おきに「遠話(テレフォン)」が来るのでそういう訳にもいかない。近頃は、ポチやタマを電話口に出して罪悪感を誘うとか、なかなかに手が込んできている。普通の遠話だとできないはずなので問い詰めたら、「頑張って改良した」とドヤ顔で返された。


 さて、今日のノルマの睡眠薬も渡し終わったので、別の作業をしよう。


 今進めている作業は、睡眠薬を入れて4つだ。


 1つ目は、先ほどのクラゲ用の睡眠薬作成。


 これは、空間魔法の檻でクラゲを閉じ込められるだけの術者が少ないので、氷の檻と睡眠薬を併用する事で、不足する術者を補完できないかを検証中だ。3日前にテストした睡眠薬で特に効果の高いモノがあり、現在も睡眠中のクラゲがいるらしい。10日くらい効いてくれたら、一気にクラゲの檻作戦にGOサインを出せそうだ。


 2つ目は、クラゲ害の再発防止策の検討。


 これには、自律型の迎撃衛星を考えている。イメージとしては、拠点防衛用の人工衛星だ。虚空でもマナさえ継続供給できれば立方体(キューブ)を維持できるみたいなので、高度維持にはコレを使おうと思っている。最大の問題は魔力維持だ。ついでにレーザー砲台とソレを運用する頭脳を付けて、浮き砲台ゴーレムにしようと目論んでいる。

 そこで、やはり問題になるのは動力炉だ。なるべく人手を必要としないシステムを構築したいので、動く人形(リビングドール)の動力炉と同様に賢者の石を使いたい。実は、既にソトリネーヤさんから、動く人形(リビングドール)の動力炉を3個ほど借りてある。「壊すなよ」と念を押されているので、無茶な実験ができないのが辛いところだ。

 魔法があれば核融合くらいできそうなものだが、資料がないのでどこから手を付けていいか判らない。これは将来の課題にしておこう。


 3つ目は、空力機関の制御だ。


 ソトリネーヤさんの所で「動く人形(リビングドール)」の作成を通して学んだ制御装置の作り方と、プログラマーとしての知識を併用してみた。

 この間、公都で聞いた回転させて出力のバラつきを平均化させる仕組みなんかも色々試している。この館の地下にはクレーンや、大型の固定台があるので、こういった作業がとても捗る。

 制御機関は完璧に仕上がったのだが、情報の応答速度が不足していて空力機関の制御が追いつかない。完成までは、もうしばらく掛かりそうだ。


 この空力機関だが、「空力」と付く時点で想像できていたのだが、大気の無い場所では浮力が発生しない。光船のレプリカ建造作戦は、開始より先に頓挫してしまった。光船の構造を知りたかったのだが、神造艦らしいので、資料が残っていないらしい。整備なんかは、世界樹にあるドックに格納しておくと勝手にやってくれるそうだ。

 勇者が持っていた空力機関は、どうやら後付けしたものらしい。世界樹で整備できない以上、壊れたり傷んだ部分の補修はサガ帝国の技術者や魔術士頼りになるから仕方ないのだろう。


 4つ目は、オレ達の装備の拡充だ。


 エルフの森を出たら、次の目的地は迷宮都市だ。オレはともかく、娘さん達の装備は完璧にしておきたい。人目を引きすぎても困るので、披露用の装備と地味な普段使いの装備の2種類を作っている。


 今のところ、完成したのは杖が3本と、非殺に特化した魔法剣の試作品だ。


 アリサ用の杖には、ボルエナンの森にある樹齢数千年の古木の枝を贅沢に使わせてもらった。迷宮での連戦を目的としているので、消費魔力の軽減と魔法の命中性能アップを主題にして作った。偉人曰く「当たらなければ意味がない」からだ。

 アリサの杖を作るときに、ついミーアの分まで同型の杖の模様違いを作ってしまったが、一緒に旅をした記念にボルエナンを去るときにプレゼントしよう。なんとなく、一緒に行くつもりでいてしまった。やはり、小さい子供は両親と一緒に暮らすべきだと思う。


 もう1本の杖は、世界樹の枝を使ったものだ。材料に使った世界樹の枝は、クラゲの触手を回収した時になぜか一緒にストレージに回収されてしまったヤツだ。性能的には申し分ないのだが、見た目が鉱物チックというかエメラルドそのものなので、目立って仕方が無い。綺麗な色艶だったので、ついできごころで、先端部分には薔薇の花、本体には絡まる蔦のレリーフをあしらってしまった。


 秘蔵の1本というよりは、死蔵の1本になってしまった。


 やりすぎは、良くないね。

 反省。


 さて、試作の魔法剣は、ポチ達の「殻」を改造したものだ。ポチ達の「殻」が固い鈍器なのに対して、この試作剣は非殺に特化したので柔らかいのだ。この「軟殻」の剣は、発動するとウレタンくらいの硬さの円筒形の魔力フィールドを発生させる。剣の直近には「殻」が発生しているので、強く叩きすぎたからと言って刃まで届く事は無い。

 この「軟殻」の剣には、ブラックジャックみたいなスタンやノックバック系の追加効果を期待している。


 今は、この「軟殻」の仕組みを応用して、ルル用の非殺系ショットガンの作成を考えている。


 他にも、防具類の強化に着手したいのだが、なかなか手が回らない。公都で作った防具があれば、レベル20台後半までの魔物に後れは取らないはずだが、もう少し安全マージンを増やしてやりたい。飛行船の対爆屋根に使ったクジラの皮を流用して、新しい鎧を作るのもいいかもしれない。今度、ルーアさんに鎧作りの名人を紹介してもらおう。





「若旦那、ルルの嬢ちゃんがお昼を配達してきてくれましたぜ」

「ああ、ありがとうギリル」


 この館の管理を任されている家妖精(ブラウニー)のギリルが、執事よろしく来客対応をしてくれている。昔は、迷宮都市で暮らしていたらしく、休憩時間などに迷宮都市の話を聞かせてもらっている。


 なんでも、彼の曾孫が迷宮都市で働いているらしいので、迷宮都市に行った時には会いに行きたいと思っている。何でも60歳くらいの若いブラウニーらしい。それで、若いんだ。


 彼は滑るような足取りで、ルルから預かったお弁当を持ってきてくれる。人族の半分くらいしか背丈の無い彼らが運んでくると、特大サイズの弁当箱に見える。中身は片手で食べられるサンドイッチやハンバーグだ。クーア女史から分けてもらった白パンで作ってある。普通のパンが恋しかったので素直に嬉しい。


 ここでは危険な「睡眠薬(やくひん)」を扱っているので、ルルと言えど立ち入り禁止だ。


 蓋を開けて中身を確認する。

 野菜たっぷりのサンドイッチだ。ちゃんと一口サイズにするとか芸が細かい。


 食事を口に運びながら、先ほどの計算に問題がなかったか見直す。


「う~ん、やっぱり賢者の石がもっと無いと、索敵くらいならともかく、攻撃分までの魔力を賄うのはムリか」


 ままならない現状に、思わず独り言を口走ってしまった。

 やはり、自動迎撃システムっていうのが無理があったのかな~。


 賢者の石が生み出す魔力を仮に、100Aとすると、高度維持に必要な魔力が30A、索敵が、パッシブ、アクティブを合わせて、45Aほど。

 これは、高度維持が低コストと見るべきか、索敵が高コストと見るべきか難しいところだ。


 そして、射程数百キロを目標とすると、宇宙空間で減衰しにくいレーザー系くらいしか無い。レーザーは、他の攻撃魔法にくらべて、必要な魔力が少ないのだが、それでも1000Aは必要となる。バカみたいな高コストだが、1発でクラゲを倒すにはこれくらいの出力が必要なのだ。照準にもレーザーを使うとなると、さらに50Aほどの魔力が必要になってしまう。


 エルフ達からの技術提供で、バッテリー的なモノもゲットできたのだが、1Aを充填するのに2リットルのペットボトルくらいの大きさが必要になる。レーザー一発だけ撃てるだけのレベルでも、予定の何倍もの大きさになりそうだ。このバッテリーの素材は、世界樹の樹液らしいので、幾らでも作れるそうだ。


 バッテリーとの伝達ケーブルには、クラゲの触手から取り出した魔力吸収腺が使えそうだ。魔力の逆流を防ぐ機構が元からあるので、余計な回路を組み込まなくて済むのが素晴らしい。


 自動迎撃ゴーレム「カカシ」試作1号は、その日の太陽が沈むまでに完成した。

 試作1号に実装したのは、高度維持機能のみだ。何事も地道な実験の積み重ねだと思う。





 館の入り口で見送ってくれるギリルに手を振って、樹上の家に帰る。


 この館の正門前には、樹上都市や地下街へと繋がる「妖精の環(フェアリーリング)」がある。なので、移動がとても楽だ。


「おかり~」「なのです!」


 丁度、ポチ達の修行が終わったところだったのか、家の前で大の字で転がっていた2人が跳ね起きて飛びついてきた。


「おかえりなさいませ、ご主人さま」

「マスター、無事の帰還が歓喜です」


 練習用の木剣や模造槍を片付けていたナナとリザも、オレに気が付いたようで片づけを中断してオレを迎えてくれる。リザはそれほどでも無いけど、ナナの汗が凄い。


 この4人は、エルフの武術家達の教えを受けている。


 皆の施設(アトラクション)のクリア速度が速すぎて、レプラコーンのシャグニグの整備や準備が追いつかないので、クリア毎に4~5日の休養日が設定されてしまったらしい。その為、暇を持て余していた獣娘達を、同じく暇を売るほど持っていたエルフの武術家が、いい暇つぶしになるからと、訓練を付けてくれる事になったそうだ。


 ポチには剣術家のポルトメーア女史が、教えてくれている。彼女は、ポチと同じく一撃に全てをかけるタイプの剣を使う。盾で相手の攻撃を凌ぎながら、ここぞというタイミングで一撃を決めるのが楽しいと酒宴の席で言っていた。この人は、エルフの里にある色々なお酒を持ち込んできたり、そのお酒の薀蓄を色々聞かせてくれるので、一緒に飲んでいて楽しい。ただ、酔うと脱ぎ癖があるのが玉に(きず)だ。


 タマには二刀流剣術のシシトウーヤ氏が、指南してくれている。彼の使うのは大小の日本刀だ。何百年も昔に、シガ王国の王様から貰ったモノだと言っていた。どちらも無銘だが、オレの持つ虎徹並みの逸品だった。


 リザには、螺旋槍のグルガポーヤ氏と短槍使いのユセク氏が教えている。ユセク氏は、エルフではなくスプリガンだ。両者共に、魔刃を使いこなす達人だ。


 特にユセク氏は、直接師事しているわけではないのだが、オレの心の師匠でもある。ある時、リザに訓練の最終目標として、短い槍の先から魔刃を打ち出してみせていた。魔刃砲(マナ・ブラスト)というスキルらしい。彼が魔刃砲を打ち出すまでの魔力の流れを見ていなかったので、未だにこの技を成功させていない。

 一度、彼に教えを請うたのだが、酷く嬉しそうな顔で「盗め」と言われてしまった。彼の期待に応える為にも、エルフの里を去るまでに習得してみせたいと思う。


 最後になるが、ナナの先生も2人いる。魔法剣士のギマサルーア女史とドワーフの盾使い、ケリウル氏だ。ケリウル氏は、ドワーフの里で会ったザジウル氏の叔父にあたるそうで、3年ほど前からエルフの里の食客として身を寄せているそうだ。


 先生達は、この前のカレー祭りをした広場に、飽きもせず夕飯を食べに行ったらしい。あの祭りから10日も過ぎたのに、未だにカレー祭りが続いているそうだ。今では、着色していない普通の色のカレーも浸透しているらしい。


 ネーアさんが黄色く染まらない事を祈りたい。


 次回は、ポチニウムとタマリン補充を挟んでから駆除作戦スタートの予定です。


※9/6 杖の作成のあたりの文章を変えました。

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― 新着の感想 ―
[一言] 一読、業務日誌のようですが、例によって重要なロングパス伏線が出てますね? ファンタジー系異世界には、火薬でも許容し辛いのですが、サトゥーが魔法でレーザーを普通にばらまいているのだよね。 な…
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