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デスマーチからはじまる異世界狂想曲( web版 )  作者: 愛七ひろ
第九章

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9-26.懐かしい場所

※9/8 誤字修正しました。


 サトゥーです。ダイエットで流行ったロデオマシンですが、今もご家庭で使われているのでしょうか? 我が家の実家では、買って1月もしないうちに洗濯物干しの役目を担うようになっていました。





 夜陰に紛れて、公都を出る。


 天駆で十分な高度を取ってから、「大気砲(エア・カノン)」で一気に加速した。続いて自在盾を翼代わりに広げる。揚力を得る為に、複数枚の自在盾を使って翼の形を調整してみた。最適な形には程遠いかもしれないが、「気体操作(エア・コントロール)」で空気の流れを整えたお陰か、単に天駆だけで飛んでいるよりも魔力消費が少ないし、速度も落ちにくくなったようだ。


 1時間半ほどで、オークの幻蛍窟のある葡萄山脈へと辿り着く。

 幻蛍窟を抜けた方が早いのだが、山脈を越えるついでに、ガラスを作るためのオーク石や炭酸水を回収していこうと思う。


 公爵領のオーク石の採掘鉱山は、幻蛍窟の西方に2キロほどの所にある。マップ検索した限りでは、東方20キロの山中にオーク石の採掘できる場所があるようだ。もう少し奥に珪石が切り出せる場所があったので、そこで少し切り出していこう。


 土魔法でサクサクと山肌に穴を開けて、必要な素材を切り出してストレージに収納しておく。土中の虫が足元で凄い事になっている。途中で気が付いて空中に退避して良かった。虫が嫌いなアリサだったら、泡を吹いて倒れそうだ。


 葡萄山脈という名前が付いている割に、この山には葡萄どころか他の果物さえあまり実っていない。オークがいた時代は、葡萄の産地だったのだろうか?


 この山には「天鹿(あまじか)」という幻獣がいる。前は船だったのでスルーしたが、一度見てみたかったので会いに行った。


 この天鹿だが、天駆と同じようなスキルを種族固有能力として持っている。

 そう、彼らは空を駆けるのだ。


 だが、地面を走るほうが速いのか、オレが上空から見つけた時は山肌を10匹ほどの群れで走っていた。夜中なのに移動しているのは、オレの採掘音で驚かせてしまったのだろうか?


 オスの天鹿は、ヘラジカよりも立派な角を持っているが、それ以外は普通の鹿と同じ感じだ。リーダーらしき天鹿は体高3メートル近いが、他の天鹿は普通の鹿と変わらない大きさだ。


 飛ばないかな~?

 そんな事を考えながら、天鹿の群れから数百メートルほど離れた空中で浮かんでいたのだが、急な危機感知スキルの知らせに従って素早く体の位置を移動させる。


 そこに、リーダーの天鹿が凄い速さで突っ込んできた。


 天鹿の蹄のあたりから炎が吹き上がっている。足が焼けていないところをみると火のように見えるだけで熱はないのかもしれない。


 その天鹿は幾度も突撃をかけてくるが、こちらには縮地という奥の手もあるので危なげなく避け続ける。どうやらリーダー君は囮らしく、地上にいた他の天鹿は逃げていった。


 何度か華麗に回避した後に、縮地で素早く背後に回りこんで天鹿の背中に着地して騎乗してみた。ちょっとした悪戯心が騒いで、ついやってしまった。


 天鹿は、狂ったように空を暴れ飛び跳ねる。


 ロデオゲームは、一時期やりこんでいたが、そのお陰という訳でも無いと思うのだが、さほど苦労せずに乗りこなせている。いや、騎乗スキルがMAXだからかもしれない。


 それにしても、本能なのか天鹿の動きは、地面にいる時と同じように必ず頭が上に来る形になっている。飛べるんだから宙返りとかすればいいのに。暴れるだけではオレを振り落とせないと思ったのか、木立の間に飛び込む事にしたようだ。ちょっとした悪戯のせいで怪我をさせる訳にもいかないので、自在盾を天鹿の前面に展開して怪我をしないように注意した。地表近くなった所で、「理力の手(マジック・ハンド)」を使って天鹿を押さえ込む。


 天鹿が大人しくなったところで、水を飲ませて落ち着かせた。そういえば、「調教士(テイマー)」の称号を持っていたんだから、セットして試してみれば良かった。


>「馴致スキルを得た」

>「調教スキルを得た」


>称号「天鹿乗り」を得た。


 さて、図らずも天鹿を苛めるような形になってしまったので、詫び代わりに天鹿の脅威になりそうな魔物を排除する事にした。リーダー以外は、レベル的に「戦蟷螂(ウォーマンティス)」や「蜘蛛熊(スパイダーベア)」なんかが相手だと危ないだろう。


 昨日、巻物工房で手に入れた自在剣を早速使ってみる。自在盾を防御ではなく攻撃に使うために加工した魔法だ。16枚の刃を作る事ができ、「理力の手(マジック・ハンド)」と同等の射程を持つ。


 マップでマーキングした戦蟷螂と蜘蛛熊の上空まで接近して、空から素早く自在剣を突き入れて刈り取る。倒した魔物は「理力の手(マジック・ハンド)」で掴んでストレージへと収納しておいた。


 まだ、少数の戦蟷螂がいるが、全滅させなくても構わないだろう。


 山脈を山肌沿いに上昇し、高々度から水平飛行に移って公爵領を抜ける。





 すこし懐かしいムーノ男爵領の上空を抜ける途中で、ムーノ市の開発の様子と、トトナ達の開拓地に何軒かの家が建っているのだけを確認しておく。流石に、この高度だと望遠系のスキルでも人は豆粒くらいにしか見えない。


 そのまま通り過ぎようと思ったのだが、ムーノ男爵領の盗賊の数があまり減っていないようだったので、明け方近くまで盗賊狩りをした。


 今回は、ナナシ銀仮面バージョンにしてみた。ムーノ市の魔族を殲滅した時の幻影の姿だ。


 盗賊達のアジトに空から接近して「誘導気絶弾(リモート・スタン)」で無力化する。気絶させた盗賊は、「理力の手(マジック・ハンド)」で吊り下げて持ち運び、近隣の盗賊を一纏めに捕縛してから、ムーノ市の門前まで空輸する。


 ムーノ市前に、土魔法で石柱を作り、蔦で縛った盗賊達を括り付けておく。好都合な事にムーノ市の門番は練度というか士気が低いらしく、眠りこけているようだ。困ったモノだ。


 そんな盗賊を一網打尽にする作業を、空が白むまでの間に幾度も繰り返した。

 これで街道の安全度は、かなりアップするだろうが、新しい都市伝説が生まれてしまいそうだ。眠りこけていた門番君にはいい薬だろう。


 トトナ達の開拓地に寄って、見つからないように、こっそり覗いてみたが、思ったよりも食糧事情は良さそうで安心した。前に公都から送った食料品を、ニナさんが配ってくれたようだ。





 寄り道が多かったせいで、クハノウ伯爵領に入る頃には夜が明けてしまった。人に遭遇しないコースを低空で飛行し、ノウキーの街近くで着地し、そこからは徒歩で街に向かう。途中、十字路で出会った荷馬車に便乗させてもらって街に入る。街に入る時には、セーリュー市で作った平民時代の身分証を使った。


 荷馬車に乗せてもらったお礼に、御者のオジさんの荷降ろしを手伝う。


「あれ? これは丸大根ですか?」

「いや、これは丸長大根だあ。丸大根が取れるのは、冬に入る前だあ」


 言われてみれば、たしかに少し楕円かもしれない。丁度いいので、大袋一杯の丸長大根を購入した。

 近くに蓮根(レンコン)を出している店があったので、そちらも大袋一杯の蓮根を買った。意外な事にレンコンは大根よりも安かった。レンコンは栽培しているわけではなく山菜なんかみたいに、自生しているのを採取しているだけだから安いのだそうだ。


 露店の人に聞いて回ったが、クハノウ漬けを売っている者はいなかった。ムーノ男爵領の治安が悪くなってから、公爵領から味醂(みりん)を売りに来る行商人が居なくなってしまって、作りたくても作れなかったのだそうだ。


 魔族め、キサマ達のせいか。


 前に漬物や調味料を買った雑貨屋になら「クハノウ漬け」の在庫があるかもしれないという話だったので、一度見に行ってみる事にした。

 持ち歩くにはちょっと邪魔なので、購入した根菜を、オジさんの露店の裏手に置かせてもらう。


「こんにちは」

「は~い、いらっしゃ~い」


 あれ? この店はお婆さんが一人でやってなかったっけ?

 店番をしていたのは、化粧ッ気の無い20歳前の女性だった。


「クハノウ漬けが欲しいのですが、在庫は置いていませんか?」

「ああ、クハノウ漬けですか、ちょっと品切れなんですが、ちょっと待ってくださいね」


 残念、品切れか。

 店員のお姉さんが、店の奥に向かって「お婆ちゃん」と呼びかけている。


「なんだね、大声で」

「このお客さんが、クハノウ漬けが欲しいんだって」

「店のは品切れだよ」

「お婆ちゃんが先月漬けてたのがあったじゃない」

「あれは、割高の味醂を使ったから店で売れる値段じゃないよ」


 一瞬、2人は値段を吊り上げる小芝居をしているのかと思ったが、お婆さんは純粋に売る気がないようだ。


 せっかくココまで足を運んだんだし、高くてもいいから売ってほしいと頼んでみた。高いといっても、小(かめ)に入った500グラムほどで銀貨2枚だ。購入前に味見させてもらい、やや味が違うものの間違いなく福神漬けなのを確認した。たとえ金貨2枚でも買うさ。


 ミッションコンプリートだ。





 さて、追加の巻物ができるまで最短で5日ほどだから、一旦エルフの里まで戻る事にした。途中に寄った公都で、小甕に入ったクハノウ漬けを100グラムほど小鉢に移して、情報をくれた娼婦のお姉さんに進呈しておいた。


 ボルエナンの森の樹の家に帰り着いたのは、夜半をかなり過ぎた頃だ。


 レシピメモを頼りに、カレー粉を調合する。思ったよりも簡単に完了した。ただ、黄色いカレーを受け入れてもらえる自信がなかったので、そこからアレンジして違う色のカレーが作れないか色々と実験してみた。


 思った感じの色にならないので、気分転換に自家製の福神漬けを作って宝物庫(アイテムボックス)に収納しておいた。


 満足が行くカレー粉ができたので、材料の足りる範囲で量産してストレージに収納しておく。カレーは使い道が多いから沢山あっても困らないだろう。


 体がカレー臭くなってしまったので、消臭魔法をかけてからベッドに向かった。今からでも3時間くらいは眠れるだろう。心地よい疲労感を感じながら、オレは眠りに落ちた。


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― 新着の感想 ―
[一言] この時分になると、サトゥーの神出鬼没振りは、カレンダーを見ないサンタクロースの馴鹿のようです。 社交界での顔も売れてきていることですから、お嬢さん方の間ではサトゥー出現予報、オッサン等の間で…
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