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デスマーチからはじまる異世界狂想曲( web版 )  作者: 愛七ひろ
第九章

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9-21.害虫退治

※9/15 誤字修正しました。


 サトゥーです。専門家が集まっても好転しない難事が、門外漢の何気ない一言をきっかけにして解決に進む場合があります。

 もっとも、お偉いさんの一言は、難事を大惨事に変化させる事の方が多いですけどね。





「はい? 害虫駆除の専門家ですか?」


 動く人形(リビングドール)作りの手を止めて、工房を訪れた長老エルフさんの言葉をオウム返しにする。


 ここは、動く人形(リビングドール)作りの匠、ソトリネーヤさんの工房だ。この間のアトラクションや街で働く動く人形(リビングドール)の殆どは彼の作品だ。


 教えを請う前に、ここで作り方を覚えても素材がなくて外では再現できないと釘を刺された。なんでも、中核になる動力炉に例の賢者の石を使うみたいで、ボルエナンの森でしか作れないという話だった。


 それでも、そこ以外の仕組みは使えそうなので、無駄にはならない。特に情報の入出力の仕組みや人工知能に使う論理回路なんかは、喉から手が出るほど知りたい。


 それはさておき、長老さんのさっきの言葉だ。


「シャグニグに聞いた。試練所の5番と7番に湧いていた毒虫を、素晴らしい手際で駆除したそうだな。その手際を見込んで、知恵を貸してほしい」


 ああ、アレか。

 先日、アリサ達が遊びにいった試練所の床が崩落する事故があったので、シャグニグ氏と一緒に、残りの試練所を調査に行ったときの事だろう。その時にアトラクション内に大繁殖した毒虫を退治した話が彼に伝わったみたいだ。


 蟲殺しの称号を付けて「害虫避け(バグ・ワイパー)」の魔法を全力で使っただけの簡単なお仕事だったりする。2回目は称号を外して試したんだが、効果に違いは無かった。追加効果の無い称号なのか、あるいは元からオーバーキル過ぎて違いが判らないだけか判断に迷う。


「私で良ければ、いくらでも相談に乗らせていただきます」


 むしろ、退治までしちゃうよ。


 アイアリーゼさんには、精霊光の隠蔽の仕方を教えてもらったり、他のエルフ達からも色々な知識やレシピを分けてもらっているからね。


 勢い込んで立ち上がったオレを、長老が宥めてくれる。

 そこまで急ぎじゃないらしいので、明日の午前中に、滞在している館まで迎えを寄越してくれる事になった。


 その日、組み終わった動く人形(リビングドール)は立ち上がる事もできなかった。

 なかなか先は長そうだ。





「さあ、シガ王国のサトゥー! 迎えに来たわよ」


 迎えに来てくれたのは、アイアリーゼさんだった。

 何やってんのハイエルフ様。


「サトゥーでいいですよ。では参りましょうか」

「ええ」


 顔を赤くしたアイアリーゼさんが斜め下に手を差し出してくる。

 これは手を繋げという事かな?


 空間魔法で跳んでいくのかもしれない。

 そんな事を想像しながら、彼女の手を掴む。


 アリサが、バルコニーから身を乗り出して「ギルティ!」とか叫んでいる。ポチやタマも一緒になって「ぎるてぃ」と言っているが意味判ってるのかな~?


 空間魔法と言えば空間魔法なのかもしれないが、前と同じようにドライアドの「転移(リロケート)」で、世界樹区画へと移動した。


 野暮かもしれないが、手を繋ぐ必要は無かったんじゃないか?





 満天の星。

 というか、瞬かない星を肉眼で見るのは初めてだ。


 ドライアドに連れてこられたココは、世界樹の天頂都市部の中央塔の上にある展望室だ。

 AR表示やマップが確かなら地上から300キロ近い高空だ。静止衛星軌道には届かないだろうが、十分に成層圏を越えているはず。低軌道よりは少し低いくらいかな?


 これだけの高度なのに1Gが保たれているのは魔法なのだろうか?

 いや、それ以前に、こんな長大な樹木が自重で潰れないはずがない。恐る恐るその事を長老さんに確認してみたのだが――。


「よく世界樹が折れたり潰れたりしないものですね」

「神々の加護だ」


 なんでも、神とか加護とか言って誤魔化せると思うなよっ。

 物理の先生に謝れ!


 アリサの様に「うがー」と叫びたくなったが意思の力でねじ伏せた。無表情(ポーカーフェイス)さんが頑張っているので、答えてくれた長老にはバレていないはずだ。


「すみません、長老はそのあたりの技術的なことには疎くて」


 横に控えていた技術者っぽいエルフの女性ジーアさんが、そう言ってオレに説明してくれた。

 なんでも、世界樹は、無数にある枝を隣接する亜空間(イサー・プレーン)(アンカー)の様に打ち込んで重量を分散して支えているらしい。「隣接する亜空間」という段階で、理解を放棄したくなったが、個々の枝にかかる重量は少ないらしいので自壊したりしないのだそうだ。


 何か納得いかないが、もう不思議な樹(ファンタジー)って事でいいや。


 本題に入ろう。


「あの枝の先を見てください」


 ジーアさんが指差す方向には虚空へと伸びる巨大な枝が見える。枝は途中で無数に分岐して、最後は糸のように細くなっている。どこまでも続いているようにも見えるが、ジーアさんが指差すのは、さらにその向こうらしい。

 オレの横では手持ち無沙汰のアイアリーゼさんが、手で望遠鏡を作って覗いているが、何かの魔法なんだろうか? 違う気がして仕方が無い。ダイサク氏が今度はどんな事を吹き込んだのか気になるが、今は触れないでおこう。


 普通に目を凝らしても何も見えないので「遠見」「望遠」「暗視」「光量調整」「魔力感知」スキルを併用して確認してみる。


 クラゲ?


「あの糸みたいな枝に足を絡めているクラゲみたいなヤツの事ですか?」


 望遠鏡をオレに差し出した姿勢で固まったジーアさんが、コクコクと首だけ動かして肯定してくれた。


 しかし、なぜ、こんな宇宙空間にクラゲが。どうせならクジラ――いや、マグロが飛んでいたら良いのに。うん、宇宙空間にはマグロが似合う。


 頭を振ってバカな思考を追い出す。

 宇宙ステーションの様な光景に呑まれて忘れていた。遅ればせながら、「全マップ探査」を再発動する。

 ココからだと1キロほどの長さの光る枝が見えるだけだが、マップで確認すると、100キロ近い長さの糸のような極細の末枝が伸びている事が判った。


 たぶん、この糸のような枝で、エーテルの流れからマナを掬い上げるのだろう。


 マップで調べたところによると、このクラゲは「魔海月(エビル・ジェリー)」という名前で、レベルは20~40ほど。平均30レベルほどの雑魚だ。ただ、数が1万匹近い。「吸収(アブソーブ)」という種族特性を持っているようだ。よく見たらカテゴリーは、魔物ではなく「怪生物」となっていた。ナニソレ?





「あのクラゲなのですが、世界樹がせっかく集めたマナを途中で食べてしまうんです。それだけでも困るのですけど、世界樹の幹の中に卵を植えつけて繁殖しようとするんです」


 なるほど、害虫駆除は、やっぱり、あのクラゲか。

 クラゲの周りの木々ごと排除していいなら、楽勝だな。


「そ、それが――」


 残念ながら、そんなに簡単じゃないようだ。


「――排除できないのは幾つか理由があってですね」


 困る理由その1、クラゲを排除しようとすると世界樹の防衛機能で黒焦げにされる。


 ハア? 何ソレ? と思って聞き直した。

 なんでも、クラゲが世界樹の枝に変な毒を流し込んで、自分達を世界樹の一部だと誤認させているせいらしい。魔法で解毒したり、睡眠で世界樹を眠らせている間に排除というのも試したらしいのだが、世界樹の規模が大きすぎて無理だったそうだ。


 理由その2、クラゲを一定数以下まで減らすと、爆発的に増殖する。


 養殖ウマー! と思ったが、そんなに簡単な話でもなかった。

 クラゲが爆発的に増殖するときに、周辺の世界樹の枝を大量に消費するらしい。しかも、近傍のクラゲが連鎖反応的に増殖するらしく、一度に纏めて処分しないと減らすどころか、かえって増加してしまうらしい。


 理由その3、クラゲの周辺にはマナの空白地帯がある。


 意味が判らなかったので確認したら、クラゲの近くでは魔法が使えないらしい。

 この為、クラゲの調査が捗らないそうだ。エルフ達は虚空と呼んでいるが、要は宇宙空間なので、魔法が維持できなくなったら生きてはいられないだろう。

 他にも、世界樹の防衛機能で黒焦げにされてもいいように、魔法で作る擬似生命に攻撃させる手段も取れないらしい。


「なかなか、大変ですね」

「大変なんですよ~」


 オレの他人事な感想に、ジーアさんが心底疲れ果てたような返事を返してくる。目の下の隈が濃いな。


 さて、幾つか解決手段を思いついたが、実行可能かジーアさんに確認してみよう。



※「魔核の種子」⇒「魔海月の卵」の間違いでした。

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[一言] うん、宇宙空間にはマグロが似合う。 それでもって、唄が巧い可愛い女の子を閉鎖区画へ連れ込んで、兜煮にして箸を突っつくのですね? 分かります分かります。 この宇宙怪獣達も、遠投の伏線です…
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