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デスマーチからはじまる異世界狂想曲( web版 )  作者: 愛七ひろ
第九章

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9-10.山脈の出会い

※2015/6/17 誤字修正しました。


 サトゥーです。油断大敵と言いますが、油断しているときに油断していると自覚できるなら大丈夫だと思うのです。本当に怖いのは慢心ではないかと思う今日この頃です。





 翌朝、一人先行したのには理由がある。


 気流やワイバーンたちの反応を見てみたいのもあるが、この山脈の途中から別の支配領域になっていたので先に確認したかったのだ。恐らくボルエナンの森の領域だとは思うのだが、仲間達の安全の確保のためにも、ちゃんと確認しておこうと思う。


 実は、昨夜一度出かけたのだが、夜間だと気流が違うし、魔物も動かないので意味がないので引き返した。まっすぐ帰ると恥ずかしいので、野営地周辺の強めの魔物を間引いてから帰った。始末した魔物の中に角蛇が2匹いたので、また今度、蒲焼にしよう。


 さて、この山脈の一番高い頂上は、元の世界のエベレスト並みの標高がある。なんと、8000メートル級の山々が連なっているのだ。俺が予定している谷間でも4000メートルを切ることはないので、天然の要害といえるだろう。


 ワイバーンが一番多いのは南西側の6000メートル級の峰だ。そこには数十匹が集まっている。


 俺が山越えコースに選んだあたりにワイバーンは居ないが、山越えコースの山頂付近を基点に扇状に散らばっているように見えるのが気になる。昨日、襲ってきたワイバーンといい、何か彼らが恐れるものが山頂にあるのだろうか。マップの索敵済み範囲が山脈の半ばで途切れているので、何かいるとしたらその先だろう。


 さて、ワイバーンの件はそれでいいとして、こんな山の中にも隠れ里のような集落が点在している。どこも10~20人ほどの小集落だ。人族、妖精族、熊人族と人種も様々だが、どれも位置的にかなり離れているので、お互いに交流したり争ったりはしていないようだ。


 どこも隠れ里のようなので接触する気はなかったのだが、移動中に狼の集団に追われている娘さんを見てしまったので、見捨てる気にもならず「誘導気絶弾(リモート・スタン)」で狼を蹴散らしておいた。姿は見られたが、銀仮面・勇者モードだったので別にいいだろう。





 隠れ里とニアミスしない航路を選び、山沿いに地表から100メートルくらいの高度を飛行している。そのせいか、ワイバーンや飛行虫系の魔物がパラパラ襲ってくる。明日の飛行船の露払いも兼ねているので、見つけるたびに理力剣(マジック・ソード)で斬り捨てるようにしている。

 地表から銛状の針を打ち出してくる陸海栗(りくうに)という赤黒い球状の魔物だけは、遠間から「誘導矢(リモート・アロー)」で始末した。こんなハリネズミみたいな魔物に接近戦をしかけたら先端恐怖症になりそうだよ。


 しかし、魔物が多いな。


 隠れ里とかがある場所の周辺は少ないようだが、これだけ多いと魔物が気まぐれを起こしただけで全滅しそうだ。あまり騒々しい魔法や派手な威力の魔法は自重するようにしよう。


 山陰から飛び出してきたワイバーンに、少々食傷気味になりながら、理力剣(マジック・ソード)を構えたのだが、ヤツはオレの事を眼中に入れていないようだ。


 ひょっとしてと思ってマップを確認して、ヤツを追いかけてるモノが判った。


 なるほど、これは逃げるな。


 ワイバーンが迂回した山頂を砕いて、そいつは姿を現した。


 竜。


 黒い成竜(ブラック・ドラゴン)


 悠々と飛翔する漆黒の竜は、空に浮かぶオレを睥睨した後、そのまま飛翔を続け、ワイバーンを一口にその(あぎと)に捕らえる。

 頭頂の角から尻尾の先までで、全長100メートルはありそうな巨体だ。だが、オレがイメージしていた「どっしりとした西洋ドラゴン」よりはスマートだ。


 絶滅はしてなかったんだな。オレは、身勝手な安堵に浸る。


 さて、どうしたものか。


 さっきから黒竜に、すごく見られている。


『GROOOUUUUNN!』


>「竜語スキルを得た」


 とりあえず話しますか。スキルレベル5まで上げて有効化(アクティベート)する。


「小さき者よ、平伏せ。天空の王者の前なるぞ」

「やあ、はじめまして、黒竜さん」


 敬称は付けたほうが良いんだろうか? 黒竜さんとか薬品名みたいに感じてしまうんだが、どうしたものか。相手が短気な場合に備えて、山を背にするように位置を調整する。


「ほう、竜語を語るか、小さき者よ」


 実際、この言葉は喋りにくい。腹話術スキルとかが無かったら、言葉が判っても発声できなかったかもしれない。


「では、不遜なる者よ。戦うとしよう」


 どうして、そうなる。

 名乗りをあげる前に、戦闘開始とかバトルジャンキーにも程がある。


 交渉しようと口を開きかけ、危機感知の命ずるままに「自在盾フレキシブル・シールド」と「自在鎧フレキシブル・アーマー」を連続で展開した。


 漆黒が視界を埋め、轟音が山肌を殴打する。


 天駆と縮地で咄嗟に移動したにもかかわらず、8枚生み出していた自在盾のうち2枚が消え去った。


 竜の吐息(ドラゴンブレス)


 なるほど、これがそうか。

 ただの一撃で、山が2つ抉れている。位置取りを変えておいて良かった。さすがに山裾のアリサ達のところまでは届かないだろうけど、万が一の場合があるからね。


「ほう、黒炎(ブレス)を避けるか。さすがは勇者というものだ」

「そりゃどうも。できれば戦いたくないんだけど?」

「是非も無い。竜と勇者、出会えば戦うのは宿命というもの」


 ちょっと待て。ヤマトさんと一緒に戦っていなかったか?

 そう問いかけるも、オレの声は、2発目の黒炎(ブレス)の轟音にかき消される。今度は逃げる速度を落としてみたが、「自在盾フレキシブル・シールド」を8枚全部使えば一撃くらいは防げそうだ。


 そんな検証をしたせいで、黒竜に追いつかれてしまった。

 ヤツの尻尾が死角から襲ってくる。


 我輩君の数倍の重みだが、猪王の一撃よりは軽い。

 つまり、耐えられない強さじゃないって事か。


 空中で勢いを殺しきり、動きの止まった黒竜に、今度はこちらから反撃する。天駆と縮地を駆使して格闘ゲームのキャラのようなキックを黒竜の心臓に叩き付ける。

 蹴りが当たる瞬間に、鱗の何枚かが割れたが突き破るところまではいかなかった。危ない危ない、殺しちゃダメなのを忘れていた。


 しかし、鱗が割れる前に、ガラスが割れるような手ごたえがあった。たぶん、鱗の上に魔法的な防御フィールドが張ってあるのだろう。


 山の一つに叩きつけられて静かになっていた黒竜が、瓦礫を押しのけて起き上がる。

 その場で一つ吼え――魔法を使ったようだ。


 オレは、黒い稲妻に撃たれる。


>「雷魔法:竜スキルを得た」

>「闇魔法:竜スキルを得た」

>「闇耐性スキルを得た」


 1つの魔法で、2つのスキルを得られたのは初めてだな。

 複合属性の魔法のせいか、なかなかの威力だ。自在鎧の高密集モードでも隙間を抜けて内側の革鎧を焼いている。自在鎧の体力は8割ほど残って居るが、革鎧の方は裂けてしまった。


 ちょっと、ピリピリするが、変な追加効果は無いようだ。


 さて、どうするかな。

 普通に中級魔法を使ったら1発で殺しちゃいそうだし、聖剣だとバラバラに切り裂いてしまいそうだ。


 もちろん、話し合いも通じそうにない。

 仕方ない、肉体言語で話すか。


 飛び上がろうとする黒竜を、真上からの「気槌(エア・ハンマー)」で地面に縫いとめる。半径150メートルほどのクレーターができたが想定内だ。思ったよりもダメージを受けていないようなので、直接殴るのではなく、「気槌(エア・ハンマー)」や「短気絶(ショート・スタン)」の乱れ撃ちで、オラオラオラとばかりに黒竜の心を折ろう。


 黒竜の体力と位置取りに注意しながら、環境破壊を繰り返す。

 時折、苦し紛れに放たれる黒炎(ブレス)を、「水壁(アクア・ウォール)」で防ぐ。どうも、黒炎(ブレス)の威力は、黒竜の残体力と比例するらしく、もはや序盤のような威力は面影も無い。案外、「水膜ウォーター・スクリーン」あたりでも防げるかもしれない。


 しかし、これだけ不利な状況なのに黒竜の攻撃の手は止まらない。どれだけバトルジャンキーなんだか。先の「雷」「闇」だけでなく「炎」「風」の魔法も使ってきているが、どちらにせよ自在鎧で殆ど防げるので意味は無い。


「グハハハッ、楽しいな勇者。これだけ力の限り戦うのは天竜達と戦って以来だ」


 さぞかし天竜さんたちを困らせたんだろうな。

 意図してか無意識なものか、この会話自体、オレを油断させるためのモノなのだろう。会話の中に混ざる擦過音が呪文になっているのか、オレの周囲に落ちる岩山の影から、影鞭のような漆黒の触手が一斉に湧き上がる。真下からだけではなく、周囲の物陰から湧き出し、包み込むように迫ってきた。


 ログによると「闇手(ダーク・スナップ)」という魔法らしい。影鞭の闇版か。


 オレを拘束して、もう一度、黒炎(ブレス)か、あるいは隠し玉の上級魔法か、それとも勇者の仲間たちが使おうとしたような禁呪か。


 ――この時、オレには油断があった。


 次の黒竜の攻撃は、魔法ではなかった。


 それは牙。


 原始的な牙の一噛み。


 ポチ達に読み聞かせた絵本にもあった。


 竜の牙は全てを穿つ。


 竜の牙は魔王をも滅ぼす、究極の刃。


 黒竜の牙は、オレの自在盾を貫き、自在鎧を食い破る。


 そして、溢れる鮮血――。


※感想の返信について

 感想返しが追いつかないので、個別返信ではなく活動報告で一括で返信させていただいています。

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ISBN:9784040761442



― 新着の感想 ―
オラオラ攻撃、狂気な金剛石みたいな「そばにいる人」の攻撃みたいなのかな?(;^ω^)
[気になる点] 誤変換:要塞 >俺が予定している谷間でも4000メートルを切ることはないので、天然の要害といえるだろう。
[一言] 夕日の河原で殴り合って友誼を結ぶのは、昭和の不良漫画だったか? 戦後のテイストの残滓だよね。 後に付き合いを深めていく友人の一人との邂逅である。 出オチで谷毎竜を殲滅した所為か、倒す苦労よ…
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