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デスマーチからはじまる異世界狂想曲( web版 )  作者: 愛七ひろ
第九章

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9-8.空の旅

※8/16 誤字修正しました。

 サトゥーです。出張で飛行機には乗りましたが、気球や飛行船に乗ったことはありません。熱気球の模型なら学生時代に作った事があるのですが、模型と実物では色々と勝手が違うようです。





「ねえ、高度は上げないの? この高さだと木の天辺から獣が乗り移ってこないかな?」

「大丈夫だよ」


 アリサの懸念はもっともだ。

 実は、飛行船で出発してから既に2回ほど、好奇心旺盛な獣が飛び移ろうとしていた。もちろん、危ないのでジャンプしそうなタイミングにあわせて「理力の手(マジック・ハンド)」で出鼻を挫いておいた。

 鳥の類も寄ってくるが、洋風アニメのカラスの様にクチバシで風船を割るようなヤツはいないので放置してある。


 落ちたときの事を考えて飛行高度は木々の少し上をゆったりと進んでいる。

 箱舟飛行船を前に進めている推力は、「気体操作(エア・コントロール)」の魔法だ。元々飛行目的の魔法じゃないので、箱舟飛行船の速度は時速15キロ程度しか出ていない。天駆で飛ぶときみたいに「大気砲(エア・カノン)」で加速すると箱舟飛行船が空中分解するか風船を入れてある網が破れる可能性が高いので使っていない。


 速度自体は遅いが、直線で進めるので馬車での移動よりも距離を稼げている。


 箱舟飛行船には、幌を畳んだ馬車と馬も一緒に載せている。馬車はストレージにしまおうと思ったのだが、問題なく浮いたのでそのままにしてある。


 箱舟は前後左右に覗き窓が付けてある。窓といっても蓋付きの穴でしか無い。側壁は馬たちの背よりも高く作ってある。箱舟と気球の間には、大怪魚製の天井と言うか防壁が配置してある。


 そんな側壁を上まで登ったタマが、側壁の上にちょこんと腰掛けて、さっきから下を流れる景色を眺めている。危なっかしい光景だが、落ちても地面に着く前にすぐ拾えるからそのままにしてある。タマなら落ちないだろう。


 ナナは後部の覗き窓から外を眺めているようだ。ナナ曰く、後ろの景色が一番カワイイそうだが、どうカワイイのか理解できなかった。その内、わかる日が来るかもしれない。


 する事が無くてヒマなのかアリサ、ルル、ミーアは、さっきから綾取(あやと)りで遊んでいる。アリサやミーアはともかく、ルルが怖がらないのは意外だった。


 そしてタマが身を乗り出すたびに箱舟が揺れ――


「タマ、危ないのです! 落ちたらどうするのですか!」

「そうです! タマ、大人しくしなさい。空、そう空中にいるのです。落下したら飛べないのですよ?」


 船長席っぽいイスに腰掛けたオレの膝の上に座ったポチと、オレの斜め後ろでイスの背もたれに掴まって微動だにしないリザから、タマに注意というよりは非難の声が上がる。


「だいじょうぶ~」


 タマの返答はマイペースだ。


「だ、大丈夫じゃないのです。ご主人さま! 笑ってないで、手はコッチなのです。ちゃんと支えてくれないと落ちたら危ないのです」

「いいですか、タマ。地上に降りたらお仕置きですよ?」


 ポチとリザは空の旅が苦手らしい。

 さっきから、怖いくらい声が真剣だ。ポチが怖がるのは予想していたが、リザが怯えるのは予想外だった。


 ポチはオレの膝の上で、箱舟が傾くたびにビクッと体を硬直させている。さっきからポチの耳がペタンとしたままだ。膝の上に座っているだけじゃ不安らしく、オレの手を自分のお腹の上に置かせている。

 リザもイスに掴まるだけじゃなく、こっそりオレの服の袖を摘まんでいるみたいだ。こちらは気が付いていない振りをしている。


 もちろん、タマの軽い体重が掛かったくらいで船が傾く事はない。

 犯人はオレだ。


 タマが落ちそうな身の乗り出し方をするので、それにあわせて「理力の手(マジック・ハンド)」で箱舟を揺らしたのだが、なぜかタマではなくポチとリザが過剰反応をしてしまった。

 ポチの反応が可愛いのでつい何度もしてしまったが、この辺で自重しよう。





 さて、順調に見えるが、空の旅は思ったよりも問題が多かった。


 一番の問題はトイレだ。

 今晩の野営時に増設するつもりなのだが、今日のところは一定時間毎に、オレが抱えて天駆で地上に降ろす事になった。

 沢山抱えて降ろそうとしたのだが、なぜか1人ずつお姫様ダッコで下ろす事になってしまった。


 二番目の問題は食事だ。

 火気厳禁のために、朝の内に作っておいた弁当食になっている。


「ひよこ~?」

「うわ、ひよこなのです!」

「お花」


 よほど嬉しいのか弁当箱の中をオレに見せてくる3人。

 いや、それを作ったのはオレだから。


 ポチとタマはひよこ柄、ミーアは鳥肉抜きチキンライスと野菜で花柄にしてみた。


「ほんっと~に、マメね。まさかこっちでキャラ弁が見れるとは思わなかったわ」

「あら、やっぱりアリサも、こっちの方がよかった?」


 アリサの呆れ顔にルルが混ぜっ返している。


「食べたら壊れる~?」

「食べていいのです?」

「いいよ、食べ物なんだから」

「ん」

「おいしそ~」


 キャラ弁とこちらを交互に見ながら、嬉しそうに煩悶する2人が可愛い。ミーアもどこから手を付けていいか迷っているようだ。

 この3人以外の弁当は、個別にメニューが違うが普通の料理だ。リザは肉多めに、オレやルルは軽めの内容にしてある。


「ポチ、タマ! そのキャラ弁を保護します。そんなに可愛いのに食べてたら――」


 キャラ弁にナナがこんな反応するのを予想できなかったのは、失敗だった。


「だめ~」

「ダ、ダメなのです」


 狭い箱舟内で暴れたら、馬まで興奮して危ないから「理力の手(マジック・ハンド)」で3人を持ち上げて騒ぎを止めた。


「マスター、不当逮捕です。釈放を要求します」

「狭い箱舟内で騒いだから有罪」

「再考を!」

「ダメ。今日は、そのまま空中で食事する事」


 やれやれ、これでようやく食事に戻れるよ。

 明日は、ちゃんとナナの分もキャラ弁にしよう。いや、空の旅の間は、キャラ弁をしばらく封印した方が良さそうかな。


「マスター」


 今日のナナは諦めがわるいな――。


 ナニヲシテルノカナ?


 思わぬ色仕掛けで、拘束が緩んでしまった。

 ナナが上半身の服をはだけさせたままポチとタマに迫るが、2人は早くも食べ終わるところだったようだ。少し弁当箱が小さかったかもしれない。


 がっくりと床に手を突くナナに、ルルが布を掛けてやっている。


 色仕掛けとは成長したな。

 いや、そうじゃない。そうじゃないんだ。後で、説教しなくてはいけない。うん、さっきの光景は脳内フォルダに保管だな。映像に罪は無い。


 もちろん、撮影魔法は使っていない。





 3番目の問題は、目立つ事だ。


 人里離れた山奥だからと安心していたのだが、好奇心旺盛な動物や魔物はいるらしく、並走したり乗り移ろうとするものが後を絶たなかった。


 2日目には早くも山脈の麓までたどり着いたのだが、昨日は野営地に箱舟を下ろす時に集まってくる動物を排除するのが大変だった。ポチ達は「エモノ!」と言って喜んでいたので良いとしよう。


 本来、飛行船なんかは船の上下が意外に面倒だったりする。浮力を調整する必要があるからだ。だが、オレ達の場合、ストレージに気球を収納する事で浮力が減るので、簡単に降下できる。一定量まで減らしたら、後は「気体操作(エア・コントロール)」で地面まで降ろしてから全て回収すればいい。


 今日の停泊地は、湖の傍だ。

 風船部分が20メートル近いので降ろす場所が難しい。今日は水面に降ろしてから風船を回収した。


 箱船を岸に着けると、早速、リザ達が魔物の迎撃に向かった。さきほどから箱舟飛行船に並走していた角蛇(ホーン・スネーク)が相手だ。アリサとミーアも援護に向かったので、ルルと2人で夕飯の準備だ。


 みんなの狩りが終わったら、馬の運動がてらに湖の周りを騎馬で散歩しよう。





「アリサ! 蛇の攻撃を一時食い止めなさい。ナナ! 蛇の動きが止まったら、シールドを張りなおすのです」


 意外に苦戦しているみたいだ。

 リザとナナの後を追って、森を突き破って出てきた角蛇は、なかなかデカい。長さが何メートルあるのかは見えないが、太さがミーアの胴回りくらいはありそうだ。


 角は両目の間から正面に向けて、長さ50センチ弱ある。こいつの角には、麻痺毒があるらしいのだが、それ以前に、こんな角に貫かれたら重傷だろう。


 オレは、いつでも介入できるように、「理力の手」と「自在盾」を発動して待機中だ。


 鎌首を持ち上げ3メートルの高さから、ナナに突撃しようとした角蛇が、アリサの空間魔法による「孤立結界(アイソレーション)」に阻まれる。この魔法は、空間断層の壁を作るらしいのだが、かなり脆い。前に試したら「魔法破壊(ブレイク・マジック)」を使わなくても殴って壊せた。なぜかアリサに怒られたが、性能実験だったんだからいいじゃないか。

 アリサに言わせると、この「孤立結界」を破壊するには「魔法破壊」か同じ空間魔法の「孤立結界解除リムーブ・イソレーション」なんかの魔法が必要らしい。

 オレの予想では、影魔法や召喚魔法なんかの「他の空間」に干渉する系統の魔法でも破壊できそうだ。


 それはさておき、ナナが「(シールド)」を張りなおし「鋭刃(シャープ・エッジ)」を追加詠唱し終わったようだ。


 アリサが結界を解除して第2ラウンドの開始だ。

 まず、ミーアの「水刃(ウォーター・カッター)」が飛ぶが、角蛇にあっさりと避けられていた。

 続いてナナの挑発が発動する。


「さあ、来なさい! 手も足も出ないと思いしらせてあげると宣言します」


 いや、ヘビに手足はないけどさ。

 角蛇が、その角でナナを突き刺そうと、攻撃を繰り返す。ポチやタマも胴体部を狙って左右から攻撃をかけているが、尻尾に邪魔されてなかなか攻撃が届かないようだ。


 魔刃を発動したリザが、突撃姿勢に入ったその時――


 森の陰からソイツは現れた。


 ――漁夫の利なんて狙わせないよ?


※感想の返信について

 感想返しが追いつかないので、個別返信ではなく活動報告で一括で返信させていただいています。


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― 新着の感想 ―
[一言] 国民的RPGゲームシリーズだと、新たな乗り物を手に入れることで、行動範囲が広がったりエンカウントの手間が省けて効率的になるのが進行の儀式です。 馬車に次いでの乗り物で、道無き道を雲霞の如く押…
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