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デスマーチからはじまる異世界狂想曲( web版 )  作者: 愛七ひろ
第九章

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9-2.魔狩人の街にて

※2016/4/3 誤字修正しました。

 サトゥーです。学生時代にはよくアルバイトをしていましたが、金銭トラブルが起こる事はめったにありませんでした。研修期間があるものや不可解な給与体系のモノを避けるようにしていたのが良かったのかもしれません。





 門の前で揉めているのは5人の男女だ。


「だから入市税が払えないから、報酬を先払いしてくれって言ってるんだろ!」

「なんでウチらがそんな手間をかけないといけないのさ」

「そうよね~、役に立ってみせるから連れていけって言っておきながら、何の役にも立たなかったもんね」

「荷物持ちをさせたらすぐにへばるし、一人で水を飲みつくすし」

「極めつけは、せっかく倒した紅狐クリムゾン・フォックスの死体に切りつけ続けて毛皮をダメにしちゃうし」


 隻腕の少年の抗議を、4人の女性達が、嘲笑しながら却下している。

 物語とかなら、ここは少年に加勢する場面なんだが、どうしてだろう。女性達の方がまともな事を言っている気がして仕方が無い。


 足手まといであっただろう少年も必死なのか、なおも食い下がっている。ヘコタレないな~


「じゃあ、今日の日暮れまでに、買取所横の酒場まで来な。来れたら最初の約束どおり、6日分の報酬の銅貨3枚を払ってやるよ」

「待てよ、俺だってゴブリンを4匹も倒したんだ。歩合の銅貨4枚を忘れてるぞ」

「あんたね~、あたし達が瀕死にさせたゴブリンを横から掻っ攫っただけでしょう?」

「よくそれで、報酬を請求できるわね。ほんっと図太いわ」

「それでも、俺は倒した!」


 食い下がる少年を見下しながら、リーダーの長身の女性が肩を竦めて折衷案を告げる。


「わかった、わかった。だが、その4匹もお前だけで倒したわけじゃない、半分だ。半分の銅貨2枚を追加してやる。せいぜい夕方までに酒場にたどり着くがいい」


 ほっとした顔の少年を嘲笑うように、周りの女性達が悪い笑顔で煽る。


「へへっ、早くしないと全部酒代に化けるぞ」

「よ~し、小僧が来る前に飲みきるか賭けようぜ」

「いいね~、飲みきるのに大銅貨1枚」

「ウチも飲みきる方に銅貨5枚」

「ぎゃははは、それじゃ賭けになんね~よ」


 時間が掛かったら本気で飲みつくしそうな感じだな。

 それは、少年も同感だったらしく、慌てて門番との交渉に向かったようだ。





「だから、さっきの話を聞いてただろう? ココさえ通してくれたらちゃんと払いに戻ってくるからさ」

「ハンッ、お前たち魔狩人の口約束を聞いてたら、門番なんて務まらないんだよ。夕方までに物納できるような獣でも狩ってきたらどうだ?」

「罠を張る道具も無しに獣を取れるわけ無いじゃないか」

「なら、諦めな」


 ほう、物納もできるのか、知らなかった。

 俺達の馬車が近くまで来たのに気が付いた門番が、少年を脇へ追いやる。少年は、その隙に街の中に駆け込もうとしたようだが、もう一人いた門番に足を掛けられて地面に踏みつけにされている。


「やあ、プタの街にようこそ。見ない顔だが、行商人かい?」

「いや、旅の途中に寄っただけだよ」


 身分証明書の銀製のプレートを門番に見せる。


「こいつは失礼しました。貴族様でしたか」

「失礼ついでに貴族様、旅の途中という事でしたが、ここは最果てのプタの町ですぜ? いったいどこへの途中なんです? まさか山越えして翼竜(ワイバーン)の巣に卵取りですかい?」

「おい、ガッツ」


 門番達の言葉が気になってマップを調べたら、確かに途中の山に翼竜(ワイバーン)が居る。翼竜の卵はやはり大きいのだろうか。


「山越えするつもりだけど、翼竜の事は知らなかったよ。卵取りって、美味しいのかい?」

「すんげー美味いのかもしれませんが、高く売れるんですよ。王都や山向こうのスィルガ王国まで持っていったら同じ重さの金貨と交換してくれるって噂ですぜ」

「実物は見たことありませんが、竜騎兵の騎竜にするそうです」


 卵が500グラムだとして、金貨150枚くらいか。

 スィルガ王国とやらは、東方の山脈を越えた先の小国らしい。ちなみにオレたちの向かっているボルエナンの森は南東の山脈を越えた先にある。


「なあ、貴族さま!」

「お前は黙ってろ」


 オレに声を掛けてきた少年を、手にした槍の石突きで素早く黙らせる門番。そこまでしなくてもいいと思うのだが。


「いいよ。なんだい、少年」


 前半は門番に、後半は踏みつけられたままの少年に声を掛けた。


「貴族さま、町に入るために必要なんだ。銅貨2枚貸してくれ! かならず返すからさ」

「ちゃんと敬語くらい使わんか!」

「ケイゴなんて知らないよ。『さま』って付けたら敬語じゃないのかよ」


 しかし、オレから銅貨2枚を借りて無利息で返したとしても銅貨3枚しか手元に残らないのはいいのだろうか?


「いいよ、貸してあげる」

「本当か?!」

「士爵さま、こいつは魔狩人ですぜ? 宵越しの金なんて持たないヤツラなんだ。絶対返ってきませんぜ」

「せっかく貸してくれる気になってるんだから余計な事言わないでよ。絶対返すってば!」


 門番の足元から這い出してきた少年に、銅貨2枚を渡してやる。長く風呂に入っていないのか、むせ返るような体臭がしている。いや、これはゴブリン達の返り血や肉片なんかの腐敗臭も混ざっているんだろう。


 少年は、片方しかない腕で引っ手繰るようにオレから銅貨を受け取ると、門番に叩きつけるように渡している。


「そうだ、貴族さま! 宿が決まってないなら、そこに見える門前宿に行きなよ。かなり高いけど、料理が美味いって評判だよ!」


 少年はブンブンと手を振りながら、そう告げると中央通りを駆けていった。

 さて、この生暖かい門番の視線はどうしたものか。


「士爵さま、人が良いのは美徳だと思うけど、世の中には人の善意を貪るだけで感謝なんてしないヤツラは沢山いるんだぜ、ですよ?」

「おい、その辺にしておけ。士爵さまが困ってらっしゃるぞ」

「いや、心配してくれて感謝するよ」


 どうもこちらを本気で心配してくれているらしいので、感謝の言葉を返しておく。とりあえず、街に入るのは問題ないようだ。

 ルルが馬車を発進させようとしたところに、思い出したかのように呟く門番の忠告が耳に届く。


「守護のポトン准男爵のところには、頭のおかしい他国の貴族が逗留しているみたいだから近寄らない方がいいですぜ」


 マップで検索したところ、この街の守護――たしか代官みたいな街の執政官だったかな――のポトン准男爵の傍に例の火魔法使いがいるみたいだ。


 火魔法使いの名前は、ドォト・ダザレス。マキワ王国という国の侯爵らしい。旅行記にも国名が載っていないので、どこにある国なのかは判らない。虎人族と関係があるのなら、ルモォーク王国やスィルガ王国のある小国群のあるあたりじゃないかと思う。


 賞罰に、「放火」「殺人」と付いているのによく街に入れたものだ。





 このプタの街は、今までの都市と違い、かなり狭い。精々1キロ四方しかない。守護の住む小さな館を中心に、大まかに4つのブロックに分かれている。今、オレ達がいる西ブロック、港のある北ブロック、歓楽街のある東ブロック、職人や貧民街のある南ブロック。居住区はそれぞれにあるようだ。

 種族構成は、人族が7割、鼠人族、海驢人族、兎人族が同じ割合で合計2割強いる。それ以外の種族もいる事はいるが数は少ない。奴隷は、1割弱ほどで各種族様々だが、比較的人族の奴隷が多い。

 この街にいる貴族は、ポトン准男爵一家とダザレス侯爵の関係者のみらしい。


 貴族としては挨拶くらいしに行った方がいいのだが、わざわざトラブルに首を突っ込む必要もないだろう。トルマの家で書いてもらった公爵領の貴族達の相関図で確認したところ、ロイド侯爵の一門の末席付近の家系らしいので、それほど困った事にはならないだろう。


 しかし、この相関図は便利だ。今度、お礼にマユナちゃん用のオモチャでも作ってやろう。


 馬車を門前宿の中庭に乗り入れると、小間使いらしき少女が走ってくる。ルル達に馬車を任せて、少女の案内で宿に入る。一緒に付いてきているのはアリサとナナだけだ。


 案内されて行った先で待っていた宿屋の主人はオレを見るなり金蔓を見つけたような表情になる。おかしい、今日はそれほど高そうな服を着ていないはずなんだが。


「これはこれは若様、ちょうど良い部屋がございますです」


 腕毛がわさわさと生えたぶっとい腕で、もみ手をしながら勧める部屋に案内してもらう。木造3階建ての別棟になっていて、別料金で夜間歩哨なんかも雇ってもらえるそうだ。5日以上泊まるなら歩哨は無料らしい。宿代は、1泊銀貨1枚との事だ。セーリュー市の門前宿で1部屋大銅貨1枚だった事を考えると割安なのかもしれない。

 この別棟には浴室があったが、一人サイズの浴槽がポツンとあるだけで、当たり前だが給湯設備は無いようだ。湯は沸かすのに時間が掛かるので、なるべく食事時以外にしてほしいと頼まれた。飲料水以外の水は用水路から好きに汲んでいいらしいが、これって下水共用じゃないのか? まあ、汲む前に「浄水(ピュア・ウォーター)」で綺麗にすればいいか。


 夜中に盗賊が来る事が多いらしいので、馬車に積んでいた荷物は、別棟の中にある倉庫に運び込んだ方がいいと忠告された。中身が空だからそのままでもいいのだが、無駄に注目を引くのも問題なので、全て宿の中に搬入した。


「よお、貴族様が泊まってるのはここかい?」


 山賊の親玉のような猟師の男が、大きな荷物を担いで宿の中庭へ入ってきた。広げた布の中には解体済みの鹿肉が入っていた。


「ほう、ゴク。お前にしちゃ、えらくでかい獲物だな」

「ああ、久々だよ。そっちの若様が貴族さまだろう? どうだい、丁度食べごろのはずですぜ。モツは仕留めた日に喰っちまったから無いけどな」


 ガハハハと笑うこの猟師は、どうやら鹿肉を売りつけに来たらしい。値段は銀貨2枚と公都の半分以下だ。いきなり相場の値段を言うとは商売の下手な男のようだ。情報が早すぎる気もしたが、街に戻ったところで門番に教えてもらったのだろう。


 別棟には厨房がないので、調理は宿の料理人に任せる。


 夕飯までにはまだ時間があるので、元気一杯のポチとタマを連れて散歩に出かけた。念のため、ポチとタマは公都でも着ていた薄手のフード付き外套と、革鎧と木剣を装備している。オレは、白いシャツとズボンというシンプルな服装にしてある。


 これだけ地味な格好なら、変なヤツに絡まれる事も無いだろう。



 活動報告にSSをアップしてあるので、よかったらご覧下さい。


※感想の返信について


 感想返しが追いつかないので、個別返信ではなく活動報告で一括で返信させていただいています。遅れ気味ですが、生暖かい目で見守ってください。



※作者からのお願い※


 誤字報告は、メッセージでは無く感想欄でお願いします。メッセージだと週末にピックアップするときに漏れやすいのです。


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― 新着の感想 ―
[気になる点] 隻腕の少年って例の3人目かな?
[一言] スィルガ王国もだが、遠投の伏線が有りますね。 何れも、シガ王国編の後で関わってきます。 初読みの時には、スィルガ王国が既出だと覚えてなかったです。 もう一方はここでの印象が強かったので覚え…
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