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デスマーチからはじまる異世界狂想曲( web版 )  作者: 愛七ひろ
第二章

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2-6.論戦とドブネズミ退治の午後

話の途中に下品な表現があります。ご注意ください!


※2018/6/11 誤字修正しました。


 サトゥーです。「いつの時代も扇動者はいなくならない」という言葉がありますが、時代どころか世界が違っても居なくならないようです。


 それでは決着を始めましょう。


 セーリュー市の歴史がまた1ページ……。



 ◇



 獣娘を見つめて見つけたのは、彼女達の主人の名前。


 それはデブ神官とは違う名前だった。


 では彼女達の主人はどこに?


 考えられるのは主人がここに居ないか、デブ神官に逆らえない立場か、……デブ神官の仲間か!


 最近、情報のAR表示しかしていなかった全マップ探査の本領を発揮する。

 主人の名前を検索。


 いた、広場の端。木箱の上に腰掛けて広場の騒ぎをニヤニヤと眺めているキツネ目の小男だ。


 AR表示される情報を検分する。


 小男の名前はウース。39歳。スキル「詐欺」「説得」「脅迫」。所有奴隷「猫人」「犬人」「蜥蜴人」。

 ……ん? 奴隷は種族表示のみで名前は無いのか?


 いや、そんな事はどうでもいい。

 もっと情報だ。

 まだ足りない。


 所属「セーリュー市、下級市民」。ギルド「ドブネズミ」。


 これだ、ギルド「ドブネズミ」で検索!

 構成員52名。この広場に居るのはウースを含めて10名。ウースとその後ろにいる護衛らしき大男を除くと8人が広場でサクラをやっているようだ。

 この場にいない者も含めて、全員にマーキングしておく。


 さあ行動を開始だ!


>「推理スキルを得た」

>「暗躍スキルを得た」


 ……だが獣娘の虐待に動揺していたのだろう。オレは重大な情報を見落としていた。時は戻せないが、この時、最初の一歩を遅らせていたなら結果は違ったかもしれない……。



 ◇



 ゼナさんがデブ神官の前まで辿り着いたようだ。


「非道なマネは止めなさい!」

「なんだね小娘! キサマは魔族の味方か!」


 いつの間にか眷属なくなってるよ。しかも反論しにくい返しするし扇動者(アジテーター)の基本は押さえてるな。


「「魔族の味方をするやつも魔族だ!!」」「「「「オオオオオオ!」」」」


 ゼナさんが時間を稼いでくれてる間に、まず群衆の中のサクラを何とかしないとね。


「ごまかさないでください! ザイクーオン神殿は王国の法を犯すのですか!」

「魔族を聖なる石で打擲(ちょうちゃく)するののどこが悪いのダ?」


 なんて噛み合わない会話だ。いや神官は分かっていて論点をずらしてるのか。

「密偵」をアクティブにして群集に紛れ込む。「回避」「格闘」スキルで群集をすり抜ける。


「「「「オオオオオオ!」」」」「そうだ! その小娘にも石を投げてやれ!!!」「「「「オオオオオオ!」」」」


 ゼナさんは風防御ウィンド・プロテクションを使って自分だけでなく、獣娘達も守っている。さすがは領軍の魔法兵。


 さて群集が暴徒になる前に片さねば。ゼナさんでも大勢に押し寄せられたら危険だ。


 投石をしつつ周りを扇動している(ドブネズミ)の隣に移動する。スキルの恩恵か、どう攻撃すれば無力化でき、なおかつ周りに不審に思われないかわかる。

 ただの一撃で(ドブネズミ)を無力化する。そしてそのまま広場の外の路地に捨てる。時間が惜しいので拘束はしない。


>「拉致スキルを得た」

>「暗殺スキルを得た」


 拉致スキルは使えそうなので最大まで取得。暗殺スキルは取らない。取らないよ?


 広場の中央では別の神官服の男がゼナさんに加勢してきた。ガテン系の美中年だ。


「亜人が魔族などとザイクーオン神殿というか貴殿が言っているだけではないか」


「ふん、博愛主義のガルレオン神殿神官殿か。そんなに獣がいいなら打擲(ちょうちゃく)が済んだ後なら前でも後ろでも好きに使っていいぞ」


 うわっ、最悪なセクハラ野郎だな。ゼナさんが真っ赤……になってないな。意味が分からなかったのか。そいつは重畳。


「亜人をコロセ!!」「「オオオオオオ!」」「魔族に鉄槌を!!!」


 論争を行う舞台はゼナさん達に任せて、こちらは害獣(ドブネズミ)駆除だ。2人、3人と順調に昏倒させて適当な路地に転がす。落ちてた酒瓶を手元に転がすくらいの手間は惜しむまい。


「わかっているんですか! このまま民衆の不安を煽って暴動にでもなったら! ザイクーオン神殿が反逆の首謀者になりますよ!」

「おろかな竜の威を借るトカゲめ! 魔族を殺すなと? キサマこそ反逆者ではないか!」

「魔族をコロセ!!」「「オオオオオオ!」」「その小娘も魔族が化けてるんじゃないか?!」


 半分ほど駆除が終わった。群集の叫びもだいぶ減ってきたな。……一人やけに大きい声で叫んでるヤツがいるな。ドブネズミの一味じゃないみたいだが。とりあえずマークしておくか。駆除が終わってから接触しよう。


「同じ東街の皆よ! 不安なのは皆同じだ! だが、それを弱者に押し付けるような卑怯者にはならないでくれ!」

「聞いたか民よ! ガルレオン神殿はキサマらが悪だと! 徳を積もうと必死なキサマ達が悪だと!」


「魔族をコロセ!!」「「オオオオオオ!」」「ニセ神官め!!」


 よし、あと2人だ。

 さっくり仕留めて路地に転がす。


 ウースを舞台に上げる前に、大声君に接触して最後の仕込みをする。


>「陰謀スキルを得た」


「もう止めさせて下さい。いくら石を投げられても全て防ぎます!」

「キサマ、聖なる行いをジャマするか! 神に歯向かう愚か者メ!」


 デブ神官が口角に泡を飛ばして叫ぶが、応える民衆の声は疎らだ。その声も1つまた1つと消えていく。


 ウースの肩をポンと叩く。


「アンタの出番だよ」

「な、なんだキサマ! おいバンゼ! こいつを潰せ!」


 ウースは驚きつつ後ろの大男に顎で指示する。だが振り返った先に大男の姿が無く狼狽する。


「バンゼ? どこいったあのウスノロめ!」

大男(バンゼ)なら女とどこかに行ったみたいだよ」


 本当は昏倒させて路地裏に転がしてある。

 ウースの腕を捻り上げ舞台まで連れていく。


「皆、解散するんだ。このままだと本当に領軍が出てきてしまうぞ! 不安があるなら神殿に来い、いくらでも不安や悩みを聞いてやるぞ!」

「キサマ、聖なる行いをジャマするか! 神に歯向かう愚か者メ!」


 どっちも神官じゃん?

 彼らの真ん中にウースを放り投げる。


「おお、ウース殿! キサマ! 聖なる行いに亜人奴隷を提供してくれた信心深き者になんということを! この背教者メ!」

「ゼナさん、風魔法で奴隷達に声が届かないよう遮断して」


 ウースが立ち上がって命令を出す前にゼナさんの魔法が完成した。


「犬、猫、蜥蜴! こいつらを叩きのめせ!」

 奴隷達にはウースの声が届かないために首を傾げている。

 一応、聖なる石(笑)を拾って男の鳩尾に投げつけておいた。あ、悶絶してる。


「ゼナさん、お待たせ。美中年神官(そちらの神官)さんもお疲れ様でした。この男が首謀者です」

「さすがサトゥーさん。身軽なだけはあります!」

「何者だ」


 ちょっと誉めるベクトルがおかしいよゼナさん。


「ゼナさん、魔力に余裕があったら広場に声を届ける魔法を使ってもらえませんか?」

「はい! ■■■■ ■■■■ ■■■ ■■■ 囁きの風(ウィスパー・ウィンド)


 悶絶してるウースを両手で持ち上げてよく見えるようにする。

 ガルレオンの美中年神官を遮蔽物にしてオレの姿が目立たないように工夫する。

 ちょ、動かないで神官さんっ。


「みなさん、見えますか。この男が犯人です! この男がこのザイクーオンの神官に奴隷を貸し与え、みなさんの不安を煽り、ただの石コロで、みなさんの大切なお金を騙し取ろうとしたのです!」


>「断罪スキルを得た」


『金かえせーーーーーーーーー!』

 群衆の中から一際大きい声が出る。その声に煽られるように「金返せ」コールが始まる。


「さらに彼の目的は別にあります! 小金が儲かるとザイクーオンの神官を利用した本当の目的は! みなさんを扇動して伯爵に反逆させる事だったのです! 彼こそ悪魔崇拝者の一味だったのです!」


 詐欺師スキル絶好調! orz。


 小金あたりまでは事実だろう。後ろの2つはただのこじ付け。

 実は未だにこの男の目的が分からないので揺さぶりを掛けてみたんだ。


>「冤罪スキルを得た」


 聖石を売るのが目的だった場合、聖石が100個売れたとして銀貨4枚。亜人奴隷3人の価格とは釣り合わない。相場スキルでみた価格は3人で銀貨6枚だ。あのまま続けていたら確実に奴隷は死んでいたのは間違いない。

 ね? 計算が合わない。


『ソイツが魔族を陰から操っていたのかーーーーーーーーー!』

 あのヤロウ、神官に不利なように煽れとは依頼したが、ちょっとは空気読め。また暴動になるだろう。


「この男は反逆未遂で領主さまに引き渡します。デブ神官(ザイクーオン神官)、あなたはこの男に騙されただけですね?」


 神官の目が泳ぐ。


「そ、そうだ騙されたんだ。悪魔崇拝者だったとは! わ、わたしは悪くない……貴族様! わたしは騙されたんです。ですから伯爵様に反逆するつもりなど微塵も……」

「ええ、そうでしょうとも。では民から徴収したお金を返してあげなさい。きっと穏便な処置がくだされるでしょう」


 もちろん空手形だ。詐欺師スキルって怖い。スラスラ言葉が出てくる……。

 デブ神官は弟子達に指示して渋々金を返金させている。広場の人々も三々五々帰っていく。後には当事者と石が手元に無い購入者と弟子の間で言い争いが起きている。


 クククククッ。


 足で踏みつけて動けなくさせていたウースが篭るような声で嗤いだす。

 気が狂ったか、なにか策を思いついたか。

 穴だらけの言いくるめじゃ引かないか……。暴力の世界の人みたいだし。


 だが予想とは違った。うつぶせにして完全に動きを封じているはずのウースが黒い腕を振るって反撃に出た。

 オレは間一髪でかわしたがその毒爪はデブ神官の体を引き裂いた!



 デブ神官は小金が欲しかっただけの小物でした。


 美中年(ガルレオン神殿の)神官に探偵役をやってもらいたかったんですが、色々と無理っぽかったので諦めました。


 主人公が「探偵」スキルを手に入れなかったのは仕様です。あんなザルな推理で探偵スキルはあげません!


 シティーアドベンチャーって盛り上げるの難しいですよね。


 やや目立ってしまいましたが、大目に見てください。

 最初から仮面の勇者で颯爽登場すれば良かった……。


※注意※

 探偵⇒推理スキルに変更になったので作中に探偵スキルは存在しません。「探偵はスキルじゃなくてジョブだろう?」と突っ込まれまして~。

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― 新着の感想 ―
[一言] 最後の注意を読んで、確かにそうだな。って思ったわ。 名探偵や迷探偵だったら称号っぽいしなぁ。
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