8-20.闘技場での戦い(2)
少し暴力的な表現や気持ち悪い魔物の描写があります。ご注意ください。
※2/11 誤字修正しました。
サトゥーです。人の三大欲求は睡眠、食欲、性欲といいます。だから食欲に負けて迂闊な行動を取ってしまうのも仕方ないのです。でも性欲にだけは負けないように頑張りたいと思います。幼女趣味は7つの大罪の一つといいますから。
◇
しまった。
ナナシの銀仮面モードだから大丈夫とは言っても、少し目立ち過ぎたかもしれない。
さて、どう誤魔化したものか。
いや、いい機会かもしれない。さっきからMMOの狩場で一人散歩するような、そこはかとないボッチ感を味わい続けていたし、ここは派手すぎるくらい派手にした方が、普段のオレから乖離して正体がバレにくいかもしれない。
幸い、クジラの蒸発した血が靄状になっていて、こちらの姿は見えていないはずだ。
オレみたいに「遠見」を使っているものもいないだろう。アリサと実験してみたが、使われると魔力感知で見られているのがわかった。
とりあえず、声だな。「あ、あー、あ」と声の高さを変えていく。
>「変声スキルを得た」
一番派手なヤツという事で、「白仮面、光背オプション付き」で行く事にする。
アリサと一緒に、深夜の変なテンションで考えた自重しないやつだ。服装は、金糸で彩った白を基調にした服をベースにしている。そこに無用なヒラヒラの布を垂らして巫女っぽいテイストを追加した上に、肩、胸、腰の布をだぶ付かせて性別不詳にしてある。
マントや外套は無く、例の白い笑顔の仮面を付ける。カツラは、新作のロングストレートの紫色の物にしてある。もちろん、アリサの髪で作ったわけではない。白い毛のカツラを染色したものだ。
そこに幻影魔法で、光る3重の光背をオプションに付けて、移動時には残像が残るようにしてある。オマケで、足首の外側に、移動速度に合わせて激しく光る環を出す。これに「自在盾」と「自在鎧」を出して完成だ。称号はナナシに合わせて「名も無き英雄」にしておいた。
サトゥーの時には絶対にしたくない派手派手スタイルだな。
どうせ介入するのだからと、開き直って、誘導矢を使い、2匹ほど残っていた虫系の魔物と黄肌魔族の回復球を破壊した。余った分は黄肌魔族に回したが、そちらは防がれてしまったようだ。いくつかの魔法の矢は、黄肌魔族の火炎魔法で焼かれてしまったらしい。魔法の対象を魔法にするのはいい使い方だ。今度、やってみよう。
「何者デェスか?」
「誰だ!」
勇者と黄肌魔族の誰何が重なる。
両者は互いに距離をとりながら、こちらを警戒しているみたいだ。オレは、高度を下げて、地上10メートルほどまでに降下する。
「ナナシ」
短く名前を告げる。
変声スキルを最大まで割り振ったお陰で、どんな声も自在だ。女性声優さんが演じる少年の声をイメージして声を調整した。年齢性別不詳でいい感じだ。
危機感知が、勇者の背後の美女の方から脅威を報告してくる。そういえば、詠唱を始めて2~3分経っている。何かの上級魔法なんだろうけど、この感覚からして街中で使えるレベルの魔法じゃなさそうだ。
ダメだ。
アレハ、トメナイト、イケナイ。
これだけ焦燥感に駆られるのは久々だ。一応ログを見たが精神魔法とかではないみたいだ。
勇者を説得して中断させるのがベストなんだろうが、問答をしている時間がなさそうなので、強引に行く。
まず「魔法破壊」で呪文を強制中断。
当然、魔法の構成を破壊された素の魔力が周囲にあふれ出す。深夜の各種魔法実験の結果から、この流れは予想できていたので、「理力結界」で美女達を守る。さほど強い防御魔法じゃないはずだが、問題なく守れたようだ。
ただし、魔法の強制中断によるフィードバックが多少なりともあったようで、みな地面にヒザを突いている。
「何をする!」
「その魔法は危険過ぎるよ。悪いけど、詠唱を中断させてもらったよ」
勇者が美女達に駆け寄りながら、こちらに抗議してくるが、事後承諾させる。口調は声に合わせて少し変えた。
やはり、勇者なら周辺被害を抑える工夫はしてほしいものだ。昔再放送でやってたツバサマンを見習ってほしい。
「これは失笑なのデェス。仲間割れデスか? 恐らく幻術を使って大怪魚を召喚ゲートに引き返させたのデスね? なかなか知恵の回る仲間がいたものなのデス」
あれ? そういう解釈なのか。
◇
亜空間に隠れていたらしき勇者の銀色の船が浮上してきた。浮上してきた船の船首が白い輝きを放っている。
しばし船首を彷徨わせていたが、少し迷った末に照準を固定して光線を放つ。
困った事に照準はオレだ。
どうも、勇者が抗議してきていた姿を見てオレが敵と判断したみたいだ。短絡的なやつらめ、と内心で悪態を吐いたが、客観的に見て怪しい風体だったので、少し納得した。やはり仮面の見た目が正義の味方っぽくないのだろう。
自在盾を重ねて、勇者の船からの光線を受け止める。けっこうな速さで自在盾のHPが減っていく。オレのレーザー4~8本分くらいの威力はありそうだ。いつまでも受け止めていられないので、「集光」魔法を使って、光線の向きを途中で逸らす。影魔法の「吸光」とかがあったらもっと楽だったかもしれない。
光線を発射している船首が赤熱してきているので、そのうち攻撃が止まるだろう。勇者が、船の仲間に向かって何かを叫んでいるが、相手は聞こえていないみたいだ。
「不甲斐ないぞ勇者! 《踊れ》クラウソラス」
あれ? 王子いたんだ。
勇者の船に続いて、王子までがオレを敵認定して空飛ぶ聖剣を撃ち出してきた。顔を横にずらして剣を避けて、通過寸前に柄を掴んで止める。手の中で暴れるが、一気に聖剣から魔力を吸い上げたら大人しくなった。
しかし、王子、ずいぶん草臥れた姿になっているな。
さっき、クジラをストレージに入れたときに、大量の体液と一緒にストレージに入らなかった寄生虫っぽい姿の魔物が闘技場に落下していた。個々は弱い魔物だったのだが、丁度、そいつらが落ちた所が、王子達がいた場所だったわけだ。
王子達なら大丈夫だろうと放置していたのだが、思いのほか苦戦していたようだ。鎧は半壊し、むき出しになった肌には魔物が喰らいついたと思しき傷跡が無数に残っている。よく失血死しないものだ。
戦闘狂の少年は、王子より酷い有様だが、狂ったように哄笑しながら、魔物の死体に剣を突き立てている。
◇
黄肌魔族が足元に召喚陣を作り出して、逃げようとしていたので、「魔法破壊」で召喚陣を破壊する。続けて黄肌魔族の防御魔法を「魔法破壊」で破壊するが、よっぽど積層化しているのか一撃じゃ全て剥げないようだ。
縮地で急接近して「魔力強奪」で黄肌魔族の魔力を奪う。
「グヌヌ! こうまで容易く魔力を奪われるとは!」
黄肌魔族も、ただ魔法を吸われていた訳ではなく、色々と無駄な抵抗はしていた。
「キサマ、吸血鬼どもの真祖の類なのデスね」
今度は吸血鬼扱いか。
とりあえず、「魔法破壊」して殴る、続けて「魔力強奪」というコンボを続けてみた。魔族が何か言っていたが適当に聞き流す。
1度に奪えるのは300MPほどだ。71レベルなら710MPくらいかと思ったが、3度奪ってもまだ尽きる様子が無い。どうやら魔族の保有MPは人族よりはるかに多いみたいだ。最終的に10回ほどで魔力強奪ができなくなった。オレよりMP多いんじゃないか?
奪った魔力は余剰すぎるので、丁度持っていた聖剣クラウソラスにチャージする。片手剣サイズだった聖剣が魔力を注ぐたびに大きくなっていく。アリサが居たら変な連想をして、ニヨニヨと頬を緩めていたに違いない。MPを500ほど注いだところで膨張は止まった。博物館にあったレプリカくらいの大きさだ。
防御魔法をあらかた剥ぎ終わり、魔力も尽き、体力も9割強ほど削り終わった黄肌魔族を勇者一行の前に投げる。
目の前に飛んできた黄肌魔族を勇者の剣が躊躇なく両断する。やはり防御魔法が切れてると簡単に倒せるみたいだ。1発で複数の魔法を破壊できるような魔法を開発したら楽に倒せそうだ。黄肌魔族は滅ぶ時に「やり直しを要求するのデース」とか叫んでいたが、何をやり直したいのかは最後まで不明だった。
仲間の魔法使い達が、両断された遺骸を魔法で焼き尽くしている。
勇者がオレの前に歩を進める。剣は抜き身のままだ。そういえば、聖剣じゃなく魔剣をつかっている。聖剣が壊れたのかな?
「どういうつもりだ」
「因縁のある相手だったんでしょ?」
「ふん、礼は言わんぞ」
「別にいいよ。禁呪が発動していたら倒せていた相手でしょ?」
黄肌魔族の余裕から見て対抗手段があった気がするが、突っ込むだけ野暮だろう。
しかし、この口調は失敗だ。喋りにくい。
「ところで、あのアホ王子が死に掛けているが、助けなくていいのか?」
勇者の言葉に、王子の方を振り返ると、さしずめ蠱毒の様相を呈しはじめてきた雑魚魔物達に嬲られている。短剣で戦っているようだ。
勇者も積極的に助ける気はないらしい。
オレも見捨ててもいいのだが、どうせ魔物を始末しないといけないので、ついでに助ける事にしよう。
誘導矢を使った方が早いのだが、せっかくの聖剣なので使ってみる。
「《踊れ》クラウソラス」
手から離れた聖剣クラウソラスが、重ねた紙がバラけるように増えていく。そのまま13枚の薄い刃の剣に分かれた。青い光が実剣の外側に刃を形成する。
AR表示に「誘導矢」と同じような照準マークが表示された。軌道も、同様に設定できるみたいだ。そのまま雑魚魔物に向けて刃を撃ち出す。
刃は次々と魔物を切り裂き、聖なる光で魔物を蒸発させていく。
最初に見たときは20レベル前後の魔物ばかりだったのに、いつの間にか50レベルのモノが数体まざっていた。「生命強奪」というスキルで仲間の魔物達や王子達からレベルや生命力を奪って急成長していたようだ。
なるほど。
どうりでいつの間にか、王子の髪が白くなっていたはずだ。
あんなに皺も無かったし、レベルも40台後半はあったはずなのに、さっき見たらレベル20台まで落ちていた。戦闘狂の少年も、王子と似たような感じだが、王子よりはかなりマシだ。レベルも30台を維持しているし髪は白いものの老化はしていない。
オレにクラウソラスを投げつけなければ、もうちょっとマシだったろうに哀れだ。
5体満足で生き延びただけでも御の字だろう。
王子の結末は、こんな感じになりました。
この後2~4話で8章、公都編は終わりです。
念の為:7つの大罪は「暴食、強欲、怠惰、色欲、傲慢、嫉妬、憤怒」です(wikiより)。あたりまえですが、幼女趣味は含まれません。
前話の反響があまりに大きかったので、今回の話を全て書き直してしまいました。初稿だと、もう一度隠れたり意味不明な事をしていたので、少しはマシになったと思います。







