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デスマーチからはじまる異世界狂想曲( web版 )  作者: 愛七ひろ
第八章

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8-19.闘技場での戦い

※7/27 称号を追加しました。

※9/15 誤字修正しました。


 サトゥーです。昔は給食にクジラの肉が出ていたそうです。祖父の家に遊びに行っていた時に海岸に打ち上げられたとかいうクジラの肉を食べた事がありますが、すごく美味しかった記憶があります。

 昔の事なので美化されている気がしますけどね。





 結局、迷っているうちに、攻撃するタイミングを逸してしまった。

 とりあえず、人死にがでないように配慮しますか。


 尖塔から、闘技場の観客席に移動する。


 公爵や王様の影武者さん達は――まだ、手間取っているみたいだ。


 よし、ここはアレを使おう。


 この間手に入れた魔法に、「理力の手(マジック・ハンド)」というのがある。これは中級の魔法が使えるようになった術理魔法の使い手が、必ず覚える魔法だ。

 所謂、サイコキネシスに近い効果といえばわかりやすいだろう。魔法使い達は、この魔法で、手の届かない所にある資料を取ったり、背中を掻いたり、自分の肩を揉んだりするらしい。

 この「理力の手」は、非力な魔法使い並みの力しか出せないので、戦闘に使う魔法使いは少ない。術理魔法スキルに熟達すると、魔法の矢のように同時に使える「理力の手」が増える。同様に、「理力の手」は魔力操作に優れたものが使うと、結構な距離まで届くらしい。オレの場合、120本の手をそれぞれ500メートルくらいまで伸ばせる。

 世の魔法使い達の間では、2本以上の手を上手く操れる者がめったに居ないそうだ。


 スルスルと伸ばした無数の「理力の手」で、公爵達の行く手を塞いでいる3匹の魔物を掴んで、闘技場に投げ捨てる。


 ちょいと、操作が難しいな。

 そのうち、「理力の手」に剣を持たせて、千手観音みたいな感じで闘ってみたい。


 公爵の護衛達は、急に魔物が排除されて驚いていたが、原因の究明よりも公爵の脱出を優先させたみたいだ。魔物を排除した人物を探している者もいるが、オレに気が付いた人間はいない。どうやら、前の潜入ミッションで覚えたスキルのお陰みたいだ。





 さてと、魔物とまともに戦えない人間の避難は済んだみたいだ。

 もちろん、オレも避難が済むのを、ただ見ていたわけではない。逃げ遅れた人間を「理力の手」で掴んでは、避難通路に放り込む作業をしていた。


 勇者パーティーと黄肌悪魔の近くにいる魔物を、闘技場の反対側に集めるのが一苦労だった。勇者が最初に範囲挑発をしてくれたお陰で、投げても投げても戻ってくるのにはまいった。

 あまりにしつこい2匹は、あきらめて勇者パーティーに任せる事にした。虎耳の人とか狼耳の人とかが倒してくれるだろう。


 残りの魔物は6匹。

 王子達が、魔物退治に向かってくれたらいいんだが、なぜか黄肌悪魔に向かっていくので、数が減らない。効率の悪いやつらだ。


 シガ八剣の壮年の方は、序盤に黄肌悪魔に受けたダメージが大きいのか退場してしまった。まったく、不甲斐ない。

 戦闘狂の少年は、王子と一緒に黄肌悪魔とジャレあっていたが、さっき尻尾の一撃を喰らって気絶している。鎧のお腹の所がベコリと凹んでいるが、HP的に見て死にそうな怪我じゃないので放置でいいだろう。位置的にも範囲攻撃が来そうに無いしな。





「ヤサク、大技は控えめにしろ。他のやつらがいつ崩れるとも限らん。スタミナは温存しておけ」

「ばーろー、お前は堅実すぎるんだよ。ここはガツンとやって数を減らすのが先だ」

「ちょっと、ヤサクもタンもお喋りは後にしなっ」

「そーですよー、ゆだんーしてるとー、あぶないですよー」


 戦蟷螂(ウォーマンティス)と闘っているパーティーは大丈夫そうだ。重戦士に魔法戦士、魔法使いにポールアームを担いだ神官の過不足のなさそうなパーティーだ。


 もちろん、そんなパーティーばかりじゃない。


「ホーエン卿、ここは(それがし)が援護するので、いざ行かれよ」

「なんの、ムズキー卿、貴殿の勲を見せるのは、この場しかありませぬぞ!」


 ダンゴ虫型の魔物を前にして、お互いに譲り合っている騎士達。

 この2人は20レベル弱なのだが、お付きの騎士達が高レベルなので無事でいるようだ。


 ここのは取ってもいいかな?


 だ・れ・も・見てないよね?


 こっそり「石筍(トス・ストーン)」を使う。

 土系の初級魔法だが、弱い腹部を下から貫けるので、なかなか有用だ。ダンゴ虫は、石の槍で腹を貫通されて、空中に突き上げられているのに、まだ死んでいない。魔物のHPは、あと2割といったところだ。後は、騎士達が反撃を受けない位置から、我先にと殺到しているからすぐに決着はつくだろう。さっきまで譲り合っていたのに、現金なヤツラだ。


 次のパーティーは寄せ集めみたいだ。


 盾役が2人もいるのに、挑発スキルを使っていないみたいだ。そのせいで、アタッカーに魔物の狙いが行ってしまって、後衛が攻撃魔法じゃなく回復魔法に専念する状況になってしまっている。


「きゃー」

「ソソナ! ゲルカ、態勢を整えろ。ソソナの犠牲を無駄にするな」


 蟋蟀(こおろぎ)型の魔物と闘っていたパーティーの一人が、後ろ足のキックで空中に打ち上げられている。それにしても、犠牲って……まだ生きているだろう?


 あれは妖精族の少女かな?

 空中10メートル近い高さまで打ち上げられている。魔法で威力を殺したんだろうけど、HPがぐんぐん減って1割を切りそうだ。空中にいるうちに「理力の手」で捕まえてこちらに引き寄せる。途中で、非売品の魔法薬(ポーション)を「理力の手」で少女の口に突っ込んだ。


 どうやら間に合ったようだ。

 9割ほどまでHPの回復した少女を観客席に横たえる。せっかくの初レプラコーンだったのだから、もっと近くで見たかったな。


 「理力の手」は実に便利だ。堕落しそうで怖い。


 こっそり、誘導矢(リモート・アロー)を十発ほど撃ち出して、蟋蟀(こおろぎ)の後ろ足の関節を狙撃する。

 突然の援護射撃に驚いているようだが、これで後は放置しても大丈夫だろう。


 このパーティーが一番苦戦していたみたいだ。他のパーティーは、苦戦しつつも、活き活きと闘っている。たまに助けたり、魔物から魔力を強奪したりしながら勇者達の戦いを観戦していた。





 あの黄肌魔族は、やっぱり、この間のオジャル魔族やナリ魔族の仲間みたいだ。魔王はもう倒したって教えてやったら、66年後まで大人しくしててくれないかな?


 それにしても、黄肌魔族の頭上に浮かんでる3つの球は凄いな。勇者達が大ダメージを与えても瞬く間に回復している。この間の魔族召喚の本に呼び出し方が載っていないかな? AR表示で確認したが、回復球(キュアボール)っていう名前みたいだ。検索してみたが、悪魔召喚の魔法書には載っていなかった。残念だ。


 おや?

 頭上に危機感知が働いている?


 召喚の魔法陣がそこにあった。

 何を召喚しようとしているのか知らないけど、ここから出たのはPOP即ゲットしてもいいよね?


 そして、そこから現れたのは――


 くじら?


 空を飛んでて、300メートル近い巨体だが、間違いなく鯨だ。シロナガスクジラでも、あんなに大きくなかった気がするんだが?


 魔物の名前は、大怪魚(トヴケゼェーラ)らしい。


 絶対に、最初に見た日本人が「空飛ぶクジラ」と言ったのが語源だよな。


 勇者達が驚いている。


 それは、そうだろう。

 あれだけのサイズがあったら、何食分取れるのか想像もできない。


 大和煮はガチとして、何作ろうかな?


 思わず、大怪魚と見つめあってしまった。


 いやー、魔族よ。

 やればできるじゃないか!


 思わず小躍りしそうになったが、それは1匹だけじゃなかった。


 なんと6匹も追加で召喚陣から出てきた。

 そのあとも少しまってみたが打ち止めらしい。追加が来ないとも限らないので、召喚陣を破壊するのは止めておこう。





 さて、クジラを解体するのに肉を傷めたらダメなので、光線(レーザー)で頭を落としてすぐにストレージに収納する事に決めた。本当ならエクスカリバーの切れ味を披露したいところなのだが、相手がデカ過ぎて刃が届かない。


 光線(レーザー)単発だと弱いので、集光(コンデンス)を併用する事にした。


 光線(レーザー)は1発あたりの攻撃力は弱いのだが、スキルレベルが上がると複数本撃てるようになる。これを集光(コンデンス)で一つに纏める事で威力と集束度をアップするわけだ。


 空間把握とレーダーを併用する事で、レーザーの軌道をシミュレートする。少し照射時間が足りないので、オンオフを連続で切り替えてパルスレーザーちっくに撃つ事にした。

 連続で魔法を使ってもいいのだが、手間取って召喚陣の向こうに逃げられたらイヤだからね。


 閃光とコピー機の近くにいるようなオゾン臭。パルスレーザーの軌跡が鯨を撫で、はるか彼方の雲を撃ち抜く。


 よし、一撃でクリア!


 あの大質量が落下したら大惨事なので、すぐさま天駆と縮地を使って落下を始めたクジラの肉に接近して、ストレージに回収する。焼けたのか血肉が蒸発したのか、鯨肉の近くは少し熱かった。


 ホクホクだ。


 レーザーで焼き切ったのに、結構な量の体液が飛び散った。レーザーだと傷口が焼けて血が出ないとか聞いていたけど、あれは俗説だったのだろうか?


 そんな事に頭を悩ませていたのは、オレだけだったみたいだ。

 いつの間にか、喧騒に包まれていた闘技場が静かになっている。


 え~っと、クジラが美味しいのがいけないと思います。


>称号「大怪魚殺し」を得た。

>称号「幻術師」を得た。

>称号「光術師」を得た。

>称号「天空の料理人」を得た。


 大怪魚をテイムするルートも考えたのですが、普段ジャマだったので食料扱いになってしまいました。


 シロナガスクジラは30~40メートルほどです。


※感想の返信について

 感想返しが追いつかないので、個別返信ではなく活動報告で一括で返信させていただいています。


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― 新着の感想 ―
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絶望を与えるはずの大怪魚群が単なる食材の山にしか見えていないサトゥー… もはや「表向きの勇者」との差は、彼らが可哀想になるくらいのレベルですね。 もっとも、これを放置していたら何万人死ぬかわからんか…
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