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デスマーチからはじまる異世界狂想曲( web版 )  作者: 愛七ひろ
第二章

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2-5.神殿と獣人娘と投石の午後

後半は暴力的な表現があります。

嫌いな人は”悪魔の眷属に鉄槌を!”のセリフ以降は飛ばしてください。


※2/11 誤字修正しました。

 4/7 聞き耳スキルを手に入れた描写を削除しました。

 サトゥーです。「人間万事 塞翁が馬」という言葉が身にしみます。


 昨日と打って変わった平和な午後を堪能していたのに。


 では午後シリーズ波乱編、はじまります……。



 ◇



 露店通りから何本か離れた通りにパリオン神殿があった。

 東通りも露店のあるメインストリートしか行ってなかったな。


 神殿前には少し人が集まっている。


「どうしたんでしょうね?」

「ちょっと聞いてきます」


 ゼナさんがタタタッと駆け寄っていく。こういう素早いところは兵隊さんだよね。


 昨日の大柄な女神官さんとゼナさんが何か話している。

 ゼナさんが手を前に出してパタパタしている。何か恐縮しているようだ。


 何を話しているんだろう?


 そのまま歩いて近寄ったので話の後半しか聞こえなかった。

 ちなみに聞こえた会話は、


「……なので東街のガルレオン神殿はいかがでしょう。あちらの神殿も従軍契約をしているので治療の方は問題ないはずです。東街なのですが男性のお連れ様がいるなら変な輩もそうそう寄ってこないでしょう」

「はい、これでも領軍の魔法兵ですから。ナンパ男がいくら来ても叩きのめしちゃいます」


 ゼナさんから聞いたところ、巫女さんの所に王都の神殿から使者が来ているらしく手が離せないそうだ。しかも女神官さんたちは怪我の治癒や軽い毒や病を治すくらいの魔法しか使えないので別の神殿を紹介してくれたらしい。


 ……たらい回しか!!



 ◇



 結局、東街のガルレオン神殿に行く事になった。


 別に不満はないよ?

 見慣れてきたとはいえ、欧州の下町っぽい町並みを地味可愛い娘さんと散策するのは、なかなか楽しいしね!


 途中、一辺100メートルほどの公園の横を通った。


 芝生かと思ったら雑草だったが、短く刈り込まれた広場では、幼児を連れた老夫婦がベンチで休憩していたり、10人ほどの若者が武道の練習をしていたりする。


「ゼナさん、領軍の訓練ってどんな事をするんですか?」


 なんとなく聞いてみた。


「そうですね~、兵士の訓練なんてどこでも一緒ですが、魔法兵だと魔力を切らさないように配慮されてますね。過半数は全力で魔法が使える状態を維持しています」


 訓練を分散しているのか。

 たしかにMP切れの魔法使いなんて役に立たないしね。


「魔法兵や魔法使いは属性ごとに求められる役割が違ったりします。軍以外の人に話すと意外な顔をされるんですが、火属性以外は直接攻撃する魔法をあまり使いません」


 たしかに火責めとか火は攻撃向きだよね。でも風呂も沸かせるよ?


「わたしの風は、矢を防ぐ風防御ウィンド・プロテクションとか攻城槌を防ぐ気壁(エア・クッション)に指示伝達の風の囁き(ウイスパー)なんかが重宝されますね。飛行(フライ)とかで上空からの偵察とかも良さそうですけど、伯爵領に飛行(フライ)が使える人はいないんですよね」


 そういえばゼナさんの目標は飛行(フライ)で飛ぶ事だったか。


「飛べるようになったら、その時は空のデートとかしてみたいですね~」


 冗談で言ったんだが、ゼナさんは首まで赤くして「き、期待しててください!」と噛みながら言ってくれた。


 可愛いんだけど悪い男にだまされそうで心配だな~。



 ◇



 街路樹の陰に猫が数匹丸くなっている。そういえば野良猫ってこっちに来て初めて見たな。


「あの猫可愛い~」


 そのまま走っていきそうなゼナさん。

 オレも猫派だが、だからこそ猫の昼寝はジャマできん!!

 なので話を振る。


「そういえば、この街で野良犬を見たことありませんね」

「野良犬がいたら貧民街の人の夕飯になっちゃうという噂がありますね……」

「嘘ですよね?」

「はい、嘘です。

  そういう噂があったのは本当ですが、ガボの実って犬が食べると中毒を起こすらしいんですよ。なので、あの実が食べられ出した頃から野良犬が居なくなったそうです」


 また出たかガボの実。もっと自重したまえ!


 東街の食肉加工所付近では狩人が相棒として犬を連れているのを見かけるので、それが噂の素になったそうだ。



 ◇



「悪魔の眷属に鉄槌を! この聖石を眷属に打ちつける事で徳を積むのだぁああ!」


 東街の半ばまで来たあたりで、裏声になりかけたオッサンのカン高い声が聞こえてきた。他にも結構な人数の罵声が聞こえる。


 路地を曲がると広場と、一段高い台の上でがなりたてる太った中年神官がいた。

 血走った目で口角に泡を飛ばしている。


「善良なる民よ! 先日の天罰ともいう星降りを覚えているか!」

「「「おおおおっ!」」」「「「覚えているぞ!」」」「「「オオオオオオ!」」」


 半数以上はサクラか叫びたいだけの人じゃないか?


「さらに! さらにだ! 昨日、伯爵様の城に魔王の幹部までもが襲ってきたのだ!」

「「「おお神よ!」」」「「「勇者さまお助けを!!」」」「「「オオオオオオ!」」」


 叫ぶのってストレス解消にいいよね。


「これは神のご加護が薄れているのだ! 徳を積め! 善良なる民よ! 徳を積む事で災厄から守られるのだ!」

「「「神官様! 救いを!!」」」「「「オオオオオオ!」」」「「「徳を!!!」」」


 安いな民の皆さん。


「徳を積むのだ! 分かるか民よ! 徳を!」

「「「徳を!!!」」」「「「オオオオオオ!」」」「「「教えてくれ!!」」


 この街の人ってオレオレ詐欺とかネズミ講とかに簡単に騙されそうだよね。


「こいつらを見ろ!」


 デブ神官がのけぞる様に広場の奥を指さす。


「こいつら亜人は魔族のできそこないだ、いや魔王の眷属だ! こいつらに聖なる裁きを与える事で徳が積める」

「「「オオオオオオ!」」」「「「コロセ!!!」」」


 おいおい扇動者(アジテーター)


「待つのだ! 善良なる民よ!! 殺してしまうと王国の法を犯してしまう。待つのだ!」

「「「どうすればいいんだ神官様!」」」「「「コロセ!!!」」」「「「オオオオオオ!」」」


 叫んでるだけのヤツが結構いるな。


「殺してはならん! この聖なる石を悪魔の眷属にぶつける事で徳が積める」


「「「神官様!」」」「「「石をくれ~!!!」」」「「「オオオオオオ!」」」


 デブ神官の指差す方が見えた。そこには3人の獣娘がいた。


「タダではないぞ! 身銭を切ってこそ徳が積めるのだ!!」


「「「オオオオオオ!」」」「「「徳を!!!」」」


 犬人、猫人、蜥蜴人の獣娘が3人身を寄せ合っている。


「聖石は1つ銅貨1枚だ。今なら大盤振る舞いで大銅貨1枚で聖石6個を提供しよう!」


 あ、応える声が止んだ。現金だな~民衆って。


「どうした! 善男善女よ! 聖石には限りがあるぞ!! 徳を積むのは早いもの勝ちだ!!」


「「「買うぞ!」」」「「「売ってくれ!!!」」」「「「オオオオオオ!」」」


 限定に弱いんだ。


「こっちの弟子たちから買うのだ! 並べ! ちゃんと並ばねば徳は積めんぞ!」


「「「オオオオオオ!」」」「「「並べ!」」」


 デブ神官、なんか精神操作の魔法つかってね?


 聖石を買った人々はその石を遠慮なく獣娘達に投げつける。そこには何の手加減も遠慮も無い。


 え~~~? マジですか?


「見てられません!」


 ゼナさんが人ごみを掻き分けてデブ神官のところに走っていく。

 呆気にとられて出遅れた。


「「亜人をコロセ!!」」「「「「オオオオオオ!」」」」「「魔族に鉄槌を!!!」」


 民衆はヒートアップするが獣娘達を打つ石は疎ら(まばら)だ。

 蜥蜴娘が小柄な犬娘、猫娘を庇っている。


 さて獣娘たちの前に割り込むのは簡単なんだが、後で同じ事をされたら意味無いんだよな……。


 獣娘を見ているといつものように詳細情報がAR表示されていく。


 これは!


 見つけた情報を急いで咀嚼する。

 なら、どこかに居るはず。


 いた!


 ソイツの情報を調べ確信した。

 これで何とかなるはず!


 オレは灰色の脳細胞にムチ打って最善の解決方法を模索していた……。


※40万PV感謝です! 

 厳しい意見も嬉しい意見もいっぱい戴けて感謝です!




 主人公が何を見つけ、どうしようとしているのか。

 あざとい引きですが勘弁してください。


 初期案ではかっこよく獣娘の前に立って石を迎撃してから、神官と扇動合戦するはずだったんですが、書き終わった後にキャラが違う事に気が付いて泣く泣くボツにしました・・・。

 3話分総ボツって辛いですね orz。


 主人公が悠長にしているのは兵士(ゼナ)さんが獣娘を魔法で守ると思っているからです。獣娘が嫌いなわけではありません。

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