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デスマーチからはじまる異世界狂想曲( web版 )  作者: 愛七ひろ
第二章

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2-3.詠唱と兵士さんと姦しい午後

※注意!※

本日3回目の投稿です。「2-1.災害救助と巫女さん」「2-2.生活魔法を覚えよう!」の方も御覧下さい。

明日からは普通に1日1話掲載の予定です。


※2/11 誤字修正しました。

 サトゥーです。短杖振ってると魔法使いというより指揮者な気分になります。


 指揮スキルは付きませんでした。ちょっと残念なサトゥーです。


 ハーレムフラグはまだまだ遠いようですね。



 ◇



 錬金術セットは宿に戻ってからストレージに収納した。


 魔法の鞄30サーティ・ホールディング・バッグを持ち歩きたいところなんだが、観光中にナディさんに魔法の鞄について聞いてみたところ、王祖ヤマトの時代には富裕層なら誰でも持っていた普及品の魔法の品だったらしいが、今では軍か上級貴族もしくは裕福な商人くらいしか持っていない物らしい。


 これじゃ気軽に使えない。盗賊に目をつけられるならまだしも貴族とかに目を付けられたら、この街の観光が続けられなくなってしまう。


 ナディさんの助言通り、桶を1つ用意して奈落の水瓶(ウォータボトル)で半分ほど水を注ぐ。布を水に浸して絞る。昨日買った鍋を取り出して布を掛ける。


 よし準備完了!


 乾燥(ドライ)の呪文だ!


「るルラらりる……ら?」


 文字は読めるのに、読めるのに発音ができない! しかも100文字くらいある呪文を単語1個分くらいの速さで読む必要があるのか?


 これなんて無理ゲー?


 その後、めげずに続けたが呪文が発動する事はなかった。魔法を使うまでもなく布は乾いたが、まったく嬉しくない。


「よし! 人に頼ろう!!」


 立ち上がって、グッと手を握り締める!

 困った時のナディさん! ナディさんにアドバイスを貰おう。


「ナディえも~ん、助けて~」


 藁をも縋る気分でなんでも屋に向かう。


 ……残念ながらナディさんは不在でした。



 ◇



 ナディさんは夕方まで戻らないそうなので、中央区の本屋へ向かう。買ったやつ以外にも生活魔法関係の本がまだ何冊かあったはずだ。


 途中、服を仕立てたお店で呼び止められた。注文したうちの一着が早くも仕上がってきたらしい。

 昨日、着替えが無いと言っていたのを覚えていたのか、不便だろうと仕上げを急いでもらったらしい。


 せっかくなので受け取っていこう。


「大変よくお似合いですよ」

「うん、大店(おおだな)の御曹司か貴族様のようですね」


 店主夫妻が絶賛してくれる。


 寸法の確認があるとかで試着させられて姿見の前でポーズを付けさせられた。

 でも、見本よりできが良くないか? いや自画自賛じゃなくって。


「さすがですね、見本よりできが良く見えます」

「そうなんですよ! お急ぎということで、いつもと違う職人さんにも頼んだのですが、このラインといい縫製といい実に素晴らしい仕上がりなんですよ! いや~お客様のお陰で良い職人に出会えました」


 なんていうか着ているのがオレですみませんって感じがする。

 せっかくなので、今まで着ていた服を包んでもらって、この服をそのまま着ていくことにした。



 ◇



 内壁の門を越えるときに身分証と滞在証の提示を求められた。門番さんによると騒ぎがあった後は火事場泥棒のような人間が入り込んだりするので人の出入りを確認しているらしい。


 広場より手前の主街路沿いのほとんどの店舗は普通に営業している。戦いはほとんど城前広場で行われたから、運の悪い店や家以外に被害は少ないはずだ。


 広場に向かう道すがら昨日ナディさんに教えてもらった茶葉の専門店で紅茶っぽい茶葉を買ったり、香辛料の店でスパイスを色々買った。

 高級食材店では米、味噌、醤油が売っていた。だからファンタジー(略。


 広場の手前の酒場前で吟遊詩人が昨日の悪魔と騎士達の詩を臨場感たっぷりに曲に乗せて唄っている。

 ……謎の銀仮面は伯爵の庶子ではないか?みたいな感じで唄われている。仮面も錫メッキだが銀に昇格されていた。


 わりと楽しめたのでお捻りに銀貨を入れておいた。……ちょっと気恥ずかしかったけどね!


 本屋に来るのにどれだけ寄り道してるのやら。



 ◇



「サトゥーさん、昨日はお世話になりました!」


 本屋に顔を出すとセモーネがニコやかに挨拶してくれた。今日は彼女が店番のようだ。


「こんにちはセモーネさん。お爺さんのお加減はいかがですか?」


「はい、魔法で怪我は治ったのですが、歳が歳なのでお婆ちゃんに監視してもらって2、3日静養してもらうつもりです」


 爺、いい孫を持ったな、羨ましい。


 当たり障りの無い世間話をクッションに本題に入る。


「生活魔法の詠唱の練習の仕方の本ですか?」


「はい、入門書に書いてある説明は理解できたんですが、肝心の詠唱に苦戦していて……」


「あのサトゥーさん、生活魔法のスキルが比較的覚えやすいと言われてますが、普通は師匠について3~5年くらい修行してようやく覚えられるようなものです。それにそれだけ修行しても8割くらいの人が挫折してしまうんです」


 生活魔法をかけてもらったら1回で覚えたけど?やっぱりチートだったのか……。


「あの、例えば生活魔法スキルを最初から持っていて、呪文を覚えようと言う人とかは……」


 ダメ元で聞いてみた。


「ギフト持ちの人ですか? そうですね、代々の魔法使いの家系の人なんかには生まれながらに魔法スキルを持ってる恵まれた人もいるそうですが、そんな人は家族に魔法が使える人がいるので……」


 教本を作っても誰も必要としない……というわけですか。


 仕方ないので発声練習や演劇関係の本を買った。

 滑舌を良くする事からはじめようか。



 ◇



 魔法屋は通りに面した壁が防水シートっぽい布で覆われている。やっぱり閉まっているようだ。



「こんにちは身軽なお兄さん」


 振り返ると地味ながらも上品なワンピースを着たお嬢さんが、前かがみになりながら上目遣いに見上げていた。スレンダーでストーンな体型だがストレートのロングボブの髪が素敵な美人さんだ。


「こんにちは兵士さん。今日は可憐な衣装ですね」


>「社交辞令スキルを得た」


 話の腰を折るな……。


「えへへ~、休みが無いからほとんど着る機会がないんですよね~」


「昨日の今日ですが、骨折の方は治ったんですか?」


「はい! と言いたいところなんですが、ふとした拍子に折れたところが痛むので神殿で一度診てもらおうと思って」


 念のため言っておくと昨日木の上から助けた女兵士さんだ。


「御自分で治癒されたりはしないんですか?」


「風魔法の治癒は骨折とかを治せるようなのは無いんですよ」


 なるほど属性毎に得意分野が違うのか。


「あ~ゼナが男連れだ~~!!」

「え、ホントだ。顔はともかく身なりの良さそうな、しかも年下か! やるなゼナ」

「あんた達、冷やかさないの。奥手のあの娘が頑張ってるんだから生暖かく見守ってあげなさい」


 兵士さんの同僚さんだろうか、姦しい娘さんたちが近くの店舗の入り口から顔を並べてヒソヒソ話している。一人微妙に悪口が混ざってるぞ。

 兵士さんの名前はゼナさんか、滋養強壮に良さそうないい名前だ。


 ゼナさんは顔を真っ赤にして口をパクパクさせている。こういう初々しい反応って可愛くていいね~。


「ち、違います! 昨日助けてもらったお礼を言ってたんです」


 その言葉で3人娘がちょっと固まる。


「助けてもらったって、まさか!」

「あの銀仮面の勇者様?!」

「うそっ! 大槌と両手斧を両手に持って振り回してたんだよ?幾らなんでもこんな華奢な男の子のわけないじゃない」


「……いや、……そうじゃなくて」

 ゼナさんの言葉は3人娘に届かない。


「でも背丈は変わらないよ?」

「髪の毛の色が違うでしょ?あの方は金髪でしたよ」

「仮面も被ってないしね」


「もう、聞いてってば!」

 ゼナさんが全身を使って叫ぶ!

 3人娘がようやく注意を向ける。


「この人は昨日怪我して動けなかった私を救護所まで運んでくれた方なんです!」


「ああ、そういう『助けてもらった』か」

「でもでも、それを好機に粉かけてるわけだ!」

「あんたじゃあるまいし、ゼナにそんな甲斐性あるわけ無いでしょ」


 うん、姦しい。ゼナさんは弄られポジションなわけか。はやし立てる感じに悪意や厭味さは無いから3人娘なりの同僚愛なんだろ。

 そろそろ割り込んでもいいかな。


「はじめまして、行商人のサトゥーと申します。しばらくこの街に滞在する予定ですのでお見知りおきを」


「お兄さん、本当にゼナっちのいい人じゃないの?」


「昨日会ったばかりですよ。それに皆さんが呼んでいるのを聞いてはじめてゼナさんの名前を知ったくらいですから」


「でもでも、ゼナっちがスカート穿いてデートなんて!」

「デートじゃありません」

「いつもは休日でもスカートなんて穿かないじゃん」


 ゼナさんは同年代っぽい娘さんときゃいきゃい言い合っている。


「良かったらゼナさんとデートしてあげてくださいな。あの娘ったら、あの年まで恋人どころか異性と出歩く事もしたことないんですよ」

「うん、没落貴族で金も地位も無いけど、いい子だから! ツルペタだけど風魔法も使える将来有望な軍人なんだから」


 残りの2人がゼナさんを勧めてくる。

 性格は好きなんだけどね。あと5年もして、もう少しふくよかだったら口説くんだけどね~。

 ゼナさんが向こうの口論を中断してこっちに戻ってくる。


「没落してません!! ちゃんと弟が爵位を継いでます。士爵だし官職もないから金も地位も無いって所は事実ですけど……」


 ゼナさんは下級貴族だったのか。

 ……ツルペタには異論が無いんだ。


「ゼナさんを弄るのもこのくらいにして城に戻りましょう。交代の時間に遅れたら隊長の特訓が待ってるわ」

「じゃ~ね~、ゼナっち。あとで根掘り葉掘り色々聞かせてもらうよ~」

「ゼナ、可憐さと無防備な色気で押しまくれ! 根性みせてみろ!」


 3人娘は名残惜しそうに城の方へ帰っていった。

 ゼナさんは、ホッとしつつもどこか恥ずかしそうだ。


 ん? 一人が小走りに駆け戻ってきてゼナさんに何か渡している。

 はじめはキョトンとしていたゼナさんだが、何を渡されたのか分かると真っ赤になって怒る。渡した方はこの反応を予想していたのか、さっさと皆の下に戻って「がんばれ~」とか声をかけて行ってしまった。


 ゼナさんが貰った何か(・・)をこっそりポケットに仕舞うのを追及したりしません。

 ええ、大人ですから。



潤い分補充のために、まさかの兵士さん再登場です。


兵士(ゼナ)さんのターンはまだ続きます。

なんでも屋(ナディ)さんの逆襲はあるか?


こんなに出番がなかったはずなのに……。



 初ランキング入り(まさかの20位!)が嬉しくて原稿書きつづけてました~。

 2章の最後まで書きあがったので今日はもう一話投稿しておきます!

 読んでくださる皆さんのお陰です、感謝です!!

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ISBN:9784040761442



― 新着の感想 ―
ナディさんの出番はあるのかな?(^^;)
大惨事の翌日にこれだけ明るい会話が出来るって部分に、この世界での「命の軽さ」がよくわかる
[気になる点] なんでこの町の人々は、あれだけの大騒ぎの翌日や翌々日にこんなにもあっけらかんとしているのだろう……
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