希望1
どこだ?
夏葉の姿を探して走る。
「失敗した」
すずとのやりとりで思ったよりも時間を取られ、夏葉を完全に見失ってしまっていた。
夏葉が連れ去られた時に使用したアプリは解除している為、足で探すしか無かった。
「なぜ、直ぐに追いかけなかったのだろう……」
「はぁはぁ……っ。やべぇ。のどが……」
お昼以降に水分をとっていなかったことと10分以上走り続けたことが重なり、のどの渇きがはりつくような痛みを伴いはじめた。
「どこかで水分……を……」
つぶやくと優太は近隣の地図を頭に浮かべた。
水分補給のために優太が向かったのは小さな公園。
公園の入口で足を止める。
「何年ぶりだろ……ここ」
周囲を見渡した後、優太はゆっくりと公園に足を踏み入れた。
水飲み場は昔と変わらず、入口の直ぐ脇ににあった。場所は変わらなかったが、蛇口は記憶と違い押すタイプの物に取り替えられていた。
「…………」
スイッチを押し、流れる水を飲む。
「さて。どこを探すか……」
口元の水滴を手の甲で拭い、捜索箇所を考える。
「ここから夏葉ちゃんの家の……ん?」
キィィ。
微かに聞こえるブランコの音。子供達が遊んでいる時の激しい音とは違い……
「居た」
力なくブランコに座る夏葉を見つけ、ホッと胸を撫で下ろす優太。
ゆっくりとした足どりで、息を整えながら優太は夏葉のもとへと向かう。彼女の頬を伝う涙を見つめながら……
「…………」
地を踏み歩く音に夏葉は顔を上げ目を丸くして驚いた。
口を金魚の様にぱくぱくさせる夏葉に優太は視線を彼女から隣の空きブランコに移して、
「……隣いいか?」
尋ねた。
数秒後、夏葉は我に返るとコクリとうなずいた。
ブランコに座ると優太は口を開く。
「すずがしていた話だけど」
優太の言葉に夏葉はビクリと震える。
そんな夏葉の様子を気にしながらも優太は少し緊張しつつ話を続けた。
「あの時、実は……その。見えていたんだ……夏葉ちゃんのキズ」
「…………!」
《何で?》
戸惑いながら夏葉はノートに疑問を書き連ねていく。
《こんな醜いキズもの女に優しくしてくれるの?
なぜ。優しいの? 私のこと気持ち悪いでしょ?》
夏葉にとって手術跡はトラウマであった。
約10年前にあることをきっかけに勇気づけられ手術を受け、無事退院した夏葉。その後、仲の良かった友達が手術跡を見て『気持ち悪い』と言って夏葉を避ける様になった。この事がきっかけとなり肌を見られることさえも怖くなり、人の目を気にして夏でさえ冬服を着込む様になってしまったのだった。
ちなみに静とはこの事がきっかけとなりふさぎこむ夏葉を心配した彼女の両親が定期検診の際に担当医であった医院長に相談。自身の娘を紹介され、友達となり、今では大親友となった。
ノートを抱き締めて怖々と優太の答えを待つ夏葉。
「先ずさ。気持ち悪くないし、醜いとも思わないよ」
語気強目に伝えてから優太は微笑みを浮かべる。
「!」
夏葉は優太の微笑みに見とれ、頬を染める。
「むしろ、夏葉ちゃんにはこういを……」
言葉をいったん区切り、首を振り、そして真剣な目を夏葉に向けた。心なしかその顔は少し赤くなり……
優太の緊張が伝わり、思わず姿勢を正す夏葉。
「好きだ。俺とその……付き合ってほしい」
顔を真っ赤に染めて言いきる優太。夏葉は彼の言葉に驚き、手にしたノートをポトリと落とした。
夏葉は慌ててノートを拾い、震える手でノートに言葉を書いていく。
《私でいいの?》
線が震え読み難いが確かにそう書かれていた。
「ああ。俺は夏葉ちゃんが好きだ!
すずにフラれて落ち込んでいた時に優しく支えてくれて立ち直れたのも夏葉ちゃんのおかげだし。
一緒にいて楽しいと思える優しい女を好きにならないわけないだろ!」
公園に響く優太の必死の想い。
優太の想いが伝わり、夏葉は涙を浮かべてノートに時間をかけて綺麗な字で、
《よろしくお願いします》
と。つづった次の瞬間。
「…………ぁっ」
優太に抱き締められ、夏葉の口から空気の漏れるような小さな音が口から飛び出したのだった。
【希望1】を最後までお読みいただきありがとうございます。
夏葉復活の兆しは見えましたが……
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