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王城へ①

ブクマ、評価ありがとうございます!毎日の励みになります―

「ララさん! 大丈夫? 怪我はない? ちがった! クラーラ殿下だったわ」


 ぞろぞろと裏口から男爵家に入ると、ミーアがクラーラの胸に飛び込んできて、顔をペタペタと触った。


「大丈夫です。ありがとうございます」

「さっすがお姫様は、襲われても堂々としているのね」

「そうでもないんですけど、まあ、いろいろあって」

「そうなの?」

「ミーア様、おしゃべりしてる暇ないんですよー。俺たち急ぐんで、そこ通してくださーい」


 ディートハルトに背中を押され裏口脇の小部屋に入れられた。そこには侍女が二人待機していて、あっという間に服を着替えさせられ、髪を結われ、最後にスカーフを頭に巻かれた。服は侍女たちと同じお仕着せだった。鏡を見る暇もなく部屋を追い出されると、品の良いスーツに着替えたディートハルトが待っていた。


「クラーラ様、皆待ってますから乗ってください」


 裏口を出ると、男爵家の馬車が用意されていた。ジューリオの手を借りて馬車に乗り込んだ。隣にディートハルトがすとんと座ったと思ったら、馬車がすぐに発車する。

 男爵夫妻とは挨拶もしなかった。クラーラはこの家に訪れてはいない、ということにしたいのだろう。しかし、スプリングのきいた乗り心地の良い馬車を貸してくれるということは、クラーラの味方ではあるようだ。

 馬車の横には馬に乗ったジューリオが並走している。他に2人、男爵家の用意した護衛騎士が馬車の後ろを守っている。


「ディートハルトさん、私、全く話が見えていないのですが」

「そうでしょうね。どこからお話したら良いのか俺もよく知らされていないし、余計な事言ったら怒られそうなので、今の状況だけ説明しますね」

「誰に怒られるんですか」

「えっと、主に、アウギュスト殿下でしょうか」

「兄様にも会ってるの!?」


 ディートハルトは遠い目をした。いったい何があったのか……。


「ええ、まあ……。とりあえず、クラーラ様を襲ったのは、バジョーナ国の王妃が用意した兵士です。で、今我々はアウギュスト殿下の滞在している王城の部屋へ向かっています」


 クラーラが思わず声を上げる。


「王妃様に私は命を狙われていたの? 王妃様は王城にいらっしゃるんでしょう? そこへ行くの?」

「灯台下暗しじゃないんですけど、実は王城には協力者がいっぱいいます。大丈夫です。ただ、大っぴらにクラーラ様が登城なさるといろいろと問題があるので、俺の手伝いの侍女を装っていただきます」

「ディートハルトさんの侍女?」

「ええ、俺はワガママな隣国の王子に夜中に呼び出された商人です。昼間見せた宝石がやっぱり今すぐ欲しい、と言われて眠い目をこすって侍女を連れて王城に向かっています」


 ついさっき襲われ、助けられ、荷物をまとめて変装して王城へ。ちょっと頭がついていかない。


「ええと、とりあえず、私は侍女を装ってディートハルトさんについて行けばいいのかしら」

「はい。なるべく顔は見せずに。帰りはすでに忍び込ませている本当の侍女を連れて帰りますので」

「何だか入念に準備されていたみたいね」

「ええ、これはアウギュスト殿下がもしもの時の為に用意していた策です。俺もまさか実行することになるとは思いませんでしたけど」


 クラーラは窓の外を見た。


「アウギュスト兄様は常に最悪の時を考えているから」


 男爵家から王城まではそれほど遠くない。感慨にふけるほどの時間はない。もうララではないのだ。気を引き締めなければ。襲撃が一度とは限らない。


「理解が早くて助かります。さすが大国の王女様ですね。どこかの国のお姫さんとは違います」

「自国の王族をそんな風に言っちゃいけないわ」

「現在のうちの国の王族の評価はそんなもんです。いっそのことコラフラン王国に吸収されてしまった方がいい、と言う声も平民から上がっています。唯一まともだった王太子も留学してしまい、なかなか帰ってこない。このまま国を見捨てるのでは、と噂が立ってしまうほどに、この国は荒んでいるんです」


 思わず振り返れば、めずらしくディートハルトは真面目な顔をしていた。

 銀のかわうそで働いている時も、客たちが王家の不満を口にしているのを聞くことはあった。ただそれは、裕福な者へのやっかみ半分の愚痴だと思っていた。本気の不満を平時堂々と口に出している状態というのは、国としては相当危険な状態だ。


「でもきっと、クラーラ様をきっかけにこの国は変わるはずです」

「私が?」

「ええ。多分ですけど」


 そう言った時には、ディートハルトはいつもの人を食ったような笑顔に戻っていた。彼と話していると、ついついララの時の口調になってしまう。

 もう一度窓の外を見ると、ちょうどこちらをちらりと見たジューリオと目が合った。


 あまり窓に近付いてはいけなかったわね。


 窓に近付けていた顔をそっと離すと、ジューリオは馬を走らせ、馬車を追い越し先に王城へ入っていった。確かに、王子の護衛が商人の馬車を守っていてはおかしい。

 去っていくジューリオの後ろ姿をクラーラは無意識に目で追っていた。




 王城の入り口で形ばかりの検問を受け、クラーラは何も入っていない鞄を抱えてディートハルトの後ろを歩いていた。案内してくれる王城の騎士はクラーラの顔をあまり見ないようにしてくれている。

 コラフラン王国以外の王城を歩くのは初めてだったが、国が変わればずいぶんと違うものだ、と思った。

 コラフラン王国は柱や壁の縁などには凝った装飾が施されていて、それを日々手入れして古き良きものを大切にする文化だった。バジョーナ国は後から宝石類を都度付け足していき、古代と現代の芸術を混ぜ合わせたような意匠のものが多く、ここは異国なのだと感じさせられた。


 案内された部屋のドアはひと際派手な飾り付けのされたもので、賓客を招くための部屋だと一目でわかるものだった。ノックする前にドアが開き、見覚えのあるアウギュストの護衛騎士のカルロが顔を見せた。

 騎士はクラーラの顔を見ると一瞬口の端を上げたが、すぐに真顔に戻りディートハルトを上から下まで確認するように眺めた後、入室を促す目配せをした。


 案内してくれた騎士を廊下に残し、ドアがきっちりと閉められた。騎士はそのままドアの前で警備をしてくれているようだ。


「クラーラ! よくぞ無事で」


 声が聞こえたと思ったら、ぎゅうぎゅうと抱きしめられた。きつく抱きしめながら優しく頭を撫でてくれる。


 この抱きしめ方はアウギュスト兄様だわ。


 たった一年前国を出る前にこうされたが、ずいぶんと昔のことのような気がする。


「ええ、アスティ様が守ってくださいました。それから、街の方たちにも」

「ジューリオを付けていてよかった。本当にこの国はどうしようもない」


 するりともう一度頭を撫でた後、アウギュストはクラーラを腕から解放した。クラーラをソファに促し、自分はその向かいの席へ座った。

 何も知らないクラーラは、バジョーナ国の奇妙な弾力のソファに跳ね上げられ背もたれにひっくり返った。


「な、なんですの!? このソファ! 兄様まさか他国にまでいたずらの道具を持ち込んで……」

「何でまず俺を疑うわけ? バジョーナ国のソファやベッドはどこもこうらしいけど。あれ? キエガ公爵の家はこんなソファじゃなかったの?」

「私の滞在していた離れには普通のソファが置いてありましたわよ」

「ふむ。公爵はまともな神経の持ち主のようだな」


 アウギュストがドアの前でジューリオと並んで立っているディートハルトに目を向けた。


「キエガ公爵邸には他国から取り寄せたソファとベッドしかありません。イネス王女は自分でバジョーナ製のものを持ち込んでいたようですが」


 どうしてディートハルトがキエガ公爵邸のことを知っているのだろうか。クラーラはきょとんとした顔で彼を見た。


「クラーラ、ディートハルトはキエガ公爵邸の執事の息子なんだ」

「えっ!?」

「クラーラ様が離れに滞在されている時は、本邸におりました。主に3人の愛人たちの御用聞きをしながら、父の仕事を手伝っていました」


 ディートハルトが頭を下げる。丁寧で慇懃な執事らしい態度はとても様になっていた。





文字数の都合上、ディートハルトさんは明日まで頭下げたまま待機です。

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