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ご注文を言いやがれ

甘いものが飲みたい。

 そんなこんなで、俺は再び薄暗くなった液体の中、といっても必要最低限の素敵にシンプルな照明が灯された小部屋で、飼育された金魚のように浮かんでいた。

 ぷーかぷーか。もうすっかり水中に慣れてしまった俺は、魚の気分を存分に味わっていた。

 気楽な気分で眼球に力を込めてみる、すると瞼の裏で異なる視点が現れた。怪物に出会う前に何となしに使用していた視点切り替えが、不思議と再び使えるようになったのである。そのことになんの感慨も浮かばないのは、たぶん疲労のせいかもしれない。正直どうでも良かった。どうでも良いが、それなりに便利で結構楽しいので使わせていただく。

 しかし一回使い方を忘れた影響なのか、今は瞼を閉じないと切り替えができなかった。目を閉じで液体の流れを意識する、すると様々な色のついた空間に視界が届く。

 隊員の皆様は全員、それぞれの職務をてきぱきとこなしていた。たとえばムクラはいずれ訪れる怪物との再戦に備え魔法、あるいは魔砲と呼ぶべきか、それの準備に勤しんでいる。あまりに早すぎて、最早打つというより撫でているみたいなタイピング音。忙しさを言葉無くして表現する音色に、俺は話しかける隙間を見出せなかった。

「マイカさん!」

「ほいっ?」

 急に話しかけられ、思わず声が上ずってしまう。話しかけられただけではない、右肩に手を触れられていた。

「こっちです」

 それはソルトの声だった。首を右側に回すと、実態に限りなく近い実像を持った彼女が浮かんでいた。

「ど、どぅ、どうしました?」

 俺は反射的に、心もとなく体を手で隠す。怪物との劇的な出会いと濃厚な触れ合いで忘れてはいたが、実は俺は服を着ていないのだ。いくらソルトが親切な少女であっても、全裸を晒すにはまだ、と言うか多分ずっと抵抗がある。

 そんな俺の生娘じみた恥じらいなど露知らず、初対面で怪しい男に全裸を堂々と晒しまくった少女は、にっこりと笑う。有難い、そして羨ましいことに服は着ていた。

「何かお飲みになりたいものはありますか?」

 彼女はとても気軽に聞いてきた。

「へ?」

 質問の意味が解らず、あるいは意味を求めようとして黙り込む。ウサミがハンドルを切ったので、機体が大きく揺れる、震動が沈黙を無意味に彩った。道はまだ終わりそうにない。

「飲むって何を…」

「何が良いですかね?珈琲ですか?珈琲美味しいですよ、珈琲にしませんか?」

 どうやら珈琲があるらしい。むしろそれ以外有り得ない、と彼女は柔らかく強制していた。

 コーヒーかあ…、あんま好きじゃないんだけどな。飲めないわけでもないけど。

いまだにコーヒーは飲めません。

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