5P ゴブリン襲来
まさかの・・・つづき。
夕暮れ時の黄昏。
森の中に雑踏が聞こえる。
パチ屋にゴブリン襲来。
「ウィキッキッキッキーッ!!!」(久しぶりの人間の匂いっ!!!)
奇声をあげて迫りくる異形の者たち。
その目は血走り、人間を血祭りにあげようと息巻いている。
一方、
「なんだ、なんだ」
ホールスタッフたちは、異変に気づき不安を口にする。
「チッ、ゴブリンか」
エルフの女王、エメロードはそう口にする。
「ゴブリン?」
舞は言葉を重ねる。
「血も涙もない残虐な野郎どもだ」
副官モロは吐き捨てるように言った。
「じゃあ、私たちは」
舞は声を震わせる。
「蹂躙されるだろうな」
「そんな」
「させるかっ!」
岸店長はワイヤレスマイクで指示をだす。
「各シマのスタッフは、台の音量を最大にあげろ!副店はイジって違法行為検知のブザーを鳴らせ」
「了解っ!」
店長の言葉にスタッフは散らばって行く。
ほどなくして、店じゅうに耳をつんざく、音が響き渡った。
「これだけの音、きっと恐怖するだろう」
岸は腕を組み、仁王立ちする。
「果たして・・・」
エルフの女王は呟いた。
ホールから森の外へ、爆音が響き渡る。
「ギギャ、ギャー」(何事だ)
「スキャット、スキャント、ズギャ、ギャギャギャー」(天変地異かっ!)
「狼狽えるなっ、者共!」
ゴブリンの王、カイ・ザーは皆を鼓舞する。
「よいか、所詮はか弱き人とエルフの烏合の衆なのだ。貴様らも見てたであろう。エルフが襲いかかった後、この建物が爆音を轟かせ、エルフは人になびいた。騙されるな!これこそまやかしの音なのだっ!」
「ギャット、ギャット」(しかし)
「しかしも糞もあるか、突撃っ!」
「ギシャー」(了解)
ホールの入口で様子を伺っていた副店島が声を荒げる。
「店長!化け物たちの動きは一度止まりましたが、また突っ込んできます」
「くそっ!穏便に済ませようと思ったのに」
岸は舌打ちをする。
「店長、提言があります」
舞は手をあげ発言する。
「どうぞ」
「ホール周りに散水して、台にアースを繋いで、周りを漏電させたら・・・」
「却下っ!そんな事したら、機械が壊れてしまう。娯楽場の意味をなさなくなってしまう」
「今はそんな事言ってる場合じゃ」
「我々はパチ屋の人間だ。パチ屋の人間が自らの尊厳を放棄することはない。正直、雇われ店長じゃ、そんな大それたことできんのよ」
「また大げさな・・・でも分かりました」
舞は引き下がる。
「我が女神よ。我々が赴こう」
エルフの女王は舞へ跪き言った。
「エメロードさん」
「女神よ。我等に加護を」
「そんな私は・・・」
「皆の者、出撃だ」
「おうっ!」
「私の話・・・聞いてます?」
店長は舞の肩にそっと手を置く。
「今はエルフのみなさんに任せよう」
「・・・店長なにも出来ませんでしたね」
「てへっ」
「てへっじゃないですよ」
「私たちは私たちのやれる事をやろう」
店長は急に真顔となる。
「・・・はい」
舞は頷いた。
正面入口から飛び出したエルフたちは、一斉に弓を身構える。
「ふん、エルフ風情が」
カイ・ザーは手を振り、構わず突撃の命を下す。
「放て」
矢が雨のようにゴブリンへと降りかかる。
「恐れるな!弱い者共が群れなしても所詮、我々には敵わん」
「お兄ちゃん」
「ああ」
双子のアサシン、エルフ兄妹、ニケとニーナが駆け出す。
「うきゃきゃきゃきゃ!」
「それ、それ、それぃ!」
軽やかに舞うように、ゴブリンたちをダガーナイフと、薔薇鞭で駆逐していく。
「女神の加護のある。我らは無敵なり。精霊よ我に集えタイフーン!」
老仙人エルフ、エルフィンは詠唱を唱え、嵐でゴブリンたちを吹き飛ばす。
「やるな!だが、ゴブリンの猪突猛進ぶりを侮るなよ」
そうりゃ、そうりゃ、そりゃ、よっしゃああ!
慶次の城門突破ばりに、先頭を駆けるカイ・ザーは入口にたどりついた。
「お客様DQNはご法度です」
副店は深くお辞儀をして、ホールマナーを促す。
「おおう、なんかすまん」
カイ・ザーはなまじかばかり知能がある事を後悔することになる。
普通にホールに通う、常連のオヤジのように入店した。
この時、本能のままにホール占拠を命じていれば・・・。
インカムから島の声が岸に告げる。
「ゴブリン入場しました」
店長はハンドマイクを手にとる。
「本日も数ある遊技場、娯楽場の中から当店をお選びくださり、真にありがとうございます。さあ、いらっしゃいませ。いらっしゃいませ。ありがとうございます。いらっしゃいませぇ。ホールスタッフGOっ!」
店内に広がるアナウンスとともに、スタッフは一斉にやらかしを行う。
「あっ!お客様すいません」
「ごめんなさい!」
「あっ!手が滑った!」
「そんな不安定なドル箱タワー作るから!」
ドル箱に山積みされた銀玉を倒し、リリースすると、通路はパチ玉の海となった。
開店ダッシュよろしく、エモノを目掛け猫まっしぐらなゴブリンたちは、銀玉の海に足をとられ転倒しまくる。
「おのれ!」
カイ・ザーは何度も立ちあがって、転びながら悪態をつく。
店長はその手を緩めない。
「舞くん、店内の照明を全て落として!」
「ラジャー!」
舞はカウンターから、照明の電源を切った。
陽の落ちて、夜の帷が訪れた今、店内は真っ暗となり、台電が入ったパチンコ、スロット機たちが、デモ画面で不気味に光り、爆音が暗闇の恐怖により響き渡るように聴こえる。
ゴブリンたちは、はじめて体験する異様なパチ屋の様相に怯え恐れ慄く者たちが現れだす。
「ギャギャシャーッ」(化け物の住処だ)
「狼狽えるな。こんなのは紛い物だ」
顔を床に殴打し血まみれで、何度も転びながら言う首領カイ・ザーにもはや説得力はない。
「さあ、お客様お待たせいたしました。これよりサービスタイム。無制限でございます。ジャンジャンバリバリ、ジャンジャンバリバリとお出しくださいませ、おとりくださいませ!」
店長のマイクパフォーマンスのあと、スタッフは夜陰に紛れて台電を全て落とし真っ暗し、彼はインカムで皆に伝える。
「よし、セーフレールの玉、全部放出っ!スロットコーナーからメダル洗浄機及びスコップで全メダル放出っ!」
「ラジャー!」
スタッフは各コーナーから攻撃を開始する。
パチンココーナーに集中するゴブリンたちに、上空のセーフレールから大量に溢れ出した銀玉が一斉に落ちてくる。
ドーン!ザーッ!
頭の上に突然落ちてくる銀の玉に、ゴブリンたちはたちまち大混乱に陥り、阿鼻叫喚の現場となる。
そこへ、スロットスタッフの洗浄機メダルの噴出、シマの影に隠れてのスコップからメダルを投下・・・ゴブリンたちの戦意を喪失し怯えきっている。
勝負は決した。
「許してくれっ!」
カイ・ザーは詫びを入れる。
「チェック・メイトだ」
エルフの女王は、の首筋にレイピアを突きつけた。
「・・・・・・」
ゴブリンの首領は項垂れた。
「やりました!」
舞はガッツポーズをつくる。
ところが・・・。
「姫様っ!大変なことがっ!」
外の警護にあたっていた副官モロが血相を変えて飛んできた。
「奴らがっ!アンデッド・ゾンビたちが来やがった!」
「だにいっ!」
異世界パチ屋の受難は続く・・・か。
ですっ!




