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背中合わせの恋   作者: 藤乃 澄乃
第2章 たそがれどき
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たそがれどき

   静かに時間ときが流れてゆく。

 もっといっぱい話したいことがあったのに、もうそんなことはどうでもいい。

 何も話さなくても、ただ一緒にこうしていられるだけでよかった。

 すぐ傍に、大切な人がいるという安心感。ただそれだけで。





 ナオの声が、どこか遠くから聞こえてくるような妙な感覚がした。


「本当だよ、本当にたっくんは、ここに来たんだよ。一緒に読書もしたし、話もしたし……」

 信じがたい、信じたくないナオの言葉にこう言うしかなかった。


「信じるよ」

 ナオの優しさに、すうーっと何かが溶けていった気がした。

 ……心が。


 あ、そういえばたっくん……。

「そういえば、たっくん、なんかヘンなこと言ってた。『ありがとう』とか『幸せに』とか、『元気出して、頑張れよ』とか。バイクも置いてきたって……」

 

 よく考えればおかしなセリフだ。久し振りに会えた彼女に言う甘い言葉というよりは、別れの言葉に思えてしまう。


「タクは、最後まで彩葉いろはのことを気にかけていたから、自分のことより彩葉のことを心配して、俺に迎えに行くようにって。お前のことを頼むって、そう言ってたよ。最後の最後まで。

 きっとどうしても、一目でも彩葉に会いたいっていう、タクの想いが、ここまで彩葉に会いにきたんだろうな」



 もう会えない、たっくんには会えない……。そう思うと、何とも言い難い喪失感が全身を覆った。


「胸、貸そうか?」

 ナオのいつもの優しさに、一気に涙が溢れ出した。

 たっくんへの想いがこれほどまでに瞳の奥に込められていたなんて。


 いつかみたいに、ナオの胸で思いっきり泣いた。

 その間、ナオは何も言わず、ただ私の頭を優しくなでながら、私が落ち着くまで、ずっとそうしていてくれた。





 随分と時間が経ったように感じられる。

 顔を上げると、美しい秋陽しゅうように照らされ輝く街並みが見える。


 なにも言わないまま、2人でしばらく鳥瞰ちょうかんしていた。



 私はなぜかしら、なんとも言えず優しい気持ちになれた。


「でも、最後にたっくんが会いに来てくれて、話ができてよかった」

 心からそう思えた。


「そうだな」




 そうして2人で『見晴らしの丘』から、もう黄昏時の空を見上げ、落日を眺めた。


 その時、優しい風が2人を包み込んで、過ぎていくと同時に、『笑顔で頑張れ』と、たっくんの声が聞こえた気がした。


 私は、この満目の美しく優しい風景を、一生忘れない。



お読み下さりありがとうございました。


次話「溢れる星の瞬を 君の瞳の瞬を」で完結です。

最後までよろしくお願いします!

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